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第612話 合同打ち上げ

 総合武術部の関係者の皆さんも、観客席を後にして帰って行った。

 それぞれが満足げで、この3日間の対抗戦を存分に楽しんでいただいたみたいだね。


「ザカリー様、良い大会でしたね。私も楽しませていただきました。これからもヴィオレーヌお嬢様をよろしくお願いします」

「いやあ、グリフィニアの旦那様にもカロリーヌ嬢様の試合を見せたかったですよ。引き続き、よろしくお願いします。それではまたお屋敷に顔を出させていただきます、エステル様」


「ふおっほっほ。いやはや、ザカリー様は凄まじい。ソフィーナお嬢様は学院に入られて、なんと良い出会いに恵まれたものか。これからも末永くお願いしますぞ。ひらにひらに、お願い申しまする」


「もう、爺ったら。早く帰りなさい」

「言われんでも引き上げますぞ。それではお嬢様、次のお休みにはお屋敷で試合の話を、存分に語り合いましょうぞ」

「はいはい。馬車を待たせてるんでしょ。気をつけてお帰りなさい」


 うちの部員の関係者の皆さんが俺のところに挨拶に来てくれたのだが、ヴィオちゃんのとこのハロルドさん、カロちゃんちのソルディーニ商会のマッティオさん、そしてソフィちゃんのところのドミニク爺さんが、それぞれそんなことを口にする。


 今日はこの3人にアルさんとブルーノさんも加わり、何やら賑やかに話しながら会場を後にして行く。

 アルさんが余計なことを言わないといいけど、ブルーノさんもいるから大丈夫かな。




 俺たちは学院生食堂で反省会と打ち上げだ。

 さあ行こうかと歩き出すと、うちのクラスの、というより総合剣術部のバルくんが姿を見せた。


「あれ、バル。どうした?」

「ライ、あのさ、うちの部長が一緒に打ち上げはどうですかって。あ、強化剣術研究部の方にも話をして、向うはオッケーだって。ヴィオちゃん、どうかな?」


「もちろん、良いと思うけど。ザックくん、聞いてた?」

「おお、聞いておりましたぞ。もちろんご一緒させて貰いますぞ」

「だって」


「わかった、ザック。そしたら僕は先に走るね。いや、席はもう確保してあるんだけどさ」


 バルくんはそう言ってバタバタと走って行った。

 へぇー、3つの課外部合同で打ち上げか。エルヴィーラさんも、なかなか良いことを考えますな。



 それで学院生食堂に行くと、広い食堂内の一角に皆が集まっていた。

 エイディさんのところももう来ているね。


 総合剣術部は2チームが出場したから、選手だけでも10名。部員全員では30名近くが在籍している。

 強化剣術研究部が7名でうちが9名だから、合わせるとかなりの人数になるよね。


 審判を務めたフィランダー先生たち剣術学教授の3人と、救護班をしていただいたクロディーヌ先生にジュディス先生も招かれている。

 その50人以上が座れるよう、食堂から許可を貰ってテーブルを繋いで並べ直したようだ。


「あ、来たわね、総合武術部。ザカリーくんたちはこっちよ」


 ちゃんと俺たちの人数分の席が空いていて、そこに総合剣術部の1年生が案内してくれた。

 その女の子はヘルミちゃんと何か話していたけど、試合を楽しんでくれたかな。



「揃ったかしら。みんな席に着いたわね。それでは、課外部剣術対抗戦、3日間お疲れさまでしたー」

「お疲れさまっ」


 さすがは、総合剣術部の部長のエルヴィーラさんだ。ちゃんとこの場を仕切ってくれるみたいだね。


「対抗戦も今回で2回目。なんとか無事に終えることが出来ました。これもひとえに、試合を支えていただいた剣術学教授の先生たちと、それから救護班をしていただいたおふたりの先生のおかげです。ありがとうございました」

「ありがとうございましたっ」


「試合結果は、もう、言わなくてもわかってると思うけど。うーん、すっごく悔しいけど、いちおう発表します」


 にこやかだったエルヴィーラさんの表情が、一転して悔しさに歪んだけど、ぐっとそれを堪えている。


「えーと、うーん、わたしの口から発表するの、とっても無理ぃ。そうだ、ヴィオちゃん、あなた、部長副部長の中でいちばんしっかりしてるし、唯一試合に出てないんだから、あなたが発表しなさい」

「え、わたしですか?」


 あ、ちゃんと仕切れませんでした。まあこのなかで、そういう点でいちばんしっかりしているのは、確かにうちのヴィオちゃんだけどね。



「それでは、わたしから発表させていただきます。今年の課外部剣術対抗戦の優勝は……。チーム戦で3勝、個人では10勝3引き分け2敗、獲得ポイント数は11.5ポイント。強化剣術研究部でーす」


 拍手が贈られ、エイディさんたちも立ち上がってそれに応える。

 いつの間にか、ずいぶんとたくさんの学院生たちがこの打ち上げを囲んでいて、盛大に拍手をしてくれていた。


 それにしてもヴィオちゃんは、観客席で応援しながらちゃんと勝敗数とポイントを集計していたんだね。

 さすがうちの副部長でありますな。


「第二位は、チーム戦で2勝1敗、個人では4勝8引き分け3敗、獲得ポイント数は8ポイント。総合武術部です」


 引き分けが8つと、やたら多くなったな。特に2戦目では4人が引き分けで、ただひとりカシュくんが勝ったので、それがチームとしての勝ちを決めた訳だ。

 これは彼を、ちょっとぐらい褒めてやらんとですなぁ。


「第三位は、チーム戦で1勝2敗、個人では3勝4引き分け8敗、獲得ポイント数は5ポイント。総合剣術部Aチームです」


 ほらほら、しゅんとしない。周りの学院生たちが拍手をしてくれていますよ。


「第四位は、チーム戦で3敗、個人では3勝5引き分け7敗、獲得ポイント数は5.5ポイント。総合剣術部Bチームです。なお、ポイントでは三位を0.5ポイント上まわっていますが、チーム戦としてはこの結果となりました」


 つまり、引き分け数がBチームの方が多かったのだが、直接対決でチーム戦としては負けて全敗となってしまった訳だ。

 今回はチーム戦の勝敗が同数というチームは出なかったが、ポイント制を導入したおかげで、こういう部分は面白い結果になったよね。

 まあ総合剣術部としては、面白いとは言ってられないのだろうけど。



「ありがとう、ヴィオちゃん。そういう結果になりました。あらためて、強化剣術研究部のみなさん、おめでとうございます」


 エルヴィーラさんは少し落ち着いたかな。


「今回、見事に3戦全勝を挙げたエイディくんも、おめでとう。あなたにはやっぱり敵わなかったわ。そして、模範試合をしてくれたザカリーくん、ありがとう。さっきも会場で言ったけど、あなたが特待生であること以上に、あなたの凄さを見せていただきました。本当にありがとうございました」


 いえいえ、それほどでも。


「さっきの試合のことでは、あなたに聞きたいことが山ほどあるのだけど。その前に、あなたに今回の対抗戦の総評をお願いしたいわ。ねえ、エイディくんもそうでしょ」

「そうでありますな。ぜひに」


「ええー、総評ですか」

「お願い、ザカリーくん」


 ようやく気分が落ち着いたかと思ったら、こんどは甘い声でお願いですか。


「ザック部長、ああいうのに弱いっすよね」

「というか、体質だな。あの先生の場合」


 煩いぞ、カシュ。聞こえてるからな。少しは褒めてあげようかと思ったが、褒めるのはやめよう。


「選手の皆さん、お疲れさまでした。総評をというエルヴィーラ部長の仰せですが、その前にせっかくの打ち上げですから、乾杯でもしましょうか。エイディさん、お願い出来ますか?」


「私でありますか? ザカリーさんのご指名であれば、仕方ないのであります。それでは僭越ながら。お酒ではありませんが、それぞれドリンクを手にしていただいて。周りにいる学院生のみんなも、良かったら一緒に」


 3つの課外部の部員たちがドリンクを手に立ち上がり、この様子を見ていた学院生たちもドリンクがある者はそれを手にした。


「課外部剣術対抗戦を無事に終えられたことを祝し、そしてこれからも我が学院で、剣術をはじめ、それぞれの課外部の活動が、より一層活発になることを願って。乾杯っ」

「かんぱーい」


 そうですね。剣術だけじゃなくて、学院全体で課外部活動がもっと盛んになるといいですよね。

 それにしてもお腹が空いた。俺も今日は試合をしたしな。



「ザック部長、それで安心して食べ物に手を出さないで、総評でしたよね」

「え? 食べちゃダメなの、ソフィくん」


「だから、ほかの皆さんはいいんです。でも、ザック部長は、総評をお願いされてますよね。エイディさんに乾杯をしていただいて、それで誤摩化そうとか、ダメですよ」

「はい」


 仕方ないので俺は立ち上がった。


「えー、乾杯も滞りなく済んだところで、みなさん、お腹が空いたでしょ。さあ食べてください。ご指名なので、僕からは対抗戦の総評をお話ししますが、僕には遠慮せず。静かに聞いているとかはいいですから、どうぞ料理に手を伸ばしてください」


「そういうこと言うと、下級生が食べ辛いですから。もう、考えて喋ってくださいね」

「はい」


 2年生、1年生は確かに多少緊張した雰囲気で、俺の方を見ている。下級生でまったく緊張せずに料理を頬張ってるのは、うちのヘルミちゃんぐらいのものですな。


「ゴホン。今年の対抗戦、いやあ、じつに楽しませていただきました。熱戦が連続して大満足です」


「だから、それで座ろうとしないでください」

「はい」


 総評かぁ。何を話そうかな。



「今年は思いのほか、引き分けが多かった。5分間に延長3分間の、計8分間。そのフルタイムを闘った試合の数が、えーと」

「全30戦中、ぜんぶで10試合です」


「ありがとう、ソフィくん。なんと3分の1の試合が延長戦で、そのすべて引き分けとなりました。これはどうしてか。試合に出なかった2年生や1年生の諸君は、どうしてかわかりますか? 試合で手を抜いた? 勝つ気がなかった? いいえ、違いますよね。すべての試合を見ていれば、それはわかります。勝敗が決まった試合も、そして引き分けだった試合も、みな持てる力を振り絞って必死で闘った。結果は、あくまでその結果です。しかし引き分けが多かったということは、それだけ今年の選手たちの力が拮抗していた」


 1年生や2年生だけでなく、3年生、4年生も俺の話を聞いてくれている。

 まあ食べながらでいいですよ。ヘルミちゃんみたいに。


「剣術とは、つまり究極は、必死で剣を振るい、闘うということなんです。必死とは、死と隣り合わせということ。言い方を変えれば、必死で闘い、生を自分の手で拾い上げるということ。そして試合とは、それを試みる場なんです。力量の拮抗した相手と闘っても、力が劣る相手とでも、そして力が上の相手とでも、それはみんな同じ。ただ、そういう意味では、引き分け試合で8分間もの間、必死に闘わせてくれた対戦相手には感謝しなければなりませんね。そして、必死に闘い抜いた自分を褒めてあげましょう」


「3つ負けちゃった選手がいたかも知れません。3つ引き分けだった選手もいました。でもそれぞれ、必死に闘いましたよね。自分でそうだったと思うなら、まずは対戦相手に感謝し、そして自分自身を少し褒めてあげて、それから残った悔しさを燃料にして、また明日から練習をしましょう。剣術というのは、その努力が必ず結果に出ます。努力を積み重ね、こういった試合の場でその成果を試し、そしてまた努力して行く。試合に出られなかった人も同じですよ。この3日間の闘いを見て感じたこと、考えたことを心と身体に刻み、あらためて日々の練習に励んでください。それがきっと、僕たちを成長させてくれます。僕からは以上です」


 3つの部の部員たちばかりでなく、周囲の学院生たちも拍手をしてくれた。

 いやあ、尤もらしいことを話しちゃって、すみませんね。

 俺も学院で初めてちゃんと試合をさせて貰ったので、少々気分が昂揚してたのかな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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