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第59話 子爵家の姉弟で試合稽古をするよ

 フォルくんとユディちゃんがうちに来てから何日かが過ぎ、ふたりは新しい生活にも慣れて落ち着いてきたようだ。

 屋敷の侍女と小姓見習いとして仕事も徐々に覚え、ボドワン先生の授業でもよくお勉強をし、騎士団での剣術稽古も熱心に行っている。

 俺が独自に稽古させようか考えている剣術稽古については、まずはここでの生活に馴染むことを優先させ、しばらく保留にすることにした。



 8月に入り、アン母さん発案の子爵家姉弟の剣術試合稽古を行うことになった。

 俺の魔法初稽古のときにそんなことを言ってたけど、覚えていたんだな母さん。


 これは、俺が子爵家用魔法訓練場の単独使用許可(ただしエステルちゃん必)を貰ったときに、母さんが思いついたものだ。

 騎士団での剣術稽古をほとんど見ていない母さんが、俺やアビー姉ちゃんの上達度合いを見てみたいと言い出し、ヴィンス父さんを巻き込んだ。

 アビー姉ちゃんは攻撃魔法適性がほとんどなく、現在は母さんの魔法指導の手を離れて、わりと豊富なキ素力を剣術に活かす訓練をクレイグ騎士団長に受けている。

 あとヴァニー姉さんが、王立学院の夏休みも間もなく終わり、王都に戻る日が近づいていることもある。


 そんな訳で、グリフィン子爵家だけの剣術試合稽古を行うことになったのだ。



 その日の午後、ヴィンス父さん、アン母さん、ヴァニー姉さん、アビー姉ちゃん、そして俺の家族5人が、子爵家用魔法訓練場に集まった。

 お世話係にエステルちゃん、それから式神のクロウちゃんももちろん来ている。

 侍女がエステルちゃんだけじゃ大変だろうという理由で、見習いのフォルくんとユディちゃんが家令のウォルターさんに連れられてきた。

 それから、レフリー役が必要だろうという理由で、なぜかクレイグ騎士団長も来ている。


 クレイグさんは、現在はアビー姉ちゃんの師匠でもあるので理由はつくのだが。

 だけど、ウォルターさんとクレイグさんという、わが子爵領で何を企んでいるか分かったもんじゃないトップ2が揃うと、この子爵一家だけの剣術試合稽古も途端に怪しいものになるんだよな。


 魔法訓練場の中に初めて入ったフォルくんとユディちゃんは、物珍しそうにキョロキョロしていた。

「ここは奥様が管理されている、子爵様ご一家だけが使うことのできる魔法のお稽古場ですよ」と、エステルちゃんがふたりに説明している。


 領主館の中にある広い果樹園の奥に、隠されるようにひっそりと造られていて、アン母さんの許可がないと使用できないんだよね。

 果樹園よりも地面が3メートル近く掘り下げられていて、階段で降りて中に入ると、四方を囲む壁が4メートル以上もあるようになっており、余所の人に見られずに攻撃魔法の稽古ができる場所だ。



 アン母さんは当初、「ヴィンスに相手をして貰おうかしら」と言っていたのだが、ふたりが相談した結果、姉弟3人の総当たり戦ということになった。

 俺としては父さんとはいつかは剣を交えてみたいのだが、アビー姉ちゃんは「わたしが父さんに勝っちゃったらマズいしね」などと、偉そうに言っている。

 姉ちゃんだから、自信が相当ついたのか単にアホなのかはよく分からない。


 ということで、3人で相手を替えて順番に闘います。

 まずはヴァニー姉さんとアビー姉ちゃんね。


「いいか、あらためて言うが今日の試合稽古は、お前たちの剣術がどのくらい上達しているか、父さんと母さんに見せて貰うのが趣旨だ。だから、今できることを思う存分発揮してくれ。家族だけでとも思ったが、騎士団長が忙しいなか審判役を買って出てくれた。クレイグ、ありがとう」

「本日は私が審判を務めさせていただきます。勝ち負けではなく、現在のお三方の力を間近で見させていただければと、手を挙げましたのでよろしく」


「いちおうルールだが、攻撃魔法は禁止だ。いろいろ危なそうだからな。これは母さんから言われている。ただし、自分が使えるキ素力を攻撃魔法以外に使う分には構わない」

「わかりました」


 これは、アビー姉ちゃんが思う存分闘えるようにとのルールだろう。

 ヴァニー姉さんには不利だが、さてどうなるか。



「それでは、始め」


 ふたりは距離を取り、お互いに短めのロングソードの木剣を構えた。

 今日は3人とも、ロングソードの両手剣装備だよ。

 俺は念のため、身体に纏うキ素力が見えるよう見鬼の力を発動させておく。

 姉さんたちのどちらも、闘気を高めるためキ素を集め循環させ始めた。

 さすがに魔法が得意なヴァニー姉さんは上手いな。だがアビー姉ちゃんも、なかなかスムーズに闘気を高められるようになっている。


「いくよっ」

「来なさい」


 アビー姉ちゃんがひと声上げ、ヴァニー姉さんがそれを受けた。

 そして、一気に相手に向かって駈け寄り、間合いを詰めるアビー。

 木剣の打ち合いが始まる。

 アビー姉ちゃんがひと振りひと振り、力を込めて打ち、それをヴァニー姉さんが上手く払い、受け流す感じだ。

 アビーはキ素力で闘気を高めた後、特にそれ以上のことはしないんだね。純粋に剣術のみで闘おうとしているようだ。


 さすが姉さんたちだ。何合も打合っても、なかなか剣や身体がぶれるということがない。

 ちょっとしたタイミングのずれを見つけたのか、それまで受けに回っていたヴァニー姉さんが、上段、下段、横薙ぎの得意の三連撃を繰り出す。

 アビーは、一撃、二撃を何とか避け、最後の横薙ぎを体勢を崩しながらも、木剣を合わせて防いだ。

 しかしそのまま、横に転がる。

 これはヴァニー姉さんが勝ったかな。



 ヴァニー姉さんは勝機と見て素早く数歩踏み出す。

 しかしアビー姉ちゃんは、転がりから身体を起こしたと同時に前方に高く跳躍し、空中で剣を構えるとヴァニー姉さんの横合いから打込んだ。

 空中からの打込みに、慌ててヴァニー姉さんが木剣を合わせるが、体勢が崩れる。

 そこに飛び込んだアビーが、横からしたたか木剣を打込んだ。


 今日はもしもの場合を考え、3人とも騎士団仕様の裏に金属が打ち付けられたブリガンダインの革鎧を着ている。

 なので大けがにはなってはいないだろうが、身体に相当の衝撃を与える打込みだった。

 ヴァニー姉さんは身体をくの字に曲げて膝をつく。



「アビゲイル様の勝ち」

 クレイグさんの声に、父さんと母さんが慌てて駈け寄って行く。

「あらあら、これは肋骨が何本かいっちゃったわね」

 姉さんの血の気を失った顔色に焦り気味の父さんとは違い、母さんは冷静にヴァニー姉さんの身体を確認すると、直ぐさま回復魔法をかけ始めた。

 アン母さんの回復魔法をちゃんと見るのは、初めてなんだよね。


 アビーの木剣に打たれた辺りに手を添えると、母さんの身体を一挙に大量のキ素が循環してそれが手に集まる。

 そして回復魔法が発動したのだろう、その患部から姉さんの身体全体へと白い光が包んで行った。


「さあ、これで大丈夫よ。骨も繋がっている筈だわ。でも固定しておかないとだし、今日はもう試合稽古は無理ね」

「姉さん、大丈夫?」

 アビー姉ちゃんがおそるおそる近づいた。

「あーあ、アビーにやられちゃったわ。ホント強くなったのね。ザックとも試合したかったけど、残念」



 ヴァニー姉さんは、母さんとエステルちゃん、ユディちゃんが胸部を固定する包帯を巻きに、訓練場に付属する建物内に連れて行く。

「しばらく休憩にしよう」

 ちょっとおろおろしていた父さんも、姉さんの声を聞いて安心し、そう俺たちに告げた。


 さあ次は俺だな。アビー姉ちゃんがどのくらい強くなったのか体感しようか。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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