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第3話 木剣の入手

 3歳になりました。


 前々世でもなんとなくの3歳頃の記憶があるので、3度目の3歳体験です。ただ1回目はまだ幼稚園に入園する前で、毎日遊んでいたような記憶しかないなぁ。


 2回目は読み書きの手習い、素読をさせられていた。行儀作法もしっかり仕込まれた。

 剣の稽古は数え歳で7歳、つまり満6歳からで、6月6日に初めて稽古をした。これは芸事の稽古初めがこの年齢のこの日からが良いとされていたので、剣の稽古もこれに倣ったようだ。

 この日に初めて公に木刀を持って振ることができ、それからしばらくはずっと素振りばかりだったけど。でもそれ以前、4歳頃にはこっそり振っていたけどね。


 その当時は情勢がいっとき安定していて、小ぶりに再建されたみやこの御所にいたから、御所内では比較的自由にできたんだ。

 もちろんいつも側には、2つ年上の万吉くんが小姓としてついていて、万吉くんは剣の稽古を始めていたから、無理を言って俺用の木刀を密かに調達させたというわけだ。


 ということで、この異世界で3歳になった俺は、早いかもだけど剣の稽古を始めようと思います。

 俺の無限インベントリには前の世界で集めた家伝来の宝刀やら名刀から、それほどでもないがそれなりの刀まで、山盛りの刀剣が収納されている。

 そのなかには愛用の本赤樫造りの木太刀もあるのだが、さすがにこの世界の西洋風の剣とは見た目があきらかに異なっている。日本刀の木刀を3歳児が持つわけにはいかないし、なにせこの身体では持って構えることすらできない。


 まずは身体づくりから。そこで登場するのが下の姉のアビーちゃん。

 アビーも5歳になり、長女のヴァニー姉さん7歳と一緒に家庭教師から勉強や習い事を教わり始めている。その習い事のなかにはすでに剣の稽古も含まれていて、これはヴィンス父さんの方針だ。

 わが家は武術でも名が知られているようで、ヴィンス父さんは武と知を兼ね備えた貴族だと尊敬されているらしい。単なる脳筋イケメンではなかったんだね。


 だから性別に関係なく剣の稽古もしっかりさせる。というか、この世界ではその点で男女の違いはないようだ。これは前に俺がいた16世紀の地球とは明らかに異なる。

 やんちゃなアビーは、勉強よりも剣の稽古のように身体を動かす方が好きで、椅子に座るとじっとしていられず、いつもヴァニー姉さんに叱られている。

 そんなわけで、ある日俺はアビーを屋敷の裏手に呼んだ。


「なによザック、何か用?」

 アビーもさすがに今は俺のことをザッキュぅとかは呼ばない。

「えと、アビー姉ちゃんにちょっとお願いがあるんだ」

「お願いって、なによ」

「あのね、姉ちゃんが稽古で使ってる木の剣を、僕も欲しいんだ」

「木剣? ダメよ。ザックは小さいからダメに決まってるじゃない。父さんに怒られるわよ。それに母さんにもヴァニー姉さんにも叱られるし」

 アビーにとってはヴァニー姉さんがじつは一番怖いようだ。


「そこはみんなに内緒でお願いだよ、アビー姉ちゃん。僕も早く剣の稽古がしたいんだ」

「あんたも5歳になれば始めるんだから、それまで待てないの?」

「5歳になる前に慣れておきたいんだよ。それにアビー姉ちゃんが木剣を振ってるの見てると、姉ちゃんがカッコよくて」

「そ、そう? 姉ちゃんカッコいい?」

 アビーはちょろい。もうひと押しだ。


「アビー姉ちゃんが憧れなんだよ。だから一緒に木剣を振ってみたくてさ」

「そうなの? 憧れとかって賢そうなこと言うわね、ザックのくせに」

 とか顔を赤くして、パタパタと走って行った。


 しばらくするとキョロキョロ周囲を伺いながら、刀身長が短い子供用のショートソードの木剣を持ってやって来た。

「はい、これ。誰にもナイショだからね。どこか見つからないとこに隠しておきなさいよ」

 あとでインベントリに入れておこう。

「それから、この木剣を振るのは、私と一緒のときだけだよ。ぜったいだからね」

「ありがとう、アビー姉上。約束するよ」

「姉上って、なによ気持ち悪い。約束よ」

 とパタパタと走って行った。


 こうして俺は木剣を手に入れた。探査で周囲や物陰に誰もいないことを確認して、軽く剣を振る。感覚的にはかなり軽めだが、いまの3歳児の肉体には手頃だろう。

 ありがとうアビーちゃん、身体づくりの合間に稽古をつきあってやろう。


 さて稽古だ。と、その前にいま手に入れた木剣のコピーを作る。

 コピーは、女神のサクヤが「写し」と呼んでいた前世から引き継いでいる転生特典その4のスキルだ。

 能力が万全の状態であれば、最高レベルで全く同じものをコピーして作ることができる。

 コピーは無から有を生むわけではない。写したいものの素材や設計、製造過程から完成形までを読み取り分析し、場合によっては完成形以後の劣化状態やその原因まで把握する。

 そして、サクヤが言うところの「キ素」という、空間内に窒素や酸素などの混合物である空気とは別に存在し循環するものを集めて、実体のある様々な物質に変化させて素材化し作り上げる。


「キ素って何だ?」とサクヤに聞くと、「んー、アイテールとかってのと同じようなものかもねー」と、更に良く分からない答えが返って来た。

「アイテール」一般に「エーテル」は、古代ギリシャで哲学者のアリストテレスが第五の元素として提唱した天空を満たす物質のことで、その後、光の波動を伝える媒介となるものとして宇宙に満ちているという説もできた。

 地球の現代物理科学ではその存在は否定されているが、化学の世界では有機化合物の分類のひとつとしてエーテルの名称が使われている。


「エーテルって本当にあるのか?」と重ねて聞くと、「だーかーらー、キ素よ、キ素。万物の基礎はキ素にありってね」だと。ダジャレか。

 どうもファンタジーで語られるところの、「魔素」とか「マナ」とか呼ばれているものと近いようだが、つっこむとダジャレではなく、「キ」は「基」や「気」にも通じているものらしい。ようわからん。


 とにかく俺は前世での転生特典として、写したいもののすべてを把握し、空間内からキ素を必要量だけ集め、変化再構成しコピー品として実体化させる能力を持っていた。

 材料集めいらずの有能スキルである。

 ただし、まったく同一のコピー、つまり偽物ではなく本物を作るには、能力の成熟化とそれなりの時間、エネルギーが必要なので、本物としてコピーしたのは後世まで伝承されている宝刀や名刀が主だ。そしてコピーを残し、元になった本物を無限イベントリに収納してある。

 ちなみに、本物ではなく偽物レベルの劣化コピーは、それほど苦もなく作成可能だけどね。


 というわけで、今回手に入れた木剣のコピーを作る。

 この世界の木剣程度だと素材も作りも形も単純なものなので、転生で落ちた現在の能力度合いでも簡単に本物としてコピーの作成ができる。風合いも使い込んだ感じになる。

 地球にいたときよりも実体化がスムーズなようだから、この世界の方がキ素は多いのかな。これについては、ゆっくり検証することにしよう。


 さてこのコピー木剣は、持っているのがバレたときに返す用だね。どっちでも同じものだけど。

お読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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