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第589話 ソフィちゃんの調査結果

 今年の学院生活初めての2日休日は、屋敷の訓練場で剣術と魔法の訓練三昧でした。

 特に魔法の方は、ライナさんとドラゴン娘のカリちゃんとの3人による魔法研究ということで、カリちゃんの人化魔法の安定化とふたりの空間魔法、重力魔法の習熟度合いを見る場となった。


「人化魔法の安定化は、だいぶ良いみたいだね、カリちゃん」

「はいー。魔法が解けちゃって、いきなり元の姿に戻るとかの心配は、もうないですよ。それから人間の姿でも、普通に魔法が撃てるようになりましたぁ」


 カリちゃんは上位竜である五色竜のホワイトドラゴン娘なので、四元素魔法のすべてはもちろん種族特性である白魔法が得意魔法だ。


 もっとも白魔法って、代表的な回復魔法のほかは光魔法ぐらいしか俺も知らないんだよね。

 光魔法は灯りを出すライトの魔法から、高出力のビームを撃つ攻撃魔法までかな。

 そのほかにもありそうだが、まだ良く分かっていない。

 逆に聖なる光魔法は、カリちゃんの曾お婆さんで地上におけるホワイトドラゴン一族のかしらであるクバウナさんしか出来ないのだそうだ。


 カリちゃんはドラゴン姿で空を飛んだり地上を移動するときには、普通に空間魔法と重力魔法を使っているが、さすがにアルさんのように空間や重力を可変して操るまでには習熟しておらず、ましてや人間の姿では難しいと言う。

 なので、その魔法を覚えたいライナさんと一緒に、空間魔法の重力魔法の研究と訓練を行っている。



「ふーん、土魔法で作った柱を組上げて行く訓練なんだ」

「そうなのよー、ザカリーさま。これだと意外と細かい制御が必要になるでしょ。だから訓練には調度良いかと思ってー。あと、カリちゃんには土魔法の練習になるしね」

「わたし、土魔法があまり得意じゃないから。えへへ」


 ふたりの訓練を見せて貰ったのだが、まずは高さ3メートル、太さは50センチほどの四角柱を作って、それを訓練場のフィールドに垂直に立てる。

 もちろん柱自体の強度や立てる場所の土台は、入念に硬化させたものだ。

 柱を作り出すのは土魔法だが、垂直に立てるには重力魔法を用い、空間魔法で位置を調整する。


 そして4本の柱を3メートル四方の空間の四隅に立てたら、その上に同じ柱で梁を渡すのだ。

 これには、硬化させた重たい柱を空中に浮かべなければならないし、梁として設置する位置調整も行う必要がある。

 それらすべてを、完全に魔法の力だけで行う訓練をふたりはしているのだ。


 ただし、何かトラブルが生じた際の念のために、ライナさんは重力可変の手袋を装着していた。

 この手袋を着けていれば、3メートルもの長さの重い硬化柱だって、ひょいと持てるからね。



「ザカリーさまもやってみるー?」

「やって見せてください、ザックさま」

「うん、やってみようかな」


 俺は彼女たちが作った柱と同じ形状のものを柱と梁の分で8本作り、それに加えて更にいくつか別の部材を作った。


 それからその柱と梁を組上げ、梁のうち向かい合う2本の中間位置に真束と呼ばれる短い柱を立てる。

 立てられた2本の真束の上を棟木で繋ぎ、その棟木から左右の下の梁に細い垂木を斜めに何本か渡して、簡単な屋根構造の骨組みを造ってみた。


「あ、屋根が乗っかりますよね、これ」

「もうー、ザカリーさまは直ぐにこんなのが出来ちゃうから、つまんないわよー。カリちゃん、わたしたちもこれを作れるようになるわよ」

「はーい」


 まあ頑張ってください。このふたりなら、このぐらいは直ぐに修得出来るだろう。


 途中で様子を見にエステルちゃんとクロウちゃんが来て、「3人で大工さんとかになるんですかぁ?」とか言っていましたが、これって空間魔法と重力魔法の訓練だからね。




 休日を終えて学院に戻る。

 今日からは総合武術部も通常運転の練習を始めるのだが、お昼休みの学院生食堂に部員が全員集まっていた。


「ザック部長、あの1年生の女の子のことがわかりましたよ。ね、カシュくん」

「1時限目終わりにソフィちゃんに引っ張って行かれて、1年生の教室を覗きに行かされたんすよ」


 ああ、そうなんだ。1年生は概論の講義で午前中は専用教室を動かないから、まあそれが確実だよね。

 それで、カシュくんはその女の子の顔を知らないので、だいたいの人相や特徴を聞いて手分けして1年生の各クラスを順番に覗いたらしい。

 それって、カシュくんには荷が重かったんじゃないの。


「結局、見つけたのはわたしなんですけどね」

「僕はただの下級生覗き魔っすよ」


 そう言えばなんだかカシュくんて、1年間も一緒にいて側で見ていると、だんだんうちのトビーくんやユニコーンのアルケタスくんと似て来ている気がするんだけど。

 外見は大幅に異なるけどね。特にアルケタスくんとは。



「へぇー、何組の子なの?」

「1年D組ですね。名前はヘルミーナさんていうらしいです。ヘルミーナ・アンドロシュさんだったかな」


 家名持ちの子なんだね。そうすると貴族か騎士爵か古い家の子か。


「わかったのは、まだそれだけなんです。休み時間が終わりそうになっちゃって、本人には接触出来ませんでした。引き続き調査を続行します。以上であります」


 ソフィちゃんはそう言って、背筋を伸ばし右手拳を胸に当てる騎士団員式の挨拶の格好をした。


「ねえザックくん。この頃、ソフィちゃんと一緒の行動も多かったけど、あまり変な風に感化しちゃダメよ。グスマン伯爵家にも申し訳ないし、エステルさんから学院ではなるべくザックくんを見ているように、任されているわたしとしても」


 いやいや、俺の影響があるのか無いのかと問われると自信はありませんが、別に意図して感化している訳ではありませんからね。

 どうも今年のソフィちゃんは、ロールプレイがお気に入りみたいなんだよね。

 しかし、休日明け早々に調べて来た行動力は評価しますよ。


「そうか、ソフィくん。それからカシュくんもご苦労だった。引き続き、調査を続行してくれるとありがたい。しかし、無理はせずにな。あとは、僕がどうやってそのヘルミーナさんと接触するかだが」

「はい、了解であります。わたくしも、部長がどう接触すれば良いかを考慮のうえ、調査を続行するであります」


「ほら、そういうとこなんだけど」

「ザックさまの、人を知らず知らずに巻き込む能力は、偉大なの、です」

「魔法とかは使ってないよね」


 魔法とか使ってませんし、そんな能力は持っていないと思います。



 その日の放課後は、春学期で初の課外部練習ということで、いつも通り剣術訓練場で剣術の練習を行った。

 訓練場で総合剣術部が練習している方を眺めてみると、上級生が新入部員らしき学院生を指導している。


 あれが新しく入った1年生かな。それにしても3人だけのようだ。

 この前フィランダー先生からまだふたりだけと聞いたが、結局ひとり増えて今日の時点でもまだ3人だけなのか。ふーむ。


 そしてエイディさんたちの強化剣術研究部の方はと見ると、1年生らしき部員は見当たらない。

 あちらもうちと同じで、まだ成果は無しですかね。エイディさんはどうするのかな。今年は諦めちゃうのだろうか。

 まあ他の部の心配の前に、うちの部のことだよな。


 一昨日と昨日の屋敷での訓練と同じく、俺は余計な雑念を振り払って今年最初の総合武術部での練習に集中することにした。

 また余計なことを考えながら木剣を振っていると、ブルクくん辺りから指摘されてしまうからね。




 その翌日。再びお昼の学院生食堂。


「ザック部長、ヘルミーナさんの続報です。1年D組ヘルミーナ・アンドロシュさん。どうやらグラウブナー侯爵領の準男爵家の娘さんのようです」

「グラウブナー侯爵領って?」

「うちのグスマン伯爵領の北隣の侯爵家ですよ」


「ああ、ソフィちゃん。この先生はそういうのに疎いから」

「というか、関心のあるなしがはっきりしてるのよね」

「でも準男爵家の息女さんなんだ」


「あたしもそうだけど」

「あ、うん、ルアちゃんも準男爵家の息女さんだった」

「あたしは息女って雰囲気じゃないって、そう思ったのかなブルクくんは」


 どうもうちの男子部員は、自分の発言で墓穴を掘りやすい。

 俺も今更だけど、充分に気をつけないといかんですな。


「それでですね、それがわかったので、お隣の領のよしみで、思い切ってさっき声を掛けちゃいました」

「あ、そうなんだ。なんて声を掛けたの?」


「わたしの名前を明かしてですね、わたしが秘書を務めている某部長が、ぜひともあなたとお話をしてみたいと。それで彼女から快諾を貰いました」

「はあ」


 ヴィオちゃんたち他の部員は、やれやれという顔をしている。


 まず、領主貴族である伯爵家のお姫様から何かを言われたら、貴族の子女の場合、無碍に拒絶することは出来ない。

 ましてや隣の領のお姫様からで、貴族としては遥かに格上なのだ。この辺りは子供でも身に付いている貴族社会の慣わしだね。


 そして、そのお姫様自身が秘書を務めている某部長というのが、もう訳が分からない。

 おそらくあわあわしているうちに、了承をしてしまったのだろう。


「えーと、それでいつ会うことになったのかな、ソフィちゃん」

「今日の4時限目終わりにどうかと頼んだら、心良く了解していただけましたよ。ザック部長は大丈夫ですよね」

「あー、4時限目終わりか。今日の練習は魔法訓練場だけど、ヴィオちゃん、どうかな?」


「心配だからわたしも一緒にとは思うんだけど、伯爵家の娘がふたり揃っちゃうのもなによねぇ」


 いまの学院で、おそらく伯爵家の息女はこのふたりだけだ。そして現状、学院で最も高位の貴族のお姫様ふたりでもある。たぶん。

 そのふたりが揃って1年生を呼び出して会うとか、確かに怖がらせちゃうよな。もちろん俺も加わる訳だし。

 ヴィオちゃんは、そういう貴族的な配慮に長けているからね。


「いいわ、あなたたちふたりで、その子と会って来なさい。魔法の練習の方は、わたしとライくんで進めているから」

「了解であります」

「了解であります」


 やっぱり心配、という顔をしないでくださいな。




 そして4時限目が終了した時間、俺は再び学院生食堂にいた。

 今日の俺は4時限目に講義が入っていないので、3時限目のフィランダー先生の剣術学ゼミが終わったあと、この学院生食堂で紅茶を飲みながら本を読んでいたのだ。


 本日の講義が終了したということで、課外部活動の無い学院生などが食堂に入って来る。

 しかしこの学院では、かなりの割合でどこかの課外部に入って活動するので、それほど人数は多くない。

 なんとなく見ていると、まだ入部を決めていない1年生らしき姿が多いんじゃないかな。

 課外部全体の入部比率は、今年はどうなのでしょうかね。


「ザック部長、お待たせいたしました」


 ソフィちゃんの声がしたので、その声の方を向くと、近づいて来る彼女の後ろにあの1年生の女子の姿があった。

 俺がいるのが分かったらしく、一瞬ハッとした顔をし、それから俺の方を真っ直ぐに見て歩いて来る。


 ふーむ、意外と芯が強いのかな。そんな女性は俺の周囲ではデフォルトですよ。さてどんな女の子なんでしょうかね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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