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第587話 1年生の中等魔法学にも行ってみた

 それから講義2サイクル目の5日間があっという間に過ぎて行った。

 我が総合武術部への入部希望者は相変わらず無く、エイディさんたちの強化剣術研究部も同様だ。

 聞くところによると、総合剣術部と総合魔導研究部も状況は思わしくない。


 5日間の最終日の4時限目、この時間はフィロメナ先生とルアちゃんのパーソナルトレーニングなのだが、ふたりに話してお休みにし、俺はウィルフレッド先生の1年生の中等魔法学の講義の見学に行った。

 ふたりはせっかくなので、自主練習をするという。


 それで剣術訓練場の隣にある魔法訓練場へと足を運ぶ。

 今回もソフィちゃんが一緒に行くというので、彼女とふたりだ。あ、魔法侍女服は着ていないんだね。

 ソフィちゃんも剣術学中級の見学以来だいぶ意気消沈しているし、今日はもう新入生勧誘の最終日だからな。



 先日の剣術学と同じように、魔法訓練場の観客席に行った。

 6人ほどの1年生を前にして、ウィルフレッド先生が話を始めている。

 女の子が4人に男子がふたりか。


「ソフィちゃんたち2年生の講義は何人だったっけ」

「12人ですよ。ちょうど半分ですね。それにしてもずいぶんと少ないです」

「だね」


「おーい、ザカリー」と俺を呼ぶウィルフレッド先生の声がした。

 爺さん先生は俺たちの方を見て手招きをしている。まあ行きますか。

 先日の剣術学中級のときのデジャヴだよね。違うのはソフィちゃんが魔法侍女服を着ていないので、おそらく侍女ロールプレイはしないだろうということぐらいだ。


 それで俺たちは観客席後方から出て、フィールドへと歩いて降りて行った。

 ウィルフレッド先生と6人の1年生が、近寄って来る俺たちを見ている。1年生は何か囁き合っているようだ。



「見学ですかの、ザカリー。ソフィーナもか」

「ええ、よろしければ見学させてください」

「わたくしはザック部長の秘書ですので、お付きでございます」


 今日は秘書ロールプレイなんですね。ただ同じ部員でということじゃダメなのかな。

 ソフィちゃんも、直接関係のない1年生の講義に姿を見せるのが恥ずかしいんだろうね。


「ザカリー、おぬしはソフィーナを秘書にしておるのか」

「いや、同じ部員です。お気になさらぬよう」

「どうも、おぬし関係はみんな少しずつ変になるのう」


 これもデジャヴみたいですが、気にしないようにしよう。


「そうじゃ。いまから実践講義を始めるのじゃが、ザカリー、せっかくおぬしが現れたので、キ素力循環の準備運動を1年生に教えてやってはくれんかのう」


 ああ、アナスタシア式キ素力循環の準備運動ですね。まあ、見学させて貰う対価として、そのぐらいはいいでしょう。



「みんな、注目じゃ。みんなも知っておると思うが、こやつは3年生のザカリー。我がセルティア王立学院始まって以来の、魔法学と剣術学両方の特待生じゃ。それから後ろにいるのは2年生のソフィーナ。彼女も魔法と剣術にとても優れておる。それで、ザカリーが見学に来ていただいたのでな、せっかくじゃからキ素力循環の準備運動を教えて貰おうと思う。これはザカリーの母上であるアナスタシア殿が考え、広めたものなのじゃ。それではザカリー、頼む」


「みなさん、こんにちは。ザカリー・グリフィンです。そしてこちらは、ソフィーナ・グスマンさんです」

「こんにちは、ザカリーさま、ソフィーナさま」


「同じ学院生ですからね。様はいりませんよ。さん付で結構です。ではウィルフレッド先生の仰せですので、いまからキ素力循環の準備運動を一緒にやってみましょう。では、ソフィちゃんに見本を見せて貰いますからね。キ素力自体は目に見えませんが、しっかりやり方を覚えてください。この準備運動をすることによって、みなさんの魔法の力が向上すると思いますよ。それでは、ソフィちゃん」

「はい、ザック部長」


 ソフィちゃんがやり方の見本を見せ、俺がそれに多少説明を加えながら1年生の6人にも真似して行って貰う。

 もちろん見鬼の力で、全員のキ素力を見ますよ。

 ふーむ、なるほどね。



 講義はそのあと、6人が得意の魔法を何本ずつか撃って、それぞれにウィルフレッド先生が指導を行い終了となった。

 全員が短縮詠唱での発動は出来るようだ。まあ仮にも中級の講義だからね。


 講義終了後、先生が少し話をしようと言うので3人で休憩室へと行く。

 まあ先日の剣術学と同じパターンですね。


「今年はこんな感じじゃ。ジュディスあたりからも聞いておるのじゃろ」


 普段は声のデカい爺さんだが、心無しか言葉の力が弱い。

 フィランダー先生もそうだったよな。


「適性も自己申告ではそれぞれひとつずつ。先ほど撃って貰った通りじゃな」


 火魔法が4人に風魔法がふたり。水はおらず、もちろん土もいない。

 それにしても自己申告では全員、四元素適性がひとつだけと言ったのか。

 俺が見たところでは違うんだけどね。


「これからの講義では、無詠唱発動の練習をするんですよね。それと併せて、他の魔法の発動練習もさせてみたらどうでしょう。水も含めて」

「お、複数適性持ちがおるのか」


「おそらく本人にはまったく自覚がなくて、隠れているかもです」

「そうかそうか。ザカリーがそう言うのなら間違いないの。そうであるなら、講義にも少しは面白味が出て来そうじゃ」



「あの、ザック部長。ひとり、キ素力の強そうな女の子がいましたよね」

「うん、いたね」

「ああ、あの子じゃな。ソフィも良く見えておるの」


 名前を聞いてみると、ヘルミーナさんという子だそうだ。

 俺が見たところでは、まだ荒くて大雑把だがキ素力の強さは抜きん出ていた。

 そして本人に自覚が無いようだが、自己申告の火に加えて水、そして微かに土の3種類の四元素適性を持っている。


 おそらくだが、本人の意識が火に偏っていて、それと相反する水の適性が意識から除外されてしまっているのだろう。土については思いもよらぬ筈だ。

 火と風、あるいは風と水という複数適性なら相性が良いのだが、火と水は難しいよね。


「どうだザカリー、おぬしの目についた1年生は、他にはいよったかの」

「うーん、その彼女ぐらいですかね。でも、本人はそれほど熱心には、魔法を練習して来なかったんじゃないかな」


「どうもそのようじゃの。それほど魔法に意識が向いておらんというか、総合魔導研究部の勧誘も断ったようじゃし」


 俺はソフィちゃんと顔を見合わせた。ソフィちゃんの眼が少し輝いている。



 そのあとウィルフレッド先生から、今年の1年生全体の魔法のレベルについて話を聞いた。

 爺さん先生によると、入学試験時の魔法特技試験はそれなりに受験者がいたそうだ。

 しかし入学してから、初等、中等のどちらも魔法学を受講する者が例年よりも少ない。

 先ほどの中等が6名で、初等はどちらも10名ぐらいずつということだ。


 昨年のジュディス先生の初等魔法学の講義には14名の受講者がいたので、確かに少ないよな。

 おそらく剣術学の方も似たような状況だろう。


 これについてウィルフレッド先生は、魔法の適性持ちの人数が減ったのではなく、学院に入って積極的に魔法を学ぼうという者の数が、少なくなったのではないかと言っていた。


「剣術ほど、魔法の方は厳しくする訳でもないのじゃがのう」

「まあそれは、実際に講義を受けてみないと分からないですし、剣術学も去年からはそれほど厳しくはないですよ」

「要するに、意欲が減っているということじゃろか」


 剣術の能力を向上させるためには、日々の鍛錬とそれを続ける強い意志が重要だ。

 もちろん魔法もそうなのだが、魔法の場合は適性と心そのもの力がより大きく作用する。

 魔法力は魂の強さも影響するからね。


 この世界ではいくら大人の入口だとはいえ、12歳ぐらいの年齢の子たちだと意欲の問題はなかなか難しいよなぁ。




「ザック部長、さっきのヘルミーナさんていう女の子、わたし、調べてみます」

「でもさ、総合魔導研究部の誘いを断ったっていうじゃない。それにうちは剣術もやるから」


「そんなの、まずはどういう子か調べてみなければ、わからないじゃないですか。考えるのはそれからですよ。この部長秘書のわたくしにお任せください」


 ソフィちゃんが興味を持ったのなら、調べて貰うか。俺もちょっと気になるし。

 それから、貴女あなたは部長秘書じゃなくて、伯爵家のお姫様だからね。


 新入生勧誘の出店でみせに向かって歩きながら、ソフィちゃんとそんな会話を交わした。



 今日はこのあと、最後の勧誘活動を暫し行ってから片付け撤去作業の予定だ。

 それで各部が出店でみせを出している講義棟前の広場に着くと、早々と撤去作業を行っている課外部もあった。

 うちの総合武術部も、女子たちはソフィちゃんと同様に既に魔法侍女服姿ではなく、細々とした物の片付けを始めている。


「ザックくん、もう片付け始めちゃってるけど、いいわよね」

「うん、もういいかな。いまから1年生が来るとは思えないし」


「中等魔法学はどうだったんだ?」

「うーん、まずは片付けちゃってから、部室で」

「そうか。じゃ、片付けちまうか」



 さっさと出店でみせの片付けと撤去作業を終えて、部室へと戻った。

 みんなあまり元気がないよね。ソフィちゃんだけがひとり、ちょっと表情が明るい。


「10日間の勧誘活動、お疲れさまでした」

「お疲れさまでした」


「まあ、結果は特に言う必要もないので、それは事実として受け止めましょう」

「そうよね」

「仕方ない、です」

「頑張ったんだけどね」


「それで先ほど、ウィルフレッド先生の中等魔法学を見学に行った話だけしましょうか」


 1年生たちと講義の様子をざっと話した。

 あと、ウィルフレッド先生から聞いた1年生全体の話もする。


「という訳で、ひとりだけ魔法能力の高そうな女子がいたから、ソフィちゃんに調査を一任しました」

「部長秘書のわたくしにお任せください」


「ソフィちゃんて、ザック部長の秘書になったの?」

「いつ、任命した、ですか?」

「なんか、出来る秘書ってカッコいいなぁ」


 いやいや、任命してませんから。ソフィちゃんが勝手にロールプレイで言っているだけですよ。

 しかし本人も魔法侍女と部長秘書とで、取りあえずは秘書の方にしたんだな。

 それとも着ている服装で使い分けるのだろうか。いやいまは、その話ではありません。



「任命はしてないからね」

「えー」

「何が不満なのか良くわからないけど、ともかくもそのヘルミーナさんという子は、いちおう調べて貰う。カシュも手伝ってあげて」


「え、僕っすか?」

「では、わたしが秘書長で、カシュくんは秘書見習いにしてあげます」

「秘書見習いって。秘書の訓練とかもするの?」


 ああ、ソフィちゃん流の遊びなんだな。カシュくんも付き合ってあげてよ。

 10日間も生まれて初めての勧誘活動を続けて、結局は成果が出なかったというストレスもあるのかもだ。


「じゃあ、その子のことは秘書長と秘書見習いの調査を待つとして、1年生が誰も入部しない件はどうするの?」

「僕らは粛々と課外部活動をするだけであります」

「そうね、そうなるか」


 総合武術部としては、それでもいいと俺は思っている。

 闘うすべを追求する課外部とか、どうやら今年の1年生に言っても通じなさそうだ。

 しかし、先日のソフィちゃんじゃないけど、学院にとっては大きな問題かもだよな。

 王国の将来の危機かどうかは、まだ分からないけどね。


 いろいろ頭に浮かぶことはあるが、春学期が始まって何とか10日間が過ぎた。

 明日明後日は、ようやく2日休みだ。

 さて、今年の1年生のことは、エステルちゃんやジェルさんたちレイヴンの意見も聞いてみようかな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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