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第580話 魔法学ゼミ初日

 新学期が始まって2日目。お昼前の2時限目にジュディス先生の高等魔法学ゼミがあって、3時限目にはフィランダー先生の剣術学上級ゼミがある。

 魔法学のゼミについては、A組の魔法少年と魔法少女であるライくんとヴィオちゃんは、いろいろ考えた結果、クラス担任のクリスティアン先生のゼミにするそうだ。


 魔法学は昨年の高等魔法学に俺も含めて9名の受講生がいたので、今年のゼミでは学院生の受講希望を優先しながら、人数配分がアンバランスな場合には2年時の成績に応じて多少の調整を行うということらしい。

 うちのクラスの魔法少年と魔法少女は魔法学の成績に関してはトップクラスなので、希望に沿っての受講は問題無いだろう。


 A組の3人のうち、俺だけがクリスティアン先生のゼミを取らないのは申し訳ないと思い、昨日の4時限目終わりに教授棟にクリスティアン先生を訪ねた。

 ジュディス先生のゼミにも出ることになった件もあったからね。


 それで教授棟の受付で案内を請い、先生の部屋へと行く。



「どうした、ザカリー。ああ、ゼミのことだな。まあ座れ」

「お忙しいところ、すみません」


 教授たちの個室は、まあ簡単に言えば前々世の大学で良くある教授の研究室というところだ。

 部屋の造りはシンプルだが重厚かつゆったりとしていて、来客用の応接セットなどもある。

 本棚は魔法関係の研究書らしきものを中心にぎっしりと詰まっていて、真面目で勉強家の先生らしい雰囲気だ。


 俺はクリスティアン先生と向かい合って、応接セットのソファに腰掛けた。

 そして、昨日にジュディス先生と話した内容を説明する。


「まあ、そんなところだろうと思っていたよ。あまり君に頼り過ぎるのもどうかと思うけど、彼女もまだまだ新人教授だから、つい甘えてしまうのだろう。でも、1年生の初等魔法学を断ってくれたのは良かったよ」


 ジュディス先生とフィロメナ先生は、俺が入学する前の年にこの学院の教授に就任した筈だから、今年で4年目か。

 まだまだ新人教授というのはそうなんだろうけど、学院生にあまり甘えるのもね。


「それで君の受講のことだね。ザカリーは、部長とジュディスのゼミを取ることになる訳か。さすがに僕のも、という訳にはいかないよな。ライムンドとヴィオレーヌが選択してくれるのなら、それで充分さ。おそらくあとひとり、他のクラスから来そうだしね」


 ああ、事前にだいたいの配分調整は終えているみたいだな。

 俺はウィルフレッド先生のゼミで決まりみたいなものだから、昨日にジュディス先生が個別に交渉に来たということか。

 教授の方から交渉に来るというのも、なんだか違う気がするけど。


「そうですか。本当に申し訳ありませんが、先生にご理解いただいてほっとしました」

「そんなことを学院生に心配させるなんて、まあ普通じゃあまりないことだから。ザカリーは普通じゃないけどな。ははは」

「恐縮です」


「でも、僕も部長のゼミは覗きに行くよ。その時間は講義が入ってないからね。ジュディスも行くだろうし。ジュディスとそれからフィロメナは、本当に君のことが好きだよな」

「それも恐縮です」


 それから、うちのライナさんの近況なども少し話題に上がった。

 土魔法以外の新しい魔法の訓練に取組んでいる、というぐらいは話しておきました。

「へぇー、彼女は努力家だよね」とクリスティアン先生は感心していたが、まさかドラゴン娘とふたりで空間魔法や重力魔法の訓練をしているなんて、とても話せないよな。




 それで今日、2時限目は魔法訓練場に行く。

 すると訓練場には既に、ジュディス先生と学院生が3人いた。

 ああ、あの子たちが受講するのか。


「あー、ザックくん、来たわね。こっちこっち」


「ええー、このゼミってザックくんが一緒なの?」

「聞いてないですよ、先生」

「そうなんだー」


 女子と男子のふたりはC組でジュディス先生がC組の担任だから、まあ順当ということか。

 あともうひとりの女子はF組だよね。

 3人とも昨年は同じ高等魔法学の講義で一緒で、かつ総合戦技大会の出場メンバーだから、さすがに俺でも良く知ってますよ。


 初日はまずこのゼミの進め方についてということで、訓練場の休憩室に移動した。


「お互いに自己紹介をする必要もないと思うけど、あらためてだからお願いするわ」


「はい。C組のドリアーヌです」

「同じく、C組のロレンツォ」

「F組のパメラよ」

「申し訳ない。A組のザカリーであります」


「ザックくんは、ウィルフレッド先生のゼミじゃないの?」

「恐縮であります。あっちにも行くのでありますが」


「ほら、ザックが来ると、途端に変な雰囲気になるし」

「恐縮であります。なるべく大人しくするのであります」

「でもさ、楽しくなりそうだからいいんじゃない」


 ちょっと警戒されている感もあるが、昨年も同じ受講生同士だったじゃないですか。

 というか、ジュディス先生の要望だからね。



「わたしがね、こっちのゼミにも来るように頼んじゃったのよ。まあこれまでも、わたしの講義を手伝って貰っていたんだけど、言ってみれば客員教授みたいなものね。給料は出ないけど、うふふ」


 給料の出ない客員教授って、昨日のランチ代をまだ貰ってないんですけど。


「さあ、自己紹介も終わったところで、ゼミの進め方について説明するわよ。ザックくんは置いておいて、あなたたちは無詠唱での攻撃魔法の発動は、もう充分に訓練を積んで来ているわね。えーと、得意なのは、ドリちゃんが火魔法でロレンくんも同じくね。パメラちゃんは風だったわよね」

「はい」


「1年生、2年生での講義では、講義の全体でテーマと目標に沿って学んで来て貰った訳だけど、3年生と4年生のゼミでは、それぞれ個々人が個別にテーマと目標を掲げて貰って、その達成に向けて学んで訓練をして行くの。例えば、現在の適性や得意の魔法種別で、より上位のものに取組むのも良いし、いま出来るものを強化するのでもいいわ。あるいは、違う種別の魔法に取組むのでも。それでこの1年間、しっかり頑張って貰って、仮に自分が設定した目標を達成出来なくても、落第とかにはならないから安心してね。あくまでテーマと目標を掲げて、それに向かって学び、研究し、訓練する。教授は、そのお手伝いをする。そういう場ですからね。いいかしら」


 以前にウィルフレッド先生からも聞いていたが、高等魔法学ゼミは、あくまで個々の学びと研究と訓練の場だ。

 だから自主性も問われるし、成果が出ればもちろん良いが、その過程が重要視されるということのようだ。



「理解いただけたかしら。テーマと目標は、次回のゼミまでに考えて決めてくれればいいわ。でももし、いまの時点で今年にやりたいことがあったら、言って貰おうかな」


「僕はやっぱり、現在の火魔法の強化かな。他の適性があまりなさそうなので、火魔法のレベルアップに取組みたいです」


 ふむふむ。ロレンくんの意見は良く分かります。

 彼に他の四元素適性がまったく無い訳でもないが、やはり火魔法適性が高いように見える。


「わたしも、いまの火魔法の強化。でも、去年の模範試合で、ジュディス先生がやった火球魔法をやってみたい。あの、連続して高速で撃つやつ」


 ほうほう、同じく火魔法適性がかなり高いドリちゃんはあの火球機関砲、ないしは火球CIWSをやってみたいのですな。

 ジュディス先生がそれを聞いて、ちらっと俺の顔を見る。


「えーと、わたしは」


 パメラちゃんは風適性だったね。水もあるようだが、本人は気づいていたっけ。


「わたし、回復魔法の勉強をしたいんです。ダメですか? 先生」


 おお、回復魔法ですか。それはそれは。

 なんだか今年は、あらためて回復魔法に縁が深い年ですな。



「火魔法のレベルアップに、模範試合でわたしがやったあの火球魔法、それから回復魔法ね。あ、ちょうどここに、その火球魔法を生みだしたご本人で、かつ一流の回復魔法の使い手がいるわ。なんて良い巡り合わせなのかしら。いまの3人の発言について、せっかくだからひと言いただこうかな」


 おい、わざとらしいこと言うんじゃないですよ。


「なるほどですね。まず、回復魔法については、適性の有無が非常に重要になって来ます。このあと、僕に適性を見させていただいていいかな、パメラちゃん」

「え、ザックくんが適性を見てくれるの? うん、お願いお願い」


「では、それはそうしましょう。それで、火魔法についてですが。やっぱりジュディス先生ご本人に、昨年の模範試合で出した例の高速連射の火球魔法を披露していただいて、それから考えましょうかね」


「お、それいいなザック。僕もあれ、間近で見たい」

「是非お願いしたいです、ジュディス先生」


「あ、それは開発者のザックくんが……」

「先生、ふたりが見たいと言ってますから、お願いしますよ」

「えー、あー、はい」


 こいつ逆襲しやがって的な恨めしい目で俺を見ないでくださいね、先生。




 それで皆で魔法訓練場のフィールドの方に戻った。

 まずは受講生3人のキ素力を、あらためて確認しておこうかな。


「ジュディス先生。先生に魔法を撃って貰う前に、みんなでキ素力循環の準備運動をしませんか」

「あ、そうね。その方が初日の講義らしいわよね。みんなもいいかしら」

「はーい」


 それで、5人でアナスタシア式キ素力循環の準備運動を行う。

 俺もいちおう一緒にやりましょうかね。

 でも、以前みたいにセーブせずにやってしまって、身体から7色の光が広がるとかはもうしませんよ。


 ある程度の分量を循環させるのは、いまは屋敷の訓練場でかつ外部の者がいないときだけにしている。

 学院だと、ごくごく僅かのキ素力を練り込んで、周囲の学院生に合わせている。

 まあ俺も、この2年間でだいぶ学習して来た訳ですよ。


 それよりも受講生の3人だ。

 うん、なかなかいいですね。ヴィオちゃんやライくんに比べると多少劣るものの、3人ともカロちゃんと同じくらいのキ素力は出せそうですね。


 問題は質や適性だが、3人の中でロレンくんはやや荒く、ドリちゃんとパメラちゃんは丁寧に練り込まれている感じだ。

 それで、回復魔法を覚えたいと言っていたパメラちゃんだが、充分に適性があることが分かった。


 そう言えば学院生について、回復魔法の適性をこうして見たのは初めてだよな。

 きっとほかにも適性者はいるんだろうな。



「はい、やめー。みんな、あらためてだけど、なかなか良さそうね。どうかな、ザックくん」


「そうですね、いいですよ。3人とも力強いし、よく練り込まれている。ただしロレンくんは、もう少し丁寧にした方がいいかな。出力は申し分無さそうだけど、より上位の魔法に取組むのだとしたら、丁寧さ、きめ細かさも必要になって来るからね」


「ほら、ロレンくん、いつも言ってるでしょ。あなたの魔法って、ちょっと荒いんだって。ザックくんだと、キ素力の段階でバレちゃうんだから」

「ザック、僕のことはロレンでいいよ。って、ザックはキ素力が見えるとでも言うのかよ」

「まあ、そこのところは秘密ね、ロレン」

「ふん」


 まあ見鬼の力を使っておりますからな。


「それからパメラちゃん」

「はーい」

「きみは回復魔法の適性があります。なのでこれから1年、しっかり修得して行きましょう」


「えっ、もうわかっちゃったの。わたし、何もしてないよ。ただキ素力の準備運動をしただけだよ」

「ザックくんがそう断言するのなら、きっとそうなのね。先生もそうとしか言えないけど」


「おいおい、今更だけど、ザックって何者だよ」

「だって、ザックくんて、回復魔法の天才って言われたアナスタシアさまの息子さんだもの」

「そうかぁ。わたし、ますます回復魔法に意欲が湧いて来た。よろしくお願いします」


 まあアン母さんの名前を出されたら、後には引けないか。

 それではパメラちゃんに、しっかり回復魔法を覚えて貰うかな。


 それからそこで、しめしめ良かった良かったって顔をしているジュディス先生。こんどはあなたが火球機関砲を撃って見せる番ですよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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