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第572話 伯爵家訪問と婚約話題

 その後、ラウンジに戻って来たエステルちゃんに、ヴィオちゃんのところに相談にいくことにしたと話した。

「ですね。それがいいです」と彼女は同意してくれた。

 俺が勝手に突っ走ると叱られるけど、誰かとちゃんと相談する場合にはじつは賛成してくれるんだよね。


 それで翌日に、セリュジエ伯爵家の屋敷にヴィオちゃんが王都に戻って来ているかの確認と、訪問したい旨の伝言をティモさんに届けに行って貰う。

 この連絡業務に、ティモさんはフォルくんを伴って行った。


 ウォルターさんが言うところの俺の直属騎士見習いの初仕事だね。本人にも誰にもこの話はしてないけど。

 他の貴族家への連絡訪問や訪問時の先触れなどは、礼儀作法も大切だし意外と経験が必要なものだ。


 それから暫くしてふたりが帰って来た。

 そしてラウンジにいた俺とエステルちゃんに報告をする。ティモさんはフォルくんに報告させるんだね。


「ただいま、セリュジエ伯爵家屋敷より戻りました。王都屋敷執事殿のハロルド様に取り次ぎを願い、お会いいただくことが出来ました」


 うん、口調がしっかりしていて丁寧だ。


「ハロルド様によりますと、ヴィオレーヌ様はまだ王都には戻られておらず、明日に到着のご予定とのこと。ザックさまの訪問願いは承ったので、明日にヴィオレーヌ様が到着されましたら、その旨を伝えてご確認いただけるとのこと。なお、ハロルド様がおっしゃられるには、ヴィオレーヌ様は明後日は屋敷におられる予定なので、その日がよろしいのではないかと。ヴィオレーヌ様からのご返事は、明日にお届けいただけるとのことです。報告は以上です」


「ザックさまは、なに拍手してるですか。でも、良いご報告でしたよ、フォルくん」

「はい、ありがとうございます、エステルさま」


「うんうん。もうこれなら、どんな屋敷にでも行けそうだよな。ねえティモさん」

「ええ、なかなかしっかりしていましたよ。口上は彼に任せたのですが、何も心配はありませんでした。でも当面は、こういった際には私とコンビでという感じですね」


 王都に来た当初は、フォルくんとユディちゃんの兄妹はこちらでは珍しいドラゴニュートということで、誰かに目を付けられたりちょっかいを出されたりなどが心配だった。

 でもこの1年で、少なくとも王都の内リング内には慣れ、商業街にはひとりだけでも行かせている。

 それにこの兄妹なら、滅多な相手に不覚を取ることはもうないだろう。




 翌日にヴィオちゃんから伝言が届き、明日の午後にでもお待ちしています、とのこと。

 なので次の日の遅めの午後に、セリュジエ伯爵家を訪問することになった。

 あ、当然のごとくエステルちゃんとクロウちゃんも一緒です。

 護衛とお付きには、ジェルさんとオネルさんにフォルくんとユディちゃんを加えた。


 ライナさんはカリちゃんと何やら魔法の特訓を行っているそうで、昨日から午後は訓練場に入っている。

 あれって、ライナさんがカリちゃんの訓練に付き合っているというより、ライナさん自身がカリちゃんから何か教わっているんじゃないかな。


「フォルくんとユディちゃんを連れて行ってあげてー。人数が多いのもなんだから、わたしはパスで」とか彼女は言っていた。

 ジェルさんは「魔法の訓練なら良いのですが、ライナをあまり甘やかさんでください」言っておりました。



 セリュジエ伯爵家の王都屋敷までは、前に行ったときと同じように徒歩だ。

 そしてその大きな門の前に着くと、「さあ、訪問の取り次ぎ願いに行くわよ」とオネルさんが、兄妹ふたりを伴って門番さんのところに行く。

 俺たちはその様子を少し離れた場所から眺めた。


 先日はフォルくんが連絡のために来ているので、今回はユディちゃんに言わせているみたいだね。

 声は聞こえないけど、背筋を伸ばし門番さんを真っ直ぐ見据えて、礼儀正しく取り次ぎ願いの口上を述べているようだ。


 直ぐに門番さんがひとり屋敷の方に走ったようで、やがて門が開き、3人は俺たちのいるところへ引き返して来た。


「取り次ぎ願いを済ませました。ご案内いただけるそうです」

「よし、しっかり出来たようだな。では行きましょうかな」

「はいっ。ジェル姉さん」


「ザックさまは、余所のお宅の門の前で拍手しないんですよ」

「あ、つい」



 ヴィオちゃんと王都屋敷執事のハロルドさんが、屋敷の玄関前で屋敷の玄関前で待っていてくれた。


「いらっしゃい、ザックくん。エステルさん、良くいらしていただきました。ジェルさんたちもこんにちは。あら? ライナさんがいらっしゃらないんですね。代りにフォルくんとユディちゃんが来たんだね」


「昨日に王都に来たみたいだけど、早々にごめんね」

「ごめんなさいね、この人の相談て、ヴィオちゃんなら察しがつくでしょ。あとライナさんは、今日は魔法の訓練なの。フォルくんとユディちゃんは、お付き仕事のお勉強ね」


「ええ、だいたいは。さすがライナさんは、魔法の訓練に怠りがないんですね。あとフォルくんとユディちゃんはお勉強かぁ。さあさ、入って入って」


 ジェルさんとオネルさんは、ライナさんのくだりで苦笑いをしないように。



 広い応接室に案内され、ジェルさんたちは少し離れた椅子に控える。兄妹も姿勢良く座っている。

 エステルちゃんは用意していた多めのグリフィンプディングを、執事のハロルドさんに渡した。


「ザックくんとエステルさんがいらっしゃると、美味しいお菓子が一緒に来るから、えへへ、大歓迎です」

「うちの特産品みたいなものですからね。冷やして置いて、みなさんで召し上がりくださいな」


 お菓子って、うちの特産品なんだっけ。

 グリフィンマカロンは昨年から王都でも販売してるし、製造販売元のソルディーニ商会はトビーくん監修で日持ちの良いお菓子の販売も準備しているみたいだから、まあそうなのかな。


 グリフィンプディングも、アデーレさんのレシピを基にトビーくんが研究していたが、大量販売はまだ難しそうだ。

 それでも、グリフィン子爵家の紋章が入った化粧箱入りのお菓子は、徐々に認知が高まっているらしい。



 新入部員勧誘の相談は、ヴィオちゃんの「わかったわ。準備しておくので、ザックくんは心配しなくていいから」のひと言で終わった。


 あと、3月1日の入学式の前日に総合武術部のミーティングをするから、前の日には学院にいるように言われた。

 放っておくと、俺は入学式当日の朝に学院に行くのを良くご存知でらっしゃる。


「今年も王宮で新年のセレモニーがあったんでしょ。ヴィオちゃんは行ったのかな?」

「あー、王家への年越しのご挨拶ね。行ったわよ」


 王宮ではそういう新年セレモニーとパーティーがあるそうで、確か1月の5日とかに行われるんじゃなかったかな。


 出席するのは、王都圏及び近郊の貴族と王都の有力者だ。

 つまり、建国以来フォルサイス王家を支えるグループ。ヴィオちゃんのセリュジエ伯爵家やライくんのモンタネール男爵家もその一員だ。

 北辺と南方の貴族家グループはそれぞれ、遠方であることを理由にまず出席しない。


 ところで、クロウちゃんはどうしてヴィオちゃんのお膝の上なのかな?

 うちの部員の女子の膝の上には、以前はほとんど乗らなかったのにさ。どうも、彼女らも今年14歳で、柔らかさや座り心地がだんだん良くなって来たからのようだ。カァ。


「その新年のセレモニーって、どんなことするのかしら」

「あー、つまんないものですよ、エステルさん。周辺の貴族やギルドの有力者とかがお呼ばれして、順番に王家の方々に新年の挨拶をするんですよ。挨拶の順番待ちが延々と続くの。あとはダンスパーティーかな」


「そうなのね。ザックさまじゃ我慢出来なさそうね」

「あはは、言えてる。わたしでさえ、我慢出来ないもの。それに今年とか、若い貴族の男性が、品定めでもするような目で見て来るし。おととしに学院に来た、王家の次男坊とかも」


 まあ、貴族が集まるこの手のパーティーはそんなものだろうな。

 貴族の子女は、12歳になった翌年の新年からこのセレモニーに出席するのが倣いとかで、言ってみれば、それが王都の社交界へのデビュタント。

 集団見合い会場とまでは言わないまでも、各家の女子と身近に接する絶好の機会だ。ダンスパーティーも開かれるしね。



「ライも来てたんでしょ」

「え、うん」


「一緒に踊ったのでありますかな」

「え、なによ。ザックくんは、そんなことに興味があるの」


「どうせライが、白状するのでありますがな」

「ザックさまったら」

「えー、あいつは、そうよね。はいはい、踊りました。虫除けです」


 虫除けですと、ライくん。強力な防虫効果とかはあるのですかね。


「踊ってから、王宮の庭園をふたりで散歩したのでありますな」

「あ、えー、ど、どうして知ってるのよ。もうライくんに会ったの? ザックくんのとこに彼、来たの?」

「あら、いらしてませんし、ザックさまも、こちらに戻ってからどこにも出掛けてませんけど……」


 昨年にそう白状させたので、今年もそうだろうと想定したのですな。

 どうやらズバリその通りだったようだ。


「ほうほう。僕からの質問は以上です」

「もしかして、いまのは当てずっぽう? それにわたし、引っ掛かったってこと?」

「ザックさま、女の子にそういうのはダメですよ」


 ヴィオちゃんはホッペタを膨らませて俺を睨んだあと、そっぽを向いている。


「いや、ごめん。気を悪くしたのなら謝るけどさ。でも、庭を散歩ぐらい、言ってもいいじゃん。虫除け効果の続きと考えれば」

「そ、そうよ、虫除けよ。そうなの、虫除けなんだから」


「うふふ。周囲にライくんと仲が良いって思わせておけば、嫌な虫は寄って来ないかもですよ。ね、ヴィオちゃん。ほら、この人なんか、小さいときからいつもわたしが側にいるものだから、誰も寄って来ないのよ。1年生のときに、公爵家のお嬢さんは興味があったみたいですけど」


「あー、そう言えば。学院でも女の子は誰も、ザックくんに取り入ろうとかしませんよね。あと、変人とか怪物とかの噂も流れたし。いまは学院生はみんな、ザックくんに婚約者がいるって知ってるし」


「あはは、変人や怪物なんて噂があったの? まったく当たってないこともないですけど、そうしたらもっと太い鎖に繋いでおかないとよね。ふふふ」


 離れて座って、会話を聞いてない風のお姉さんふたり。そこで吹き出さないように。



「公爵家のお嬢さんで思い出したけどさ、王太子のお嫁さん選びはどうなったのかな?」

「そのことね。やっぱりどうも、フォレスト公爵家の勝ちのようよ。年が明けてから、どうやら内々には決まったらしいって噂が流れてるわ。だから、フェリシアさまが王太子妃ってことよね」


 そうなんだ。あのフェリさんが王太子妃か。

 うちのヴァニー姉さんと辺境伯家長男のヴィクティムさんとの婚約が、正式発表されたのも多少は影響があったのかな。

 仲の良い後輩のヴィックさんの婚約が決まったので、セオさんも俺もそろそろ決めなくちゃ的な?


「そう言えば、ヴァネッサさまのご婚約が決まったのよね。おめでとうございます。こっちにも伝わって来たわよ。お相手は辺境伯家のご長男かぁ。去年の学院祭で来られたあの方よね。だからザックくんに会いに来たんだ。いまから思うと納得」


 まあ、両家から公式に発表されて、王宮にも届けられているからね。

 当然に王都圏周辺の貴族家でも話題に上ったのだろう。


「まあ、そういうこと。でもあのときは、まだ決まっていなかったんだよ」

「正式にまとまるのに、1年近くも掛かったんですよ」

「へぇー、やっぱり有力貴族同士の長男と長女のご婚約ともなると、いろいろ大変なんでしょうね」


 いえいえ、単に娘大好きのうちの父さんが、なかなか諦めきれなかっただけですから。



 ヴィオちゃんとの新入部員勧誘の相談は、結局はほとんどが婚約談義で終わってしまいました。


「入学式の前の日のお昼から、学院生食堂に集合よ。お願いしますね、エステルさん」

「はい、大丈夫ですよ」


 そんな声を背に、伯爵家の屋敷の門を出る。

 せっかくフォルくんとユディちゃんも従ってるし、どこかのカフェでひと休みして帰りましょうかね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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