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第568話 辺境伯のご一家にお会いしました

「初めてお目に掛かります。私がザカリー・グリフィンです。それからこちらが、私の婚約者のエステル・シルフェーダです。このたびは、ヴィクティム様と姉ヴァネッサとの婚約が整い、またこれまでの辺境伯様のご尽力に対しまして、深く御礼と感謝を申し上げる次第です」


「堅苦しい挨拶などいいですぞ。ザカリー君とエステルさんのことは良く承知しておる。私がモーリッツ・キースリング。こっちが妻のエルヴィーラで、隣にいるのが娘のエルネスティーネだ。エールデシュタットに良く来られた。歓迎しますぞ。それから、ウォルターさんもご苦労様。ちゃんとザカリー君を連れて来てくれたな」


 ああ、良く通る声だ。落ち着いた雰囲気で話しているが、部屋の隅々まで声が届いて行く。

 年齢的には確かブルーノさんよりも少し上の筈だったが、もちろん15年戦争には参加しているのだろう。つまり、戦場で鍛えられた声だ。

 体格はどっしりとしているが、おそらく無駄な贅肉とかは無いんじゃないかな。


 お隣で微笑んでいる奥様のエルヴィーラさんは、王国南方の領主貴族のご出身と聞いている。

 にこやかで程よくふっくらとしていて、優しいお母さんという感じだね。


 それからヴィクティムさんの妹さんのエルネスティーネさんか。ヴァニー姉さんより、学院で2学年ほど上ではなかったかな。

 彼女は俺とエステルちゃんの顔を興味深く見ている。



「あとはそうだな、おいおい見知っていただくとして、フリードリヒはもう挨拶を済ませたな。うちの家令だ。なに、元は騎士だよ」


 ああ、うちのウォルターさんと同じだね。どうりで仲が良さそうだ。


「それからそこにいるのが、うちの騎士団長のヴェンデル・バルシュミーデ準男爵。ベンヤミン・オーレンドルフ準男爵と息子のブルクハルトは、良くご存知だな。あと、調査探索局を任せているエルメルを紹介する必要はないな。はっはっは」


 ヴェンデル騎士団長も、まあうちのクレイグ騎士団長と良く似ているな。

 うちと同じように、家令のフリードリヒさんとで喰えないおじさんコンビなのだろう。

 グリフィン子爵家と違うのは、外交担当のベンヤミンさんがいるところだ。

 ベンヤミンさんは、うちのヴィンス父さんの後輩で仲が良い。


 エルメルさんが、にこやかに頭を下げて挨拶をする。

 長年に渡り、この辺境伯家に探索者として派遣されていて、現在は確か調査探索局の副局長をしていたんじゃないかな。

 辺境伯家の調査探索局は局と付いているように、うちよりも規模が大きいらしい。

 局長はやはり、フリードリヒさんが兼任してるのだろうね。



 この場にいるそのほかの家臣の方たちも紹介して貰い、俺の方も今回連れて来た全員を紹介した。


「おう、ブルーノ。何十年振りだ。おまえも年を食ったな」

「恐縮でやす、辺境伯様」


 ああ、やっぱり辺境伯はブルーノさんのことを知ってるんだね。男爵お爺ちゃんも知っていたからな。


「それからそっちのふたりは、アルポさんとエルノさんじゃないか。おい、どうしてそこにいるんだ。エルメル、なぜ教えてくれなかった」


「いえ、申し訳ありません。うちの一族の私的なことでしたので、申し上げておりませんでしたが」


「ふん、若長わかおさよ、もう一族の私的なこととかではないぞ。わしらは正式に、ザカリー様の家来になったでな」

「そうぞ。それにしても、辺境伯家の坊ちゃんも、ずいぶんと老けてしまいましたの」


「そうなのですか? ミルカ、そうなのか?」

「あ、はい。つい先日、うちの部の嘱託部員にしまして。エルメル兄には、まだ報せておりませんでした」

「そういうことよな、若長わかおさ


 エルメルさんが少し慌てている。

 まさかアルポさんとエルノさんがうちの調査探索部の嘱託部員になって、同行して来ていたとは思わなかったのだろう。


 おまけに爺さんふたりは、うちの騎士団の制服を着て後ろに控えていたので、気が付かなかったようだ。

 それにしてもモーリッツ辺境伯もふたりを知っていて、エルノさんが言った辺境伯家の坊ちゃんとは、歴戦の戦争経験者には敵わないよな。


「これはこれは。さすがファータの婿様よな。アルポさんとエルノさんがご家来衆とは、我らも迂闊なことが言えんぞ、なあフリードリッヒ、ヴェンデル」

「はっはっは。大先輩がおられたら、軽々しく戦争の自慢話など出来ませんぞ、辺境伯様よ」


 ウォルターさんとかは、落ち着いて微笑みながらそのやり取りを聞いている。

 まあおそらく、この場にいる誰よりもアルポさんとエルノさんの方が、15年戦争を長く闘ったのだろう。

 あと、俺の同行者にファータの者がミルカさんも入れて4人もいるのだから、エステルちゃんとエルメルさんを加えると6人もここにいるんだよね。



「そちらのお三方の女性にブルーノと若い衆の5人で、ザカリー殿の直属部隊ということだな。なんと言ったか」

「レイヴンと名乗られているそうです」


「おお、レイヴンだ。なんとも美しく、そして強そうだな。ベンヤミンとブルクハルトからも聞いておりますぞ」

「恐縮でございます」


「それから、そちらの侍女殿が抱かれているカラスが、有名な……」

「カァカァ」

「こら、クロウちゃんたら」


「ん? なんだ」

「辺境伯様。クロウちゃんはカラスと呼ばれると、怒るようなのです」

「おおブルク、そうなのか? これは失礼をいたした」


 そんなやりとりもあり、ご挨拶が終わって俺とエステルちゃんにウォルターさんとミルカさんの4人は、別室の応接室に案内された。クロウちゃんは、カリちゃんからエステルちゃんが受取っている。


 他のみんなは辺境伯家の侍女さんに案内されて、今晩宿泊する部屋の方に行った。

 どうやら全員が、このエールデシュタット城内で宿泊させて貰えるようだ。部屋数も多そうだしね。




 応接室では俺とエステルちゃんが辺境伯家のご家族4人と向かい合って座り、俺たちの後ろにはウォルターさんとミルカさんが控える。

 辺境伯家側は、家令のフリードリヒさんとヴェンデル騎士団長、ベンヤミンさん、エルメルさん、そしてブルクくんも加わって控えていた。


「あらためて、良く来られたな、ザカリー君、エステルさん。1泊だけという話だな。当家としてはもっと滞在してほしいところだが」

「あなた、冬休み中のところを、急なお話で来ていただいたのですよ。ヴィクティムがどうしてもと言うものですから。ご迷惑ではなかったかしら」


「いえ、以前にもヴィクティムさんにはお話をいただいていましたし、隣領ですから。これまで訪問していなかった僕の方が申し訳ありません」


「1泊でも来てくれただけで僕は嬉しいよ。なあ、ブルク」

「あ、はい」


 ブルクくんも主家の辺境伯やヴィクティムさんの前なので、大人しいよね。

 他の部員と違って、彼なら余計なことは言わないと思うけど。


「こうして顔を合わせてみると、さずがにグリフィン家の男子という面構えですな。それにご家来衆も。私もいささか驚いた」

「アルポさんとエルノさんが失礼なことを言いまして、大変申し訳ありませんでした」


「いやいやエステルさん、いいんだいいんだ。なにせ、私らが若造の頃に、あのふたりは大ベテランだったですからな。戦場でずいぶんと助けて貰ったものですよ。先ほど会った様子では、まだまだ健在のようだ」


「ええ、うちの里の年寄りは、やたら元気ですので」

「はっはっは、私らもあやかりたい」


 辺境伯はファータのことをどこまで承知しているのかな。

 エルメルさんをはじめ他の里の者もいるだろうし、15年戦争で共に闘った間柄だから、かなり知っているのだろうね。



「あの、ザカリーさま。少々お尋ねしてもよろしいかしら」


 それまで黙っていたヴィクティムさんの妹のエルネスティーネさんが、初めて口を開いた。


「はい、なんでしょうか? あ、僕のことはザックでいいですよ。ブルクもそう呼んでますし」


「ありがとうございます。それではザックさま。あの、わたしのことはエルネとお呼びください。エステルさまもそう呼んでくださいね。それで、お尋ねしたいのは、ザックさまがセルティア王立学院の剣術学と魔法学の両方の特待生というのは、わたしも承知していますけど。ブルクさんにちょっと聞いたのですが、ザックさまは教授もされているとか」


 ああ、そのことですか。

 俺はちらとブルクくんの方を見た。彼は声を出さずに口のカタチだけで「ゴメン」と言って、小さく手を合わせている。

 まあ、いろいろ聞かれれば話しちゃうよなぁ。


「あの、教授ではないんですよ。一部の教授から頼まれて、講義のお手伝いをしているだけです」

「でも、総合戦技大会では審判をされていて、昨年は教授たちの模範試合に加わって、ザックさまのチームが勝たれたとか」


 それはヴィクティムさんも観戦していたからな。


「ザック君、そこら辺は僕がエルネに話しちゃってね。いやあ、今でも憶えているけど、あの模範試合は凄かったよな」

「ははは、恐縮です」


「私もその話はヴィックから聞いたが、いやいや、学院の講義でも教授をされておるとは、初めて知りました。私が尋ねても、ブルクはあまり話してくれないものだからな」

「あらそうなの? お父さま。わたしには、ブルクさんが教えてくれましたよ」


 これはぜったいにブルクくん。美しい主家のお姫さまに聞かれて、ぽろっと話したのですな。

 当の彼は、そっぽを向いているけど顔が赤いですぞ。



「ザック君とエステルさんがいま住んでいる王都の屋敷も凄いんだよ、親父。ジェルメール騎士たちザックくんの家臣が、王都に常駐しているのは親父も知っていると思うけど、屋敷の中にある訓練場なんか、高い壁で囲われていて、魔法の訓練もバンバン出来るそうなんだ。うちも考えないといけないよな」


 そういえば、ヴィクティムさんが来訪して、ダレルさんが強化改修工事を行ったあとの状態を見てるからね。

 訓練場を見学していたときも、熱心にジェルさんたちに質問をしていた。


 なにせうちの訓練場はフィールドが低く掘り込まれ、土魔法で強化した内側からだと高さが5メートル以上もある壁で囲まれている。

 グリフィニアの子爵家専用訓練場は部外者が立ち入り禁止だけど、王都屋敷の方は結構いろんな人に見せちゃってるよね。

 ヴィオちゃんなんかも、こんな訓練場が王都屋敷内にあるのはうちだけだとか言っていたしな。


「ほう。それは私もいちど見てみたいものだな。しかし、学院で教授もされているザック君が住んでいるから名目も立つが、我らの王都屋敷は現在は留守番しかおらんから、変に訓練場を強化する訳にもいかんぞ、ヴィック」


 だから、教授はしてませんって、さっき説明しましたよね。


「まあ、そうだけどね。しかし、いざというときの備えは必要だよ、親父。ねえ、ザック君もそう思うだろ」

「わたしもヴィック兄さんに同意しますわ、お父さま。ねえ、ザックさまもそう思いますわよね」


 あ、エルネさんのことも少し見えて来ましたよ。

 見た目は凄く奇麗なお姉さんだけど、どうやら武闘派の香りがしますぞ。


「えーと、備えあれば憂い無しとも言いますが……」

「おお、ザック君はいいこと言うね」

「やっぱり、そのお歳で教授をされている方は、おっしゃることが違いますわ」


「しかしだな。うちの場合、辺境伯家が不在の状態で、工事人夫などを入れて大掛かりな工事などをすると、王宮あたりが煩いぞ」

「ザック君のところは改修したばかりだって聞いたけど、工事はどうしたの?」


 ああ、そんなことまで聞いてましたか。やはりヴィックさんは、しっかりしておりますな。


「あの、うちは外から工事の人は入れませんので」

「そうなのですな。では、どうやって」

「あー、昨年の改修は土魔法の出来る者がふたりで」


 実際はアルさんも手伝っただろうから、人族ふたりとドラゴン1名ですが。



「それは、ダレルではないか? あともうひとりは……。そうか、先ほどお会いした、確かライナさんという方だな。そうだな、ブルク。知らん顔しておらんで、少しは教えてくれても良いだろ」


 そうかぁ。辺境伯はブルーノさんを知っているのだから、ダレルさんのことも承知だよね。


「あ、あの、ライナさんは土魔法の達人で、あとザック様も……。あ、ごめんザック、思わず言ってしまった」


「ほぉー、ダレルにライナさんに、ザック君もな。土魔法でか。ふーむ」


 俺を見るモーリッツ・キースリング辺境伯の眼が、キラリと光った気がしました。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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