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第564話 カリちゃんの魔法安定化訓練

 父さんたち屋敷の皆にカリちゃんを紹介して、それからが少しばかり大変だった。

 アルさんは、シモーネちゃんと同じで侍女として扱ってくれと言ったのだが、いやいやそういう訳にはいきませんとか何とか。


 シモーネちゃんならまだ小さく見えるし、王都屋敷で既に侍女見習いとして働いていたのだからまだしも、アルさんの親戚で見た目15、6歳ぐらいのカリちゃんにそれは、というのが父さんたちの意見だ。


 なんだかんだ話して、結局、グリフィニアにいる間は宿泊する部屋は客間にして、食事などもアルさんたちと一緒に食堂で食べて貰うことにした。

 ただし、アルさんの弟子として魔法の訓練はするものの、それ以外の時間はフォルくんたちと一緒に屋敷の仕事を手伝って貰うという、少々変則的な扱いで決着しました。


 カリちゃん自身は、半分は何のことを話し合っているのか分からず、あとは何でもお仕事しますと言っていたけどね。

 そもそもが彼女自身、ホワイトドラゴンの一族から金竜さんのところに出仕していた身分なので、別に気にしていないらしい。


 夕食の時間に騎士団本部から屋敷に戻って来たアビー姉ちゃんも、「またひとり増えたのねー」と、それほど驚いてはいなかったけどね。




 それで翌朝の朝食後、アルさんとカリちゃんを連れて子爵家専用の魔法訓練場に行った。

 エステルちゃんとクロウちゃんも、心配と興味が半々で付いて来た。

 あと、姉弟子のライナさんも一緒だね。

 まあエステルちゃんもアルさんの弟子みたいなものだから、3人の姉妹弟子という訳だ。


「それで、わたしは何をすればいいのでしょうか」

「今日から魔法の訓練じゃて。それもいまの人間に変化へんげしておる状態で、安定して魔法を使う訓練じゃな。そうすれば、人化の魔法自体も安定する筈じゃ」


 昨晩、アルさんと少し相談したのだけど、彼が言うにはドラゴンの姿に戻って魔法の訓練をするより、この人化の状態でした方が良いということなのだ。

 つまり、人化の魔法を維持したまま別の魔法を発動させることによって、人化の魔法そのものも安定させるということらしい。

 あとは、人間社会に近い場所で魔法を発動させる可能性が多いだろうと、そう考えたみたいだね。


 俺の方からは、人化の状態のままでキ素力循環の訓練をしたらどうかと提案した。

 エンジンを回転させ続けているところで、ガソリンをスムーズに安定的に送り込む機能改善をするという感じかな。


「人化のままで、別の魔法を発動させるということですね」

「そういうのって、いままでカリちゃんはしたことあるの?」

「うーん、あまり経験がないかも、です。魔法を使うときは、たいていは元の姿だったので」


 そうだよね。わざわざ人間の姿になる必要もないだろうし。


「そうしたら」

「ねえねえ、ちょっといいかしら」

「ん? なにかな、ライナさん」


「えーとね。カリちゃんが良ければなんだけどー。いちど本来の姿に戻って、見せて貰うとかダメかしらー。ほら、昨日はここに降りて来る姿は見なかったし。それにカリちゃんがどんなドラゴンさんなのか、興味があるというかー」


「いいですよー。ライナお姉さんが見たいというなら」


 カリちゃんは、そういうのを気にしない子だしね。

 それにしても、見た目基準でライナさんがお姉さんなのかな。


 カリちゃんが「えい」と可愛らしい声を出すと、全身が白い雲に包まれてその雲が大きくなり、やがて徐々に消えて行って中からホワイトドラゴンが現れた。


「へぇー、奇麗な白のドラゴンさんなのねー。それに細身で、なんだかスマート。アルさんとずいぶん違うのねー」

「そうかのう」

「カリちゃんは、可愛らしい女の子ドラゴンだからですよ」

「えへへ」


 アルさんにはあまり自覚がないようだが、あなたは黒くてデカいですから。普通、見たら凄く怖いですから。

 あと、それほど驚かないライナさんも、人間としてはだいぶ感覚がおかしくなってるよね。俺もエステルちゃんも、人のことは言えないけどさ



「それじゃ、魔法を使う前に、まずは僕たち人間がやってるキ素力循環の訓練をしてみようか」

「キ素力循環の訓練?」

「アンお母さまが考案したもので、うちでは基本の訓練にしてるんですよ」

「そうなんですね。アンさまって凄いんですね」


 それで俺がキ素力循環の訓練方法を教える。と言っても、ここにいる人たちは、普通に出来ることだけどね。

 カリちゃんも再び人間の姿になり、両手を軽く前に出して身体内にキ素力を練り込み始めた。

 他のみんなも同じように始める。あ、アルさんはほどほどでいいですから。


 ただでさえ魔法力の高い5人が集まっていて、その5人が一斉にキ素力を練り込むものだから、魔法訓練場の中は膨大なキ素力のタンクと化したようだ。

 クロウちゃんはちょっと息苦しいと、上空に退避してしまっている。


 俺も循環訓練をしながら見鬼の力で4人を見てみると、ライナさんとエステルちゃんはほぼ同等のキ素力量になっているようだった。

 小さい頃に初めてヴァニー姉さんの魔法の稽古を見させて貰ったとき、母さんのキ素力量にちょっと驚いたものだが、いまのこのふたりはその母さんを遥かに上まわっている。


 エステルちゃんはシルフェ様の影響が強いと思うのだが、ライナさんもシルフェ様たちに接する機会が多いし、なにせアルさんの弟子だからな。

 昨年夏の地下拠点建設も大きかったのかな。


 そしてそのアルさんは置いといて、カリちゃんだ。

 やはり五色ドラゴンは違うんだね。

 エンシェント・ドラゴンの曾お婆さんであるクバウナさんの血と魂を強く受け継いでいるという話だが、人間の尺度では測れないキ素力量だ。


 だが、その膨大なキ素力が人間サイズの身体の中で激しく動き、押し合いへし合いしているみたいに見える。

 出口を見つけようと動き回り、ひとつ間違えば暴発してしまいそうになっている。

 つまり人化の魔法の不安定さは、ドラゴンサイズと人間サイズとのギャップをうまく消化出来ていない、というところから来ているようだ。


「はーい、いったん終了させますよ。ゆっくりと、静かに、キ素力を収めて行きます。ゆっくりと、静かにですよ」


 5人の身体の中で練り込まれていたキ素力の動きが静かに緩やかになり、やがて空中へと放出されて溶けて行く。


「ふぅー」


「なんだか、カリちゃんの方から、とてつもない力が漏れてたわよー」

「ちょっと圧が強かったわね。クロウちゃんは逃げちゃったし」

「カァカァ」


 アルさんはもちろん本来の力をかなりセーブしている筈だが、それでも相当の量だ。

 しかしいまのカリちゃんのキ素力量は、それを上まわるものだった。



「だいたい、わかりました」

「え? なにがわかったんですか?」

「カリちゃんの人化の魔法が安定しない理由だよ」


「おお、もうザックさまにはわかったのじゃな。それで、どうしてなのじゃ?」

「サイズのギャップだね」

「さいずのぎゃっぷ? ですか?」


「あー、えーとね。いま、意識してキ素力循環の訓練をして貰った訳だけど、簡単に言えば、カリちゃんは人間の姿なのに、ドラゴンの姿のときと同じようにキ素力が動いちゃってる訳ですよ」

「なるほどのう、そういうことじゃったのか」


「なになに、どういうこと?」

「カリちゃんが、人間の可愛い女の子の姿だからですか?」


 いや、可愛いかどうかは関係ないんだよ、エステルちゃん。


「僕が考えるに、魔法を動かすキ素力って、そのひとそれぞれで器の大きさがあるんだよね。これは単に身体の大きさだけじゃなくて、種族とか魂とかが関係しているみたいなんだ。なので、単純に身体のサイズが大きいからと言って、大量のキ素力が扱える訳じゃない。ここまではいいかな」


 エステルちゃんとライナさん、そしてカリちゃんもふんふんと聞いている。


「それでカリちゃんなんだけど」

「はいっ」


「カリちゃんは、五色ドラゴンで、それも曾お婆さんの血と魂を強く受け継いでいるらしいという話だよね」

「はい、なんだか良くそう言われます」


「その曾お婆さんのクバウナさんが、仮にアルさんと同じぐらいの力があるとしたら、これはおそらく、とてつもない魔法力だと思うんだ」

「そうじゃの。あの婆さん、わしと同程度の力があるやも知れぬ」


「それで、その力がどのぐらいカリちゃんに受け継がれているのかは、僕にはわからないけど、たぶん他の普通のドラゴンよりは大きいと思うんだよね。つまり、それだけ魔法力が大きいということは、その魔法を行使するドラゴンのカリちゃんのキ素力を動かす器も、かなり大きいと想像出来る」


 カリちゃんは俺の話をとても真剣に聞いてくれていた。



「だけど、いまのカリちゃんの人化の魔法だと、本来のドラゴンのときよりも器がどうしても小さくなっちゃうみたいなんだよね。だけど、ドラゴン姿のときと同じようにキ素力が動いちゃうから、窮屈な器の中でキ素力が暴れてしまう訳だ。これが不安定化の要因だと僕は思うよ」


「ほぉー」


「ねえねえ、ザカリーさま。と言うことは、カリちゃんが人間の姿で魔法を発動させると、どうなっちゃうのー」


「うーん。魔法の種類にもよると思うけど、不発だったり暴発だったりの危険性はあるかな。人化を維持しているときも、意識が外れると魔法が解けちゃうかもって、カリちゃん自身が言ってたしね」


「そしたら、カリちゃんはどうすればいいんですか? ザックさま」

「そうだなぁ。まずはいまの自分が人間だとイメージして、キ素力の循環をコンパクトにまとめる訓練かな。そうすれば自然に馴染んで安定してくると思うよ」


「そうかぁ。いまのわたしは、人間の女の子だって思えばいいんですね」

「だったら、なんとかなりそうよねー。姿かたちはちゃんと人間になってるし」

「そうですよ。そしたら、可愛いお洋服も揃えないとですね。その方がいまは人間の女の子だって、ご自分でもイメージしやすいですよ」


 カタチから入る訳か。エステルちゃんの言うことも、あながち否定は出来ないよな。

 それからカリちゃん、「そんなことが直ぐにわかっちゃうなんて、やっぱりザックさまって神さまの御使いか、それとも賢人さまとかですか」とか、アルさんにこっそり聞かないように。違いますからね。


 それから今度はカリちゃんだけでもう一度、キ素力循環の訓練をさせてみた。

 俺の言ったことを意識して、だいぶセーブしているみたいだ。


「うん、さっきほど暴れてはいないけど、小さくし過ぎないようにね。あまり小さくしちゃうと意味がないから、多少抑え気味にしながら、制御しやすくまとめる感じで。うん、そうそう、まずは身体の中をゆっくり動かして行こう」

「はいっ」



「ねえねえ、エステルさま。ザカリーさまってどこまで見えてるの? キ素力の動きとかはそうなんだろうけどー、いろんなとこまで見えちゃってるとかー」

「あとで叱られるようなものは、見てないと思いますよ。キ素力だけ見るって言ってましたし」


「ふーん。そうするとー、見ようと思えば、もっと見ることが出来るのかしらー」

「怪我の診察のときとかは、もっと見てますよね」

「あー、そうよねー。エステルさまはいいとして、わたしの身体とかも、どこまで知ってるのかしらー」


「もう、ライナさんたら」

「うふふ」


 そこのふたり。つまらない会話はやめましょう。俺には聞こえてますからね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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