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第560話 事情聴取が終わって、世界樹の上で検討会

「けっこうお時間がかかったみたいですけど、どうだったんですか?」

「どうでしたのじゃ」


「それがね。失礼で面倒くさいエルフに、ザックさんがガツンと一撃よ」

「おひいさまったら、ふたりがお聞きしたいのは、そこではないですよ」


「なんですかぁ。ザックさま、やっぱり騒ぎを起こしたんですかぁ。わたしも行けば良かったですぅ」

「エルフに鉄槌を喰らわしたのですかの」

「なんだか、うちのエルフがごめんなさい」


 いやいやそうではなくて。

 シルフェ様も先に余計なことを言わない。

 それからドリュア様もこの流れでそんなことを言うと、ややこしくなりますからね。


「エルフが面倒くさかったのはそうですけど、ザックさんは事情聴取をちゃんとされたんですよ」

「そのあと、エルフの方からひとつお手合わせをとなって、ザックさまがお付き合いなされたんですよ、エステルさま」


 ああ、比較的まともなニュムペ様とシフォニナさんが一緒で助かります。

 それを聞いて、エステルちゃんの膨らんでいたホッペが萎んで収まった。



 俺は何だか気持ち的に少し疲れてしまっていたが、ここは待っていたふたりに話をしないといけないので、なるべく詳しめに先ほど終えて来たエルフの3人との会談の内容を伝えた。

 ときどきシルフェ様が口を挟むので、この自治領のエルフの印象が多めに悪くなったかもだけど。


「なるほどなるほど、様子はだいたいわかりましたの。ある程度は想像した通りじゃった」

「エルフの兵隊さんに犠牲者が出たんですね。それは悲しい出来事でした」


 アルさんが想像していたというのは、以前に彼も話していたが、エルフが撃退したのだというより魔物の方から撤退したという点だろう。

 だが、その撤退時にエルフに向けられた最後の一撃が、アステリオスによる魔獣の咆哮だというのはアルさんにも意外だったようだ。


「雷撃を落としたというのは、いかにもアステリオスらしいが、魔獣の咆哮とはのう。おそらく百はおったであろうエルフの兵士を、一撃で吹き飛ばして気絶させたのじゃから、相当に強烈なものだったのじゃろうて」


 攻めて来たゴズが80体はいたということなので、エルフの防衛隊長のオスキャルさんがはっきりとは明かさなかったが、おそらくは倍以上の兵を投入したのではないかと俺は考えている。

 つまり、アルさんは百と言ったが、二百近くの兵士を吹き飛ばして気絶させたということだ。


「それって、エルフさんたちを殺すつもりはなかった、って言うことですかね」

「うん、僕はそれを聞いてそう思ったよ。エルフ側の犠牲者は、外縁地域を見回っていた監視小隊の半数で、おそらくはゴズとの遭遇戦でやられてしまったのだと思う。少数部隊だっただろうしね。でも、本格的な戦闘では死者は出ていないらしいんだ。回復魔法はかなり使ったようだけど」


「エルフのその防衛隊ですかの。その兵士が百や二百出たとして、たかがゴズ程度と良く言ってせいぜい互角、実際には押されてしまっていたのですじゃろ。そのぐらいの戦力では、アステリオスを倒すことなぞ出来ませんぞ。あっちが殺すつもりなら、おそらくエルフは全滅じゃて」


 まあ、そういうことなんだろうね。

 現実にオスキャルさんが語った話でも、いったん部隊を下げて戦闘態勢を立て直そうとして、部隊長の彼と側近部隊が前に出て殿しんがりを引き受けようとしたということだが、実質的には押され負けて撤退の状況だったのだろう。



「エルフの兵隊さんて、あまり強くないんですかね」

「どうもそうみたいね、エステル。だっていちばん強そうなあの部隊長が、ザックさんに為すすべもなく捻られちゃったんですもの」


「ザックさまじゃ、比較の参考にならないですよ、お姉ちゃん」

「あー、それはそうか。そこんところは、剣を合わせたザックさん的にはどうなの?」


「うーん、そうですねぇ。うちの姉ちゃんよりも弱いかな」

「そうなんですね、だいたいわかりましたぁ」


「なんですの? ザックさんのお姉さんて、そんなにお強い方ですの?」

「ザックさまのお側にいる方ですと、いちばん初心者ですよね」

「うん、初心者というか、姉ちゃんが実戦に加わったのは去年からですからね」


「お側にいらっしゃる方たちって、そうなんですか」

「ザックさんは別格として、次に強いのはエステルかジェルちゃんよね、アル」

「そうですの。剣術だけならジェル嬢ちゃんで、魔法と合わせたらエステルちゃんの方が上ですかの」


「えー、そうなんですかぁ。エステルさまって、ザックさまの次にお強いんですね」

「そんなことないですよ、カリちゃん。ザックさまだけ、飛び抜けてるんです」


 話を聞いていたカリちゃんが驚いたようにそう言った。

 まあ、アルさんの見立ては間違いではない。エステルちゃんは武芸百般なんですよ。


 俺のことはいいとして、先ほどのオスキャルさんはそんな感じかな。

 でも、強いかどうかっていうのは絶対的な尺度がある訳じゃなくて、人間レベルで言うとある程度は相対的なものだし。

 強さというのは、簡単に数値化出来るものでもないからね。



「いずれにしろ、そのエルフの話に嘘がないのじゃとすれば、アステリオスは80体のゴズを攻めさせてエルフの部隊を圧倒しつつ、明らかに優勢が見えた時点で、ゴズどもを下がらせたということじゃな。そして自らが出て来て姿を見せ、エルフ部隊を吹き飛ばして気絶させつつ、兵士を皆殺しにも都市の中に攻め入ることもせずに、引き上げたということですの。ふーむ」


「ねえ、ドリュアさん。あなたも黙って聞いてたけど、この話って、初めて知ったことなの?」

「うん」


「うん、じゃないわよ、ドリュアさん。もし、アステリオスがエルフたちを気絶させたあと皆殺しにしちゃって、エルフの都市まで攻めてたら、この世界樹にまで来たかもじゃないの。そうなっていたら、あなた、どうするのよ」

「だって」

「だってじゃないわよ」


「まあまあ、シルフェさん」

「落ち着いてください、おひいさま」


 ドリュア様を叱り飛ばす勢いのシルフェ様は、ニュムペ様とシフォニナさんから落ち着けと言われてもまだ、「ホントにドリュアさんたら、のんびりしているんだから」とぶつぶつ言っている。


 ドリュア様がのんびりしているのはまあそうなんだけど、これであらためてだいぶ危機感が出たのじゃないかな。

 一方でアルさんは、ふーむと言ったあと、暫し黙り込んで考えているようだった。



「アステリオス側の行動って、どう見たの、アルさん」


 アラストル大森林で神獣フェンリルのルーさんも交えて話し合ったとき、ルーさんとアルさんはこれを揺さぶりと見ていた。

 魔物側は、地上世界の秩序の基たる精霊様のお膝元で揺さぶりを行い、精霊側の出方を伺っているのだと。


「そうですの、ザックさま。大森林でルーのやつめと話し合ったことはその通りだったですが、加えて示威行動という側面もあったようですなぁ」

「要するに、自分たちの力をこちらに見せつけるための攻撃、という訳か」


「まあ、そのようですの。眷属や末裔の戦力を、あらためて測ったということもあるかも知れませんが」


 それってつまり、いつでも世界樹まで攻め込んで行けるんですよって、そう見せに来たということでもあるのかな。

 またはひと当たりしてみて、エルフ側の防衛力を確かめるためにか。

 その点では威力偵察に近いのかも知れないな。


 ナイアの森でのテウメーの襲撃事件は、長年のユニコーンとの敵対関係や水の精霊の妖精の森が出来たことによる、バランスの変化をベースにして起こったことだ。

 つまり、人外の世界での末端の勢力争いの延長線上にあると言えばそう見える。


 しかしほぼ同時に起きたこちらの件は、明らかに軍事行動だよな。

 ゴズの進退も統率が取れていたようだし。



「まあいま言えることは、これからもこのような攻撃がある可能性が高いということじゃ。なのでドリュアさんよ」

「はい、アル」


「エルフどもには、心して普段からの警戒を怠らず、出来れば防衛する力を向上させるように、そう託宣を下ろすことですぞ」

「そうよ、ドリュアさん。それからあなたも、配下の精霊や森の樹木に注意を促して、うまくあのエルフたちと連携しながら、世界樹と自分自身を護らないとよ」


「わかりました。ありがとう、アル。そう託宣を下ろして、エルフたちを動かします。それからシルフェ姉さん。はい、そうします。世界樹を護るのがわたしの大切なお役目ですから」


 戦力的にどうなのかは不安が残るが、少なくとも防衛に注ぎ込める人員の数はこの地がいちばん多い。

 あと、ドリュア様自身が命令を下せば、どうやら森の樹木なども防衛に加わることが出来るらしいので、そこは心強いかな。

 具体的に樹木がどうするのかは解らないけど、数は多いからね。




 アステリオスとゴズによる襲撃の話はそのぐらいにして、そのあとは先ほどの会談でのエルフ側の態度や、オスキャルさんとの手合わせの話が再び蒸し返された。

 主にシルフェ様からですけどね。


「あの人たちって、人間の種族の中では自分たちがいちばん賢くて、いちばん強くて、いちばん優秀で偉いとか思ってるのよ。まあ自分たちでそう考えてるのは、それは別に構わないけど、ザックさんに対する態度には少々むっとしたわ」

「なんだか、ごめんなさい」


「まあまあ。それは突然、見も知らぬ人族の若造が、白いドラゴンに乗って空から降りて来たのですから、彼らも警戒するし探ろうとしますよ。そういうのはきっと、人族の王家や貴族でも同じですから。ドリュア様から事前にご託宣を下していただいていたので、わりと穏やかに接して貰えたんだと思いますよ」


「ザックさんにそう言っていただけると、とても助かります。でもあの人たち、話を勿体付ける傾向があるのは確かなんですよね。なのでどうも、なんだか面倒くさくて。あとやっぱり、こんな森の中でエルフだけで住んでいて、他の種族と接する機会が少ないものですから」


 ああ、ドリュア様もそう感じてるんだな。

 確かに他の種族と接する機会が少なそうだよね。人族が多く居る社会に出ているエルフは、俺が知っている範囲ではずいぶんと違う印象だしね。


「この世界は広くて、自分たちが想像も出来ないような存在もいるというのを、あの人たちも知る必要があるわ」

「でもおひいさま。その点からするとあのお手合わせは、良い経験だったのではないですかね」


「ええ、それはわたしも感じましたよ。だって、それまでいかにもプライドが高そうだったあのエルフが、ザックさんに土下座をしてましたもの」

「えー、ニュムペさま。エルフの部隊長さんを、ザックさまが土下座させたんですかぁ」


 いや、あの人が勝手に土下座したんですよ、エステルちゃん。


「ふほっほっほ、それはわしも見たかったのう」

「その前に、会談中にシルフェさんが冷たい風を吹かせたのも、伏線であったのよ。あれでまず吃驚しちゃったのよね」

「えー、お姉ちゃんたら、そんなことしたんですかぁ」


 もう、精霊様たちは嘘がつけないし誤摩化しとかが極めて下手だから、なんでも喋っちゃうんだよなぁ。



「でも、そのときも、それからあのエルフの肩を剣で打ったあとも、ザックさまはちゃんと回復魔法で治療していましたよ、エステルさま」

「そうですね。それで治療してから肩を貸してあげて、エルフたちのいるところまで連れてらっしゃったんです。なんてお優しいのかって。それであのエルフは、土下座をしちゃったのですね」


 ああ、シフォニナさんとニュムペ様がちゃんと見ていてくれてよかったなぁ。

 そういうことだったんですよ、エステルちゃん。クロウちゃんも見てたよね。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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