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第557話 エルフたちから質問される

 エルフの3人に祈りのやしろの中に案内された。


 その建物は木造で出来た大きなもので、外見のデザインや内部の装飾などはぜんぜん違うのだが、何となく前世の大きな神社を思わせる。

 扉から内部に入るとかなり広い広間があり、その先に一段高くなった場所があってその正面に、世界樹と思えるデフォルメされた樹木の姿が立体的に大きく描かれた、彫刻のような壁があった。


 その彫刻壁の前に椅子が置かれている。


やしろには応接室もございますが、ここでお話をせよとのドリュアさまからのご託宣ですので、こちらで」

「普段は多くのエルフが、この広間で祈りを捧げます。ですが本日は誰も入らないようにと閉鎖いたしました」


 社守やしろもり長のディーサさんとアルファ自治領のおさのビャルネさんが、申し訳なさそうにそう俺に言った。


「(えーと、スタンバイしてます?)」


 俺は案内されたその椅子に腰掛けながら、そう念話を発する。

 きっとこの世界樹の彫刻の壁の向こう側に、精霊域と呼ばれる部屋があると思ったからだ。


「(いるわよ。ちょうど壁を挟んだ裏の部屋ね。それにしても殺風景な部屋よね)」

「(仕方ないですよシルフェさん。精霊用の部屋なので、普段は人間が使えない部屋なのですから。社守やしろもりさんたちがお掃除に入るだけで)」


「(おひいさま、文句はダメですよ。エステルさまからお菓子と飲み物をいただいていますから、いま出しますね)」

「(そうね。暫くは我慢しましょうか)」


 あの、そっちは暢気でいいですよね。カァ。

 シフォニナさんも旅用にマジックバッグを持っているので、エステルちゃんからお菓子やら飲み物やら、椅子とテーブルも預かって来ている筈だ。


「(あー、それでそっちの部屋から、こっちの会話は聞けるんですか?)」

「(あなたがいる方の壁に、世界樹の彫刻があるんでしょ。精霊なら、それを通じて聞けるみたいなのよ)」

「(なるほど、そういう仕掛けなんですね)」


 なんでも年に2回の夏至祭と冬至祭のときと、あとは各月末に祈りの日というのがあって、その日には社守やしろもりさんがいま俺たちのいる場所で祈りを捧げるのだそうだ。

 そのときには、当日担当の樹木の精霊さんがその精霊域の部屋でスタンバっていて、祈りの内容を聞いているということらしい。



「あの、何か問題などございましたでしょうか」


 俺が念話でシルフェ様たちと話している間は無言になっていたので、機嫌を損ねたのではないだろうかとか、不安な表情でディーサさんが聞いて来た。


「あ、いえ、大丈夫です。神聖な場所ですので、心の中で少々祈りを捧げていました」

「ああ、なるほど。それはありがとうございます」


「(おっけーよ。会話が聞こえたわ)」

「(あら、なんだか美味しそうなお菓子がたくさんあるわ)」

「(エステルさんからいただけるお菓子は、とっても美味しいんですよ)」

「(ニュムペちゃんはいつもいただいてるの? わたしもザックさんたちの側に引っ越そうかしら)」

「(あなた、なに言ってるのよ)」


 ああ、そっちはそんな感じですよね。

 壁の向うで4人の精霊さんが、テーブルにお菓子を広げている情景が見えるようですよ。カァ。


「それで、ザック様からのご質問を伺う前に、少々お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「え、あ、はい。何でしょうか」


 いかんいかん。ビャルネさんの言葉で俺は意識を戻した。カァカァ。


「我らはドリュア様のご託宣に従うまでなのですが、とは言っても初めてお会いする御方。それにお見受けしましたところ、人族の方のように思われます。あの、ザック様がどういう御方で、また出来ますれば、どの精霊さまの所縁ゆかりの方なのか、まずはお教えいただければと」


 ああ、それはそうですね。どこの誰とも分からない者からの、突然の話ですもんね。

 あと、これまでひと言も言葉を発していない、自治領防衛隊の責任者だというオスキャルさんの目が何となく怖い。



「(シルフェ様、僕が風の精霊様の所縁ゆかりの者って言っていいのかな?)」

「(そんなの、わたしの義弟おとうとって言えばいいのよ)」

「(水の精霊の恩人で、親しいお友だちというのも言ってください)」


 嘘がつけない精霊様に意見を聞くのも、時にはややこしくなるよな。

 ふーむ、何と言おう。


「ご質問への答えですが、僕は確かに人族の者です。ただし、遠い他国からやって来たとご承知置きください。それで精霊様との関わりについてですが、何故かは詳しくは申し上げられませんけれど、真性の風の精霊様と深いえんがあり、真性の水の精霊様とも親しくさせていただいているとだけ、そうご理解ください」


「真性の風の精霊様と真性の水の精霊様とな」

「あの、シルフェ様とニュムペ様と、そう理解させていただいてよろしいのでしょうか」

「はい、その通りです」


「(そうか、そういう言い方なのね)」

「(お勉強になりますよ、おひいさま)」

「(人間同士の会話って、意外と面倒くさいの)」

「(そうなんですね)」


 はい、いちいち壁の向うで感想は言わなくていいですから。

 どだい、精霊様にただ潜んで盗み聞きとかは出来ないのだろうけど。


「なるほど、そうですか。つまりあなた様は、風の精霊様と深い関係のある人族の方ということで、水の精霊様とお親しいと。もしやしてと思っておりましたが、ファータ族ではないのですな?」

「ええ、ファータではありません。先ほども申しましたように、遠い他国のある人族の貴族家の者とお考えください」


「わかりました。そもそも、ドリュア様のご託宣により、こうして我らは呼ばれたのですから、あなた様と精霊様とのご関係を疑うものではないのです。ただ、精霊様が人族の方と所縁ゆかりが深いというのを、寡聞ながら初めて知ったものですから」


「いえ、その疑問をお持ちになるのは、当然のことと思います。本来は精霊様と人間は直接的には関わらないものと、僕もそう承知しています。まあ僕の場合は、極めて稀なことと」


「(もう、エルフってホントに面倒くさいわね。黙って納得して、素直にザックさんの質問に答えればいいのよ)」

「(ごめんなさいね、シルフェさん。なんだかあんな感じの一族になっちゃって)」

「(おひいさまったら。ザックさまが我慢しておいでなんですから、おひいさまがイライラしてはダメですよ)」


 あー、シルフェ様がだんだんイライラして来ていますな。なかなか話の本題に進めませんからね。カァ。




「わたしから、ひとつよろしいでしょうか」


 それまでずっと黙っていたオスキャルさんが、初めて口を開いた。

 相変わらず目が怖いですけど、はい何でしょうか。


「ザック様はお見受けしたところ、とてもお若いようですが、お話振りやその内容から、とても人族の若者とも思えない。見た目の年齢の進みが遅いというのは、我らエルフやファータといった精霊族の特徴ですが、人族と姿かたちがまったく同じなのはファータのみです。しかしザック様は、ご自身がファータではないとおっしゃる。いえ、こんなことを殊更申し上げるのは、ファータが探索を生業なりわいにしている一族と承知しておるからなのですがね。そしてあなた様は、ただならぬ雰囲気をお持ちだ。まるで幾多の闘いを経た武人のように危険な香りすら感じる。それに、怪しげなカラスを連れている」


「(もう、なによ、あのエルフは。ザックさんがファータかもって思うのはいいけど、探索とか武人とか、変な疑いの目でザックさんのこと見てるんじゃないの。クロウちゃんは怪しくないわよ)」


「(おひいさま、落ち着いて)」

「(シルフェさん、だめですよ)」

「(ほんと、エルフがごめんなさい)」


 ああ、シルフェ様、もう怒り出しちゃってるなぁ。

 探索目的でこの地に来たファータとか疑ってるのかなぁ、このエルフのおじさん。

 まあ俺に武人の雰囲気を感じたとかは、前世のことも含めて少々漏れ出しちゃっているのかもだけどさ。カァカァ。いやキミまで怒らないでよ。



 そのとき、氷のような極寒の強烈な風がこの祈りのやしろの室内に吹いた。

 ああ、とうとう我慢しきれずにやっちゃいましたか。


「(シルフェ様、抑えてください)」

「(だって、あのエルフったら、失礼でしょ)」


 目の前の3人を見ると、突然に吹いて来た極寒の風に目を大きく見開き硬直している。

 凄く寒かったですよね。ごめんなさいね、うちの義姉あねが。風邪を引かないといいけどな。


「ひらに、ひらにお赦しを」


 はっと表情を変化させた社守やしろもり長のディーサさんが、椅子から転げ落ちるように床に這いつくばって土下座をした。

 この人、ドリュア様からご託宣を受けられるぐらいだから、精霊様の存在に敏感なんだろうな。


「はい、はいっ。わかりました。もうこちらからの質問は止めるようにいたします。ザックさまにも謝ります。はい、すみません。お赦しください、ドリュアさま」


 床に這いつくばりながら、ディーサさんがそう独り言のように口走っている。


「(シルフェさんは、風を止めて。あのエルフの子に、つまらない質問や発言をやめるよう言い聞かせたから。ごめんなさいね、ザックさん)」


 ああ、そういうことですか。シルフェ様が吹かせた氷の風も、もう止まっている。



「ディーサさんでしたっけ、どうか椅子にお掛けください。突然に押しかけた僕を疑うのは仕方がありませんから。僕はただ、ちょっとお話をお伺いしたかっただけですので」


「あの、大変に申し訳ありませんでした、ザック様。いまの冷たい風は、もしかしまして、風の精霊様の……」


 もうこういう事態になっちゃうと、ある程度はバラさないとだよなぁ。


「じつは、僕のことを心配して精霊様たちがお近くにいるんですよ。姿は見せないと思いますけど」

「そ、それはドリュアさまと……。いま、お言葉をいただきましたが」


「はい、ドリュア様とシルフェ様とニュムペ様と。それよりも、みなさん身体を壊すといけませんので」


 俺は3人に、身体を温めるイメージを乗せて回復魔法を施した。

 動けたディーサさんはまだしも、ふたりの男性エルフは硬直したように椅子に座ったまま固まっているからね。

 こんな状態では話も出来ません。



「(シルフェ様、この人たち、凍る寸前でしたよ。もう手を出しちゃダメですからね)」

「(ゴメンナサイ)」


 甘露のチカラ水でも飲ませてあげるかな。

 3人のエルフはまだ目も虚ろなので、こっそり無限インベントリから水筒とカップを4つ出し、エステルちゃん特製果汁入り甘露のチカラ水を注いでエルフたちに手渡してあげた。


「良かったらこれを飲んでください。チカラが湧きますよ。いえ、毒などは入っていませんから。ほら」


 俺はそう言ってカップの甘露のチカラ水を飲んで見せた。


 ドリュア様に叱られているディーサさんが直ぐに飲み、あとのふたりもまだ震えている手で恐る恐る口をつける。


「おお、なんとも美味しい水だ。それにザック様は、回復魔法がお出来になられるのか。身も心も温かくなりました」


「ザック様、ひらにご容赦ください。いらぬ疑いを口にしてしまい申した。精霊様のことを疑ってはならない。このことを、精霊族ながらお恥ずかしいことに忘れておりました」


「おふたりとも、こちらからのつまらない質問はやめて、ザックさまがお尋ねになることに素直にお答えするようにと、ドリュアさまからのお言葉でございます」

「承知いたしました」

「わかり申した。申し訳ございません」


 さて、ようやく目的の事情聴取に移れますかね。

 ここまでのやりとりで分かったこと。シルフェ様ではないけど、この世界のエルフってちょっと面倒くさい。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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