第555話 エルフからの聴き取り調査を相談する
それからシルフェ様とニュムペ様が、今回ここに来た理由、これまでの経緯などをドリュア様に話した。
ドリュア様は相変わらず微笑みながら、ふんふんと聞いている。
多少の物事には動じない鷹揚とした雰囲気だが、同じ真性の精霊様でも3人はそれぞれに性格が違うんだな。
って、精霊にも性格の違いがあるのかと、あらためて俺は感心しながらその様子を見ていた。
「なるほどねぇ。でもニュムペちゃんはやっと妖精の森が再建出来たのね。良かったわ。わたしもとても心配してたのよ。おめでとう」
「はい、ありがとうございます。シルフェさんやアルやザックさん、エステルさんたちにお手伝いいただいて、なんとか復活させることが出来ました」
「そこは良かったんだけど、直ぐにテウメーとかの魔物に眷属のユニコーンが攻撃を受けたのよ。ザックさんたちに討伐していただいたのだけどね。ねえドリュアさん、聞いてたでしょ」
「その件と、うちのエルフたちが襲撃を受けた件とに、何か繋がりがあるんじゃないかって、シルフェさんとニュムペちゃんはそう考えた訳ね」
「そうそう。ドリュアさんはどう思う?」
「ふー。あるような何とも言えないような。わたしにも良く分からないわ。でもたしかに、タイミングはいいわね」
「あの、ドリュア様、ちょっとよろしいですか?」
「はい、ザックさん。そう言えば、あなたのお顔を見ていて、わたし思い出したわ。ザックさんという方がこちらにいらっしゃるから、よろしくねってお母さまから言われたこと。あなたがそのザックさんなのね。お母さまは、シルフェさんに面倒を見させるって言ってたけど」
金竜のエンルさんも同じようなことを言っていたけど、アマラ様が真性の精霊様5人と竜族の統領にそう話したのかな。
別の世界から転校生が来るので、よろしくね的な。
それにしてもアマラ様は、シルフェ様に俺の面倒を見させるって言ったのか。それは初めて知った。
だからシルフェ様は、なるべく俺とエステルちゃんの近くにいるのだろうか。
そういう縁を、この世界で筆頭の神様であるアマラ様がお膳立てしているのだろうか。
「もう、ドリュアさんは余計なこと言わないの。それでなあに、ザックさん」
「あ、そうでした。あのですね。僕らとしては、どんな魔物が、いつ、どのようにして、エルフの森に攻撃を仕掛けて来たのかを、まずは知りたいんです。どのようにエルフが防御し、魔物が撤退して行ったかも含めて。僕らが聞いた伝聞からは、魔物はアステリオスと配下のゴズと考えているのですが」
「ああ、お知りになりたいのはそういうことね。そうねぇ。あれは10月の終わりか、11月の初めのことではなかったかしら。うちの精霊たちが見に行って、あの子たちから様子を聞いてみると、あなたの言う通りに大きな牛の魔物とその配下だったらしいわよ。でも闘っていたのは配下のゴズと言ったかしら、それらだけだったみたいだけど。それでエルフたちが防いで、何日かしたら姿が見えなくなったって聞いたわ」
俺たちは顔を見合わせた。カリちゃんはキョトンとしてるけどね。
襲撃があったのは、10月の終わりか11月の初めか。
ナイアの森でユニコーンの村が襲撃されたのは、確か11月の2日だ。11月で最初の学院の休日の3日前と記憶しているからね。
そして俺たちがナイアの森に急ぎ駆けつけ、テウメーを一気に討伐してしまったのが11月の5日のことだ。
「これは、シルフェ様」
「どうやら、時期を合わせたかのようじゃの」
「そういうことのように思えるわね」
「そうすると、ユニコーンたちが襲われたのは、計画された出来事と言えるのでしょうか」
「襲撃のタイミングだけ聞くと、そう考えざるを得ませんのお、ニュムペさん」
「あら、そういうことなの?」
ドリュア様はまだ半信半疑のようだが、ニュムペ様とアルさんの言う通り、襲撃のタイミングだけでみると計画的な出来事であるように思える。
「なにせ、この大陸の西と東で同時に起こったことじゃからの」
「なるほどねぇ。これはもっと、真剣に考えないといけないのかしら」
「だからぁ、さっきからそう言ってるでしょ。もう、ドリュアさんは」
わりと怒りっぽいシルフェ様が、ちょっとイラっとした調子でそう言った。
でもやっぱりそういう感じなんですね、ドリュア様は。感想は二度目ですけど。
「どう攻撃されて、どう防いで、魔物がどう退いたかは、わたしたちも詳細は知らないのよ。その辺りはエルフに聞いてみないと。でも、わたしは彼らと直接お話はしないのよね。彼らに話させて、それを聞いているのはいいんだけど、わたしがいまさら聞くのもちょっと変よね」
確かにエルフからすれば、言わば先祖神で土地神で守り神に等しい真性の樹木の精霊様なら、すべてはお見通しの筈と考えるから、いまさらという感じになるのかな。
聴き取りをするにしても、ご託宣で問うというかたちなのだろうか。
「あの、出来れば僕が直接聞いてみたいんです。ルーさんからも、そう言われて来ていますし」
「ルーって、ルーノラスのこと? あの人、お元気かしら。暫く会ってないけど」
「あ、えーと、お元気だと思いますよ。僕の地元に近いものですから」
「ああそうだったわね。たしか、大陸の西の大森林を管理してたわよね。そうか、ザックさんはルーとも当然お知り合いね」
「ルーノラスのことは、今はどうでもええのですじゃ。じゃが、今回ザックさまがご一緒なのは、あやつの助言があってのことなのは、そうですがの。して、ザックさまが、エルフどもと話すにはどうした良かろうかの」
「アルって、相変わらずルーのこととなると、ぷんぷんするのね。いいかげん、仲良くしなさい。ルーにも前に言ったことがあるのよ。地上ではアルの方が先輩なんだから、ちょっとぐらい敬意を見せて話せば、直ぐに揉めたりとかしないのだからってね」
「そのことより、ザックさんがエルフから話を聞けるかって件を相談しましょ」
いやあ、ドリュア様って何だか面白い精霊様だよな。話はなかなか進まないけど。
かなりイライラし始めているシルフェ様が、いまにも本当に怒り出しそうですぞ。
「ええ、そのことね。そうねえ、どうしようかしら。主立ったエルフに託宣を出して、呼び出せばいいわね。そこで、ザックさんが彼らから話を聞けばいいかな」
ああ、ご託宣で呼び出しは出来るんだね。
主立ったエルフと言うからには、このエルフの母なる地の長的な人なのかな。
「それでザックさんのこと、どうご紹介すればいいのかしら。いきなり知らない人族と話すとか、あの人たちたぶん警戒するわ」
そうか。ここは多種族の居ない、エルフだけが暮らす森なんだよな。
セルティア王国のグリフィン子爵家の長男と言っても、チンプンカンプンかも知れないし、余計に怪しい。
「そこはドリュアさんが適当に」
「適当にって、おひいさま。他の精霊の所縁の方で、今回のことにご関心があって、わざわざお出でになられたとかではどうですか?」
「そうそう、それが良さそうね。さすがはシフォニナさん。シフォニナさんあっての風の精霊って、言われるだけはあるわ」
「ドリュアさんはもう、直ぐに余計なことを。でも、その案がいいわね。嘘はないし」
何度も言うけど、精霊、特に真性の精霊様はほぼ嘘がつけない。
なので、俺のことを他の精霊の所縁の者と紹介するのは、嘘ではないからセーフだ。
「あと、エステル」
「あ、はい、お姉ちゃん」
「あなたは、エルフの前に姿を見せるのは止めておきなさい」
「えーと」
「あなたはファータだし、わたしと顔がそっくりでしょ。まあ顔のことはいいとして、エルフの本拠地でファータがいきなり現れて、一緒にいるザックさんが他の精霊に所縁の方ってドリュアさんが紹介しちゃうとね」
「そうですね。却って警戒されちゃうかもですね。はい、わたしが顔を出すのは止めておきましょう」
何故だかこの世界では、精霊族同士は種族が異なると仲があまりよろしくない。
以前にグリフィニアで、鍊金術ギルドのドワーフたちがエステルちゃんと初めて顔を会わせたときにそれは実感した。
現在はもう普通に接してくれているけどね。
それにエルフの場合は精霊族の中でもプライドが高い種族だし、ましてやここはエルフの本拠地。
ドリュア様が呼び出す主立ったエルフとはおそらく直系の者で、エルフの中では光のエルフとか呼ばれている者だろうから、その傾向は尚更強いと考えられる。
「それで、エルフさんを呼び出すのは、どこになんですか? 僕はどこでそのエルフさんと会えば」
「ええ、それはこの世界樹の麓に、あの人たちの祈りの社がありますから、そこがいいわね。わたしもそこだと、姿を隠してお話を聞いていられますし」
「地上ですね。そこまで僕が降りるには、どうすればいいですか?」
「あー、そうか。どうしましょ」
「わしが乗せて降りれば良いじゃろ」
「ちょっと待って。アルがドラゴンの姿で地上に降りたら、大騒ぎになるわ」
「じゃあ、僕がひょいっと飛び降りる感じで。でも練習しないとだな」
「ザックさまっ。ダメですよ」
「それなら、そうねぇ。カリちゃんに頼もうかしら」
「えっ、わたしですか?」
「そうですね。カリちゃんの方がアル殿よりも小さいですし、白い竜ですから、禍々しく見えなさそうですし」
「シフォニナさんも、わりと辛辣なことを言うのう」
「あ、いえ、ただ知らないエルフが見たら、そう見えちゃうかもって」
「でも、わたしもシフォニナさんの意見と同じなのよ。白い雲で姿を隠して、ザックさんが地面に降りるときだけちらっと姿が見えたら、なんだか神々しいじゃない。白い竜に乗ってやって来たとかね」
「あ、それいいですね、お姉ちゃん。そうしたらザックさま、いまの戦闘装備じゃなくて、お着替えしないとですよ。何がいいかしら。準礼装の予備とか持って来てましたっけ」
ああ、黒のロングコートのやつね。はい、じつは持っておりますです。
戦闘装備では不穏なので、着替えた方がいいのはエステルちゃんの言う通りなのですけど。
確かに、あのダークな俺専用の準礼装を身に纏った人物が、巨大で真っ黒なドラゴンの背に乗って地上に降りて来たら、不気味ではあるよな。
しかしシルフェ様も、白い竜に乗ってやって来たら神々しいとか、なんだか楽しそうですなあ。
一方でカリちゃんは、「わたしが神の御使いであるザックさまを乗せて、地上に降りるんですね。はい、わかりました」とか言っておりますが、違いますからね。
そのあと、いちおう段取りを相談した。
ドリュア様はこれから直ぐに託宣を伝えるそうだ。相手はやはり、このエルフの地の長なんだね。
オイリ学院長が、このエルフの地は自治領みたいな地域だと言っていたから、その自治領を治めるトップということなのだろう。
それで会談場所は、地上の世界樹の周囲にあるエルフが言うところの聖域に、祈りの社というのがあるそうなので、そこになった。
セルティア王国だと各地にある祭祀の社みたいな場所かな。
一緒に行くのは、俺のほかに真性の精霊様とシフォニナさんの4人。
ただしエルフの前に姿は現さず、社の中で隠れているそうだ。
エステルちゃんとアルさんは、残念ながらここでお留守番だね。
クロウちゃんは連れて行こうと思う。
地上に降りたら俺の側にいて、また世界樹の上に戻る際にカリちゃんを呼びに行って貰う。
仮に何かあった際にも、エステルちゃんとアルさんに直ぐに報せられるしね。
「託宣を下ろしたわよ。ひとりかふたりぐらいの、少人数で来なさいって言っておいたわ。その方がいいでしょ」
「ええ、そうですね」
「そうしたら、呼んだのはお昼のあとだから、少し世界樹をご案内して、それからお昼にしましょうか。ザックさんやエステルちゃんのお口にあうかどうか、わからないけど」
「ザックさまは何でも美味しくいただきますから、大丈夫ですよドリュアさま」
まあ、エステルちゃんの言う通りです。
好き嫌いはないですし、前世では意外と粗食にも慣れておりますから。
それにしても樹木の精霊様が人間にご馳走してくれる食事って、いったいどんなのでしょうかね。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。




