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第536話 大森林で狩りを終えて

 アラストル大森林での狩りを終えて、俺たちは子爵館への帰路についた。


 森オオカミに襲われた若い冒険者たち4人のパーティは、大怪我をして俺が治療したアランくんがまだようやく歩ける程度だったので、冒険者ルートまで送ることにした。

 それで、大熊を仕留めた場所から南下し、冒険者ルートに出る。

 さらに騎士団ルートとの合流地点まで一緒に歩いて行った。


「ここまで来れば大丈夫よね。あなたたちだけで帰れるわね?」

「はい、ここまで送って貰ってすみません。ありがとうございました」

「うん、じゃ、気を抜かずに帰るんだよ」


「はい、ザカリー様、皆様。本日はこんな僕たちのために、ご面倒をおかけして、本当にすみませんでした」

「すみませんでした」


「でも、ザカリー様たちの狩りが見られたなんて、ギルドで自慢出来ます」

「ザカリー様の魔法とか、もっと見たかったですけど。でも、ライナさんの土魔法は凄かったです」


 はいはい。俺は獲物の後処理で、水を出したり氷を出したりだけだったからね。

 まあ、ライナさんの土壁を見られただけでも、良しとしてくださいな。

 尤も、ライナさん的には出すタイミングを多少外して、本人は失敗魔法だって言ってたから、ちょっと恥ずかしそうだけどね。



 お土産に渡した2頭分のオオカミの皮と大熊の肉の包みを背負って、若い冒険者たちは去って行った。

 それでは俺たちも、騎士団の第1地点を経由して帰りましょうかね。


「戦闘力的にはあれだけど、なかなか素直な良い若者たちだったよね」

「ザカリーさまより、ずっと歳上ですけどね」

「戦闘力がかなりもうひとつなのは、これからが心配よねー」

「でも、ギルドで一段階奥に入る許可が出てたんだろ」


「うん、ジェルちゃん。あの子たちはそう言ってたわよねー。審査とか、甘くなってるのかしらー」

「戦闘力もそうでやすが、判断がまだまだ甘い感じでやすな」

「ギルドに何か言わないとダメかしらー。どう思います? ブルーノさん」


「そうでやすな。少なくとも今回のことについては、ギルドから問合せが来ると思いやすがね」

「たぶん、そうよねー」


 そんなことを話しながら、帰りのルートを歩いて行った。


 あの彼らに聞いたところでは、14、5歳ぐらいから冒険者になって3年ほどが過ぎ、ようやく大森林の第二段階であるやや深いエリアでの活動が認められたということだった。

 つまり、17歳か18歳ぐらいの若者たちということだね。


 ライナさんが言っていた審査とは、主にそれまでの活動経験や実績で判断されるらしいけど、獣相手の戦闘力とか咄嗟の判断力なんかも含めて審査するのは、なかなか難しそうだよな。

 あと、ギルドから問合せが来るのか。

 まあその辺は、ブルーノさんとライナさんにお任せしましょう。




 さくさくと帰路を進んで大森林を後にし、グリフィニアの東門に着いた。

 午後もまだそれほど遅く無い時刻に、ちゃんと帰って来ましたよ。


「おっ。お早いお帰りでありますね、ザカリー様。獲物はいかがでしたか?」

「うん、リンクス1頭に、森オオカミ4頭、大熊1頭だよ」

「ほぉー」


 東門を守っている騎士団員さんは俺が言った今日の獲物に目を丸くし、それから問いかけるようにジェルさんたちの顔を見た。


「ああ、何も問題無い。きわめて普通の狩りだ。大森林内に変わった様子も見られなかった。ザカリーさまも普通に狩りをされていたぞ。ただ、森オオカミに襲われていた若い冒険者のパーティの救援を行った。冒険者は全員無事だ。この件については、わたしの方から報告を上げておく」


「了解しました、ジェルメール騎士殿。その冒険者が無事だったのは何よりでした。あと、ザカリー様が普通に狩りをされていたとは、ほっとしました」


 いやいや、狩りに行ったんだから普通に狩りをしますから。

 ほっとしたというのは、この騎士団員さんがというだけじゃなくて、きっと上層部から何か言われてたんだよな。

 俺が何ごともなく帰って来たというより、大森林に何ごともなかった的な? カァ。



 いったん騎士団本部に戻って、ティモさんがマジックバッグからリンクスと大熊の毛皮、それに熊肉を出して今日の狩りの成果をあらためて確認した。


 リンクスの毛皮は、フォルくんとユディちゃんの大森林での初めての狩りの記念に、彼らにあげる予定だ。

 大熊の毛皮はいちど屋敷に持ち帰って皆に披露し、あとはどうするかを決めるかな。

 熊肉は大量にあるので、屋敷の分と騎士団の分に分けた。

 騎士団宿舎の料理人に渡して、今日は熊肉パーティーでもしてくださいな。


 騎士団本部の会議室を借りてそんなことをしていると、朝と同じようにミルカさんやネイサン副騎士団長やほかの騎士が覗きに来たり、やはりクレイグ騎士団長とアビー姉ちゃんもやって来たりした。


「あらー、でっかい熊を仕留めたのね。こっちのはリンクスね」

「リンクスはフォルくんとユディちゃんが、最後にとどめを刺したんだよ、姉ちゃん」

「それは凄いわ。ふたりとも、良くやったわね」

「はいっ」


「たくさんあるこの包みって」

「熊肉ですよ、姉ちゃん」

「屋敷にも持って帰るのよね。食べられるのよね」


 はいはい、姉ちゃんはそこですね。持って帰って料理長に渡しますから、今日はステーキにでも焼いて貰って夕食に出していただきましょう。


 屋敷に持ち帰る分はライナさんが持っているマジックバッグに入れて、お姉さんたち3人が一緒に来てくれることになった。

 きっと、エステルちゃんに報告とかもあるからなんだろうな。



 屋敷に帰ると報せが行っていたようで、エステルちゃんとシモーネちゃん、それから父さん母さんにヴァニー姉さん、ウォルターさんも玄関ホールで待っていた。


「ザックさま、お帰りなさい。フォルくんとユディちゃんも怪我とかしてないですよね」

「はい、エステルさま」

「ちょっとわたしが、危ないときがありましたけど」


「え、何があったの? ザックさま、なに?」

「いや、熊がちょっとデカくてね。でも、ふたりは頑張ったんだよ。まあ毛皮でも見てくださいな」


 ライナさんがリンクスと大熊の毛皮を出して、玄関ホールの床に広げる。

 家政婦長のコーデリアさんや侍女さんたちも見にやって来た。


「おお、これは確かに大きいな。こっちはリンクスか」

「うん、フォルくんとユディちゃんの初めての獲物」

「まあ、あなたたちがこのリンクスを倒したのね」


「皆さんで弱らせて、僕らがとどめを刺させて貰いました」

「そうかそうか、怖くはなかったか?」

「ちょっとだけ。でも凄く怖くはありませんでした、子爵さま」


 エステルちゃんとヴァニー姉さんは、ジェルさんたちにクロウちゃんも交えて何か話しているので、たぶん今日の詳しい話を聞いているのだろう。

 こういったことで、俺の側にエステルちゃんが付いていないのはほとんど初めてだから、いろいろな意味で彼女も実はかなり心配だったみたいだね。



 俺は父さんたちとウォルターさんに、騎士団の第4地点まで行って探索していた際に、森オオカミから若い冒険者を救援した話をしておいた。


「ふうむ。偶然とは言え、ザックたちがいてそれは良かったな。冒険者ギルドからも話があると思うが、注意を促しておかないといかんかな、ウォルター」

「そうですね。ザカリー様がおられなかったら、ひとりは確実に。もしかしたら、4人全滅もあったかも知れません」


「これは、もしものときのために、冒険者の魔導士に回復魔法の講習を強化しないといけないわね」

「そうだな、アン。それから、治療ポーションの的確な使用方法もだ。あと、危険な獣との遭遇時への対処の仕方は、ギルドでも若手に指導をしていると思うが、そこら辺も強化するように言わないとだ」


「冒険者ギルドには、そのように伝え、具体的な方策を検討するようにいたしましょう」

「頼むな、ウォルター」


 魔導士なら誰でも回復魔法が使えるようになる訳ではない。と言うか、適性があるのはかなり少ない。

 これまでも冒険者ギルドに所属する魔導士で、適性があると思われる者には母さんが時折特別講習を行っていたらしいが、それで修得出来たのは少数なのだそうだ。


 それに、たとえ使えるようになったとしても、回復効果はかなり限られている。

 今日の冒険者みたいに、特に太腿部分があのようにざっくり噛み削がれていると、即座の回復はとても難しい。

 おそらくは、アン母さんやエステルちゃん、ライナさんレベルでないと、効果のほどは期待出来ないだろう。


 とは言っても、回復魔法の適性発見と講習の強化は必要だよな。

 あと戦闘時には慌てがちだけど、父さんが言うように治療ポーションの的確な使用方法も、しっかり教えないといけない。


 冒険者は、アラストル大森林を背後にしたグリフィニアの大切な産業の担い手であるので、彼らの自由な活動は重んじるとはいえ、子爵家としても支援は必要だよね。



 俺はライナさんを呼んで、マジックバッグに入れてある熊肉を厨房に届けて貰うようお願いした。

 それでフォルくんとユディちゃんも一緒に厨房へと行った。

 きっとレジナルド料理長やトビーくんにも、今日のことを話したいんだね。


「やはり竜人族だからか、あの子たちは強いな、ザック」

「うん、そうだね、父さん。今日は使う機会が無かったけど、火魔法もなかなかのものだし。アルさんも、あの子たちは強くなるって言ってたからね」

「そうか、アル殿がな……。ふたりは、今年で12歳だな」


「そうなるかしら。早いものよね」

「うちに来て6年目か。もう大人の仲間入りだな。彼らの立場も、あらためて考えてやらんとだな」


 そう言って父さんはウォルターさんの方を見た。

 ウォルターさんもニコリと微笑みを浮かべて頷いていたけど、何か考えてくれるのかな。




 その日の夕食で、レジナルド料理長が急遽仕上げてくれた熊肉ステーキに舌鼓を打った翌日、俺はクロウちゃんと2階の家族用ラウンジでのんびりしていた。

 すると、エステルちゃんがラウンジに入って来る。

 大森林に行った昨日の今日だから、だらだらしていても小言じゃないよね。カァ。


「ザックさま」

「今日は休養ですよー。のんびりさせて貰うのであります。街にお買い物とかは、明日行くのであります」


「そうじゃないですよ。いまお屋敷に、ジェラードさんとエルミさんがいらしたんです。ザックさまにお会いになりたいって」


 冒険者ギルド長のジェラードさんと、ナンバー2のエルミさんが来たのか。いずれ会いに来ると思ってたけど、早いな。

 まあ、昨日の件だよね。


「わかりましたー」

「お着替えは?」

「ジェラードさんでしょ、この格好でいいよ」

「もう」



 ふたりは応接室に案内したというので、階下に降りて行く。

 そして部屋のドアを開けると、ソファに座っていたジェラードさんとエルミさんが慌てて立ち上がり、ふたり揃って俺に向かって頭を深々と下げて最敬礼をした。

 そしてそのままの姿勢で、なかなか顔を上げようとしない。


 あー、そういう感じですか。面倒くさいなぁ。

 振り返ると、俺の後ろから応接室に入ったエステルちゃんも、ちょっと困惑しているようだ。

 ふたりとも、そろそろ顔を上げてソファに座ってくださいな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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