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第535話 大熊狩り

「よおし、森オオカミは、わしらが1体だけちゃっちゃと皮を剥ぐぞい。あとは仕方ないが、埋めてしまってくれんか、ライナさんよ」


「わたしたちで、もう1体剥ぐわ。ジェルちゃん、オネルちゃん、手伝ってー」

「了解だ、ライナ」

「さあ、やりましょう」


「そうしたら、ブルーノさんとティモさん、クロウちゃんと連携して偵察をお願いします」

「了解でやす」

「承知」

「カァ」


「フォルくんとユディちゃんは、アルポさんとエルノさんを手伝って」

「はいっ」


「それから、冒険者の君たち。熊が来そうだから、僕らで始末するので、申し訳ないがそこにいてくれ」

「あ、はい。わかりました」


 皮を剥ぐ森オオカミは、俺とジェルさんがそれぞれ首を落とした2体。

 アルポさんとエルノさんはさすがに仕事が早い。

 お姉さん方も猛スピードで皮剥ぎ作業を進めて行った。


 俺はそれとは別に、地面に土魔法で穴を掘る。

 そして冒険者たちに手伝わせて、残りの2体のオオカミの死骸をその穴の中に放り込んで埋めた。


 そうしているうちに2体の皮剥ぎが終わったので、水魔法で洗い、風魔法の温風で乾かして、アルポさんが言ったようにちゃっちゃと作業を終了させる。

 皮を剥いだあとの死骸も、ライナさんがあっと言う間に穴に埋めた。

 若い冒険者たちはこの俺たちの作業を、また口をぽかんと開けて見ていた。



 クロウちゃんから通信が入った。

 熊との距離は800メートルほど。かなり大きな熊らしい。

 もちろん1頭だけで、周囲を警戒しながらこちら方向にゆっくりと向かって来ているそうだ。

 さっきの森オオカミとの戦闘や人間の声、血の臭いなどに関心を持ったのだろうか。


「アルポさん、エルノさん、どうします?」

「そうですの。ここが少し開けておりますで、追い込みましょうかの」

「ブルーノさんとティモに追い込んでもろうて、我らで待ち伏せでな」


「りょーかい。ではそうしましょう。ジェルさん、ライナさん、オネルさん、いい?」

「了解です」

「いいわよー」

「わかりました」


「じゃ、フォルくんとユディちゃんは、またアルポさんとエルノさんに付いて」

「はいっ」


「それからレイモンドさんでしたっけ?」

「はい若旦那、いえ、ザカリー様」


「君たちはどうしますか? 本当はグリフィニアに戻った方がいいんだけど、怪我をした彼がまだ目を覚ましていないから、運ぶのは大変かな」


 俺はそう言って、3人の若い冒険者を見た。

 このレイモンドくんという男性が背負って行けば、3人で戻れないことは無さそうだけど。


「あの、ザカリー様。その、いまから熊を狩るんですよね?」

「そーだよ」

「あの、えーと、僕らは見学させて貰うとか、出来ませんでしょうか」


「見学かぁ。まあいいけど、手は出しちゃダメだよ。オオカミどころじゃないからね」

「は、はい。もちろんです。たぶん僕らに、手なんか出せませんので」


 女の子の冒険者ふたりもコクコクと大きく頷いている。


「ライナさん、見学させていいかな?」

「ザカリーさまが許可を出されるなら、いいわよ。あなたたち、ザカリーさまに感謝しなさい」

「はい」


 それで、大怪我の治療後もずっと眠っているアランくんという冒険者を、熊を追い込んで来る想定場所から離れた場所に運び、そこで冒険者たちに見学させることにした。

 そのアランくんもようやく意識を取り戻したようで、レイモンドくんたちがいま何が起きているのかを話している。

 吃驚しても大きな声を出さないようにね。




 クロウちゃん経由でブルーノさんとティモさんに連絡し、この場所に熊の追い込みを開始する。

 ふたりは森の中を素早く移動しながら、ガンガンガンと樹木の幹を戦斧かメイスあたりで叩いて、大きな音をあちらこちらで出していた。

 ティモさんが派手に吹き鳴らすファータの指笛も聞こえて来る。


 勢子役がふたりだけなので、大勢の何かが熊の背後に迫って来るかのように偽装をしているのだ。

 それにしても、ティモさんが持ち歩いているマジックバッグには、いろんな武器を入れてるんだね。


 こちらも配置に付いた。

 いまいる開けた空間を囲むように、左右にアルポさんとフォルくん、そしてエルノさんとユディちゃんが森の中から弓を構えて潜む。

 正面にはお姉さんたち3人が同じく潜み、ジェルさんとオネルさんが弓を構えている。

 ライナさんは状況を見て土壁を立て、熊の進路を妨害することにした。


 俺は再び高い木の上だね。

 まあ基本は手を出さないが、何かあったときには魔法か刀で仕留めちゃいますけど。


 それで、上空から熊を追うクロウちゃんの視覚と同期させる。

 いた。後方をかなり警戒しながら、こちらに向かって速度を上げているようだ。


 これは大きい熊ですよ。

 たぶん前世のヒグマに似ているんだろうけど、所謂グリズリーだよな。

 体長は3メートルを優に超えているように見える。アラストル大森林の獣は、どんなものでも大きい。



 どどどどっと地響きでも立てるように、どデカい熊が突進して来た。

 すかさず矢が飛ぶ。6本の矢がアラストル大森林大熊の巨体に命中。

 しかし、それで倒れるような相手ではない。

 前足を地面から離し、後ろ足で立ち上がってグォーッと大きな吠え声を上げ、周囲を威嚇した。


 そこに再び第2射が刺さる。後方からはブルーノさんとティモさんも矢を放ったようだ。

 だがそれでも、まだ倒れない。

 そして、全身の力を貯めて放出しようとするかのように4つの足を踏ん張ると、前方目掛けて一気に走り出そうとした。


 その突進の刹那、熊の目の前に土壁が立ち上がった。


「あらー、ちょっと早かったわー」


 頭から激突させようとライナさんが出した土壁だが、出現のタイミングがほんの少し早過ぎて、熊は身体の向きを動かしながら壁の前で停止した。

 そこに左右と後方から再び矢が飛ぶ。ジェルさんとオネルさんは、土壁を左右から廻り込もうと既に走り出していた。


 熊は身体の向きを変えると、また二本足で立ち上がって前足を振りかざし大きく吠えた。

 これは弓矢では時間が掛かるし、逃げられそうだな。

 俺がそう思った瞬間、アルポさんとエルノさん、それに続いてフォルくんとユディちゃんが走り込んで来て接近戦を挑んだ。


 人間が現れたことにより、熊は唸りながら前足で逆に獲物を捉えようとする。

 一方で4人は素早く動き、隙を狙っては斬り掛かる。

 しかしファータのふたりは愛用の腰鉈こしなたで、兄妹も片手剣とどちらもブレードが短い得物なので、深手を負わせるような一撃をなかなか入れられなかった。


 ジェルさんとオネルさんも接近し、両手剣を構えて戦闘状況を伺う。

 ライナさん、そしてブルーノさんとティモさんも近づいて来た。

 闘っているのは4人だが、どうも決め手に欠きそうだな。



 危ないっ。ユディちゃんが熊の振り下ろした前足に掛かりそうになり、すかさずフォルくんが彼女に自分の身体をぶつけて、ふたりは地面に転がった。

 追撃しようとする熊をアルポさんとエルノさんが防ぎ、少し離れているジェルさんとオネルさんが駆け出す。


 ユディちゃんがやられそうになったのを見て俺は樹上から跳び降り、ライナさんの土壁のてっぺんでトンと反動をつけて熊の真上に跳び上がり、頭上から脳天に不動国行ふどうくにゆきを深々と突き刺した。

 それと同時に左右から飛び込んだジェルさんとオネルさんが、熊の上半身に剣を突き入れている。


 それでアラストル大森林大熊は即死だね。

 熊はまるで座り込むかのように腰を落とし、動かなくなった。

 俺は熊から降りると、まだ地面に転がったままのユディちゃんとフォルくんの側に行く。


「大丈夫か、ユディちゃん」

「あ、はい。わたし、大丈夫」

「フォルくんは咄嗟に良く助けたな」

「ふう、なんとかです」


 兄妹ふたりは直ぐに立ち上がった。問題無さそうだね。良かった。




「結局は、ザカリーさまに先を越されてしまいましたな」

「頭の上から突き刺すなんて、ちょっとズルいですよ」

「カァカァ」


「いやいや、これほどデカい熊の頭の骨を突き破るなんぞ、ちょっとやそっとでは出来ませんぞ」

「わしもこんなの初めて見ましたわい」


「たしかに言われてみると、ザカリーさまぐらいしか、出来そうにないですね」

「ねえねえ、ジェルちゃんでも出来なさそう?」

「わたしか? いや、そもそもが、こんなに大きな熊の頭の上なんかに跳べんだろ」

「それはそうですよ」


 座り込むように絶命している大熊を前にして、そんな風にのんびり話していると、冒険者たちが恐る恐る近づいて来た。

 大怪我をして俺が治療したアランくんも、レイモンドくんに支えられて片足を引きずりながらゆっくり歩いている。

 そして彼は俺の前まで来ると、地面に平伏した。


「ザカリー様。助けていただき、ありがとうございました」

「いいからいいから。動けるようになって良かったね」


「それにしても、凄かったです」

「最後のザカリーさま。熊の頭に剣を突き刺すなんて」

「さすが、わたしたち冒険者の若旦那さまですっ」


 いやいや、俺は別に君たち冒険者の若旦那とかじゃないから。

 以前にアビー姉ちゃんが、俺のことを将来は冒険者の親分さんとか冗談で言ってたけどさ。

 領主の息子だから、広い意味では若旦那と言えばそうなんだけど。


「この方は特殊だから、真似しようとかは絶対にダメよー。まあ、真似しようと思っても、とうてい無理だけどねー。でもあなたたち、貴重なものを目撃したわよね」

「はい」


 ああこれは、また冒険者ギルドで話が大きく膨らんで皆に伝わるよな。

 妙な伝説とかにならないといいのでありますが。



「さあて、さっさと後始末をしましょ。毛皮は持ち帰るとして、アルポさん、エルノさん、お肉とかはどうする?」


「おお、冬場の熊は大量に物を食べておるで、脂も乗っておりますな。熊シチューなんぞは絶品ですぞ」

「ステーキもいけますの」


 ライナさんたちによると、熊の処理はいったん冷やしてから解体、血抜きをしないと美味しくならないそうだ。

 本来は川などに沈めてしまうのが良いらしいが、この近くに水場は無いので俺が氷を大量に出して、凍ってしまわないように適度に冷やす。

 カァカァ。なになに、25度以下ぐらいでいいのね。りょーかい。


「そろそろいいわよー」とライナさんからオーケーが出たので、皆で手早く毛皮を剥ぎ、剥ぎ終わったら身体を開いて内蔵を全部出し、血を抜いてしまう。

 内蔵と血はライナさんが掘った深めに穴に捨てて、直ぐに埋めてしまいました。


 それから毛皮と肉は俺が水魔法で洗い、毛皮はティモさんとクロウちゃんで乾かす処理を行う。

 肉の方は、アルポさんとエルノさんにブルーノさんとライナさんで、どんどん切り分ける。

 俺が無限インベントリから大量に布と細紐を出したので、残った者で小分けにされた肉を手早く包んで縛って行った。


 この迅速な処理作業も、若い冒険者たちはぽかんとした表情で眺めていた。



「さあ、君たちにはこの森オオカミの皮と、それから熊の肉はお土産ね」

「えっ」

「まあいいから、持って帰って、シチューにでもしなさい。精が付くよ」

「あ、ありがとうございます、ザカリー様」


 冒険者にオオカミの皮と熊の肉をお土産に持たせる領主貴族の長男て、たぶん俺ぐらいだよなぁ。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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