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第530話 大森林で狩りのお誘い

 アビー姉ちゃんの騎士団入団式が滞りなく終了したあと、大広間はランチパーティー会場となった。

 姉ちゃんの入団を祝すものではあるけど、騎士団員のほぼ全員が参加する新年会という感じでもあるよね。


 パーティー会場で特に注目を集めたのは、やはりステージ中央に据えられたグリフィンの盾だ。

 姉ちゃんがこれを披露し、そしてパーティーが始まると、騎士団員たちが次々にこの大盾を見に集まって来ていた。


「ザック、アビーが言っていたが、この大盾は、アル殿からいただいたものなんだな。うちの遠いご先祖のものというのは、本当なのか」


「アルさんはそう言ってたよ、父さん。アルさんとか、あの一族の人たちはお宝を集めるのが習性らしくてさ。特にアルさんは、古代の貴重なものを集める収集家なんだ。確証はまだないけど、だからこの大盾はうちの遠いご先祖様が使っていた、相当に古いものなんだって」


「そうか。グリフィン家の遠いご先祖様が使っていたものなのか」

「これって、もしかしたら古代魔導具じゃないの? ザック」

「ああ、母さんはわかりますか。さすがです」


 天才魔法・元少女のアン母さんは父さんと一緒に大盾を見ていたが、何か感じることがあったのか、そう口に出した。


「なんですと、奥様。この大盾が古代魔導具と」

「どのような魔導具なのか、ザカリー様はご存知なのですか?」


 同じく側で見ていたクレイグ騎士団長とウォルターさんも、母さんの言葉に反応した。



「うん。まあここじゃなんだから、ちょっとあちらに行きましょうか。盾を近くで見たい人が、まだたくさんいるようだし」


 父さんたちが大盾の前にいるので、騎士団員の皆さんが遠慮して見学の順番を待つように少し離れて立っていた。

 うちの騎士団員には聞こえても差し支えはないのだが、とは言え強力な能力を持つ古代魔導具のことは、そうそう気軽に話せるものでもないからね。


 それで俺は、父さんと母さん、クレイグさんとウォルターさんの4人を促して、ステージ近くにあるテーブルへと行った。

 今日のランチパーティーも立食形式なので、大広間内では各所でテーブルを囲んで皆が賑やかに食事を楽しんでいる。


 主役のアビー姉ちゃんは各テーブルを順番に廻っているようで、また年末に婚約が発表されたばかりのヴァニー姉さんも、エステルちゃんと一緒にモーリス・オルティス準男爵とカルメーラ夫人に捕まっているようだ。

 クロウちゃんは、ジェルさんたちうちのレイヴンメンバーがいるテーブルに行って、皆に料理を取って来て貰っていた。



「これを知っているのは、いまのところ姉ちゃん以外だと、エステルちゃんとうちの王都屋敷メンバーだけなんだけど、あとは取りあえず、この場の4人だけにしておいてください」


「そうか。ザックがそう言うのなら、わりと大変な力があの盾にはあるということなんだな。よしわかった」

「なになに、早く聞きたいわ」


「クレイグさんとウォルターさんも、いいですか?」

「わかりました」


「あのグリフィンの盾はですね。アルさんの推測によると、どうやら古代にグリフィン家の血を持つ一軍の将が使っていたものではないか、とのことです」

「ほう、うちのご先祖様の、どなたか一軍の将のものなのか」


「はい。それで、母さんが予想した通り、あの盾は古代魔導具です」

「どんな魔導具なの?」


「アルさんの説明では、味方の軍の中央にあれを据えて発動させると、盾の前方で左右に大きく魔法障壁が広がって、敵の攻撃から部隊を護る能力があるそうなのですよ」

「おお、それは」


「あのグリフィンの盾は、グリフィンの血を持つ一軍の将が持つべきものであると、アルさんは言っていました。なので、姉ちゃんがその道を進むよう、あの大盾を贈ると」


「アル殿に、そうおっしゃっていただいたのか」

「凄いものをいただいたのね」


「それはなんとも。我が騎士団のシンボルになるべき盾ですな」

「アビゲイル様は、グリフィン家の遠いご先祖様から、将軍への道を引き継いだのですね」

「そうだ、ウォルター。まさにその通りだ。これはなんとも、どえらい贈り物をいただいたものよな」



 そうして父さんたち4人は、あらためてステージ上に据え置かれたグリフィンの盾を眺めた。

 そのあとウォルターさんが、姉ちゃんが大盾を披露したときに、描かれたグリフィンの紋章が光ったという話をした。

 進行役としてステージの下手にいたウォルターさんには、それが見えたのだそうだ。


 俺のいた前世でもそうだったが、この世界の人たちはこういった奇瑞をとても大切にする。

 ウォルターさんは、「紋章が光ったと見えたとき、わたしはアビゲイル様の騎士団入団が祝福されたのだと、何故だかそう感じました」と言った。


 そして、いまの俺の説明を聞いて、その祝福がグリフィン家の遠いご先祖様からのものだったのでは、と思ったのだそうだ。

 俺もそうなのだろうと思う。そしてもっと言えば、グリフィンからの祝福かな、とも。


 翌日からアビー姉ちゃんは、早速に騎士団本部へと通い始めた。

 朝食を食べてから制服に着替えて支度を整え、元気良く出掛けて行く。

 屋敷の隣だし子供時代から通い慣れた道だが、その頃とはまた違う道に感じられるのかも知れない。




 それから2日ほどが経ち、俺は日課の早駈けを終えて2階の家族専用ラウンジでのんびりしていた。


「案の定です」

「え? なにが?」

「カァ」


「アビー姉さまの入団式までは、いろいろご予定もあって、それに忙しかったですよね」

「そうだね。これでもうあとは、シルフェ様たちが来るのを待つだけだよな」

「カァ」


「お姉ちゃんたちは、1月の終わり頃って言ってましたから、あと10日ほどは先だと思いますよ」

「そうかぁ。なら、その10日間ぐらいはヒマな訳だね」

「カァ」


「だから案の定なんですぅ」

「え?」

「だから、ザックさまは予定が無くなって暇になると、直ぐにこうしてだらだらするんです」

「カァ」


「だってさ」

「だってじゃありません」

「でもさ、去年は夏からずっとなんだかんだ忙しかったよ。こうしてヒマな冬休みは貴重な時間だし、暖かい部屋でだらだらするのが幸せというか……」

「その貴重なお時間なんですから、もっと有意義にですね」



「あのぉ、ザックさま、エステルさま」


 そんなことをエステルちゃんと言い合っていると、フォルくんがおずおずと声を掛けて来た。

 あ、ゴメンゴメン、ラウンジに入って来たのは気がついてたんだけど。


「下に、ティモさんとアルポさんとエルノさんがいらっしゃっていますが」

「ティモさんたちが? なんだろ」

「ザックさまにお会いしたいと」


「そうなんだ、いま行くって伝えて」

「わかりました」


 フォルくんが音も立てずに部屋を出て行った。

 彼は王都屋敷で、剣術や魔法の訓練のほか、こういった歩行術なんかもティモさんあたりからどうやら教わっているようだ。


「ほらエステルちゃん、行きますよ」

「もう、うまい具合にティモさんたちが来るものですぅ」

「カァ」



 階下に降りて行くと、ファータの3人が待っていた。

 玄関ホール内の左右には扉のないオープン形式の控室がいくつかあるので、そのひとつに5人で座る。


 王都屋敷だと1階の玄関ホールに連続して広いラウンジがあり、俺が暇なときはたいていそこにいるので直ぐに会えるのだが、この子爵館の屋敷ではわざわざ呼んで貰わないといけないんだよね。


「どうしたの? 何かあった?」

「いえ、お忙しいところをすみません、ザカリー様」

「ぜんぜん忙しくないですよ、この人。ひまひまです」

「カァ」


「そうであろうと思いましてな、ザカリー様をお誘いに来たのですわい」

「アルポさんとエルノさんが、ザカリー様はたぶん暇だからと言いまして、すみません」


「え、何に誘ってくれるの?」

「それは、大森林で狩りに決まっておりますが」

「冬は熊狩りですぞ」


 昨年は確かアビー姉ちゃんを誘って、熊狩りに行ってたよな。

 今年は姉ちゃんも騎士団に入って狩りどころじゃないから、どうせ暇そうにしている俺を誘って来たのだろうね、この爺さんらは。


 でも、冬の大森林で熊狩りもいいかもだ。

 ここのところはアラストル大森林に行くとしても、アルさんに乗せて貰って一気に奥地までだったから、自分の足で行くのも楽しそうだし。



「ふーむ」

「どうですかの?」

「行きましょうぞ、ザカリー様」


「行ってきていいですよ、ザックさま。お屋敷でごろごろしているよりは、よっぽどいいです」

「よし、行きますか。でも今日はやめておこう。明日にしよう」

「明日ですか?


「うん、ティモさん。どうせ大森林に入るのなら、フォルくんとユディちゃんを連れて行こうかと思ってさ。どうかな、エステルちゃん」

「そうですねぇ。あの子たちも今年で12歳ですし、ザックさまに大森林に連れて行って貰えるなら、とても喜びますよ」


「おお、それはいいですの」

「わしらが、フォルとユディに狩りの仕方を教えましょうぞ」

「エステル嬢さまも行かれますか?」

「シモーネちゃんもいますし、わたしはお留守番をしています」


 シモーネちゃんは見習いとはいえ風の精霊なので、連れて行っても大丈夫な気もするが、そこはあまり無理をさせたくないのだろう。


「わたしは行きませんが、ブルーノさんとは相談してくださいな、ティモさん。あとジェルさんたちとも。それから、日帰りコースでお願いしますね」

「承知しました、エステル嬢さま」


 大森林といえばブルーノさん以上の案内役はいないし、お姉さん方は俺のお目付役ですな。

 俺は野営でも構わないのだが、それほど奥地には行かないようにということでしょう。


「ちょっと、フォルくんとユディちゃんを呼んで来ましょうか」

「そうだね」



 それで、エステルちゃんがふたりを呼んで来た。シモーネちゃんもエステルちゃんと手を繋いで一緒だ。


「フォルくん、ユディちゃん、明日、ザックさまたちが大森林に狩りに行くことになりましたから、あなたたちはお供をお願いします。ザックさまが連れて行ってくれるそうですよ」


「え、大森林ですか?」

「やったー」


「シモーネちゃんは、わたしとお留守番ね。これからいくらでも行く機会はありますから、今回は我慢しましょうね」

「はい、エステルさま。シモーネはお留守番で、大丈夫です」


 うーん、連れて行ってあげたいけど、エステルちゃんの許可が出なさそうだから我慢してくださいな。

 フォルくんとユディちゃんは、いまにも跳び上がらんばかりに大喜びだ。

 彼らも今年12歳。新しい経験をいろいろさせてあげないとだよね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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