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第524話 エルフの母なる地襲撃の追加情報と、これからの予定など

 イラリ先生がエルフの商人さんから聞き出した追加情報も加えて、把握していることをあらためて話してくれた。

 それによると、数十体規模のそのゴズという牛の頭とゴブリンのような身体をした配下を率いて、巨大な牛の魔物であるアステリオスが、ある日突如としてエルフの母なる地を襲った。


 ちなみにアルさんによると、アステリオスは牛頭人身の姿だそうだ。

 大きさについては、「わしよりはずっと小さいぞ」ということだが、まあアルさんのドラゴン姿はデカいからね。

 一方で眷属のゴズは人間よりやや小型で、大きめのゴブリンといったところらしい。


 それで、どうやって攻められたのか、どうして攻められたのかについては、伝聞としてもまったく分からないそうだ。伝わって来たのは、何とか撃退したという話だけ。

 ただし、エルフの部隊の強さは分からないが、撃退したというよりはおそらくアステリオス側が撤退したのではないか、というのがアルさんの意見だった。


 何故なら、アステリオスは1体でも相当数の人間の部隊を葬ってしまう力があるらしく、そう簡単には撃退されない筈だからだそうだ。

 アルさんがそう言うぐらいだから、アステリオスというのはそう簡単に人間が討伐出来る魔物ではないのだろう。


 配下のそのゴズとやらに攻めさせて、自分は戦闘に加わらなかったのでは、となんとなく俺も感じた。

 あの時のテウメーとキツネの魔獣のように。


 一方で、弓矢や遠隔攻撃の魔法に優れているエルフであるし、本拠地なので相当の数の部隊が迎え撃った筈だから、そう簡単に防衛戦は突破されなかった筈だと、これは元超ベテランの冒険者だったイラリ先生の意見だ。



「つまり、世界樹まで接近を許したとかではなさそうなんですね」

「エルフの母なる地というのは、大森林の中にある、言ってみれば巨大な都市なんですよ、ザカリー君。世界樹はその中心に立っています」

「そうなの。この王都みたいにたくさんの建物がある訳じゃないけど、広さから言えばここより広いかも、かしら」


 なるほどね。大森林の中にある巨大都市か。

 その巨大都市にどのくらいのエルフ族が暮らしていて、どれだけの戦闘要員がいるのかは分からないけど、都市の規模が大きいということは、それだけ防衛線も長くなるってことだよね。


「そこは、ドリュアさんの地元だから。たぶんドリュアさんたちなら、森の樹木たちを連携させて、警戒しているのではないかしら。ねえ、オイリさん」

「あ、はい。おそらく、シルフェ様のおっしゃられた通りだと思います。母なる地に危機が迫れば精霊様が教えてくれる、という言い伝えがあった筈ですから」


 森全体が、警戒監視網になっているといった具合なのかな。

 イラリ先生は大森林と言ったけど、それってアラストル大森林ぐらい大きいのだろうか。

 そこのところを聞いてみると、「広いことは広いと思うがの。じゃが、あそこほどの広さはありませんぞ」とアルさんが言う。


 周辺には人族とかの村や町も無いそうなので、必然的に耕作地も近隣には無く、草原や川、湖や丘陵などを挟んでいくつもの森が存在し、全体としては広大な森林地帯を構成しているらしい。


 ということは、エルフの母なる地というのは都市国家なのだろうか。


「国というよりは、自治領と言った方がいいかしら。対外的には、アルファ自治領と呼んでいます。エルフの始まりの地ですから」


 アルファ自治領ですか。国家形態ではないんだな。


「カァカァ、カァ」

「アルファベットのAがアルファだけど、エルフのことも前世だと言語によってはアルファーと言うんだね。キミってやっぱり物知りだよな」

「カァカァ」

「精霊族の始祖っていう意味も込められてるんじゃないかって、そうかもね」


「今日はふたりでコソコソ話が多いですよね。あとで何を話してたのか、教えて貰いますからね」


 いや、だからちょっと前世の知識と照らし合わせているというか、ここでは言えないのことなのですよ、エステルちゃん。



 これ以上はオイリ学院長とイラリ先生も情報を持っていないということだったので、おふたりとの話は終了になった。


「ドリュアさまとエルフのことにつきまして、ご心配をいただき、ありがとうございます」

「わたしたちも、ドリュアさんのところを脅かすような事件には、無関心ではいられませんからね。こちらこそ教えていただき、ありがとう」


「あの、お聞きして良いのかどうかわかりませんが、シルフェ様の方で何か動かれるとかはあるのでしょうか?」

「イラリ叔父さん」


「いいのよ。でも、わたしたちが具体的にどうこうとかは、まだ何も考えてはいませんよ。そのうち、ドリュアさんをお見舞いには行こうとは思っていますけど。あなたたちもご存知だと思いますけど、わたしやドリュアさんたちは兄弟姉妹ですからね」


「それは、四元素と樹木の精霊様がということですね?」

「イラリさんはたしか、神話学の先生だったわね。ザックさんの先生ですから、少しだけ教えてあげましょう。精霊とは何ですか?」


「この世界の火、水、風、土の4つの元素と樹木と植物、つまり地上の自然を司る存在であると」

「そうね。そして、わたしたち真性の精霊の5人は、天と地を繋ぐ者よ」

「天と地を繋ぐ者、ですか」


「ええ、地とは地上にあるすべて。そして天には何もなく、あるのは神だけ。ですから、その天と地を繋ぐ者たる、わたしたち真性の精霊は、天の神を父と母として生まれ、地上に遣わされた兄弟姉妹ということになる訳ね」


 俺にとって真性の精霊様というのは、シルフェ様とニュムペ様という、あまりにも身近な存在になってしまったため、その「真性の」という言い方に特別な疑問などを抱いたりはしていなかった。


 しかし、これまでに聞いていたことやいまのシルフェ様の話を聞くと、あらためて5人の真性の精霊様だけが、神様を父母に持っている故に真性ということになるんだな。


「そうすると、エステルちゃんとかはシルフェ様の直系子孫らしいから、神様の子孫ということになるのかな」

「カァカァ」


「ああそうか。この世界の人間がどうやって生まれたのか、ということも考慮に入れて考えないといけない訳ね。この世界のアダムとイヴって感じ?」

「カァ、カァ」

「確かに、難しいところだよな」


「ザックさまとクロウちゃんは、そうやってコソコソ話してばかりだと、皆さんに失礼ですよ。あとでお説教になりますよ」


 あ、エステルちゃんの機嫌がだんだん悪くなって来たから、その辺の検証はあとにしましょう、クロウちゃん。カァ。




 オイリ学院長とイラリ先生も屋敷を後にし、エステルちゃんと姉ちゃんは大広間の片付けを手伝いに行った。

 ラウンジは、人外のお三方と俺とクロウちゃんだけだ。


「シルフェ様。ひとつ聞いてもいいですか?」

「なにかしら」


「先ほどのお話だと、シルフェ様はつまり、アマラ様とヨムヘル様の娘さんということでいいんですよね」

「ええ、そうよ。ニュムペさんもドリュアさんもね」


「ということは、エステルちゃんはシルフェ様の直系子孫だとすると、アマラ様とヨムヘル様の子孫ということになる訳ですか?」


「あら、あなた、そんなこと気にしてたの? それはそうなるわよね。でも、そんなこと言い出したら、結局は精霊族はみんなそうだし、人族とかほかの人間だって、遠い祖先は誰かしらの神様を祖先に持つことになるのよ」


 あ、そういうことなんだ。

 そう言えば、以前にイラリ先生から聞いたエルフの神話によるとエルフ族というのは、天から世界樹を伝わって降りて来た光の神であるヘイム様と、世界樹を護るドリュア様から生まれたアルヴァさんという人が始祖なんだよな。


「ただ、精霊族というのは、ほかの人族や獣人族と違って精霊が先祖になっているから、少しだけ違うってことよね。ほら、寿命のこととか」


「それじゃ、アルさんたちのドラゴンは?」

「わしらは、遥か太古に天から地上に下りた者たちじゃ。尤も、若いドラゴンは地上生まれじゃがの」

「だから、アルやルーとかは、言ってみれば神の使いなのよ」


 この世界の人間の伝説で神獣と呼ばれているフェンリルのルーさんとか、このアルさんのようなエンシェント・ドラゴン、つまり上位の古代ドラゴンは、天から地上に下りて来た神の使いということなんですな。

 こうして一緒にいると、ただのガタイの良い爺さんにしか見えないけどさ。



「それでまずはどうしますか? おひいさま」

「そうねぇ。まずは明後日、ニュムペさんのところへ行くのよね」

「ええ、姉ちゃんが王都を離れるのと、僕たちがグリフィニアに帰省するご挨拶に。あとパーティーにお呼び出来なかったので、料理をたくさん持って行こうかと思ってます」


「それはあの子たちも喜ぶわ」

「明後日のお昼ぐらいに行きますって、ニュムペ様に風の便りを出していただけますか?」

「もう出してありますよ、ザックさま」


 さすがシフォニナさんだ。エステルちゃんと打合せ済みだったのだろう。


「だから、明後日にニュムペさんと相談して、この冬にいちどルーのところに行きましょう。ザックさんも一緒よ」

「あ、はい」


「でもその前に、わたしとシフォニナさんは自分ちに帰るわ。いちおう、うちの妖精の森も警戒と防御を強化しておかないとだから」

「そうですね。まさか、うちに誰かが攻めて来るとは思いませんけど、警戒するに越したことはありません」


「それで、シモーネのことですけど」

「シモーネちゃんですか?」


「ええ、うちに連れ帰っても良いのだけど、今年の冬はザックさんのところで預かって貰ったらどうかなって」

「グリフィニアに?」


「これからわたしとシフォニナさんも、ルーのところに行ったり、もしかしたらドリュアさんのところとかにも行くかも知れないでしょ。そうしたら、妖精の森に置いておくことになるんだけど、それならザックさんたちの側に置かせて貰った方がいいかと思って」


 そんなに俺たちというか、人間社会にずっと置いておいて良いのだろうか。風の精霊見習いとしてはどうなのだろう。


「あの子は、エステル付きにしようかと思ってるのよ」

「わたしも、シモーネぐらいの頃から、おひいさまのお側に付いていましたから」


 え、それってどういうことなんですか?

 シフォニナさんがシモーネちゃんぐらいの時分から、シルフェ様の側付きだったのは分かるけど、真性の精霊様であるシルフェ様とエステルちゃんとは違うでしょ。


「もちろん、一人前の風の精霊としては、わたしとシルフェさんとで育てるわよ。だけどあの子は、人間の社会でもエステルの側付きとして、ちゃんとやって行けるようにしたいのよね。エステルが、うちの妖精の森で暮らすのなら別だけど。そうすると、ザックさんもうちで暮らすことになっちゃうでしょ」


 いやいや、それは無理というかあり得ないでしょ。

 俺は人族の人間だし、グリフィン家を継がなきゃいけないし。



「まあ、そういう訳だから、シモーネを一緒にグリフィニアに連れて行ってくださるかしら。あの子には、わたしからも話しておきますから」

「はい。取りあえず、わかりました。僕らの方は問題ありませんので」


「それで、アルはどうするの?」

「わしか? わしもいちどねぐらに帰って、年越しはシルフェさんのところで過ごさせて貰いましょうかの。アラストル大森林に行くときは、わしが乗せて行きますで」


「そうね。あなたも自分のお家に引っ込んじゃうと、自分で気が付かないうちに年月が過ぎちゃうから。だったら、わたしのところに来るのがいいわ。いろいろ相談もあるしね」

「そうですの」


 こうしてお三方のだいたいの予定は決まった。


「シモーネをエステルの側付きにするというのは、まだエステルには言わなくていいですからね」とシルフェ様から言われたので、彼女には黙っておくことにする。

 あくまで人間の社会を勉強させるためにグリフィニアにも連れて行く、ということにしておきましょう。


 それでは俺たちの予定は、明後日にニュムペ様のところにご挨拶に伺って、その翌日にはグリフィニアに出発ですな。

 今年もいろいろあったけど、気がついたら残りは僅か10日足らずになっていました。

 これから3月までは、久し振りのグリフィニアでの暮らしだね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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