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第50話 ザック、竜人の双子を預かる

「あれっ、クロウちゃんどうしたんです? お空を飛ぶんですか?」

 エステルちゃんに抱かれているクロウちゃんが、モゾモゾ動いている。

 そして、抱かれた腕から抜け出すと、あっと言う間に空に飛び上がって行った。

「どこにいくんですかー?」


 俺はすぐに式神であるクロウちゃんの視覚に同期する。

 港に停泊する何艘かの船を上空から見る。向うは漁港で、多くの漁船が停泊している。

 そしてこちらは、漁船よりも大型の船が多い。

 クロウちゃんの眼が何かを見つけた。

 何人かの人が誰かを追いかけている。追いかけられているのは、ふたりの小さな子ども。


「ブルーノさん」

「へいっ」

「あ、ザックさま、どこいくんですかぁ、て、いつも速いっ。待てぇー」

「ライナさん、行きますよっ」

「はい」


 ブルーノさんにひと声掛けて俺は走り出す。

 後ろからみんなも俺を追う。

 視覚センサー・クロウちゃんを経由して、探査・空間検知・空間把握で位置を割り出し、迷うことなく、ふたりの小さな子どもの逃走場所へと今出せる全速力で向かう。

 あの大型船が停泊している桟橋の方向だ。

 見つけた。



 まさにひとりの屈強な男が、片方の女の子に手を掛けようとしているところに、俺は飛び込む。

 ほんのわずか手にキ素力を集め、すぐさま男に掌底を撃った。

 男は後ろに倒れ、転がる。


「おい、おめーはどこのガキだ。何しやがった」

 転がった男の後ろから、更に3人の男がやって来て、俺とふたりの子どもを取り囲む。

 あ、俺も子どもだから3人の子どもです。

 そのとき、ブルーノさんとエステルちゃんが追いついて来た。このふたりも走るの速いよね。

 ブルーノさんはすぐさま俺の前に割り込み出て、低い姿勢で腰のダガーに手をかける。

 エステルちゃんもふたりの子どもを庇いながら、腰のあたりに手を回す。変な暗器とか、いきなり出さないでね。


「お、お前ら、なんだ」

「なんだはそっちだよ。何で小さな子どもを追いかけてるの?」

「お前らには関係ねえんだよ」


 そのとき、ようやく女性従騎士のジェルメールさんとライナさんが追いついた。

 ジェルメールさんは目立たないように、騎士装備ではなく普段着のような装備だが、腰にはショートソードを帯剣している。

 その剣に手を添え、「待て待て待てー」と駆け込んで来た。その後ろではライナさんが、いつでも魔法を放てる準備をしている。

 今さらだけど、俺も含めみんな闘える物騒な観光客なんだよね。ここにはいないトビーくん以外。


「おいお前たち、後ろに下がって控えろ。このお方は、むぐむぐむぐ……」

 俺はジェルメールさんの後ろにいるライナさんに素早く目配せして、口を塞がせる。



 すると男たちの前に、ひとり上等な身なりの背の高い男が現れた。

「何を騒いでいるのです。逃げ出した子どもをまだ捕まえていないのですか?」

「それが、こいつらがいきなりやって来て、邪魔しやがるもんですから」

「ほう、そうですか。はて、貴方たちは……なるほど」

 何がなるほどなんですか?


「どうやら、このグリフィン子爵領の方たちのようですね。どうして、うちの者たちの邪魔をするのでしょうか」

「むぐむぐむぐ……」

「たしかに、僕たちは子爵領の者だけど、それよりこの乱暴そうなおじさんたちは、どうしてこんな小さな子どもを捕まえようとしてるのですか?」

「カァ、カァ」

 俺の頭の上に、クロウちゃんが舞い下りて来て止まった。


「ははぁ、頭の上にカラス、やはりそうですか。……仕方がないですねぇ、訳をお聞かせしましょう。このふたりの子どもは、私の船の密航者なんですよ。途中で見つけて捕まえておいたのですが、港に着いて荷下ろしなどをしている隙に逃げ出しましてね」

「密航者ね……それで捕まえてどうするんですか?」

「密航者は罰として、奴隷にして売るのが私共の決まりです」

「こんな小さい子を奴隷なんかにするのは、ダメですっ」

 エステルちゃんが大きな声を上げた。


「この子たちは、僕たちが預かる訳にいきませんか?」

「預ける、ねぇ」


 その言葉に、双方とも無言の間が空く。

 おそらく船員かなにかなのだろう、屈強な男たちに再び殺気が高まる。

 ブルーノさんは腰のダガーに手をかけたまま、油断無く構えている。

 エステルちゃんも相変わらず片方の手を後ろに回したまま、しゃがみ込んでいる子供たちの前に出て身構えている。だから、妙な暗器を出すのはナシだよ。

 ジェルメールさんはショートソードの柄に手を置いたまま、後ろのライナさんにまだ口を塞がれている。



「わかりました。いいでしょう。その密航者は貴方に免じてお預けしましょう。いえ、特に対価はいただきませんよ。まだどちらも、刃物を抜いていなかったのが幸いですしね」

「そうですか、ありがとうございます」

「いえいえ、またお会いすることもあるでしょう。私はクラースと申します、ザカリー様。おい、お前ら、船に戻るぞ」


 クラースと名乗った男は、男たちを引き連れて船に戻って行った。

「あの人、ザックさまのお名前を知っていたですぅ」

「それにあいつら、北方帝国のやつらでやすぜ」

「むぐむぐむぐ……」

 ライナさん、ジェルメールさんの口からもう手を離してあげてください。

「ザカリー様ぁ、あー苦しかったです。それでこの子たちはどうするのですか?」



 北方帝国、ノールランドか。

 グリフィン子爵領の北、北辺境伯領と国境を接してその北にある帝政国家だ。

 戦時のときを除き、彼らはティアマ海の沿岸を航海してセルティア王国に貿易でやって来る。

 ノールランドに比較的近いこのアプサラが、最初の寄港地になることも多いのだそうだ。

 それにしても、この子たちは。

 まだ蹲ってお互いを抱き合うように怯えている、ふたりの子どもを見る。


「さあさ、もう安全ですからね。立ってお顔を見せてくださいな」

 エステルちゃんが優しく声を掛けて、ふたりを立ち上がらせる。

 同じ年齢ぐらいの男の子と女の子だ。5、6歳ぐらいかな。

 顔も背格好も良く似ている。双子かなぁ。

 そして、先ほどの状況で良く見ていなかったが、ふたりの頭には見たことのない耳が立っているのに気がつく。

 穿いているズボンとスカートからは、これも見たことのない尻尾が伸びていた。


「これは、おまえさんたちは竜人さんでやすかい?」

「はい、ドラゴニュートです」

 ブルーノさんの問いに、男の子が小さな声でそう答える。


 俺はどうやら、竜人さんの双子を預かったようだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ普通に男達の言い分の方が正しいと思うんだけど 主人公達の方が力で自分の都合を押し通してて質悪いわ
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