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第505話 地下墓所再訪の相談

 結局、次の休日に学院に行って地下洞窟に潜ることを決めた。


 行くのは俺とエステルちゃんにアルさんとシルフェ様とシフォニナさん。そして当然、レイヴンの皆も同行する。

 おそらく戦闘はないだろうということで、アルポさんとエルノさんには今回は留守番をして貰う予定だ。


 問題はアビー姉ちゃんとミルカさんだ。

 姉ちゃんはいよいよ卒業が間近ということで、今回の2日休日は学院に残って課外部の休日練習に参加している。

 彼女には休日が明けたら話をするつもりだが、おそらくというか話せば絶対に同行したいと言うだろうな。


 それから、調査のため王都に残っているミルカさんだが、内緒にしてというのは難しそうだ。

 休日に屋敷の皆で、どこかに出掛けるんだからね。それも完全装備で。

 何か違う理由をつけて、というのも考えられるけど、俺としてはミルカさんに嘘はつきたく無いし、地下洞窟の件でも昨年にいろいろ話をしてるしね。


 それである程度、状況や事情も含めて彼には話をすることにした。



「ミルカさん、じつは次の休日に、学院の地下から王都の地下洞窟、要するに地下墓所に行くことにしました」

「例の地下洞窟ですか。それはまたどうして。確か、そこは封印されたんですよね」


 ラウンジにいるのはミルカさんと俺だけだ。


 今日と明日は王都屋敷を完全休日にしたので、午後になってエステルちゃんとシルフェ様、シフォニナさんは少年少女を連れて、久し振りにお買い物に出掛けている。

 アルさんは執事としてお供で、ジェルさん、オネルさん、ライナさんは護衛のお供だ。ブルーノさんとティモさんは陰護衛で付いていてくれる。

 クロウちゃんはどこかに飛んで行ったが、どうせ商業街のカフェとかで合流するのだろう。


 なので、とても静かだ。屋敷内にはひとりアデーレさんが残っていて、ミルカさんと俺に紅茶を淹れて持って来てくれた。


「うん、じつはこの前のテウメー討伐の後調査というか、そんな目的で」

「テウメー討伐の件と、王都の地下洞窟と、関係があるんですか?」

「あるかないかは、行ってみないとなんだけどさ」

「それは? お話いただける範囲ででも、詳しくお聞かせください」


 どこまでの範囲をミルカさんに話そうか、一瞬俺は考えたが、ある程度は話してしまうことにした。


「これは、普通の人族の人にはあまり話せないことなので、そう思って聞いてください」

「つまり、私がファータ人だからお話しいただけると」

「それだけじゃなくて、うちの調査探索部の副部長で、僕らの叔父さんだということもすべて併せて」

「はい、ありがとうございます」


 ミルカさんは、俺のその言葉に居住まいを正した。


「まずですね。王都の地下洞窟、その最奥にある地下墓所には、800年前のこのセルティア王国が出来る以前に、この地を治めていた部族王マルカルサスさんが、現在でもアンデッドとして存在しています」


「なんと。ワイアット・フォルサイス初代王が倒したという、あの凶悪だったと言われる部族王がですか。マルカルサス、さん……」


 俺がさん付でその名を出したことに、ミルカさんは何かを感じたようだ。

 800年前の部族王という点については、人族より遥かに長い寿命を有している精霊族の彼には、それほど驚愕すべきことではないらしい。


「そうです。じつは僕らは1年前の探索の際に、スケルトンやレヴァナントどもを消滅させ、ニュムペ様が地下の水脈などを浄化しつつ、最奥の地下墓所まで到達したんです。そして、そこに自ら閉じこもっていたマルカルサスさんとお会いした」


 1年前の地下洞窟の探索と大掃除のあらましを、俺はざっと語った。

 アンデッドを掃除したレベルの話はグリフィニアでも報告したけど、そこまで詳細には誰にも話していない。

 このことを知っているのは、一緒に行ったレイヴンのメンバーだけだ。



「そこで彼と少し話をして、僕の判断で討伐するのはやめました。その地下墓所以外の洞窟内をうろついていたアンデッドは、何かよこしまな力に冒されていて危険な魔獣化をしてたのだけど、地下墓所を自ら封印していたマルカルサスさんほか数体だけが、そうなっていなかったんですよ」


 ミルカさんは無言で、俺の話を咀嚼するように聞いている。


「あと、マルカルサスさん自身は、伝説にあるような凶暴な王とは僕には思えなかった。おそらくは、現在の王家の都合の良いように、後世にそう伝えられたのではないかと僕は推測しています。そもそも地下洞窟が穢れた場所になり、そしてニュムペ様がこの地を離れる要因となった、初代王と水の精霊との因縁もあるしね」


 その地下墓所が、ワイアット・フォルサイス初代王を助けて彼の母を初めとした下級精霊の協力で造られ、そしてあろうことか清浄な地下水脈を断ってしまったことも付け加えて話した。


「伝説に直接繋がって、いま現在のお話とは、驚きしかありません」

「そうだね。でも、人の口に乗れば、それは正しくても誤ったものでも伝説や歴史になるけど、事実や真実はちゃんと現在に繋がってるんだよ」


「もし、その事実や真実が人の口に乗って、明らかになってしまうと」

「そう、それもこの王都の真下のことだ。それが明らかになると、王国を揺るがしかねない。だからいまは、滅多に話す訳にはいかないんだよ」


「それを私にお話しいただいて、良かったのですか?」

「うん、それは先ほど言った通りだし、ミルカさんは僕の相談相手だからさ。それにこの話は、あくまで今回話すことの背景なんだよ。でもそれを知っておいて貰わないと、意味が理解出来ないからね」

「これからが本題ですか。それはなんとも」


 屋敷の中の静かな時間が流れる。アデーレさんは夕食の準備にこのラウンジからは離れた厨房だから、俺とミルカさん以外の人の気配がまったくない。



「この前の討伐で、僕はシルフェ様たちとテウメーが現れたところに行ったでしょ」

「あの時は参りましたよ。エステルとクロウちゃん、それとユニコーンたちがいちばん苦しんでましたが。女性たち、そしてイェルゲンさんと酷くなって行って、私どもファータにも来ました。ニュムペ様が幻惑魔法攻撃と言われていましたが、あれには何か理由があったんですか?」


「うん、昨晩、アルさんにも聞いてみたんだけど、魔法に対する感度の問題じゃないかって。僕もそう思うよ」

「だから、エステルとクロウちゃんが真っ先にやられて。ライナさんも確かに酷い状態でしたね」


 念話を伝わってということまでは話さなかったけど、僕やエステルちゃんがユニコーンと意思の疎通が出来るという点で、何かしらは勘づいてはいるんだろうな。


「しかし、そうすると、いちばん魔法がお出来になるザカリー様はどうして?」

「ああ、それについては、エステルちゃんからズルいって言われましたよ」

「ふふふ、ズルい、ですか。何ともエステルらしい」


「まあ、その点については僕も良く分からないんだけどね。でも、あれでも多少は影響があったんですよ。だから、自分の身体にもじつは結界を張り付かせてね」


「それでテウメーのところに行かれた。そのテウメーとのことが本題でしたね」


 ここからがようやく話の本題だ。



「念のために、いいですか。ここからの話はミルカさんと、あとレイヴンのメンバーだけには話すつもりです。まだ彼らにも話していないので」

「はい」


「これは人間の世界ではなく、人外の世界での話です。いや、もしかしたらいつかは、人間の世界にも関わりが出るかも知れませんが、いまは滅多に人間の世界に流す話ではありません。そのことを念頭に置いて聞いてください」

「なんと、人外の世界の話、ですか。わかりました」


「僕らはテウメーと少し問答をしました。どうやって話したのかは、いまは聞かないでください。ただ、ある程度以上の魔物とは話が出来ると、そう理解していただきたい」


 ミルカさんは驚きで目を丸くしたが、ぐっと堪えるように言葉は何も出さなかった。


「その短い問答の中で、テウメーから聞いた要点をふたつだけお話しします。ひとつは、あの20匹以上もいたキツネの魔獣どもは、ある力をテウメーが誰か、何かから借りて、作られたものであるということ。本来の配下の眷属は、5匹だけでした」


「な、なんと。あの多数のキツネは、作られたもの?」

「はい、そうだと、テウメーは言っていました。それであの時、テウメーの傍らには本来の配下の5匹がいて、それは僕が倒しましたが」

「ふーむ」


 理解が追いつかないかも知れないが、俺は続ける。


「そしてふたつ目は、その力を貸した誰かか何かが、テウメーやそれ以外の魔物も従えているらしいこと。そんな存在が、どうやらいるらしいということのようです」


 その存在が魔物以外にも力を及ぼしているようなこともテウメーは匂わしていたが、そこまで話すつもりはなかった。


「シルフェ様やニュムペ様も同じご意見でしたが、その存在はかなりよこしまでおそらくは強大な力を持ったものです。そして今回のように、魔物や魔獣を強化するなどして、いまは人外のこととはいえ、世界の安寧を脅かしかねない。ですのでシルフェ様たちは、その存在を調べることにしました。人外の世界のことですので、僕はこの件ではあまり動くなと言われていますが、ただ同じようによこしまなものに、長年に渡って配下を冒されて来たマルカルサスさんには、ちょっと聞きに行ってみようかと。それがこの話の本題です」


「そこで繋がるわけですか」とミルカさんはぽつんと口に出し、それからは冷静に考えようとしたのか目を瞑り、口を閉ざした。



「私も、地下洞窟にお供をさせてください。お願いします、ザカリー様」

「この話をしたら、そう言うと思っていましたよ」

「でしたら、ご許可を」


「ミルカさんは、もうかなり巻き込んでいますからね」

「私のことは、ティモと同じように扱っていただければ結構です。いえ、グリフィン子爵家調査探索部の副部長を拝命している以上に、私は、そしてファータの者はザカリー様の身内であり、直属の配下と考えてください」


 向かい合って座るミルカさんは、そう言って真摯な眼差しを俺に向けた。


「わかりました。こんな僕にありがとう、ミルカさん。それでは一緒に地下墓所に行きましょうか」

「はい、お供します」




 その夜、夕食後にレイヴンミーティングを開いた。人外のお三方とミルカさんも参加する。

 そこで、今日ミルカさんに話したのと同程度のことを皆に話し、次回の休日に再び学院から地下洞窟に潜ってマルカルサスさんに会いに行くことを伝えた。


 レイヴンメンバーは地下墓所やマルカルサスさんのことは知っているし、テウメーが言った内容にもそれほどの驚きや動揺は見せなかった。

 ある意味、人外のことに慣れて来ているのかも知れないが、それはそれで人間の世界に暮らす者としてはどうなのだろう。


「ねえねえ、ザカリーさま。そうするとー、わたしたちが闘ったあのキツネは、本体じゃないって訳よね。つまり劣化版とかー?」

「いや、そこんとこは良くわかんないんだけど」


「本体のキツネ5匹は、ザカリーさまが倒されたのですな」

「どうだったのー、やっぱり少しは強かったとかぁ?」


「ザックさん、一瞬で倒しちゃったのよね。その辺がどうなんだか、見てたわたしたちにも、ぜんぜんわからなかったけど」

「首ちょんぱしちゃったんですよね」


「もー、強さがどうかとか、何か違うとこがあるのかとか、確かめる配慮が少しはほしいわよねー」

「そうですぞ。また同じようなことが無いとも限らんのですからな」

「はい、すんませんでした」


 なぜか俺がお姉さんたちから叱られた。

 言っていることに多少は頷けるところもあるが、ぜったいにこの人たちの感覚は、普通の人間からはずれて来ている気がするんだけど。


「ねえ、ジェルさん。それより、マルカルサスさんにお土産とかどうしましょう」

「お土産、ですか? エステルさま」


「アンデッドって、お菓子とか食べるんですかね。ライナ姉さんは知ってます?」

「硬い物は難しそうな気がするわよー、オネルちゃん。ほら、歯が弱ってるとか。グリフィンプディングはどう? エステルさま」

「あ、さすがライナさんですぅ」


 もうひとり、感覚がだいぶずれてる人がいました。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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