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第501話 対キツネの魔獣戦と精神攻撃

 4匹のキツネを相手にしていたアビー姉ちゃんとジェルさん、オネルさんの3人も、なかなか1匹1匹を捕捉することが出来ずに苦労していた。

 1対1ならばあきらかにこちらの方が強いのだが、なにせキツネの動きは素早い。

 あちらこちらに動きながら隙を見ては火球を撃ち、接近して噛み付き攻撃を行おうとする。


 するとそこに、先ほど1匹のキツネを重力可変の手袋を装着して殴り飛ばし、吹き飛んだそのキツネにとどめを刺したライナさんが駈けて来た。

 そしていきなり、キツネに向けて土魔法で石礫つぶての雨を横殴りに降らせる。

 俺が良く発動させるあれですね。


 4匹のキツネが動きながらちょうど接近していたところだったので、いきなりの大量の石礫つぶてに、そいつらはまとまって一瞬ひるみ動きを止めた。


 そこを見逃すジェルさんではない。

 まだ飛び続ける石礫つぶての雨をものともせずに突っ込むと、火焔の剣を振るって一撃でキツネの首を飛ばした。


 続いてオネルさん、そして姉ちゃんのふたりも同じく突っ込み、オネルさんは氷晶の剣で、姉ちゃんは衝撃の剣で同じく一撃で斬り倒す。

 残った1匹は、いつの間にか接近していたライナさんに上から潰すように殴られ、地面にめり込んでいた。



 2匹のキツネと闘っていたクレイグさんたちにはブルーノさんが加わったことで、メルヴィンさんとイェルゲンくんとともにその2匹を囲んで追い立てている。

 そこに待ち受けていたクレイグさんがグレートソードで1匹を打ち倒し、もう1匹はメルヴィンさんの剣とイェルゲンくんの戦斧によって倒された。


 ウォルターさんのところには、先ほど既に1匹を斬り刻んだエステルちゃんが加わっている。

 ミルカさんとティモさんと、動きの速い現役のファータが3人揃ったところで、闘いはあっと言う間に人間側の優勢になった。


 そしてエステルちゃんが早々と1匹を捕捉して斬り倒すと、その場から周囲の木の幹を蹴って反動をつけながら跳んで行く。

 少し離れてアルポさんとエルノさんが闘っていた2匹のうちの片方の上空に達すると、上からショートソードを突き刺し、更にもう片方の手に持ったショートソードを振るって首を落とした。

 それを見て、アルポさんとエルノさんがもう1匹の始末にかかった。


 あっと言う間に3匹目を倒したエステルちゃんは、樹上高くで戦況を見ている俺の方を確認すると、トントンと木々を蹴って跳びながら移動して来て、ストンと俺の隣に降りた。




「ユニコーン部隊は? ザックさま」

「うん、4匹を囲んでいるから大丈夫だと思うけど、さっきの撤退戦で、少し火球でやられてる」

「あとはもう終わりますね」

「そうだね」


 4匹を始末したアビー姉ちゃんとお姉さん方の4人が、それぞれの戦闘場所に散って加わったので、残りも倒し終えるところだった。


 4匹のキツネを11頭で逃がさないように囲んで闘っていたユニコーン部隊も、既に2匹を倒している。

 残りももう時間の問題だな、と思ったところで、上空を旋回して戦闘を監視していたクロウちゃんから危険を知らせる緊急通信が入った。


 え? なに?

 その直後、「(ギャーン、ギャーン)」という、甲高い悲鳴とも叫びともつかない強い念話が頭に鳴り響く。


「ひぇー、なにこれ」と俺の隣で、エステルちゃんが思わず耳を塞いだ。念話だから耳は関係ないよ、エステルちゃん。

 しかし、もの凄く不快な念話の音だ。


 目を転じると、地上では普段から念話で会話しているユニコーンたちに動揺が走り、皆が動きを止めて顔を上げていた。

 すると、残った2匹のキツネの魔獣が、するするとユニコーンたちの足元を擦り抜けて洞穴の方へと一目散に走って行く。


 一方で、ほぼ闘いを終えていた人間たちには念話は聞こえないのだが、何かを感じたのだろう、キョロキョロと辺りを伺っていた。



 俺はエステルちゃんを促して地上に降りる。


「(ギャーン、ギャーン)」と頭の中で鳴り響く念話はまだ断続的に続き、エステルちゃんはその不快さに頭を押さえ「むむぅー」と顔を顰めている。

 ユニコーンたちは全員がまったく動きを止めてしまい、じっと耐えているようだ。


 その異変に気がつき、人間の部隊がバラバラと駆け寄って来た。


「ザカリーさま、ユニコーンたちはどうしました。我らも何か感じますぞ。あっ、エステルさまっ、大丈夫ですか」

「ザック、なんだか変だよ。気分が悪い」

「わたしも気分が変です。ザワザワします」

「むー、何だかわたし吐きそうよー。これって魔法なのー? エステルさま、大丈夫ぅ?」


 どうやら男性陣よりも、女性たちの方がこの不快な念話に強く反応しているようだ。

 直接聞こえるエステルちゃんはもちろん、魔法感度が高いライナさんも状態が悪い。


 そのとき、空からクロウちゃんがバサバサと墜落寸前のように下りて来た。

 そうだよな。クロウちゃんにはかなり厳しい筈だ。

 まだ断続的に鳴り響き続けているので、俺も相当不快になって来たぞ。


「カ、カァー」

「えっ、何だってぇ」

「カァァ」


「テウメーが出て来たんでやすか?」

「穴は塞いだのよー、クロウちゃん。あー、吐きそう」


「カァカァカァ」

「別のところから、穴を開けて出て来たのか」


 そうか。あいつらはキツネだった。そもそもが穴が好きだし、穴を掘るのがうまいやつらだ。

 ましてやそのキツネの魔物や魔獣。

 中に残っていた筈の3匹に洞穴の内部から穴を掘らせて、外に出て来たって訳か。



「エステル、しっかりしなさい。これはテウメーの魔法よ」

「精神を攻撃する幻惑魔法です」

「念話と同じ波長で、周囲に幻惑魔法をバラ撒いています。エステルさま、落ち着いて」


 後方から、いつの間にかシルフェ様たちが直ぐ側に来ていた。

 そうか、幻惑魔法は視覚だけじゃないんだな。ユニコーンが攻め寄せて来たと見て、こんな魔法を使ったのか。


「ザックさんの大結界で逃げられないと分かって、奥の手を出したのよ、きっと」

「これを受け続けると、どうも危ない気がします。ユニコーンたちもそろそろ限界みたいです」


 念話を通じた幻惑魔法はずっと続いている。

 ユニコーンたちの中には、膝を地に突いて蹲る者も出始めていた。

 クロウちゃんはシフォニナさんの姿を見ると、直ぐに飛びついて大きな胸に埋まるように抱いて貰っている。


「うぅー」

「おい、大丈夫か、イェルゲン」

「あー、ちょっと苦しくなって」


 獅子人族のイェルゲンくんも感度が高いのか、苦しそうに顔を歪め始めていた。


「ザックさま、凄く気持ち悪いですぅ。なんとかして」

「わたし、限界かもー。なんか口から出そうよー」


 エステルちゃんとライナさんを筆頭に、ジェルさん、オネルさん、アビー姉ちゃんも状態が徐々に悪くなって来た。

 男性陣ではファータの4人の様子がおかしくなって来ていて、人族の方も落ち着きがなくなっている。


 これはヤバいぞ。

 俺ひとりで走って、テウメーを倒しに行くか。しかし逃げ回られたら、この幻惑魔法が続きそうだ。

 キツネの魔獣も逃げた2匹と合わせて、まだ5匹がいる筈だし。


「ザックさん、急がないと、どんどん酷くなりそうよ。みんなを囲む防御結界を張れない? わたしの魔法障壁だと、念話を伝わって来る攻撃は防げなさそうなの」


 シルフェ様は、先ほどから魔法障壁を周囲に張ってテウメーの幻惑魔法攻撃を防御しようとしていたが、念話を媒介にする精神系の攻撃を防ぎきれないようだ。

 あとは、俺の呪法による結界か。結界で防げるのか?


「ザックさんの聖なる光魔法と合わせるのよ。そうしたら防御出来る筈よ」

「わかりました。やってみます」



 大結界の内部に、ここにいる皆を囲む二重結界を張る。

 こちらは大結界とは逆の作用で外部からの攻撃を防御し、更にシルフェ様の指示の通りに聖なる光魔法を合わせることによって、テウメーの精神攻撃の幻惑魔法を防ぐ。

 なかなか難しいぞ。それに俺も精神攻撃を受け続けて、多少は影響が出ている。


 かなりの精神統一が必要だ。

 まず初めに、胡座をかいて座りながら自分自身を護り落ち着かせる九字を切る。

 効果が足りないと言いながらも、シルフェ様が魔法障壁を張り続けてくれているおかげもあって、俺自身は平静を保ち始めて来た。


「我が大結界内に、ここに苦しむ者たちを護る結界を更に張る。聖なる光魔法と結界とが合わさることにより、皆に及ぶ邪な力を防ぎ、我が結界に護られる者の心と魂の安寧を呼び戻せ。臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


 俺は成立させたいイメージを呪法として完成させるために、少し長めの呪文を唱えた。

 九字が切られる。すると、通常は内側からだと、ぼんやりと視界が揺らぐ程度しか見えない筈の結界の壁が眩く光を帯び、そしてその光は一瞬大きく輝くと、やがて徐々に落ち着いて来た。


「ふぅー」

「はぁー」


 前屈みになって必死に耐えていたエステルちゃんをはじめ女性陣が、息を吐き出して崩れるように座り込む。

 男性陣も地に膝を突いたり座り込んだりしている。

 ユニコーンたちは相当に耐えていたのだろう。皆がみな、蹲るように崩れ落ちた。


 逆に俺は胡座から立ち上がる。

 いま立っているのは、俺以外ではシルフェ様とニュムペ様、そしてシフォニナさんの精霊3人だけだ。

 クロウちゃんはシフォニナさんの胸で小さく丸まっているけど、大丈夫? カァァ。


「みなさん、そのままでゆっくりと深呼吸をしなさい。やがて落ち着いて来ますからね。暫くはその場で動かないように」


 どうやら聖なる光魔法と合わさった二重結界は、うまく張れたようだ。

 シルフェ様の言う通り、暫く深呼吸をして精神を落ち着かせれば、元の状態に戻るだろう。

 だが、いま動けるのは俺と精霊様だけだな。



「テウメーを倒しに行きましょう」

「ザックさんなら、そう言うと思ったわ。行きましょう」

「わたしも行きます」

「もちろん、わたしもです。クロウちゃんは、ここで休んでいてね」


 3人の精霊様が一緒に行くと言い、シフォニナさんはクロウちゃんをエステルちゃんの側にそっと置いた。


「でも、この防御結界の外に出て、ザックさんは大丈夫?」

「ええ、僕にも多少は影響があるようですけど、先ほど同時に、自分の身体に三重目の結界を張っておきましたから」

「あなたったら」


 じつは二重結界ではなく、三重結界を張ったんだよね。

 三重目は自分の身体にへばりついて俺自身を護るもので、言われなければ誰にも分からない筈だ。


「エステルちゃん、俺はちょっと倒しに行って来るから、皆を頼むね。でもこの結界から誰も出しちゃダメだよ」

「はいぃー。お姉ちゃん、ザックさまをお願いしますぅ」

「安心して、エステルはここで休んでなさい」


「それでは行きましょう。超高速で行きますよ」

「わかったわ」

「付いて行きます」

「了解しました、ザックさま」



 俺と3人の精霊様は光を帯びた結界の外に出ると、宣言通り超高速で移動する。

 テウメーどもは探査の結果では洞穴の前の草原くさはらに、5匹のキツネを従えて陣取っているようだ。

 そこまでは僅か数百メートル。俺は縮地もどきで駆け抜け、瞬時に到達した。


「(おお、おまえは。妾の攻撃にも、怖れず向かって来るのかえ、人間)」


 甲高い念話の声が頭の中に響いて来る。ああ、このぐらいの魔物になると、話せるんだよな、やっぱり。

 後ろから追いついて来る精霊様たちの気配を感じながら、さて応答すべきかどうしようと俺は思うのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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