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第494話 行動開始

 部隊を3つに分け、それぞれの行動を開始する。


 まずはブルーノさんとティモさん、クロウちゃんにミルカさん、そしてアルポさんとエルノさんが加わった偵察分隊。

 要するにファータの現役と元の探索者に、この国で最高の斥候職と言われるブルーノさんと空から偵察出来るクロウちゃんのチームだ。


 子爵家内での立場的にはミルカさんがいちばん上だが、そのミルカさんがブルーノさんをリーダーにした。


「いえ、大先輩ですし、森や戦場での偵察ではブルーノさんには敵いませんから」


 アルさんからいただいた古代魔導具の雷撃の弓を、マジックバッグから出して背中に負ったブルーノさんは、森の中の戦闘力でも極めて高い。

 ティモさんも同じく、アルさんから貰った加速のショートソードを装備した。


 ブルーノさんの雷撃の弓は、キ素力を込めて矢を射ると雷撃を帯びて確実に狙った対象を射抜く、一撃必殺の弓だ。

 シルフェ様からいただいている風の精霊の加護によって、ブルーノさんは自在に矢の軌道を変えたり追尾させたりも出来るので、雷撃の弓と合わせると最早最強の射手と言っていい。


 ティモさんの加速のショートソードは、同様にキ素力を込めて振るえば人間の目では捉えることの出来ない速さで相手を斬り、投げれば光の速度で相手を貫くという。

 これは、不意を衝くような隠密攻撃が得意のティモさんに、まさにぴったりの剣だ。

 そういう意味では、アルさんはうちのレイヴンをちゃんと観察していて、古代魔道具をプレゼントしてくれたんだね。


「それでは行って来やす、ザカリー様」

「うん、頼む。皆もくれぐれも気をつけて」


 クロウちゃんが空に飛び立ち、ブルーノさんの指示で二手に分かれた偵察分隊は森の中に消えて行った。



 水の精霊屋敷には、アビー姉ちゃんとジェルさんにオネルさん。そしてウォルターさんとクレイグさんにメルヴィンさんとイェルゲンくんのグリフィニア組が残る。


 もしもの場合に備えてと、ジェルさんも魔道具武器を装備しておきたいと言うので許可をした。

 もちろん姉ちゃんとオネルさんもだ。


 ジェルさんは火焔の剣、そしてオネルさんは氷晶の剣だね。

 このふたつは姉妹剣のようなもので、火焔の剣はその名の通り火焔とともに、氷晶の剣は氷の斬撃で相手を斬る。

 人間相手であれば一撃必殺、魔物や魔獣相手でも多大なダメージを与えることが出来るだろう。


 そしてアビー姉ちゃんは、衝撃の剣だ。

 アダマントを鍛えて作られ黒く鈍く光るこの剣は、膨大な衝撃力をつくり出す。

 鋼の盾はおろか大岩をも断つということだが、姉ちゃんが鍛錬して来た強化剣術、そしてシルフェ様の風の加護と合わせると、この世界の剣としては最強なんじゃないかとさえ思ってしまう。



 3人がそれぞれ古代魔導具の剣を出して装備を終えると、その様子を見ていたクレイグさんたちが近寄って来た。


「それが、古代魔道具武器とザカリー様がおっしゃった剣なのか?」

「はい、騎士団長。ブルーノさんの弓とティモさんの剣もそうです」

「アビゲイル様の剣もですか?」


「そうだよ、ウォルターさん。詳しくは話せないんだけど、この夏にファータの里に行った時に、アルさんから貰ったのよ。ねえザック、どんな剣か話してもいい?」


「ああ、いいよ、姉ちゃん。ジェルさん、レイヴンが持っているのも簡単に話してあげて」

「わかりました、ザカリーさま」


 それで姉ちゃんとジェルさん、オネルさんがそれぞれの魔道具武器の説明をしてあげていた。


「なんと、そんなにもの凄い武器が5つも、我がグリフィン子爵家にあるのだな」

「最早、あなたたちレイヴンは、最強ではないですか」

「いえ、騎士団長、ウォルターさん。もっと凄いものは、あっちの3人が持っているのです」


 ジェルさんの言葉に、彼らは出発の準備をしている俺たちの方を一斉に見た。


「それは、どのようなものなんだ、ジェルメール騎士」

「ライナが持っているのは、重力を操る重力可変の手袋というものでして」

「重力可変の手袋?」

「それはどういう?」


「こういうのですよー」とそれを聞いていたライナさんは、片手に手袋を装着して精霊屋敷の特大の大きさのテーブルを床に平行のまま、片手でひょいと頭の上の高さまで差し上げた。


「こら、ライナっ」

「な、なんと」

「言葉で説明するより、この方が直ぐにわかるでしょー」


 実際にはこの手袋を装着して殴れば対象を粉々にし、更には重力を操作して空中高く跳び上がることが出来るという、極めて応用性の高い魔導具なのだが、そこまで説明する必要はないだろう。



「ふう、もう驚くことばかりだ。それでザカリー様とエステル様も、魔道具武器をお持ちということなのだな」

「どんなものなんですか? ジェルメールさん」


「えーと、あのおふたりのは、その、怖過ぎてわたしからはお話出来ません。ザカリーさまのご許可もないとですし」

「そ、そうなのか。それは聞きたい。いや聞いては拙いのだろうか」

「本人たちがそのうち話してくれるよ、クレイグさん」

「そうですか。わかりました、アビゲイル様」


 そんな会話が聞こえて来ました。まあ、話したり見せたりする機会があったらね。


 エステルちゃんの白銀と黒銀の双子のショートソードは、白魔法つまり聖なる光魔法と黒魔法をそれぞれ放つ魔法の増幅剣だ。

 要するに、聖なる光魔法と黒魔法が使えない者にとっては、ただのと言ってもそれはそれでとても稀少ではあるのだが、斬れ味の鋭いミスリル製の剣でしかない。


 黒銀を振るえば、強大な黒魔法によって斬った対象は粉々に粉砕され、そして塵のように消え去って行く。

 白銀は聖なる光魔法のビームを放つ。その強烈なビームは対象を消滅させるが、反対に浄化させたり、極めて強い回復魔法効果ももたらすことが出来る筈だ。

 ただその効果はまだ試したことがない。


 聖なる光魔法と黒魔法という、およそ人間の世界ではその存在すらほとんど知られていない魔法の増幅剣だから、この白銀と黒銀という2本のショートソードを正しく説明するためには、エステルちゃんがその魔法が出来るという話もしなくてはならなくなるんだよね。


 また、俺が所持しているのは、直刀の大刀たちである叢星そうせい、別名むらほしの刀。

 月と冬の男神ヨムヘル様がおっしゃられるには、断てないものはなく、不死をも断つという、時空を渡って来た刀だ。

 最早、古代魔道具などではなく神刀で、ジェルさんが自分の口から話せないと言ったのも良く分かる。



 水の精霊屋敷に残るチームには、野営の準備をして貰うことにした。

 当初は地下拠点までいったん引揚げて泊まることを想定していたのだが、迅速な作戦行動のためにここで1泊することにしたのだ。

 第2期工事で考えていた、地下拠点とこの水の精霊屋敷とを結ぶ地下トンネルがあればまた別なのだが、現状は仕方が無い。


 精霊屋敷に17名もの人数が宿泊するのは難しいので、シルフェ様とシフォニナさんは屋敷内に泊まっていただくとして、人間たちは野営ということにする。

 それで、屋敷を囲む池の外側に野営テントを張って、ジェルさんたちに準備をして貰う。

 3つあるマジックバッグのうちのひとつには、こういう時のために大量の野営道具を入れてあるからね。


 ウォルターさんとクレイグ騎士団長は、野営準備という仕事が出来て何だか嬉しそうだった。

「こういう時にこそのマジックバッグですな」とか言って、ジェルさんとオネルさんが次々に出して行くテントその他の備品を嬉々として点検している。

 現在の立場になってからは、このような仕事を自らすることのないふたりだから、却って喜んでいるのかもね。



 その様子を見ながら、俺たちユニコーンの安否を確認するチームも出発することにした。

 メンバーは俺とエステルちゃん、ライナさんに、シルフェ様とシフォニナさん、そしてニュムペ様だ。

 ユニコーンの一族が逃げ込んだ隠し退避場所への道案内は、アルケタスくんに任せる。


「よーし、それでは出発しようか。みんないいかな? アルケタスくんは大丈夫か?」

「いいわよー」

「(大丈夫っす。もう走れそうすよ)」


「おっけー。では、行って来ます」

「お気をつけて」

「行ってらっしゃい」


 留守番チームとネオラさんたち水の精霊さんに見送られて、俺たちは出発した。




「どっち方向? アルケタスくん」

「(3ヶ所ほどあるんすけど、たぶん、妖精の森にいちばん近いこっち方向すね)」

「ニュムペ様のところのなるべく近くに、ということか」

「(そうだと思うんすよ)」


 アルケタスくんが目指しているのは、水の精霊屋敷から南東の方向だ。

 あと北と北東方向にも緊急時の退避場所があるらしいが、ナイアの森の北東から東方向にはテウメーの拠点があるのではないかと、ユニコーンたちも考えているそうだ。

 ただし、しょっちゅう拠点を移動させるので、なかなか正確な位置を掴むことが出来ないとのこと。


「(少し走りたいんすけど、いいっすか?)」

「いいけど、大丈夫か?」

「(大丈夫っす。走れます)」


 そしてブヒヒンと声を出すと、アルケタスくんは走り出した。馬で言えば駈歩、つまりギャロップ程度の速さだ。

 もちろん俺たちは問題ない。精霊様たちは走るというより飛んでいるしね。

 ニュムペ様は地下水脈に潜った方が速いらしいが、目的地を知らないので一緒に飛んでいる。このぐらいのスピードなら問題ないそうだ。


 それで、あっという間に迷い霧の内側の縁に到着した。

 霧の中はアルケタスくんもやや慎重に進んで、霧の壁を抜けると再び走り出す。



 森の中を南東方向に5キロメートルほど進んだだろうか。アルケタスくんが停止した。

 そして辺りを伺い、匂いを嗅いで探るようにフンフンと鼻を鳴らす。


「あれって、匂いでわかるのかしらー」

「フンフン、そうですねぇ、なんだかユニコーンたちの匂いがする気がします」

「えー、エステルさまもわかるのぉ?」


「エステルはほら、あの地下洞窟の時に練習したからよ」

「あのときは、参りましたですよぅ」


 そういえばそうだった。

 風の精霊は風に乗って流れて来る匂いに敏感で、それで探査とかも出来るのだけど、エステルちゃんは王都の地下洞窟で訓練したんだよね。

 レヴァナントの臭さに鼻が潰れそうになっていたけど。


 そのときアルケタスくんが、ヒヒーンと抑えた嘶き声を上げた。


 ユニコーンは奇蹄類の馬ではなく、偶蹄類の鹿や山羊とかの仲間だという議論が前世の世界ではあったけど、それを言えば尻尾は分類上ぜんぜん違うライオンだ。

 長く伸びた額の角は、確かにイッカクという哺乳類の海の生物を連想させるが、このイッカクは鯨偶蹄目で、同じクジラは偶蹄目のカバと共通の祖先を持つらしいから、なかなかややこしい。


 アルケタスくんの角を除く頭部、胴体の見た目や嘶き声を聞くと、どう考えても馬の方が近いのだけどね。

 物知りクロウのクロウちゃんに、その辺のところを今度聞いてみよう。



 そんなこの場に必要のないことを考えていると、森の木々の間から2頭のユニコーンが気配を消すようにしながら静かに現れた。


「(アルケタスかや。おんし無事だったか)」

「(心配しよったぞ)」


「(僕は何とか大丈夫っす。おやじさまたちもこっちっすか?)」

「(おおよ、とにもかくにも、こっちに全員逃げ込んだで)」

「(それよりも)」


「(そうっす。ニュムペさまとシルフェさま、ザカリーさまもお連れしたっすよ)」

「(おおーっ)」


 ユニコーンの2頭は、ニュムペ様たちの姿を確認すると前足の膝を折って地に着け、深く頭を下げた。

 どうやら、ユニコーンの一族は全員無事のようだ。まずはひと安心だね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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