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第2話 俺の家族

 さんざん俺をあやした母さんは、侍女ちゃんを連れて出て行った。いまは乳母さんが部屋の隅に置かれた椅子に座り、編み物をしながら俺を見守ってくれている。

 さて、静かになったので現状認識の続きでもしましょう。


 俺の両親の名は、父親がヴィンセントで母親はアナスタシアだ。お互いはヴィンス、アンと呼び合っている。

 あと俺には姉がふたりいて、上の姉がヴァネッサで下がアビゲイル、ヴァニーとアビーだね。

 ヴァニーは4歳でアビーが2歳、そして俺がゼロ歳だからそれぞれ2歳ずつ違う。姉が父親と同じヴの音で始まる名前で妹は母親と同じアの音で始まるから、3人目の俺はおそらくヴの音で始まる名前を考えていたのだろうけど、まさかのアルファベットで言えばZで始まるザカリー。

 家族のちょっとしたしきたりを壊したアホ女神サクヤのせいだ。


 それはともかくとして、3人の子供がいるヴィンス父さんはまだ27歳で、アン母さんはなんと21歳らしい。乳児の俺には両親の正確な年齢を知ることはできないのだが、これまでに感知した周囲の会話や把握したふたりの状態から、どうもそうらしい。

 まあ、前世にいた時代の世界でもそうなんだけど、子供は早いうちに産むのが普通なんだよね。

 とはいえ、29歳×2=魂年齢58歳の俺にとっては、まるで息子と娘のようなものだ。特にアン母さんはとても美人だしスタイルも良くて、そのくせ無邪気な性格が可愛くて、いろいろ気恥ずかしいです。

 ヴィンス父さんは、まあまあのイケメンで誠実そうで教養もある感じだけど、背が高くガタイが良くておそらく基本は脳筋だ。たぶんだけど。


 転生するときにサクヤが「ちょっとした貴族?」と言っていたけど、わが家は正真正銘の貴族らしい。なんで疑問形だったかな。

 家の使用人か部下の誰かが、ヴィンス父さんを「子爵様」と呼ぶ声が把握できたことがあって、おそらくそうなのだろう。前世の世界での子爵は中級か下の上の貴族で、小さな地方か町くらいを領しているのが一般的だが、こちらの世界もそんなものだろう。

 ということは父さんと母さんが子供たちと暮らしているこの家は、ヴィンス父さんの領地にある領主館ということかな。


 あとは使用人たちだが、俺が現在、直接把握しているのは乳母のベラさんに侍女のシンディーちゃん。さっき母さんと一緒に来た子だ。

 あと、執事というか家令のウォルターさん。彼も背が高くてガタイの良さげなおじさま。

 家令ハウススチュワード執事バトラーは、厳密には違うんだよね。ハウススチュワードは館の管理全般を行い、バトラーはその下で使用人の統括を行う役目。代々その貴族に仕えている家令さんと使用人から叩き上げた執事さん、という感じ。

 わが家ではウォルターさんが家令と執事の両方を兼任しているみたいだけど。


 それから、家政婦長ハウスキーパーのコーデリアさん。ちょっとふくよかでいつもニコニコしているけど、怒ると怖いらしい。シンディーちゃんが何かヘマしてこっぴどく怒られたらしく、ベラさんにウソ泣きで話していた。

 シンディーちゃんは13歳くらいで明るくて可愛いんだけど、よくヘマをするみたいだ。ウソ泣きはすぐに分かるのだよ、このゼロ歳児には。


 そんなことを考えていると、パタパタと何かがこの部屋に近づいて来るみたいだ。

 パタンとドアが空いてふたりの幼女が飛び込んで来る。姉さんたちか。

「ザッキュぅ、ザッキュぅ」

「こら、ザッキューじゃなくてザックでしょ」

「だからザッキュぅだよ、ザッキュぅ。えへ、可愛いなぁ」

 と小さいほうが短い手を伸ばして、俺をペシペシ叩こうとする。こらこら、叩くんじゃありません。


「アビー、ザックを叩いちゃだめよ」と、ヴァニー姉さんがアビーの腕を引っ込めさせる。さすがお姉ちゃんだ。

「むー、だってザッキュぅに触りたいんだもん。ザッキュぅをダッコしちゃだめ?」

「まだ赤ちゃんをダッコするのは無理ですよ。アビゲイルお嬢さま」

 ベラさんがやんわりと窘めてくれた。やれやれ、こんな2歳児にダッコされたら床に落とされるに決まってる。

 アビーはやんちゃで、ヴァニーは長女なだけあって4歳なのに落ち着いている。


「ねえねえ、ザッキュぅてなんか老けてるー?」

 アビーがまたなんか言っている。感の鋭い子だ。

「老けてるって、何言っているのよ。んー、でもそう言われてみると、あんまり赤ちゃんぽくないかなぁ。大人びている? というか」

 お姉ちゃんも何をおっしゃっているのですか。仕方ない、ちょっと笑うか。「キャハハ」

「ザッキュぅ、笑ったぁ」アビーがまた手を伸ばしてペシペシ叩こうとする。

 いつか俺が、おしりとかをペシペシしてやろう。

 このふたりが俺の部屋に来ると、いつもこんな感じだ。まあヒマつぶしにはいいのだけれど。


 しばらく幼女たちが騒がしくわちゃわちゃして、ときどき俺がキャハハと合わせてヒマをつぶしていると、侍女のシンディーちゃんが姉さんたちを呼びに来て、パタパタと去って行く。

 ちなみにこの間、おしめをベラさんに替えてもらった。こら幼女たち、首を伸ばして覗き込むのはやめなさい。


 再び静かになる俺の部屋。

 もうそろそろ俺の食事の時間だ。とは言っても、まだ乳離れのしていないゼロ歳児。母親のアンが授乳してくれるのだけれど、いまだにちょっと気恥ずかしい。というか、半年近くになってますます気恥ずかしい。

 そろそろ離乳食を食べ始めても良い頃のはずなのだが。

 どうも産まれた当初は、転生した魂と赤ん坊の脳や肉体とのマッチングがゆるやかに進んでいる時期で、どちらかというと新生児としての本能というか、肉体に刻まれた遺伝子からの指示が優先されていたのだけれど、近頃ようやく擦り合わせの完了が近くなって、俺の意識や記憶、つまり自我が明確になってきたようだ。


 そういえば前世でも、サクヤがこっそり現れたのはこんな時期だった気がする。サクヤはまた来るのかな。

 来るとするとほかの家人には見えない侍女姿? いやさすがにこの異世界にまでは来ないんだろうな。

初投稿作品です。

お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴメン、アビゲイルの名前で思い浮かぶのがバスタードという漫画のオッサンなのだか(笑) たしか、アビーって呼んでみたいな描写があったような覚えが・・・
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