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第485話 重鎮たちの来着

 到着したクレイグ騎士団長とウォルターさんにはラウンジで寛いで貰い、メルヴィン騎士たちは馬車と馬を馬車庫と厩舎の方へ引いて行った。


「これは、シルフェ様、シフォニナ様、アル殿。久方振りでございます」

「暫くこちらに滞在させていただきますぞ」


 ラウンジには例によって人外のお三方がいるので、うちの重鎮ふたりが腰を低くして挨拶する。

 このふたりは、もちろんシルフェ様たちの正体を知っている。

 それにしても、滞在させていただきますとかクレイグさん、このお三方は王都屋敷の住人という認識なんですかね。



 暫くして、レイヴンメンバーと一緒にメルヴィン騎士たちもラウンジにやって来た。


「さあさ、イェルゲンさんもこちらに座ってくださいな。お疲れになったでしょ」

「あ、はい、あの、エステルさま。私はここで立って……」

「遠慮しなくていいんですよ。座らないのが、あなただけになってしまいますからね」


 エステルちゃんにそう言われて、イェルゲンくんはどうしたらいいのかと、騎士団長やメルヴィンさん、ジェルさんなどの顔を交互に見ている。


「イェルゲン、この屋敷では良いのだ。ザカリーさまとエステルさまの方針だからな」

「あ、はい。ジェルメール騎士殿」


「イェルゲンくんは固いわねー。ジェルちゃんのことは、ここではジェルさんとかでいいのよー」

「イェルゲンくん、それでいいのよ。エステルさまのお言葉に甘えさせて貰いなさい」

「はい、ライナさん、オネルヴァ従騎士殿。いや、オネルヴァさん」


 クレイグ騎士団長は、何も言わずにニコニコしているだけだ。

 メルヴィンさんが「王都にいる間は王都屋敷に従えだ。お言葉に甘えろ」と、イェルゲンくんを促して座らせた。

 それって、郷に入れば郷に従えって意味だよね、クロウちゃん。カァ。



 皆がそれぞれに座って落ち着いたのを見計らって、少年少女たちが紅茶にグリフィンプディングとグリフィンマカロンが付いたダブルセットを運んで来た。

 今日は午前に続いて2回目じゃないの?

 シルフェ様やエステルちゃんたちにもちゃんと運ばれている。あ、俺の分もあるんですね。カァ。


「この娘さんは?」と、ウォルターさんが目敏くシモーネちゃんに気付いた。


「あら、ご紹介しないとだわ。この子はうちから連れて来た子で、この春からお屋敷で侍女見習いをさせていただいていますの。シモーネ、グリフィニアの皆さまにご挨拶なさい」

「はい、シモーネでしゅ。えと、お屋敷で侍女見習いをさせていただいてる、風の精……」


「いいのよシモーネ。この方たちはご存知ですからね」

「はい、シモーネです。お屋敷で侍女見習いをさせていただいてる、風の精霊見習いです」


「おお、それはそれは。王都屋敷は楽しいですかな?」

「はい。ザックさまとエステルさま、お屋敷の皆さまはとてもお優しいですし、先輩たちと一緒にお仕事が出来て、シモーネは毎日楽しいです」


 うんうん、うちの子は可愛いなぁ。

 少し噛んだり、自分が精霊と言っていいのか迷ったみたいだけど、しっかりご挨拶が出来ました。


 ところで、うちに精霊様やドラゴン爺さんがいる点については、イェルゲンくんは今回、王都屋敷に来るにあたってメルヴィンさんとミルカさんから良く言い含められて来たようだ。

 彼は、昨年の父さんたちの護衛では来ていないからね。


 なので、酷く仰天するようなことは無かったが、逞しくなった身体を縮こまらせて静かに座っている。

 まあ、ブルーノさんとかが、ゆっくり解して行ってくれるでしょう。



「これは、もしやして、ザカリー様の新作のお菓子でありますかな」

「ほう。なかなかに美味です。口の中で蕩けます」


 うちの重鎮のおっさんふたりがグリフィンプディングを口にしている図もなんなのだが、まあ美味しく食べていただけるのならいいでしょう。


「これもまた、グエルリーノが販売させてほしいと言って来ますな」

「あー、そうかも。カロちゃんからはもう、当然に情報が行ってるだろうしね」

「許可してよろしいのですかな、ザカリー様」


「あ、ぜんぜんいいよ。多少なりとも、うちの収益の足しになればいいから。そうか、これはトビーくんも知らないから、まずは彼に教えないとだよね」

「アデーレさんに、レシピと作り方をまとめておいて貰いましょうか、ザックさま」

「そうだね。お願いしといて、エステルちゃん」


 まずは、グリフィニアの屋敷でトビーくんが作れるようにしないと、みんなからブーイングが起きるよな。主に、母さん姉さんや侍女さんたちから。

 ソルディーニ商会にレシピを渡して、製造販売許可を出すのはその後だね。


 ウォルターさんの話によると、今年からまずはグリフィン子爵領内で販売が始まり、近ごろは王都でも売り出されたグリフィンマカロンは、それなりに結構な売上げになっているそうだ。

 当然、収益の一部がライセンス料として入るので、グリフィンマカロンは俺が金銭的に子爵家に貢献した第1号という訳ですな。




 クレイグ騎士団長とウォルターさんの今回の王都来訪は、第1期建設工事が完成したナイアの森の地下拠点施設を、騎士団と調査探索部の両トップが検分するというのが目的だ。


 あの地下拠点は、管理の所管としては秘匿施設という性格上、調査探索部のものとなっている。

 そして実際に使う際は騎士団が主体となるから、施設管理は調査探索部、施設運用は騎士団という区分になる訳だね。


 更に俺が王都にいる間は、騎士団と調査探索部の王都での指揮権は俺に与えられているから、その理屈からすると地下拠点施設の王都における管理運用責任者は俺ということなのですな。


 ともかくも、管理と運用を行う両組織の長が、施設がどう完成したのかを直接見て検分するのが来訪目的なので、早速に明日朝から現地に行くことになった。

 それだけを決めるとそのあとは、ふたりのおっさんはエステルちゃんやジェルさんたちと雑談を楽しんでいる。


 しかしこの、腹に一物どころか二物も三物もありそうなグリフィン子爵家の重鎮ふたりが、それだけのことでちょっと旅行がてら王都に来たということはない気がするよね。

 ただ、到着直後のいまは何か言い出す様子もないので、のんびり寛ぐに任せておいた。



 夕方の夕食前になって、アビー姉ちゃんが屋敷に帰って来た。

 クレイグさんとウォルターさんの来訪予定は報せておいたのだが、今日は姉ちゃんの課外部で休日練習を予定していたとかで、それを終わらせて来たそうだ。


「聞きましたぞ。アビゲイル様は、総合戦技大会の出場を今年は辞退されたそうですな」

「うん、そうなんだ。去年に優勝したし、もういいかなって。出た方が良かったかな」


「それはそれで、アビゲイル様のご決断の結果です。あとは他の学院生に任せるということも、良いご判断でしょうな。ただ、私は昨年に勇姿を見られましたが、ウォルターは結局見られないままで、残念でしたなぁ。はっはっは」


「いえいえ、別の機会がありますよ。きっと」

「おお、悔しがりだなぁ、ウォルターは。それにしても、今年の大会ではザカリー様が模範試合に出られたと伺い、そちらが見られなかったことがとても残念でなりませんぞ」


「半月前にこちらに来るのは。さすがにそれは無理でしたなぁ」

「そうよな。試合の様子を伺うと、尚更に残念無念」



 夕食は一同で一緒にいただく。


 近ごろは複数人の来訪者が多いので、従来の食堂とそれから続き部屋になっている隣室をひと続きに開放して、食堂の空間を拡げて使っている。

 以前からあった大テーブルを始め、いくつかのテーブルを配置しているので、ちょっとしたレストランのようになってしまいました。


 大テーブルでは俺とエステルちゃん、それからシルフェ様とシフォニナさん、アルさんの席は決まっていて、たまにしかいないアビー姉ちゃん、それからジェルさんたちはその時々に応じて自由に座っている。

 配膳の仕事をする少年少女組とアデーレさんは、だいたい別テーブルだよね。


 今日はクレイグさんにウォルターさん、それからメルヴィンさんとミルカさんも大テーブルに着いて貰う。

 イェルゲンくんは、ブルーノさんとティモさんが落ち着かないだろうからと、自分たちと一緒のテーブルに座らせていた。

 皆が共にする食事にも彼は酷く驚いて恐縮していたが、王都にいる間は王都屋敷に従え、ですよ。


 あとから本人に聞いたのだが、この夜は宛てがわれた宿舎の自室に入った時に、自分自身が感じていた以上の緊張感から解放されて腰が抜けそうになったそうだ。


 まあ普通は、騎士団の従士が領主貴族家の者と同じ空間で食事をすることなどあり得ないし、ましてや精霊様とかドラゴン殿とかも一緒なのだ。

 そういう意味では、レイヴンの皆はすっかり慣れている日常のこととはいえ、緊張感がなさ過ぎだよなぁ。


 いつも夕食後は自由時間なのだが、俺はブルーノさんに騎士団分隊宿舎の方でイェルゲンくんに飲ませてあげてよと、屋敷にストックしているお酒を持って行って貰った。

 ティモさんとアルポさんやエルノさんも加わって、軽く飲み会をした筈だ。


 一方で、クレイグさんとウォルターさん、メルヴィンさんとミルカさんは、屋敷に残ったメンバーとでワインなどを飲みながら寛いで貰う。

 夜が苦手の精霊様ふたりに、どんなに強いアルコールを身体に大量に入れても決して酔うことのないアルさんも付き合ってくれて、その夜は早めに解散となった。




 翌朝の朝食後、アルポさんとエルノさん、少年少女たちに留守番を任せて、人外のお三方も加えてナイアの森に向かう。馬車が2台に騎馬が6頭の一行だ。

 俺はなんとなく、クレイグさんとウォルターさんが乗車する騎士団の馬車の方に乗った。


「ザカリー様はこちらの馬車でよろしかったのですか?」

「うん。ほら人数の釣り合い的にさ」


 それでもうちの馬車には5人で、こっちが3人だからね。


「ザカリー様は、自由で気侭で、よろしいですなぁ」

「そんなことないよ、クレイグさん。たいていのことは、エステルちゃんとジェルさんに許可を貰ってるし、勝手に何かすると叱られるんだよ」

「そうですか、それはそれは」


 おじさんふたりは何故か嬉しそうだ。まあ、こっちに乗車するとしたら俺しかいないでしょ。

 エステルちゃんにさっきそう言ったら、「そうしてあげてください。おふたりも喜びますよ」とあっさり許可が出ました。

 別に今更、このふたりを喜ばせてもどうなのかと思うけどね。


 それよりも、せっかくだからあの話をしておこう。昨日は話題に出さなかったからな。


「昨日は話さなかったのだけど、この前、うちの屋敷に辺境伯家のヴィクティムさんとベンヤミンさんがいらしてね」

「ほう」

「それはそれは。詳しくお聞きしましょうか」


 案の定、食いついて来ました。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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