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第484話 先生たちの来訪と少女時代のライナさん

 学院生活も通常運転に戻った。

 そして次の2日休日を前にして、予定がふたつ入ったのだ。


 ひとつは、先生たちのうちの屋敷への来訪予定。

 総合戦技大会中に、ライナさんとクリスティアン先生が古い知り合いだったことが判明して、先生にいちど屋敷に来ていただいてお話したいと言ったことから、こんどの休日1日目に屋敷を来訪することになったのだ。


 すると、ジュディス先生とフィロメナ先生も特訓のお礼にご挨拶に来たいということで、そこにディルク先生も加わって4人で来ることになった。

 午前中にいらっしゃるそうだから、これはお姉さん先生ふたりがうちでランチをご馳走になりたいという魂胆だな。まあ、ぜんぜんいいですよ。



 それからもうひとつは、反対に屋敷のエステルちゃんから報せがあった。

 クロウちゃんが伝言に加えて、彼女からのお手紙も持って来てくれる。


 えーと、なになに。地下拠点の第一期建設工事が完成したということで、グリフィニアから検分にやって来るのですか。

 ダレルさんとミルカさんがグリフィニアに帰着した際の報告を受け、直ぐに検分したいということになったのですな。

 そして来るのはなんと、クレイグ騎士団長と家令で調査探索部長のウォルターさんの重鎮ふたりだ。


 到着予定は、こんどの休日1日目の午後となっている。

 先生方の来訪とは微妙に重ならないからいいけど、学院が通常運転に戻った早々の休日なのに、なかなか慌ただしいではありませんか。

 先生方に日程をずらして貰おうとも思ったが、来る気満々だったのでそのままにしておきました。




 そして当日の午前、先生たちが屋敷にやって来た。

 エルノさんに案内されて玄関ホールに入って来たのは5人。あれ、ボドワン先生も一緒に来られたんですね。


「やあ、先生方、いらっしゃい。ボドワン先生もご一緒されたんですね」

「さあさ、どうぞこちらに。ボドワン先生も良くお越しくださいました」


 ボドワン先生もグリフィン家の家庭教師から、今年に学院の神話と歴史学の教授になって王都屋敷にも遊びに来たいと言ってたのだけど、その機会を逃していたからね。


「おはようございます。朝から押しかけてごめんなさい、エステルさま」

「こちらになかなか来られなかったのですが、本日行くとクリスたちから聞いて、便乗してしまいまいました」


「そうなんですね。それはそれは。大歓迎ですよ」


 玄関ホールではジェルさんたちお姉さん方3人も待機していて、先生たちを出迎えた。

 ちなみにブルーノさんとティモさんは、グリフィニアから地下拠点施設の検分に来るというので、現地に異常や不具合などがないかナイアの森に確認に行っている。

 ここのところ、誰も行っていなかったからね。


「まずはエステルさまと、それからジェルさんたちに、わたしたちの特訓と先日の模範試合での審判をしていただいたお礼を言わせてください。このたびは、ありがとうございました」


 ジュディス先生が代表でそう言って頭を下げ、先生たちも並んで礼をしてくれた。


「まあ、そんなこと。ザックさまがお世話になっている先生方ですからね。さあ、こちらのラウンジでお寛ぎくださいな」

「わたしどもも、楽しませていただきましたからな。お礼など結構です」



 ジュディス先生とフィロメナ先生はだいぶ慣れて来ていたが、クリスティアン先生とディルク先生は初めての来訪でかなり緊張しているようだ。

 うちのことを良く知っているボドワン先生が、「分け隔てなくざっくばらんなのが、グリフィン子爵家の家風ですよ」と声を掛けて、ふたりを促した。


 それで皆さんはラウンジに腰を落ち着けていただく。

 朝食のあとで寛いでいる人外の3人の方たちとクロウちゃんのことは、気にしないでくださいな。

 ボドワン先生はご存知でしたよね。あとの男性の先生ふたりには、いちおうご紹介をしておきましょう。


 少年少女たちが例によって、グリフィンプディングとグリフィンマカロンのダブルセットを紅茶とともに運んで来る。


「わー、やったー。学院祭で行けなかったから嬉しいわ」

「話だけ聞いていましたからね。審判員なのが悔しかったのよ」


 剣術学と魔法学の教授は、総合戦技大会の審判員の仕事があるので、学院祭をなかなか見て廻れない。

 試合の無い午前中も、今年の魔法侍女カフェはいつも満員だったしね。


「クリスティアン先生、遠慮とかしなくていいのよー。ここは他の貴族屋敷と違って、こんな感じだから」

「そうなんですね、ライナさん。それではお言葉に甘えて。いや、自分のクラスの出し物のお店にも満足に行けなくて。でも私は、事前の試食でザカリー君からいただいていたんですよ」


「そうだったのねクリス」

「なんだかずるいわ」

「これがザカリー君考案のお菓子ですか。なかなか美味しいし、口当たりが初めての感触だ」


 ボドワン先生も学院祭中は来られなかったようで、嬉しそうだ。

 無言で食べているディルク先生は、甘い物は大丈夫ですか? でも先生たちの緊張はだいぶ解れたみたいだね。




 それから、少女時代のライナさんとクリスティアン先生との出会いの話になった。

 先生が初めて、ライナさんの父上が治めるアルタヴィラ侯爵領のバラーシュ村を訪れたのは、彼が魔導士としてアルタヴィラ侯爵家騎士団に入団して直ぐの頃だったのだそうだ。

 そしてライナさんは、まだ8歳だった。


 先代のバラーシュ騎士爵であるライナさんのお爺さんは、先の北方15年戦争に魔導士部隊を部隊長として率いて参戦した。

 そしてあるとき、孤立して敵の大部隊に襲われたところを、自家の従士部隊だけで防ぎながら魔導士たちを撤退させた。

 魔導士は通常、接近戦が苦手だから、その部隊で唯一接近戦が闘える自分と従士が盾になったんだね。


 結局、自家の従士もなんとか逃がし、殿しんがりを務めたお爺さんだけが戦死した。

 この話は、アルタヴィラ侯爵家騎士団、特に魔導士たちには深い感謝と敬意を持って受け継がれている逸話なのだ。


 戦後、バラーシュ村では村の子供たちが8歳になると、騎士団からやって来る魔導士に魔法適性を見て貰うのが伝統となった。

 普通は騎士団の魔導士はそういった仕事をしないから、これはとても異例だ。

 バラーシュ騎士爵家への恩返しということなのだろう。


 そして、戦死したお爺さんの孫であるライナさんが8歳のときに村に来たのが、クリスティアン先生だった訳だ。



「いまだったら、何のこともないんだけどー。わたしの魔法適性が土だって先生に言われて、凄く落ち込んだのよねー。だって、わたしのお婆ちゃんも騎士団の魔導士だったし、家の皆も村中の人たちも、わたしに期待してたのよ」


「私も良くは分からなかったのですが、キ素力は大人以上に豊富に扱えるのに、火も水も風もどうも弱々しくて。でも魔法適性は確かにあると思いまして、分からないながらに土魔法を試して貰ったんです。そうしたら、初めてだというのにいきなり土の壁が立ち上がって。これには私も驚きました」


 一般に土魔法の知識や能力を持っている人間は、この世界では極めて少ない。

 そして、土魔法は攻撃魔法にはならず、役に立たないと思われているのだ。

 なのでおそらく、土魔法使いではアルタヴィラ侯爵家騎士団の魔導士にはなれなかったのだろうね。


 それでも独学で土魔法の練習を続けていたライナさんが、クリスティアン先生と再会したのはそれから3年後だった。

 3種類の元素魔法が扱える先生は、請われてセルティア王立学院の教授になるため、騎士団を辞めて王都に向かう途中にバラーシュ村に立ち寄り、ライナさんに会いに来てくれたのだ。



「いや、僅か8歳の女の子が、初めて使ったという土魔法で土壁を立ち上げたのを見たのが、とても気になっていましてね。あれから何もしていなかったら、それはそれで仕方がない。でも、もしその土魔法が成長していたのならと。それでお願いしてやって見せて貰ったら、地面にとても大きな穴がいきなり空きましたよ。はっはっは」


 ライナさんが得意の一瞬での大穴空けは、その頃から出来ていたんだ。

 それも、誰にも教えて貰うこともなく独りで覚えて練習して完成させていたのだから、ライナさんらしい。


「そのときに、先生の学院時代の後輩だった奥さまのことと、魔導士の間では有名なダレルさんの話を聞いたのよねー」


 天才魔法・元少女のアン母さんは今年に御歳34歳だから、学院生時代の母さんの先輩というとクリスティアン先生は35、6歳かな。

 そうすると当時は23、4歳で、騎士団の魔導士から学院の魔法学教授に転職した訳だね。


「それでねー。それから何日か経って、グリフィニアに行くために家出したのよねー」


「ライナっ、おまえ、11歳とかで家出したのか」

「11歳の年の暮れに、グリフィニアに来たっていう話は聞いてましたけど、家出して来たというのは初めて知りましたよ」

「ライナ姉さん」


 この世界では12歳ぐらいで仕事に就く者が多く、大人の一員に看做され始めるから、家を出るのはそれほど珍しくはない。

 でも、遠く離れたアルタヴィラ侯爵領のバラーシュ村からグリフィニアまで、11歳の女の子がひとりで旅をするのはそう滅多にはないと思う。

 しかし、それが家出というのは俺も初めて聞いたよ。エステルちゃんたちも知らなかったんだね。



「まあ、そんなものよー」

「そんなものって、家の方は誰も知らないのか」

「お婆ちゃんにはちゃんと話したの。それで、お金もたくさんいただいて。じゃないと、バラーシュ村からグリフィニアまでなんか来られないわよー」


「私がライナさんとお会いしたから、そんなことに」


「クリスティアン先生のせいじゃないですよ。いえ、そうじゃなくて、先生にはとても感謝してるんです。先生に魔法適性を見ていただいて、それから奥さまとダレルさんの話を聞かせて貰わなかったら、いまのわたしはないですからね。グリフィニアに行って、冒険者になって、直ぐにダレルさんにも奥さまにも、それからちっちゃいザカリーさまにも会うことが出来たんですから」


 実際に魔法を教えて貰った訳ではないけれど、彼女の達人魔法使いとしての人生のきっかけを作ってくれたのがクリスティアン先生。

 だから彼は、ライナさんの最初の師匠と言ってもいいんじゃないかな。


 2番目の師匠が、ついこの間まで一緒に地下拠点造りをしていたダレルさん。

 そして3番目は、いまそこで興味深そうにライナさんとクリスティアン先生の話を聞いているドラゴンの爺さんだね。


 幼い頃のクリスティアン先生との出会いと家出から始まって、この世界で最高クラスと言っていい人外の魔法の師匠まで辿り着いた訳か。

 思い切った選択とその後の努力が、こういう人生の道になるのは不思議だし面白い。


 それから暫く歓談し、模範試合のことなどでも盛り上がって、屋敷に初めて来た先生たちが見たいというので訓練場などを案内し、皆で楽しくランチを食べて帰って行った。




 朝早くナイアの森に行っていたブルーノさんとティモさんも屋敷に戻って来ていて、皆で寛ぎながら今度はグリフィニアからの重鎮ふたりの到着を待つ。


 すると程なくして、「到着されましたぞ」とアルポさんが報せに走って来てくれた。

 それで皆で玄関前まで出て出迎える。

 グリフィン子爵家騎士団の紋章を付けた馬車が1台に騎馬が2頭か。ずいぶんと少人数の一行で来たんだな。


 えーと、騎乗はメルヴィン騎士にミルカさんだね。ミルカさんはつい先月までいてグリフィニアに戻ったばかりなのに、本当にご苦労さまです。

 あと馬車の御者役は、あの獅子人の姿。イェルゲンくんじゃないか。


 俺や姉さんたちが騎士団見習いと一緒に剣術の訓練をしていた時に、オネルさんが最年長でイェルゲンくんがその直ぐ下だったんだよね。

 アラストル大森林での特別訓練へも一緒に行って、騎士団見習いを卒業後はそのまま騎士団に入団して従士になった。

 オネルさんよりひとつ歳下だから、いまは19歳ぐらいになったんじゃないかな。



「いやあ、何ごとも無く到着しましたぞ。わっはっは」

「暫くご厄介になりますよ、ザカリー様、エステル様」


 グリフィン子爵家の重鎮ふたりが馬車から降りて来た。

 ウォルターさんの第一声からすると、暫くは滞在するつもりなのかな。

 彼は昨年の父さんたちの王都来訪では留守番だったし、こちらに来るのは俺が学院に入学したとき以来だよね。


 到着した5人はイェルゲンくんも加えて皆、俺に馴染み深い人たちばかりだけど、さてこれから何があるんでしょうかね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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