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第46話 アプサラ行き家族旅行に出発

 さて、いよいよ港町アプサラに出発の日です。


 昨日は領主執務室に、騎士団長のクレイグさんと副騎士団長のネイサンさん、筆頭内政官のオスニエルさん、そして家令のウォルターさんが集まって、なにやら打合せをしていた。

 3日間とはいえ子爵が不在になるのと、あとはアプサラの代官であるモーリス・オルティス準男爵と父さんとの協議内容を、確認していたんじゃないかな。

 家族旅行とは言え、領主はお仕事もあります。ご苦労さま。



 7月15日の朝、朝食を終えてアプサラ小旅行に行くメンバーが、屋敷の玄関前に集合です。

 3人の侍女さんを加えたわが家の女性陣6名が、馬車の前で輪になって朝からしゃべりまくってます。

 俺は頭に式神のクロウちゃんを乗せ、今回同行するアシスタントコックのトビーくんと、なんとなくそれを眺めている。


「ねえトビー選手、この状態が3日間続くのかな?」

「ザカリー様は余計なこと言わない方がいいですよ。今回の旅行での自分らの命運は、あの6人が握ってると言っても過言ではないっす」

「そうだよねー」

「カァ」


 するとそこに、見送りのクレイグさんと家政婦長のコーデリアさんが現れた。

「はいはい静かに。お屋敷を離れたからって浮かれないで、どこにいようと貴女あなたたちは規律を常に守って、しっかり子爵様ご一家のお世話をするんですよ」

 コーデリアさんの発する言葉に、侍女さんたちはもちろん、母さんと姉さんたちも背筋をぴんと伸ばして「はいっ」と返事をする。


「コーデリアさんの眼力は、旅行先までお見通しだったりして」

「そうかもっす」

 俺たちがこそこそ小声で話していると、コーデリアさんがくるっとこちらを向く。

「トビアスさんも、しっかり勉強してくるんですよ。ザカリー様もです」

「はいっ」「カァ」

 いつの間にか俺も勉強旅行になっていた。


 そこにヴィンス父さんとクレイグ騎士団長が、今回の護衛の騎士たちを引き連れて現れた。

 俺たちが乗る馬車も玄関前に着く。


 今回の警護も、若手騎士で剣術の指導騎士でもあるメルヴィンさんの小隊だ。

 ただ隊長は、メルヴィンさんのずっと先輩のエンシオ騎士。エンシオさんはラハトマー騎士爵家の当主で、去年従士になったあのオネルヴァさんのお父さんなんだよ。

 このふたりの騎士に、まだ20歳前ぐらいの女性従騎士ジェルメールさんが加わる。

 それから従士さんが6名だね。あの大森林での特別訓練で一緒だったマシュー従士、ブルーノ従士、ライナ従士もいるよ。



 さあ出発だ。

 父さん以下領主一家は領主用の馬車に乗り、エステルちゃんたち侍女さんとトビーくんは後ろの馬車に乗る。

 クロウちゃんはエステルちゃんに預けといた。

 あっちにいる方が、お菓子が食べられそうだからね。それに勝手に飛ぶから、まぁ自由な式神カラスだ。


 馬車は領主館の正門を出て、グリフィン大通りから中央広場を経由してノースウェスト大通りを行き、まずは領都グリフィニアの北西門を目指す。

 門には、歩行者用の通路と馬車や騎乗者用の通路がある。

 俺たちの乗る馬車は、ほかの一般の人たちの馬車の後ろに付いて、きちんと順番を待つ。

 これは、領主であるヴィンス父さんの方針なんだそうだ。

 数台の馬車を待たせて我が物顔で先に門を通ったって、何の意味があるのかってね。

 もちろん緊急事態の場合は違うだろうけど。



 北西門を護り通行の管理を行う領都警備兵のみなさんに手を振り、彼らに見送られながら、いよいよ領都の城壁の外へと出る。

 門の外には入門チェック待ちのための広場があって、そこから北へ行く道と西に行く道の2本の街道が伸びている。

 北方向の街道は、グリフィン子爵領に面する北辺境伯領へ通じる道。そして西が港町アプサラに至るアプサラ街道だ。

 ちなみにもうひとつの南門は、隣接する母さんの実家のブライアント男爵領を経由して、王都へと伸びる街道に繋がっている。


 アプサラ街道へと入ると、馬車の窓から見える風景は遠くまで続く田園風景だ。

 緩やかな起伏のある平野に、たぶん主に麦を栽培する畑や草地、点在する小さな林など、なんとも長閑な景色が広がっている。

「どうだ、平和で豊かな景色だろう。もうすぐブドウ畑なんかも見えてくるぞ」

 と父さんが教えてくれる。

 すぐ側にあるアストラル大森林が、獣や魔物が跋扈するあんなに危険な森なのに、この平野は魔物など滅多に出没することはないのだそうだ。


 さて、そんな穏やかな景色をゆるゆると進む馬車の中は、はい、なかなかの騒ぎです。

「ねえねえ、アプサラで何食べる? 名物は何かな、母さん」

「もう、相変わらずアビーは食べることばっかりなんだから」

「魚介類ならなんでも新鮮で美味しいと思うけど、ねえヴィンス、何がお薦めなの?」

「名物か? そうだなぁ……」

「やっぱり、美味しいものは自分たちで見つけないと、だわ」

「そうよねー」


 アビー姉ちゃんは、いつも変わらず食いしん坊です。しかし、頑張れ父さん。

 道中で静かになるということは、おそらくないので、クロウちゃんセンサーを使って後ろの馬車内の様子でも見てみようか。


「アプサラって、美味しいお菓子とかあるのかな? エステルちゃんはアプサラとか行ったことないの?」

「行ったことはないけど、なんでも夏には、いろんな果物をジュースにして牛乳とか混ぜて凍らせた、ソルベートっていう冷たくて甘いお菓子が最近の名物みたいですよー」

「きゃーっ、それ美味しそう」

「ねえ、トビーくん。それすぐに見つけて来て」

「そうそう、作り方も勉強して来てねー」

「……はいっす」


 はい、状況は同じでした。

 この世界にも、もうシャーベットがあるみたいだ。

 というか、年下の侍女さんたちにもトビーくんて呼ばれてるんだね。頑張れトビー選手。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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