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第482話 来訪の意味とは

 その後もヴィクティムさん、ベンヤミンさんと和やかに歓談をし、護衛のエルンスト騎士、アンネリーゼ従騎士も交えて屋敷内の騎士団施設、訓練場などを見学して帰って行った。


 先月にダレルさんが手を加えて改築した、高さ5メートル以上の壁に囲まれた訓練場には興味津々だったようで、ヴィクティムさんは騎士たちとジェルさんの説明を熱心に聞いていた。


 それにしてもヴィクティムさんとベンヤミンさんの今日の訪問は、単に会って歓談するだけで、特に目的は無かったのかな。

 訓練場の見学中に、ヴィクティムさんと離れて立っていたベンヤミンさんに、さりげなくその辺のところを聞いて探ってみる。



「いえ、ヴィクティム様はザカリー様にお会いして、何と言いますか、お人柄をご自分で確認されたかっただけですよ。北辺ではザカリー様のお噂が、いろいろと伝わっていますからね。私も息子から聞いた話などを時折お話しますが、やはりご自分でお会いして、と思われたのでは。なにせ、将来の弟殿ですから」

「そうですか」


 北辺で伝わっている俺の噂って、どんなのだ? ブルクくんが父上に話した内容はなんとなく想像が出来るけど。

 ただ、今年に入学した1年生が俺を怪物だとか、初めは必要以上に怖がっていたことを思うと、やっぱり自分で直接会ってみたかったということかな。


「ヴィクティムさんとヴァニー姉さんとは、どうなんですか?」

「ええ、ええ、それはもちろん。子爵様はご存知なかったようですが、おふたりは以前からお知り合いでしたからね。そろそろ、いろいろと決まって来るのではと、私個人としては考えておりますよ。あ、いえ、勝手に余計なことをお話しすると、ヴィンス兄に殺されてしまいそうです。はっはっは」


 ベンヤミンさんは、父さんのことを親しげにヴィンス兄と呼ぶ。隣領の貴族で年齢も近いし、昔は同時期に学院生だったらしいからね。

 まあ、ヴァニー姉さん大好き父さんだから、下手なことを言うと確かに殺されてしまうかも知れないですな。



「それよりもザカリー様」

「はい?」

「王都にいらっしゃる間は、王家絡みで余計なことには巻き込まれませんように」

「はい。僕もそう思っています」


「王太子様とヴィクティム様はとても仲がおよろしいですが、あのおふたりは学院の先輩後輩ということで、周囲には知られておりますからね。ですが、そこにザカリー様が加わると……」


 ジェルさんたちに質問していたヴィクティムさんが見学を終えたようで、こちらに歩いて来るのが見えた。それに気がついたからなのか、ベンヤミンさんが口を閉ざす。


 学院時代の先輩後輩で仲がいいのは周囲からの目としては問題ないけど、俺がそこに加わると、か。


 王家の王太子、辺境伯家長男、そして子爵家長男と、3人とも継承権第1位の長男だ。

 辺境伯家は北の国境を護る領主貴族として、領地も武力も大きい。そしてその隣領の我が子爵家は、武闘派で知られているらしいからね。

 俺が加わることで、単なる仲の良い先輩後輩から政治的な関係へと変化するってことか。


 ヴァニー姉さんとヴィクティムさんは、どうも姉さんが学院生だった頃から惹かれ合っていたらしいのだけど、正式なお見合い話をもたらした辺境伯には、それ以上の政治的思惑がまったく無いとは考えられないよね。

 その辺はもちろん、父さんや母さん、うちの重鎮たちも分かっている。


 ベンヤミンさんが言うことはおそらく、変なゴタゴタには関与されずにまずはその婚姻話をきちんと正式に決めたいという、辺境伯家側の考えがあるからなんだろうな。




「いやあ、今日は楽しかったよ。ありがとう、ザック君」

「僕も楽しかったです。本来ならこちらから伺うべきなのに、わざわざ来ていただいて、ありがとうございました」


「そしたら次は、うちに来なよ。大歓迎するよ」

「辺境伯家にですか?」

「そうそう。いまはうちの王都屋敷は留守番しかいないし、僕も明後日には帰るから、今度の冬休みにでも我が領に遊びに来るといい。かなり寒いけどさ。はははは」


 ヴィクティムさんとベンヤミンさんは、たくさんのお菓子のお土産をエステルちゃんから進呈され、上機嫌で帰って行った。

 エルンスト騎士は相変わらず無表情だったけど、アンネリーゼ従騎士はお菓子を持たされて嬉しそうだったな。



「なかなかいい子だったわね、表裏も無さそうで。あの子が旦那さんなら、ヴァニーちゃんも幸せになるわよ」

「そうですね、おひいさま。わたしもそう見ました」


 風の精霊様のありがたいご託宣をいただきました。

 ヴァニー姉さん、良かったね。父さんもいよいよ諦めて決断しないとだな。


 ヴィクティムさんたちを見送って、それから何となく皆でラウンジに集まってのんびりする。

 少年少女組は、夕食の準備をするアデーレさんのお手伝いだね。



「姉さんの結婚は、いつ頃になるのかしらね」

「まずはご婚約ですよね」

「そっか。婚約が決まって、公式に発表されて、それから結婚式の日程を決めて、またそれが公式に発表されて、それからだもんね。あー、貴族って面倒くさい」


 アビー姉ちゃんがそんなことを言う。あなただって貴族の令嬢なんですよ、いちおう。


「次期伯爵の結婚なんだから、向こうだって受け入れの準備があるんだよ、姉ちゃん」

「そうですよ。お母さまが輿入れされたときは、お屋敷の大改造で大変だったって、コーデリアさんから聞いたことがあります」


 コーデリアさんはうちの家政婦長で、アン母さんが嫁入りするずっと前から子爵館の屋敷で働いて来た人だ。

 父さんと母さんが結婚するにあたっては、カートお爺ちゃんの指示で屋敷を大改造し、ダレルさんを雇い入れて庭園整備を大がかりに行ったんだよな。


「その点、あんたらは楽よね。昔から一緒に住んでるし、明日に結婚式って言われても、何の問題もないわよ。これまでと、それほど違わないだろうしさ」


 姉ちゃんのそんな発言で、ラウンジの一同は大笑いする。

 そう言われればそうかもだよな。せいぜい、グリフィニアの屋敷ではどの部屋を使うかぐらいのものだ。


「気持ちの問題があるんですよぅ、アビー姉さま」

「そうですぞ。いくらこれまでとそれほど変わりがなくても、やはり正式な嫁入りとなると、女性としてはですな」


「あらら、そんなこと言うジェルちゃんは、どうするのかしらー」

「わ、わたしか。いまは、わたしの話ではないぞ、ライナ」


「ジェルちゃんは、良い方はいらっしゃらないのかしら。そろそろお年頃よね」

「シルフェ様まで。わたしは、その、まだ良いのです」

「でも、うかうかしてると、オネルちゃんに抜かされちゃうわよ」

「あ、わたし、ジェル姉さんを抜かしちゃいましょうかね」


 まあ、うちは平和だ。

 でも、独身の若い女性がこれだけ揃ってると、いずれどうにかしないとだよな。



「ザックさま。ヴィクティムさんが、セオドリック王太子も来たいっておっしゃったって、言ってましたよね。もしかして、王宮にご招待されるかもとも」

「あー、そんなこと言ってたよね」


「なんですと。ザカリーさまが王宮にご招待されるとか、それは大ごとではありませんか」

「いやジェルさん。仮にあったとしても、たぶん王家からの正式な招待じゃないよ。王太子がちょっと遊びに来ないか、的なもんだよ」


「そんな、軽い」

「あのセオさんでしょー。貴賓席でシルフェさまをちらちら見てたから、エステルさまとでご姉妹を連れて遊びに来いとか言いそうよねー」

「え、そうなの?」


「ライナちゃんは良く見てたわね。そうなのよ、アビーちゃん。どうやらわたしが気になったらしいのよね。うふふふ」

「うふふじゃないですよ、おひいさま。ここの王家の人間と関わるなど、絶対にいけません」


 シフォニナさんが珍しくシルフェ様に否定的な言葉を投げた。

 まあ、ニュムペ様と水の精霊に迷惑をかけたフォルサイス王家の先祖のことがあるからね。


「もちろん、ザックさんの許可なしで関わり合いなんてならないわ。ただ、久し振りに何となく面白かっただけよ。でも、去年のあの子よりは、ずっとまともな感じだったわね」


 去年のあの子、要するに第2王子の姿を皆が思い浮かべたらしく、お姉さんたちは一様に顔を顰めた。

 特に、卒業したら王宮務めはどうか、俺が引き取るぞとか表彰式で言われたらしいアビー姉ちゃんは、1年を経たいまでもとても不愉快そうな顔をしていた。


 それにしても王太子がシルフェ様に惹かれたのは、その美しさだけではなくて、自分のご先祖に精霊が関わっているということがあるからかなぁ。

 水の下級精霊を母に持つワイアット・フォルサイス初代王の子孫だからというのは、少々考え過ぎだろうか。



「ねえ、ティモさん。ここのところの王太子のお嫁さん選びって、どうなってるのかな」

「それほど進捗しているという情報は、入って来ておりません。ただどうやら、やはりフォレスト公爵家が一歩リードしているとのことのようです」


 フォレスト公爵家、つまり昨年まで学院生で学院生会会長だったフェリシアさんということか。

 あの人、とても聡明で美人だけど、少し変だからなぁ。余所行きの顔はいたってまともなんだけどね。


「やっぱりあの方が、王太子さまのお嫁さん候補の筆頭なんですねぇ。あの方ですか……」


 エステルちゃんは昨年に俺と一緒にちらりと会って、フェリさんの変なところを見抜いているからね。

 そのお相手である当の王太子と面識を持ったことから、余計に何か感じる部分もあるのだろう。


「フォレスト公爵家のお嬢さまって、去年はザカリーさまを妙に気に入ってた人ですよね。大丈夫ですかね」

「大丈夫かって、なんだ、オネル」


「だから、ジェル姉さん。王太子のお嫁さん候補は、ザカリーさまが気になった過去があって、その王太子はシルフェさまが気になってるんですよ」

「あらー、何だか面倒くさそうなことの予感がぷんぷんよねー」


 ライナさんは、そうやって面白がるんじゃありません。

 オネルさんの指摘も分からないでもないけど、まあ、うちの女子会でのちょっとしたお話ですな。カァ。


 あ、クロウちゃん、居眠りしてると思ってたけど聞いてましたか。カァカァ。居眠りしてるのはアルさんか。

 ブルーノさんは? いつの間にか居ないでありますな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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