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第478話 今年の学院トーナメント

 総合戦技大会最終日、学年無差別で行われる今年の学院トーナメントが始まった。

 まずは1回戦の4試合。第1試合は、1年1位のソフィちゃんのA組と2年2位のロルくんのF組の対戦だ。


 1年生の中では、傑出した剣術と魔法の総合力を持つソフィちゃん。そして2年生となり、めきめきと剣術の腕を上げているロルくん。

 しかしこれは個人戦ではない。


 1年A組ではソフィちゃんがひとりだけ抜きん出ているのに対して、ロルくんの2年F組は剣術前衛の連携攻撃が上手く機能し、魔法後衛も良くそれをサポートする。

 もちろん1年生と2年生の実力の違いもあって、順当に2年F組が勝利した。

 春学期始めにも感じたことだが、ソフィちゃんといった才能が光る子はいるものの、どうも全体的に今年の1年生は大人しいな。


 続く第2試合、1年2位のカシュくんのC組と2年1位のルアちゃんのE組の対戦に至っては、走り込んで行ったルアちゃんが早々にカシュくんを倒してしまい。あとは言うまでもなくの結果だった。

「せっかく学院トーナメントに進出したのに、酷いですよルア先輩」という声が聞こえて来るようだ。


 診察のためにカシュくんが倒れた場に行くと、「僕は、来年はぜったいルア先輩と互角に、いや、勝ちます」と意気込んでいた。

 その前に、ソフィちゃんという壁を打破らないとだよね、カシュくん。



 そして第3試合。3年1位のエイディさんのD組と4年2位のローゼマリーさんとマティルダさんがいるB組の対戦。

 エイディさんの実力はもちろんのこと、3年D組チームは強い。

 しかし、総合剣術部副部長のローゼマリーさんと総合魔導研究部部長のマティルダさんを擁する4年B組は、アビー姉ちゃんとそのクラスがいない今年の優勝候補筆頭だ。


 夏前の課外部剣術対抗戦での、エイディさんとローゼマリーさんの闘いは激しいものがあった。

 一撃捨て身の斬り落としを挑むローゼマリーさんに対して、エイディさんは強化剣術を放ち、結果的にローゼマリーさんは肩の骨にひびが入るという怪我で負けた。

 しかし今回は剣術と魔法の複合戦でありチーム戦だ。


 試合開始と同時に、マティルダさんを筆頭とした3人の魔法後衛が猛然と攻撃魔法を撃つ。

 このしょっぱなの攻撃で、これまで対戦相手の剣術前衛を打ち崩し、そこをローゼマリーさんともうひとりの剣術前衛が片付けて来たのだ。


 広がって前進するエイディさんたち3人の剣術前衛も、この魔法攻撃にやられた。

 試合開始から暫く続いた魔法の猛攻がいったん収まった時には、3年D組の剣術前衛はエイディさんだけになっていたのだ。

 しかし、ここからエイディさんの鬼神のような猛攻が始まる。



 火焔や土煙が収まったなかから現れると、まずは剣術前衛のひとりに走って行って一閃。

 あっと言う間に倒してしまうと、直ぐに駆け寄って来るローゼマリーさんの方に向き直った。

 両チームの魔法後衛同士は遠距離攻撃で撃ち合っていて、3対2の劣勢ながら3年D組は奮闘している。


 エイディさんは夏休み前の剣術対抗戦よりも、もう一段強くなっていたようだ。

 夏休み合宿の試合稽古では、ブルクくんの不意を衝いた体当たりで思わず転倒してしまい、相打ち寸前で勝ったが、今日の彼はそんな隙を微塵も見せなかった。


 力と技をうまく噛み合わせた数合の打ち合いのあと、強化剣術を使うこともなくローゼマリーさんを圧倒して倒した。

 これでチームとしては3対3。だが剣術前衛として残ったのはエイディさんだけだ。


 3年D組の魔法後衛もこれを見て一気に前進し、相手の魔法後衛を倒しに走るエイディさんの援護攻撃に切り換える。

 そうして、マティルダさんたちの魔法の猛攻をかいくぐりながら、彼はひとりまたひとりと倒して行き、そして遂にマティルダさんを倒して試合は終了した。


 俺はマティルダさんを診察するために駆け寄る。エイディさんがだいぶ手加減したみたいで、彼女は問題ないね。



「エイディさん、凄かったよ」

「ふう。少々、頑張り過ぎたであります」


 直ぐ近くでこちらを見ながら立っていたエイディさんの側に行くと、彼の装備はずいぶんと魔法が掠めて当たっていたようで、焦げたり傷がついたりしている。

 普通の学院生なら、試合途中でとっくに倒れていたんじゃないかな。

 俺はエイディさんにも念のために回復魔法を施す。


「おお、ありがとうであります、ザカリーさん」

「少し休んで、それから装備も替えないとだね」

「なに、これしきの少々の傷など。闘いが続く戦場なら、装備など替えている暇はないのでありますよ」


 そんな、まるで古兵ふるつわものみたいな台詞を静かに吐くと、エイディさんは喜ぶチームメイトの方にゆっくりと歩いて行った。



 1回戦最後の試合は、3年2位のハンスさんのA組と4年1位のエックさんのE組の対戦。

 しかしこちらは、総合剣術部部長のエックさんが率いる4年E組の勝利で終わった。


 これで準決勝の組み合わせが決まった。

 まずは2年E組対2年F組。そして3年D組対4年E組だ。

 大歓声の中、ルアちゃんのE組とロルくんのF組の2年生チーム対決が始まる。


 しかしこの試合、ルアちゃんが強かった。

 いつものように3人の剣術前衛が連携し、まずはルアちゃんを潰そうと猛然と向かって来るのに対して、ルアちゃんはこの総合戦技大会で初めていきなり攻撃魔法を撃ったのだ。


 それほど威力のない火焔噴射、ファイアブラストの魔法。

 攻撃力は高くないが、しかし直ぐ前方の前衛からこの火焔噴射を放たれたロルくんたちは、3人とも足を竦ませた。


 その目の前にルアちゃんが大きく跳躍して飛び込み、他のふたりの剣術前衛も左右から走り込む。

 一方で魔法後衛は上手くF組の魔法攻撃を牽制し、前衛の闘いに手が出せないようにしている。


 そしてあっと言う間に、ロルくんたちを倒してしまったのだ。

 魔法から剣への強襲攻撃。それをルアちゃんはひとりでお膳立てし、そしてチームメイトを上手く活用した。


 ルアちゃんて身体能力だけでなく、こういう局地戦での強襲戦闘といった戦術的勘がとても優れているよね。

 僅か13歳の少女ながらも、これはひとつの才能だ。


「ザック部長、あたし、どう? どう?」

「いやあ、今回はルアちゃんに脱帽だよ。遂に決勝進出だ」

「えへへ。次もあたし、頑張るよっ」


 ルアちゃんは、まだぜんぜん闘い足りない様子で、跳びはねながら走り去って行った。



 続く準決勝第2戦は、3年D組対4年E組。エイディさんとエックさんの対決だ。

 課外部剣術対抗戦では5分間フルに闘って引き分け、更に3分間の延長戦でも決まらず、判定の結果、エックさんの勝ちとなった。

 それだけ、このふたりの個人の実力は拮抗している。


 そしてこの総合戦技大会のチーム戦でも、なかなか決着のつかない総力戦が展開された。

 お互い3人の剣術前衛が、後方から魔法が飛び交うなかで互いに譲らずに攻防を繰り広げる。

 エイディさんが相対するのは、もちろんエックさんだ。


 そして試合時間が間もなく終わるという間際に、やはり力負けしたのか3年D組の剣術前衛のひとりが倒され、倒した4年生は直ぐに別の闘いに加わって2対1とし、もうひとりの3年生を倒した。


 これで剣術前衛は3対1となり、エックさんと互角に闘っていたさすがのエイディさんも危うい。

 と、そこで試合終了のホイッスルが長く鳴り響いた。


 5人対3人となったので、試合結果としては必然的に4年E組の勝利だ。

 俺は倒された3年D組のふたりの治療を済ませて、何か話しているエイディさんとエックさんの側に行く。


「お、ザカリーくん。どうやら勝てたよ」

「いやあ、負けたでありますよ」

「さすがに、2年連続で3年生が優勝、という訳にはいかないからね。しかし、エイディにはしっかり勝ちたかった」


「自分は、まだまだでありますよ。アビー部長には、優勝すると宣言したのでありますが」

「ああ、アビーちゃんには悪いが、今年はうちのクラスがいただくよ」


 この先輩方ふたりは、爽やかなおとこだよね。

 3年生と4年生と、学年はひとつ違うが善きライバルといった感じだ。



 こうしてルアちゃんの2年E組とエックさんの4年E組が決勝戦に進み、結果的にはエックさんのクラスの圧勝で終わった。

 さすがに2年生では、総合剣術部の部長が率いる4年生のクラス相手では分が悪い。


 この決勝戦は、トーナメントの組み合わせ的には、1年生か2年生の勝者に上級生との対戦の機会を与えるというもので、実際には2年生と4年生では個人の力も総合力もかなりの差が出るのは仕方がないよね。


 ルアちゃんがひとり頑張ったが、他の4人の実力が4年生とは違い過ぎた。

 剣術はもちろんのこと、魔法の質や威力もかなり劣ってしまうのは、このぐらいの年齢では当たり前だろう。


「今年はうちのクラスがいただく」と言ったエックさんの言葉通り、終わってみれば学院トーナメントは順当な結果となった。




「今年のセルティア王立学院総合戦技大会は、4年E組の優勝で終了となりました。ここまで応援してくださった観客の皆様、誠にありがとうございました」


 古代から伝わったものだという拡声の魔導具を使い、場内アナウンスが流れる。

 総合競技場は惜しみない拍手に包まれた。


「例年ですと、このあと表彰式と閉会式を執り行うこととなりますが、今年は皆様方の強いご要望にもお応えして、ただいまより本学院の剣術学教授と魔法学教授による模範試合を行うこととなりました。なお、教授方によるこの模範試合には、我が学院で初の剣術学と魔法学の両方の特待生であります、ザカリー・グリフィン君が加わります」


 このアナウンスに、場内からうぉーっという歓声が上がる。

 そうですか、そんなに期待していただけますか。


「また本模範試合の審判は、グリフィン子爵家のご好意により、子爵家騎士団王都分室の方々が務めていただくことになりました。それでは、審判員に続いて、教授方とザカリー君がフィールドに登場します。皆さん、盛大な拍手をお願いします」


 再びうぉーっという歓声と、続いて大きな拍手が競技場内に響き渡る。


「なお、この模範試合は、教授方の事前の話し合いにより、4人対3人の変則チーム戦形式で行います。まずは、4人チームをご紹介します。魔法学部長ウィルフレッド教授、剣術学部長フィランダー教授、魔法学クリスティアン教授、剣術学ディルク教授」


 この紹介アナウンスが流れると、場内は大きくざわついた。当たり前だよね。部長教授ふたりにベテランの男性教授がふたりが片方のチームなのだ。

 その4人がフィールドに姿を現す。



「続いて3人のチームが入場いたします。まずは、魔法学ジュディス教授」


 どういう訳か俺たちの方はひとりずつの入場にしてくれと、事前に学院職員さんから言われておりました。なんで?

 ジュディス先生が「い、行くわよ」と少し声を震わせながら、恥ずかしそうに手を振ってフィールドに向かう。


「続いては、剣術学フィロメナ教授」


「はーい」と何故か勢い良く返事をして、フィロメナ先生が走って行く。


「そして最後の登場は、ザカリィーー、グリフィーンくーん」


 おいおい、俺はザカリィーー・グリフィーンではありませんぞ。

 総合競技場には、ひと際大きな歓声と拍手が沸き起こっていた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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