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第476話 学院祭大詰めでの出来事

 学院祭もあっという間に4日目となり、うちのクラスの魔法侍女カフェは連日満員、グリフィンプディングとグリフィンマカロンも予定数が毎日売り切れとなっている。

 昨晩は屋敷に戻り、追加分を取って来て納品した。

 頑張ってくれた料理長のアデーレさんもこれでお役御免となり、さすがにほっとした顔だったね。


 あと、最終日前日の総合戦技大会開始前に、模範試合で特別に審判をお願いするジェルさんたちと簡単な打合せがしたいとの要望が教授たちからあったので、それを伝える。

 反対にこの日は、エステルちゃんやシルフェ様たちは屋敷で留守番をする予定だ。

 今年はアビー姉ちゃんが試合に出ないこともあって、この日は学院祭に行かないことにしたそうだ。


「そのかわり、最終日はお屋敷の戸締まりをして全員で行きますよ」

「え、そうなの?」

「みんなで決勝戦を観戦したいですし、それにザックさまの模範試合ですからね」


 誰かが留守番で行けないというのは可哀想だと、エステルちゃんがそう決めたらしい。

 観戦には競技場の貴賓席を屋敷の全員分確保してくれると、学院長とも約束済みなのだという。

 子爵家長男の家族という名目で、大人数でもまあ問題はないのでしょうな。



 4日目の午前中、開店した魔法侍女カフェにジェルさんたちがやって来た。

 2日目も来ているから2回目ですよね。

 ジェルさんにオネルさんとライナさん、それからアデーレさんも一緒だった。


「今日はエステルさまたちがお留守番だから、魔法侍女カフェに行くなら今日がいいでしょって、アデーレさんを引っ張って来たのよー」

「すみません、お屋敷の方はエステルさまにお任せして、連れて来ていただきました」


 明日は屋敷の全員の大人数で来るので、あまり勝手な身動きが出来なさそうというのもあったらしい。

 アデーレさんは、どのテーブルでもお客さんが皆さんグリフィンプディングを注文して、美味しそうに食べている様子をニコニコと眺めている。


「ブルーノさんとティモさんは?」

「ああ、一緒に来たのだが、アル殿とアルポさん、エルノさんの男ども5人でどこかに行きましたな。ここは苦手とかで」


 アルさんとアルポさん、エルノさんも一緒に来たのか。これは逃げたな。確かにこの魔法侍女カフェは、彼らには居心地が悪いのだろう。


 ヴィオちゃんやカロちゃんたちもテーブルにやって来て、女性たちで賑やかに話し出したのでここは彼女らに任せましょう。


「ジェルさん、あとで競技場にお願いね。貴賓席に迎えに行くから、早めに行って待っててくれる?」

「了解しました」



 お昼過ぎに俺も早めに総合競技場に行って、観客席のスタンドに上がった。

 観客席から試合を見たことがないのだけど、ここからだと選手の動きが良く見られるよな。

 貴賓席に行くと、ジェルさんが言うところの男ども5人も揃っていた。

 午前中はどこを廻っていたのやら。ドラゴンが混ざった不思議な組み合わせだけど、何だか仲がいいんだよね。


 それで、ジェルさんとオネルさん、ライナさんを連れて審判員控室まで行く。

 試合開始まではまだ1時間ほどあるけど、教授方は全員が控室にいた。


「おお、騎士団の皆さん方、お久し振りじゃな」

「今回は、よろしく頼みますぜ」


 俺たちが控室に入って行くと、直ぐにウィルフレッド先生とフィランダー先生が近寄って来た。

 屋敷の特訓で、うちのお姉さんたちとすっかり仲良くなったフィロメナ先生とジュディス先生もやって来て、その後ろからディルク先生とクリスティアン先生も来る。


 このふたりの先生は、ジェルさんたちは初めましてだと思うので、あらためて紹介をした。


「ライナさん? ライナさんて、もしかして」

「???」


 紹介が終わると、ライナさんの顔を見てじっと考えていたクリスティアン先生が、そう口を開いた。


「バラーシュ村のライナさんじゃないですか? バラーシュ騎士爵様のお嬢様の」

「え? なんで?」

「クリスティアンですよ。アルタヴィラ侯爵家騎士団で魔導士をしていた。ライナさんの魔法適性を見させていただいた。ほら、お忘れですか? あのクリスティアンです」

「あ、えーっ」


 ライナさんがアルタヴィラ侯爵家の騎士爵家の娘さんだということは、俺はもちろん知っているし、身近にいるジェルさんやオネルさんも知っている。

 だが、彼女自身があまり話したがらないこともあって、それを把握しているのは子爵家でもごく僅かだ。


 それにしても、クリスティアン先生とライナさんが知り合いだったなんて、何とも奇遇だよな。

 あとで先生に聞いたら、昨年の大会でフィールド整備を手伝ってくれた彼女の姿は見たが、その時にはまったく気がつかなかったそうだ。



「何とも、最後にお会いした時から11年が経ちました。あの頃は、まだ可愛らしい娘さんで。そうですか、あのライナさんですか。そのライナさんが今はグリフィン子爵家騎士団員で、ザカリー、いやザカリー様に仕えておられたとは」


「あのとき、わたしはまだ12歳になる少し前で、クリスティアン先生が会いに来てくださったあと、グリフィニアに向けてひとりで旅に出たんです。それで冒険者になって、それから騎士団に入って、いまは王都駐在の従士なんです」


「おい、ライナの口調がいつもと違うぞ」「ライナ姉さんて、普通に話せるんですね。よそ行きってのでしょうかね」と、後ろでコソコソ話しているジェルさんとオネルさん、少し静かにしましょうね。


「あなたは、あの頃から天才でした。そうか、グリフィニアには土魔法の達人と知られるダレルさんがいる。あのときにダレルさんのお話を、私がしたような」

「はい。それで直ぐにグリフィニアを目指して。わたしの方こそ、ザカリーさまの先生が、あのときのクリスティアン先生だなんて、ぜんぜん結びついていませんでした」


 グリフィン子爵家にふたりの天才土魔法使いが揃ったのは、じつはクリスティアン先生のお陰だったんだね。



 ライナさんのお父上が治めているバラーシュ村では、毎年8歳になった子どもの魔法適性を見るのが伝統なのだそうだ。

 そしてライナさんが8歳の歳に、お父上の依頼でアルタヴィラ侯爵家騎士団から魔法適性を調べに来てくれた魔導士が、若きクリスティアン先生だった。


 そこでライナさんの、この世界では珍しい土魔法適性らしきものが判明する。

 らしきものというのは、土魔法適性を正しく判定できる者がほとんどいないからだ。

 騎士爵家の娘であるライナさんは、そんな知る者の少ない土魔法では攻撃魔法として役に立たないと、子ども心に悩みながらも独学で練習を続けた。


 そして11歳の時に、旅の途中に自分を訪ねて来たクリスティアン先生から、グリフィニアの土魔法の達人として魔導士界隈では知られていたダレルさんと、天才魔法少女だったうちのアン母さんの話を聞いたことが、グリフィニアを目指す大きなきっかけとなったと言う。


 先生が旅の途中だったのは、セルティア王立学院の魔法学教授への転職が決まり王都へ行こうとしていたからなのだそうだ。

 そうして10年の歳月を経て、クリスティアン先生は俺の担任となり、ライナさんは俺たちと一緒に王都常駐となった。

 それから更に1年半が過ぎ、今日は奇縁と言って良い再会の日となったのだ。



「こうしてお会いしたから言うのもなんですけど、わたし、クリスティアン先生には大きな恩を受けています。なので、こんどゆっくりとお話し出来ればと思います。お屋敷に来ていただくとかでもいいですよね、ザカリーさま」


「ライナ、おまえ、話し方がこそばゆい」

「ライナ姉さんがそんな風だと、凄い違和感が」

「僕も、いつも通りのライナさんの方が、えーと安心感が。それは、もちろんいいよ。クリスティアン先生は僕の担任だし、是非とも」


「うん、ありがとー、ザカリーさま。ということで、またゆっくりねー、クリスティアン先生」

「あ、戻ったぞ」

「少し心配でしたよ、ライナ姉さん」


「あ、はい。私の方も是非に」


 ここでこの話題で話し込んでいると、3年生と4年生の学年決勝トーナメントが始まってしまうので、クリスティアン先生には日をあらためて王都屋敷に来ていただいて、ゆっくりと話してくださいな。


 それから明日の模範試合について簡単な打合せを行い、ジェルさんたちは観客席へと戻って行った。

 部屋を出るときに、フィロメナ先生とジュディス先生と5人のお姉さんたちが何やら話していたが、明日の試合のことですよね。

 なんで俺は混ぜていただけないのでしょうか。



 3年生と4年生の試合も大きなアクシデントは無く、無事に終えることが出来た。

 3年生の学年1位は、今年もエイディさんのD組。2位は昨年のジョジーさんのF組に代ってハンスさんのA組となった。


 4年生は、昨年の学院全体の優勝チームであるC組が、アビー姉ちゃんの不出場もあって学年優勝を逃し、2位にもなることが出来なかった。

 1位は、総合剣術部部長のエックさんが率いるE組。そして2位はB組となった。

 この4年B組には、総合剣術部副部長のローゼマリーさんと総合魔導研究部部長のマティルダさんが揃っていて、昨年はアビー姉ちゃんにしてやられて3位に甘んじたクラスだ。


 3年生と4年生の学年決勝トーナメントはこのような結果となり、明日の学年無差別学院トーナメントの組み合わせが決まった。


 第1試合は、1年1位のソフィちゃんのA組対2年2位のロルくんのF組。

 第2試合は、1年2位のカシュくんのC組対2年1位のルアちゃんのE組。

 第3試合は、3年1位のエイディさんのD組対4年2位のローゼマリーさんとマティルダさんがいるB組。

 第4試合は、3年2位のハンスさんのA組対4年1位のエックさんのE組となった。

 勝ったチームが準決勝戦、決勝戦と進む。


 それぞれになかなか面白そうな対戦だよね。

 特に昨年のアビー姉ちゃんに続いて、3年生での優勝を狙うエイディさんの3年D組は、総合剣術部副部長と総合魔導研究部部長を擁する4年B組に勝たなければならないので、なかなか大変だよな。

 あと、ルアちゃんのクラスと対戦することになったカシュくんには、ただただ頑張れと言っておきましょう。




 そしていよいよ学院祭最終日の午前。

 俺はいつものように魔法侍女カフェの店内の隅に立って、お客さんが入って来る様子を眺めていた。

 開店して間もなくのこの時間、最終日の今日も魔法侍女たちに案内されて、お客さんが続々と入店する。


 そしてもう満員というところで、オイリ学院長が身なりの良いふたりの男性と共に入って来るのが見えた。

 男性の後ろには、護衛かお付きらしいごつい体格の年配の男性がもうふたり従っている。

 昨年の嫌な思い出が、俺の頭をよぎる。


 最終日に、昨年の学院生会会長のフェリシアさんに案内されて、第2王子のクライヴ王子と王宮騎士団のサディアス副騎士団長、ラリサ王宮魔導士の一行がやって来たんだよな。

 あのときは、まだそうとは知らなかったけど、店内にカートお爺ちゃんとエリお婆ちゃんにセリヤさんもいたのだった。


 そんな記憶は頭の中から消して、その5人がテーブルに着く様子を眺めていると、キョロキョロ誰かを探すように店内を見回していた学院長が、隅にいる俺を見つけて手招きをする。

 なんだか嫌な予感が的中ですかね。でも呼ばれたら行くしかないか。


「ザックくん、ザックくん」

「なんですか、そんなヒソヒソ声で」


 俺がテーブルの学院長の側に行くと、他の4人の男性も俺が来たのに気がついた。


「お、君がザカリー君か。いやあ、初めましてなんだけど、僕はヴィクティム。ほら、お隣の」

「あっ、え、ヴィクティムさんなんですか」


 若いふたりの男性のうちのひとりが立ち上がって、俺に握手を求めながらそう言った。

 お隣のヴィクティムさんて、辺境伯家長男のヴィクティム・キースリングさんではないですか。

 ということはつまり、ヴァニー姉さんのお見合い相手でございますですよ。


 そう言えば、8月に俺たちがグリフィニアを出発するとき、姉さんが「ヴィクティムさまが王都に行くから、会ってくれないかしら」ってこっそり耳打ちして来たよな。

 それがいきなり、魔法侍女カフェに来た訳ですか。


「こんにちは、初めまして。ザカリー・グリフィンです。ヴィクティムさんが王都に来られるって、ヴァニー姉さんから聞いていましたけど」

「ははは。そうなんだよね。ちょうど学院祭に合わせたみたいに、こうして来ることが出来たから。それで学院長にご挨拶して、まずはザカリー君のこのカフェに案内していただいたんだ」


「おい、ヴィック。俺のことも紹介してくれよ」

「ああ、悪い悪い。いま紹介しようと思っていたところさ、セオ」


 もうひとりの若い男性が、そう会話に入って来た。ヴィクティムさんをヴィックと親しげに呼ぶ、この身なりと品の良い男性。セオ?


「ちょっと小声で悪いな、ザカリー君。なにしろお忍びだからな。それで、この子がヴァニーちゃんの弟さんで、北辺ではその名が知られるザカリー・グリフィン君。それから、ザカリー君、こちらはセオ、つまりセオドリック・フォルサイス王太子だよ」


 ええーっ、と俺は心の中で叫びました。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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