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第475話 2年A組の奮闘

 A組とE組の2年生学年トーナメント決勝戦が始まった。


 E組の前衛3人は、ルアちゃんを頂点とした三角形のかたちで位置につき、魔法後衛は後方にかなり離れ、更に左右の間隔も大きく空けている。

 一方でA組のフォーメーションは、先ほどの2回戦とほぼ同じように5人全員が前進した配置だ。

 とにかく早く相手の魔法後衛のふたりを潰し、5対3の戦いに持って行こうという考えだろう。今日2戦目の疲れを払うかのように、5人が身体を動かしている。



 フィランダー先生のホイッスルが短く鳴り響いた。

 同時にヴィオちゃんとライくんが魔法を撃って走り出し、相手後衛へと向かって行く。

 しかし前の試合と違って、それほどの速度が出ない。


 そのときルアちゃんが意外な行動に出た。

 正面前方に向かうのではなく、斜め方向に走り出したのだ。

 向かう先は、相手フィールドに走り込んで来るライくん。そして、ふたりの速度は明らかに違う。


 A組の前衛ふたりは慌てて残ったE組前衛に向かって前進し、カロちゃんもルアちゃんに向けてウォーターボムを撃つが、水魔法の飛翔速度は遅いのでうまく当たらない。

 ルアちゃんに狙いを定められたライくんは、まだ雷撃の魔法を相手後衛に向けて撃ちながら走り、向こうからも火球魔法を撃ち返されている。

 そこに、あっという間に到達したルアちゃんが横から木剣一閃、胴をしたたかに打った。


 A組が奇襲攻撃をする筈が、逆にルアちゃんから急襲され、瞬く間にライくんが倒されたのだ。

 そのルアちゃんは倒したライくんを立ち止まって確認もせず、そのまま高速で走る方向を変えて、まさにいま木剣が合わされようとしている前衛の方へと向かって行った。



 俺は倒れているライくんのもとに走って行って、状態を診る。

 お互いに走りながらの突然の間合いで胴を打たれ、かつルアちゃんの接近と一撃が良く分かっていなかったのだろうな。

 特に身体には問題は無く、衝撃で倒れただけのようだ。

 念のために回復魔法を施すと、目をパチクリしている。


「大丈夫か、ライ。大丈夫そうだな」

「あ、うん、あれ? ザックか。僕、打たれたのか」

「ああ、ルアちゃんにやられた」

「そ、そうか……」


 あらためて彼の状態を確認し、立ち上がらせて肩を貸しながらフィールドの外に出す。

 そのとき、競技場内で大きな歓声が上がった。


 フィールド内を見ると、木剣での打ち合いが始まっていた中央付近にもうルアちゃんが駆け込み、カロちゃんとペルちゃんが相手前衛ひとりと2対1で闘っていた場に加わって2対2とし、更には早々とペルちゃんを倒したところだった。


 そして、そこから離れてバルくんを相手に1対1で闘っている方へもうひとりの前衛を加勢に向かわせ、自分はカロちゃんに向き合ってそこで大きく深呼吸をした。


 俺は倒れたペルちゃんのところに急いで走ったが、剣術副審のフィロメナ先生が先に近寄って立たせ、彼女は自分で歩いて来た。

 どうやら大丈夫そうだが、念のために診察をして回復魔法を施す。



 フィールド後方では、2対1の魔法の撃ち合いが始まっている。

 ライくんが倒されたことによって、彼のターゲットだった後衛もヴィオちゃんに対して攻撃魔法を撃ち出したからだ。


 こちらも2対1になってしまい、ヴィオちゃんの足が止まっている。

 彼女の魔法と身体能力なら撃ち負けるということはないだろうが、身動きが出来なくなってしまっていた。


 これは、と見ていると、そこで戦局はいったん膠着状態になった。

 A組が3人に対してE組は5人全員が残っていて、A組が圧倒的に不利なのだが、カロちゃんはルアちゃんに対して、そしてバルくんが前衛ふたり、ヴィオちゃんが後衛ふたりを相手になんとか闘っているのだ。

 その奮戦に観客から大声援が飛ぶ。


 しかし、試合時間も残り僅かとなったところで戦局が動いた。

 バルくんがとうとう倒されたのだ。

 E組の前衛ふたりは直ぐに、後方のヴィオちゃんに向かって走って行く。

 いくらなんでも、魔法後衛ふたりに剣術前衛ふたりを相手にしては、ヴィオちゃんが倒されるのも時間の問題だ。


 もうそろそろホイッスルが吹かれるという頃合いで、魔法を撃ちながらの逃げに徹していたヴィオちゃんが倒された。

 そしてカロちゃんは、ルアちゃんを相手にしてここまで何とか凌いでいたのだが、試合終了のホイッスルの音にフィールドに自ら崩れたのだった。



 終わってみればA組の完敗。ルアちゃんの試合開始直後の強襲攻撃に、見事にやられたと言っていいだろう。

 俺はヴィオちゃん、カロちゃんと順番に診て行ったが、特に怪我のようなものはない。

 ただただ、へたばっていた。


「カロちゃん、ルアちゃんと良く闘ったね」

「むぅー、体力が、足りない、です」

「いやあ、剣術でルアちゃんとここまでやれれば、大したものだよ」

「でも。でも、二位決定戦が……」


 そうなんだよね。

 決勝戦で敗れた方は、2回戦で敗れたチームと二位決定戦が控えている。

 つまり対戦相手は再びロルくんのF組で、A組は続けての3連戦となってしまうのだ。

 とにかく選手たちを少しでも休ませよう。


 10分間のインターバルに、A組の5人は選手控室に戻る力も無く、フィールド外で座って休息を取っている。

 特にカロちゃんとヴィオちゃん、そしてバルくんの疲労度合いが激しいな。

 俺は審判員という立場上、その5人の姿を離れて眺めていることしか出来なかった。



 F組との再戦は、簡単に経過と結果だけにしておこう。

 A組は疲労の激しいカロちゃんとヴィオちゃんを後衛に回し、カロちゃんには魔法攻撃をメインに行わせた。

 このあたりは総合武術部員らしい柔軟さだ。


 一方で、決勝戦で早々にやられてしまったライくんがこれまでのカロちゃんのポジションに着き、魔法と剣術で闘う。

 前衛近くの位置でライくんは、相手前衛に対して散々に雷撃魔法を撃ちまくったが、今回はロルくんたちF組の前衛の連携攻撃が有効に働いた。


 疲労で動きの鈍くなっていたバルくんが倒れ、奮闘していたペルちゃんも倒され、そして接近戦闘で敵う筈もないライくんが倒される。

 ここで実質的に試合は終了となった。


 こうして2年生の学年トーナメントは、終わってみればA組は3位。今年は最終日の学年無差別、学院トーナメントに進出出来ないという結果だった。

 しかし、続けて3試合を闘った2年A組の奮戦振りには、競技場の大観衆から惜しみない拍手が贈られました。

 いやあ、君たち。本当に良く頑張りましたよ。




 その日の学院祭閉場時間後、魔法侍女カフェで総合戦技大会出場メンバーの奮戦を讃えるご苦労さん会が急遽行われた。

 学院祭で出店されているいろいろなお店や学院生食堂から、クラスの皆が食べ物を買って来てテーブルに並べる。

 まずはお疲れさまの乾杯だ。


「今日の5人は、本当に良く闘いました。結果は残念だったけど、それ以上のものを応援してくれた皆さんに見せることが出来たと思いますよ。続けて3試合を闘い切った5人の奮闘に拍手を」


 クラスの皆から大きな拍手が贈られる。


「それでは、学院祭も中日だし、お疲れさまということで乾杯しましょう。いいかな? 乾杯っ」

「カンパーイ」


 クラスメイト20名が杯を挙げ、そしてまた拍手となった。


「選手を代表して、ヴィオちゃんからひと言、貰えるかな?」

「えーと、あの、オーナー、監督、ザックくん。それからクラスのみんな、ごめんなさい」


「謝ることなんかないわよー」

「ごめんなさいは、いらないわー」


「ううん、でもやっぱり、ごめんなさい。わたしたち、2年生の中では自分たちがいちばん強いって思ってたの。決勝戦が始まるまでは。でも、やられちゃった……。ルアちゃんは最初にライくんをあっさり倒したけど、あれって、もしわたしの方に来てたら、きっとわたしが最初に倒されてたわ。自分たちは強いって思い込んでいながら、決勝戦では相手チームの動きが見えてなかったのよね。そこが敗因だったわ。そうよね? ザックくん」


 今年は去年みたいに悔しさのあまり泣き出すことは無かったが、ヴィオちゃんはそう冷静に振り返りながらも、自分の不甲斐なさを相当に悔やんでいるようだった。


「いや、うちのチームは弱くないよ。もし2回戦の対戦相手がE組だったら、君たちが勝ったと思う。そうしたら、決勝戦はF組で、1位という結果もあったな」

「でも……」


「そう、でもそれは、たらればだ。うちも強くなったけど、他のチームも強くなっていた。そして、現実の対戦組み合わせの中で、いかに勝利するか。確かに決勝戦は、余裕が無くなっていたのが敗因だろうね」


 うちのA組には、ルアちゃんやブルクくんみたいに突出して剣術が強いメンバーがいないというのもある。

 だから総合力で勝たなきゃいけないのだけど、1戦目の想定以上の疲労で全体が見えなくなっていたところに、うちの弱点を良く知っているルアちゃんに個別撃破の急襲をいきなりやられたのが敗因だった。



「まあ、ライは、貧乏くじを引いちゃったな」

「ルアちゃんが僕を狙うってのは、あとから考えたら、そりゃそうだよな」

「5人の中で、いちばん剣術が下手だからな」

「う、煩いっ」


「あと、ルアちゃんの急接近に、ぜんぜん気がついてなかったよね」

「むー、その通り、なんだけどよ」

「あれは、もしわたしの方にあの子が来てても、気がつかなかったわよ」

「そ、そうか。そうだぞ、ザック」


 珍しくヴィオちゃんがライくんをフォローしていた。

 彼女がさっき言っていた、相手の動きが見えていなかったという反省点は、遊撃ポジションの自分たちにも剣術前衛みたいな近接戦闘の感覚が必要だった、ということも含まれるのだろうね。


 魔法がメインのこのふたりには、そこが難しいところなんだよな。

 反対にこのふたりほど攻撃魔法が優れていないカロちゃんは、良くルアちゃんと組んで剣術の訓練をしていることもあって、そういった戦闘勘が育って来ている。

 今回はカロちゃんが頑張ったよね。



 学院トーナメントに進めなくてもっと落ち込んでいるかと思っていたが、選手5人はおおいに反省はしているものの、わりと明るかった。

 学院祭も残り2日。あとは、魔法侍女カフェを楽しめばいいんじゃないかな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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