第474話 学年トーナメント2回戦
2年A組の魔法侍女カフェは今年の学院祭でも人気となり、たくさんの来店客で賑わうことになった。
1日3回を予定していた魔法侍女の歌と踊りのステージは特に評判で、テーブルが直ぐに埋まってしまう。
店内に入れず廊下に並ぶお客さんから、立ち見でも入れてくれという要望が出たので、急遽そのステージの時間だけ入って貰うことにしたほどだ。
だが、立ち見で店内に入ったお客さんの中には、ステージが終わったあと外に出て、並び直さずに去って行ってしまう人もいた。
カロちゃんなどは、「立ち見料金、取るべき、です」とか言っていた。さすが商会のお嬢さんだよな。商売ごとについては厳しい。
まあ、あくまで学院祭の出し物で別に営利でやっている店ではないので、それほど目くじらを立てる必要もないだろう。
並ぶ時間が長くなって、学院祭の他の出し物が見られなくなってしまうのも可哀想だしね。
あと、グリフィンプディングセットはもちろん完売ですよ。グリフィンマカロンセットも、子爵家謹製のオリジナルですと魔法侍女が薦めると注文してくれて、こちらも完売だ。
日持ちのする乾菓子は多めに用意してあるが、このふたつのセットが完売になってしまうと、やはり客足も多少は鈍くなるよね。
俺は、午後の時間は総合戦技大会の審判員で店の様子が見られないので、1日目、2日目とクラスの皆からそんな報告を受けた。
そして3日目は、うちのクラスも出場する1年生と2年生の学年決勝トーナメントだ。
試合開始は午後2時からで、昨年同様にクラスの全員が応援に来ることになり、魔法侍女カフェは2時半ぐらいを目安に早仕舞いする。
2年生のトーナメントは1年生が終了したあとだから、たぶん3時過ぎのスタートになるだろう。
今年は、学年決勝トーナメントと最終日の学年無差別の学院トーナメントに勝ち進んだクラスのために、選手以外のクラス全員15名が応援出来る席を学院生会で確保してくれることになった。
なので、席取りのためにうちの男子が早めに競技場に行かなくて済んでいる。
1年生の決勝戦は、結果的にソフィちゃんの1年A組が勝利した。
彼女のクラスの他の4人もソフィちゃんに引っ張られて頑張ったが、何よりも彼女の才能の片鱗が強く印象づけられた試合だった。
前衛ではなく、敢えて最後方に木剣を構えて陣取ったソフィちゃんは、試合開始と同時に得意とする火球魔法を相手フィールドに連続して撃ち出した。
直接に相手選手の身体に当てることは出来なかったが、地面に着弾すると火焔と同時にもの凄い煙が出る。
これは火焔煙幕弾だね。ソフィちゃんの創意が溢れている。
1回戦ではこんな魔法を出さなかったので、相手のE組の1年生は驚いて足が竦んでいる。
特に魔法後衛のふたりは、視界が悪くなって思うように魔法が撃てない。
そんな相手チームの前衛に対してもうひとりの魔法後衛も、威力は低いがウィンドカッターを撃ち込んで足を止め、前衛3人同士の木剣の打ち合いになった。
そこに、いつの間にか加わったのがソフィちゃんだ。彼女は自陣の後方から、全速力で走り込んで来たのだった。
そして、1対1の闘いに次々に加勢して行って、順番に倒して行く。
3人の前衛をあっという間に倒し終わると、今度は4人で魔法後衛に向かって走って行った。
戦う経験がほとんど無かっただろう相手クラスの魔法後衛は、ソフィちゃんを先頭にしたこの4人の突撃に、ふたりとも戦意を喪失してみるみる降参した。
魔法の創意工夫と威力、走る速さと身体能力、そして1年生でトップクラスの剣術の力。
1年生にソフィーナ・グスマンありと大観衆に見せつけた決勝戦だった。
一方でカシュくんのC組はこのE組に2回戦で負けていたのだが、2位決定戦で再戦となった。
相手方は、決勝戦での完敗が響いたのか生彩がまったく無く、カシュくんのクラスが勝って2位。学年無差別の学院トーナメントに進むこととなった。
こうして1年生の決勝トーナメントが終了し、いよいよ2年生の番となった。まずは2回戦、A組とF組の対戦。
F組は、アビー姉ちゃんの部のロルくんが率いるチーム。3人の剣術前衛が連携した3人掛かり戦法が得意だ。
俺は昨日の夕方、うちの選手たちからアドバイスを求められた。
今回は自由に戦って貰おうと思って、特に積極的な口出しは控えている。
だが、1回戦でのロルくんたちの試合を見た5人は、少し戦法を考えなければいけないと思ったのかも知れない。
「1回戦でのフォーメーションはいいんだけど、ヴィオちゃんとライの体力が心配だなぁ」
「だってぇ、いちばん後方から、魔法を撃ちながら全速力で走るのよ」
「体力づくりをしてるとは言ってもよ、相手の魔法後衛がいちばん奥に引っ込んでると、遠過ぎるぜ」
100メートル近くの距離を魔法を撃ちながら、時には相手の魔法を避けてジグザグに、木剣を手に全速力で走る訳だ。
特に魔法の発動回数を減らさないように、かつ狙いながら撃って走るのは大変と言えば大変だけどね。
「まあ、それが君たちふたりの仕事だからね。でも2回戦は、後衛は無くしたらどうかな」
「後衛を無くす??」
「そうそう。つまり、全員が前衛でありますな」
俺は紙にポジションを書いた。
ペルちゃんとバルくんが横に少し距離を取って並び、このふたりが頂点。
カロちゃんはセンターでやや下がるが、1回戦のリベロの位置より前進している。
そしてその同じぐらいの高さの位置で、ヴィオちゃんとライくんが左右に開く。
昨年の遊撃ポジションよりも更に前だ。
「これで、まずはヴィオちゃんとライが向うの魔法後衛に突っ込んで、先に片付ける。走る距離は半分とは言わないまでも、だいぶ減るのでありますよ」
「おお、そうか」
「でも、魔法の撃ち合いをしながらよね」
「それはそうですぞ。君たちは走って木剣を振るう、魔法少女と魔法少年でありますからな」
「なによ、それ」
「それでカロちゃんは、今回もいきなりウォーターボムを向うの前衛にぶちかますのだけど、彼らもそれは警戒している筈だね」
「ロルくんは、わたしの水魔法、良く知ってる、です」
「なので、撃ったら当たらなくても避ける筈だから、足元を狙って撃つんだ。そしたらカロちゃんとペルちゃん、バルの3人で先手を取って突っ込み、直ぐに3対3の闘いを始める。それでとにかく、ヴィオちゃんとライが魔法後衛を早く片付けて、5対3に持込むのですよ。ロルくんたちが3人掛かりならば、こっちは5人掛かりですな」
まあ昨日はこんな話をした。
その通りに戦えるかどうかは分からないけど、魔法少女と魔法少年の活躍次第だろう。
加えてペルちゃんとバルくんには、出来るだけそれぞれが1対1になるように言った。
口には出さなかったけど、カロちゃんが前に出れば、おそらくロルくんは自分が彼女と闘おうとする筈だ。
試合開始のホイッスルが鳴ると同時に、ヴィオちゃんのアイススパイク、ライくんの電撃が飛んだ。このふたり、魔法発動はなかなか速い。
そして、F組の前衛が前進し出そうというタイミングを見て、カロちゃんのウォーターボムが撃たれる。
彼女はこちらの前衛の少し後ろの位置なので、相手前衛までそれほど距離がなく、発動から着弾までが速い。まずはロルくんの足元を狙い、続けてその左右の前衛ふたりに飛ばす。
やはり前進した位置にいたヴィオちゃんとライくんが続けて魔法を撃ちながら、それぞれがターゲットにした魔法後衛に向かって全速力で走り出す。
すかさずカロちゃんも走り出し、ペルちゃんとバルくんも相手前衛に狙いを定めて走る。
A組の全員が、魔法発動を合図にして次々に走り出したのだ。それも後衛なしのフィールド中央に前進していたポジションから。
いわば奇襲突撃攻撃みたいなものだね。
これには、ロルくんをはじめF組の選手たちは驚いたようだ。
いや驚いている暇はない。特に前衛の3人は、足元に着弾した魔法を避けながら体勢を立て直して前に出ようと思った時には、既に1対1の間合いに持込まれていたのだ。
一方でF組の魔法後衛ふたりは、それぞれに向かって魔法を撃ちながら突進して来るヴィオちゃんとライくんに応戦するばかりで、初めから前衛に向けて魔法を放つタイミングを失っていた。
木剣を構え直したロルくんの前にカロちゃんが現れる。
ここからは夏合宿での試合稽古の再現だった。
軽快なフットワークを身に着けたカロちゃんがヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛け、ファイターのロルくんがどっしりと受けつつ一撃を狙う。
翻弄するカロちゃんと、なんとか受けて捕まえようとするロルくん。いやあ、青春のひとコマ、恋の駆け引きですな。違う? でも、ふたりとも頑張れ。
フィールド後方では、魔法を撃ちながら逃げ回るF組魔法後衛のふたりを、ずいぶんと手間取ってしまったが何とか木剣を振るって捉え、魔法少女と魔法少年が倒した。
走り回っていたので、やっぱりスタミナをかなり喰いましたかね。
それでも前衛に加勢すべく、頑張って間を置かずフィールド中央に走って戻る。
そして何とか合流し、ペルちゃんとヴィオちゃん、バルくんとライくんと、ふたりひと組になってそれぞれ2対1の闘いが始まった。
F組の前衛も健闘していたが、暫く攻防が続いたあとにようやく倒すことが出来た。
これで、F組で残っているのはロルくんだけとなった。
試合時間もだいぶ経過し、このまま終了してもA組は5人全員が残っていて勝利する。
だがそのとき、ロルくんが意地の一撃を放った。離れ際のカロちゃんの胴を僅かに打ったのだ。
木剣の入りは浅い。しかし主審のフィロメナ先生が、カロちゃんの胴に入ったことを直ぐに宣する。
これで、4対1。その直後、無常にも試合終了のホイッスルが吹かれた。
先の夏合宿ではカロちゃんが勝ち、今回はロルくんが意地を見せた。
このふたりの駆け引きは、まだまだこれからも続くんじゃないかな。
俺は倒されたF組の4人の具合を順番に診て廻り、軽く回復魔法を施して行った。
そして最後にカロちゃんを念のため診察する。胴に入った一撃はごくごく浅いもので、特に何も問題はなかった。
「最後の最後で、捕まっちゃった、です」
「次は、カロちゃんが捕まえればいいんだよ」
「はい。もっとキツい一撃で、捕まえる、です」
ロルくん、覚悟しておいた方がいいよ。俺はこちらを見ているロルくんの方を向いて、サムズアップをしてあげる。
チームとしては負けたけど、ロルくんはそれに安堵の笑顔で応えていた。
これでA組は決勝戦に進み、ルアちゃんのE組と対戦する。
魔法少女と魔法少年はやっぱりバテているけど、大丈夫ですかね。インターバル時間は短いですよ。
彼らがいったんフィールドの外に出て水分補給などをして身体を休めていると、E組の選手たちが元気よくフィールドに現れた。
この対戦を想定したアドバイスを、俺は何もしていない。自由に全力で闘って貰うだけだ
フィールドの外で座っているA組の選手たちを見て、ルアちゃんがぴょんと大きく跳躍をした。
座って休んでないで、元気を振り絞って掛かってらっしゃい、とでも伝えているような、人並み外れた高さの跳躍だった。
やる気満々ですね。これは、決勝戦は苦労しますよ。
次の主審を務めるフィランダー先生が、フィールドの中央に歩いて行く。
さあみんな。立ち上がって、闘おう。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。




