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第468話 うちの屋敷に来たお姉さん先生

 朝食を終えてラウンジで寛いでいると、アルポさんが走って来てお姉さん先生ふたりが到着したことを報せてくれた。

 どうやら無事に来たようだね。こちらまで案内して貰うようお願いし、俺とエステルちゃんとクロウちゃんは屋敷の玄関口前まで出た。


 普通の貴族家の流儀では、一般庶民だけの一行を貴族自身が出迎えることはまずないのだが、まあ俺の先生たちだからね。

 それに貴族屋敷を訪れることもそうそうないだろうから、緊張をほぐしてあげましょう。


 俺の後ろには少年少女4人と、それからシルフェ様とシフォニナさん、アルさんも付いて来ていた。

 この人外の方たちもナイアの森関係がひと段落して、暇そうだからな。

 ジェルさんたちは先ほど、朝の仕事を片付けるためにいったん騎士団施設の方に行っている。



「あ、いらっしゃいましたね」

「なんだか、きょろきょろしてるな」


 エルノさんに案内されてこちらに歩いて来るジュディス先生とフィロメナ先生は、きょろきょろと周囲を見回しながらゆっくり歩いて来る。

 屋敷の庭を眺めている風だけど、案の定、緊張しているですかね。


「やあ、いらっしゃい。待ってましたよ」

「ようこそいらっしゃいました」


「こ、このたびは、お招きいただきまして、あの、ありがとうございます」

「身分を弁えず、ご好意に甘えて、その、やって参りました」


「なに、しゃちこばってるんですか、ふたりとも。学院と同じように普段通りでいいんですよ」

「そうですよ。今回はザックさまのわがままに、お付き合いいただいているのですから」


 いや、俺のわがままじゃないと思うよ、エステルちゃん。でも、わがままだったかな。


「えーと、そうは言われましても、なにせわたしたち、貴族様のお屋敷に招かれるなんて、そうそう経験がないものですから。ねえ、フィロ」

「そ、そうなんです」


 お招きと言ってもお茶会とかじゃないですからね。特訓ですから。


「まあいいか。そのうち慣れるでしょ。えーと、紹介が遅れたよね。エステルちゃんはご存知でしたっけ」

「エステルです。いつもザックさまがお世話になっています」


「あ、エステルさまですね。お顔は拝見したかもですけど、初めましてお目に掛かります。セルティア王立学院魔法学教授のジュディスです」

「同じく、セルティア王立学院剣術学教授のフィロメナです。本日はよろしくお願いいたします」


「それから、僕の後ろにいるのが……」

「あ、あれ?」


 緊張しっぱなしの先生ふたりは、そこで初めて俺とエステルちゃん以外の人たちに気がついたようだ。それもシルフェ様の顔を見て驚いている。


「ああ、良く似てるでしょ。こちらは、エステルちゃんのお姉さんのシルフェ様。それから従姉妹のシフォニナさん。屋敷に滞在中でね」

「あー、お姉さまでいらっしゃるんですか。双子さんかと思いましたです」


「あらあら、すごく可愛らしい先生たちだこと。シルフェです。ようこそいらっしゃい」

「シフォニナです。おひいさま、初対面で失礼なことは言わないようにしてくださいね」


 エステルちゃんは相変わらず15歳ぐらいに見えるし、シルフェ様も外見はほぼ同じか少し上ぐらいに見える。シルフェ様の場合、永久の時を跨いで存在しているけどね。

 その一見歳下の少女から、可愛らしい先生たちと言われると凄く変なのだが、ふたりはまだ緊張の中にいて良く分からなかったようだ。


「それでわしは、ザックさまとエステルちゃんの執事のアルノガータ、アルさんじゃ」


 えーと、アルさんの自己紹介も突っ込みどころがあるのだけど。自分を執事と言っているのに、エステルちゃんをちゃん付けで呼んでいるところとか。

 まあそこはスルーして、フォルくんたち少年少女4人も紹介し、ジェルさんたちを呼んで来て貰うことにした。



「あらためてのご紹介ですが、この5人がうちの騎士団王都屋敷分隊のメンバー、通称レイヴンです」


 お姉さん先生にレイヴンのメンバーを紹介した。

 ちなみにティモさんは騎士団王都屋敷分隊員ではないが、調査探索部は秘密組織なので騎士団員の一員にしておきました。


「それで、フィロメナ先生の剣術訓練はジェルメール騎士とオネルヴァ従騎士に相手をして貰って、ジュディス先生の魔法訓練は僕とライナ従士でお手伝いしようと考えています」

「はい、わかりました。よろしくお願いします」


「有名なグリフィン子爵家騎士団の、それも騎士様と従騎士様と訓練が出来るなんて」

「よろしく頼む。わたしはジェル、それからこっちはオネルと呼んでいただいて結構ですぞ」

「はい、お願いします」


 フィロメナ先生はどうも騎士団員になりたいと思ったこともあったようで、少し憧れのこもった目をふたりに向けていた。

 学院の剣術学教授というのも、たいしたものだと思うけどね。


「さあさ、まずはお紅茶とお菓子で人心地つけていただいて、訓練はそれからですね」

「エステルさま、ありがとうございます」

「いただきます」


「あ、これってグリフィンマカロンですね。いま王都でもちょっと人気です」

「ええ、でも、売られているものじゃなくて、うちで作ったものなんですよ。つまり、オリジナルですかね」


 今日からアデーレさんが厨房に篭ってエディットちゃんをアシスタントに、昨日俺が説明したカスタードプディングに取組んでくれている。

 そのエディットちゃんは、皆にグリフィンマカロンをサーブし終えると、そそくさと厨房に向かって行った。




「ここがうちの訓練場ですよ」

「立派な訓練場ね」

「こんな訓練場が、貴族街のお屋敷の中にあるなんて、吃驚するわ」


 騎士団分隊本部で訓練着に着替えて貰って、訓練場へと案内した。

 訓練着姿になって、お姉さん先生たちもだいぶ落ち着いて来たようだ。

 うちの訓練場は、バスケットボールコートの2面分よりひと回り広い感じで、周囲を高い壁で囲われ音などが周囲になるべく漏れないようになっている。


「ちょっと壁が高くなってる? フィールドが前より低くなったのか」

「ダレルさんがねー、強力な魔法の訓練も出来るようにってー。それでわたしと改造したのよー」


 ダレルさんが訓練場の補修をしてくれたと昨日に聞いていたけど、ライナさんの話によると大幅な改修工事をしてくれていたんだね。

 確かにフィールドがこれまでより1メートル以上は掘られて低くなっており、その分周囲を囲む壁が高くなり、更に嵩上げしたようで高さが5メートル以上はあるよね。

 壁の厚さも少し増やしたとライナさんが教えてくれた。


「これで多少は派手な魔法を撃っても、音も漏れにくいし、びくともしないわよー」

「そうなんだ。ダレルさんには感謝しないとだな」


「のう、ザックさまよ。わしも先生さんの魔法の訓練のお手伝いをしましょうかの」

「いやあ、アルさんはほら、オーバースペックだからさ」

「カァ」

「おーばー、なんですと?」


 見学にとエステルちゃんやクロウちゃん、シルフェ様とシフォニナさん、それからアルさんも訓練場に来ている。

 アルさんが訓練を手伝おうかと言ってくれたのだが、下手するとアルさんが人間じゃないのがバレそうなので、見学だけにして貰った。



「それでは訓練を始めてよろしいですかな? まずは身体ほぐしにストレッチをしますぞ」


 ジェルさんの号令で訓練に参加する皆がストレッチを行う。これは俺が教えて、レイヴンの皆が訓練をする時にも必ず行うものだ。

 と言うか、エステルちゃんとシルフェ様、シフォニナさんにアルさんもストレッチをしていた。なぜだか人外の方たちも覚えているんですね。

 女性3人は普段着だけどドレス姿なので、軽いものにしておいてくださいよ。


 ここからは剣術組と魔法組に分かれての訓練なのだが、その前に先日来、ジュディス先生に覚えて貰っている今回の模範試合用の火球魔法を、俺がやって見せることにした。

 昨日皆に話したら、見たいという声があったからね。


 それでライナさんが土魔法で、人間型のまとをいくつか壁際に造り出す。

 ライナさんが造るまとは、俺が造るよりも見た目がリアルなんだよな。


「おいライナ、またわたしに似たのを造って」

「ジェルちゃんだけじゃなくて、いちおう男性型のも造ったんだけどなー」


 たしかに、女性型と男性型が交互に置かれている。男性型はティモさんぽいなぁ。


「あの男性のって、ティモさんに似てますよねライナ姉さん」

「えへへ、つい」


 そのティモさんとブルーノさんは、馬たちの世話の仕事で馬小屋の方に行っている。

 これを見たら、ティモさんは怒らないかな。まあ、ライナさんのすることだから怒らないか。



「あの、ライナさんて、去年の総合戦技大会で、フィールド整備を手伝ってくれた方ですよね。ザックくんの土魔法はときどき見ますけど、ライナさんも凄いですね」

「グリフィン子爵家には、このふたりと、もうひとりの3人の土魔法の達人がいるんですよ。凄く珍しいみたいですけどね」


「珍しいどころじゃないです。わたしだって、ザックくんのを見るまで、ほとんど土魔法って見たことがなかったんですよ」

「そうなんですかぁ。わたしたちには当たり前過ぎて。うちって、ちょっと変ですよね」


 ジュディス先生とエステルちゃんが、あっという間にライナさんが造った人間型のまとを見ながらそんな話をしている。

 もっと凄い土魔法使いは、側でふんふん聞いているドラゴンの爺さんだけどね。



 それでは、まずは機関砲とCIWSイメージの火球魔法のデモンストレーションをしましょうか。

 うちの訓練場は縦横が35メートルほどのサイズなので、総合競技場でやったみたいな遠距離撃ちは出来ない。

 走りながらのCIWSイメージはやめとくかな。


「2種類あるんだけど、まずはこれね」


 ズコーン、ズコーン、ズコーンと機関砲イメージの高速の火球弾を一気に10発ほど撃ち出す。


「もうひとつはこれ」


 俺は軽く移動しながらCIWSイメージのものをシュパパパパン、シュパパパパンと、先日と同じように間に少し間隔を置いて、2回撃ち出す。

 1回がだいたい30発ぐらいですか。


「ほうほう、これは面白い火球魔法ですの。魔法そのものはごく簡単なものじゃが、1回の発動で複数を高速に発射する訳ですな。面白い面白い」

「ひとつひとつの威力は無いけど、速いわねー。だから試合用なのね。でも、実戦だって敵の牽制には使えるわよねー」


「なんとも、ザカリーさまらしい魔法ですな」

「これ撃たれると、突進しようとした足が止まりますよね」


 俺の魔法デモンストレーションを見て、うちの皆がそれぞれに感想を言い合っていた。

 初めて見る魔法でも、この程度だといたって冷静に分析するところがうちの連中らしい。



「いまのを、ジュディス先生に教えているんですよね、ザックさま」

「そうでありますが」

「大丈夫ですか? ジュディス先生」


「それがですねエステルさま、初めて見せて貰った時、ジュディったら、わたしには無理ぃって叫んでベソかいて……」

「煩いっ、フィロ。バラさないでよ」


「ザックさまぁ、先生を泣かせたんですかっ」

「あ、あの、エステルさま。わたしが勝手に、混乱して、その……」


「ジュディス先生は少しも悪くないですよ。ザックさま、昨日のお話ではそんなこと言ってませんでしたよね」

「はい、すみません。どうも吃驚させちゃったみたいでありまして」


 ほら、フィロメナ先生が余計なこと口にするから、エステルちゃんには黙ってたのにバレちゃったじゃないですか。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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