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第460話 不思議なみんなで見学会

 地下拠点の見学会を始める。

 まずはトンネルから入ろうと、導入路までだいたい1キロメートルほどを全員でのんびり歩きます。


 いやあ、それにしても人数が多いよね。

 人間が16名、精霊が風と水を合わせて8名、ドラゴン1名、ユニコーン2頭、式神1羽で、合計28名の結構な数の一行だ。

 その人間と人外の混ざり合った集団が、賑やかに森の中の道を歩く。


 ユニコーンのかしらのアッタロスさんは神妙にニュムペ様とシルフェ様に従って、何か念話を交えて話しながら歩いているが、アルケタスくんはいつの間にかオネルさんの横に付いて嬉しそうに歩いている。

 うちの少女たちに近づくとエステルちゃんに怒られるので、ちゃっかりオネルさんに近寄ったんだな。


 こういった場に慣れないアデーレさんも、エステルちゃんと話しながらなんだか楽しそうだ。

 そして、フォルくん、ユディちゃん、エディットちゃん、そしてシモーネちゃんの少年少女たちは更に楽しそう。

 特に女の子3人は、ぴょんぴょん跳びはねるように歩いている。



 やがて、トンネルに至る導入路の入り口に着く。

 そこを折れてカーブする道を歩いて行くと、地下に下って行く坂道となり、正面にはトンネル入口の大扉が見えて来た。

 今日は内側の閂はもう外されていて、頑丈な大型のウォード錠の錠前が掛けられて閉ざされている。その鍵は俺が持っている。


「ザックさま。この坂道とか左右の壁とか、ぜんぶザックさまたちが造ったんですよね」

「そうだよ、フォルくん。この坂道とトンネルは、アルさんと僕の担当。あの大扉は、アルポさんとエルノさんが作ってくれたんだ」

「へぇー。凄いです」


 そして、その大扉の錠前を俺が開けた。そしてアルポさんとエルノさんが左右から扉を開く。


 トンネルは下りながら一直線に続き、永久発光の魔導具の照明が点々と続いている。

 トンネル内には緩やかな風も流れている。これは、途中途中で空けてある空気の取入れ口に、先日シルフェ様からいただいた風の石を取付けたためだ。


 初めてこのトンネルを通る人たちは、「ふぉー」と声を上げていた。さあ、行きましょうかね。



 1キロメートル足らずの距離を歩いて行き、大きな空間に到着した。

 ここは馬車寄せと呼んでいる、地下拠点玄関口前の広い空間だ。


「皆さん、ナイアの森地下拠点にようこそ。この馬車寄せまで、今のトンネルを通って馬車や馬で来ることが出来ます。この大きくて頑丈な扉が地下拠点の玄関口。あちらには馬車庫や馬小屋、倉庫などがあります」


 まずは皆を、馬車庫と馬小屋、倉庫のある区画に案内する。

 現在は何も入っていないが、3台分の馬車が収容出来る馬車庫をはじめ、それぞれが広く、特に倉庫はとても大きな空間だ。


 それから再び玄関前に戻って大扉を開ける。

 こちらには鍵を掛けてはいないが、アルポさんとエルノさんが先ほどと同じように扉を開く。

 じつは馬車庫の方から前室区画に入れる小さな入口があるのだが、今日は見学会なので正面からご案内しましょうね。



「ここが前室区画です。地下拠点はこの前室区画と作戦区画、居住区画の3つの区画で出来ています。まだ何も入れていないので、どこもガランしてますが、ここが玄関ホールとそれからラウンジ。それから応接室や警備員室などがあります」


 もちろんトイレや、お茶などを淹れることの出来る給湯室も設置してありますよ。

 まだお湯を沸かすコンロの魔導具などを入れていないので、お茶を振る舞うことは出来ないけどね。


 拠点内に入ってからは俺が全員を引率し、ダレルさん、ライナさん、アルさんの土魔法建設メンバーがそれぞれ皆に説明し、質問に答えている。

 そうして前室区画の各部屋をざっと巡り、再び玄関ホールに戻った。


「この奥が、作戦区画と居住区画になります。左側のドアが作戦区画の入口、右側が居住区画ですね。それではまず作戦区画に行きますよ」


 玄関ホールの正面奥に区切られた空間があって、そこが本当の意味での前室だ。警備室も隣接していて、ここからがセキュリティエリアになる。


「ここから先は、関係者しか入れないということにしています。もちろんこの地下拠点自体、人間はグリフィン子爵家の関係者しか入れないようにするつもりですが、万が一に外部の人間が訪れることがあった場合でも、前室区画まで。このふたつのドアから先は入れません」


 皆は俺の説明を聞いて、ふんふんと頷いている。



「(あの、ザカリーさま。ひとつ質問でござるが、ザカリーさまはいま、人間は、とおっしゃられましたが、人間以外はどうなのでござろうか)」

「ああ、いまアッタロスさんから、こんな質問がありました」


 その質問内容を念話の出来ない人たちに説明する。


「これはまだうちの父さんたちとは相談していないけど、僕の考えを少し詳しくお話ししておきます。まず人間だけど、グリフィン子爵家の関係者は、いまここにいる王都屋敷のみんな。それから子爵家家族。騎士団員と調査探索部員に加え、父さんや騎士団長、調査探索部長が許可した者ですね。あと、ファータの里の人間で、里長さとおさやエステルちゃんのお父さんとお母さん。それから里長さとおさが許可した人、という風に考えています」


 俺の説明に皆は納得顔だ。

 だがミルカさんが、「いまザカリー様がおっしゃられた人たちで、私もよろしいかと思いますが、ザカリー様ご自身が許可した者も加えてもよろしいかと愚考します」と発言した。


「それはそうじゃの。わしもそう思いますぞ」

「そうねアル。わたしも賛成。ね、ニュムペさん」

「はい、わたしも賛成です。と言いますか、すべてはザックさんがご許可された人で良いと思います」


「ああ、ありがとう、アルさん、シルフェ様、ニュムペ様。そこら辺は、子爵家でも相談しておきますけど、お三方のご意向は父さんに伝えます。ね、ミルカさん」

「はい、承知いたしました」



「それで、アッタロスさんの質問に戻るけど、人間以外については、今後誰が、というのは僕も予測がつかないので、シルフェ様とニュムペ様、それからアルさんの判断に任せようかなって思っています」


 要するに、人外関係については精霊様とドラゴンに丸投げだ。だって、将来的にどんな人外の方たちと関わりが出来るかなんて、俺には分からないしさ。


「(そうでござるな。その判断は、こちらのお三方にしていただけますと、我らも安心でござるよ。いや、無用な心配でござったが、ザカリーさまのお言葉で聞けて、安堵し申した)」


 古くから、このナイアの森に棲んで森を護って来たユニコーンの一族のかしらなら、当然の心配だよね。

 思わぬ存在がこの地下拠点を占拠したりしたら、ナイアの森の平和が壊されてしまう。

 ただでさえこの森のユニコーンは、キツネの魔獣テウメーと対立関係にあるからね。


「うん、アッタロスさんの心配は尤もだ。そういうことでいいですよね、シルフェ様、ニュムペ様、アルさん」


「いいわよ。そこら辺は任せなさい」

「わたくしたちの妖精の森を護るためでもありますから、もちろんです」

「わしらが、きちんと判断するようにしますぞ」



 それから皆で作戦区画に入り、各部屋を案内する。

 指揮官室とそれに接続した作戦事務室、作戦会議室。それから図書室、武器装備室、兵員待機室、更衣室などに予定しているいくつかの部屋だ。


 もちろん現在は家具や備品が何も入っていないので、どの部屋もがらんどうだけどね。

 エステルちゃんとアビー姉ちゃんがノートを出して、そのノートのページを捲りながら部屋を見て廻り、何か相談したり書き込んだりしている。

 あのノートは、購入品の整備リストのようだね。実際の部屋を目視して確認しながらチェックしたり、不足品を書き込んだりしているようだ。


「いちばん奥のここから、地上に出られる階段があるよ。あとでここから地上に出るけど、次に居住区画の方に行きましょう」


 前室区画と作戦区画、そしていま向かっている居住区画は完全に分離されている。

 3つの区画と区画の間は区画内の部屋壁とは異なり、石よりも硬く硬化された分厚い壁で閉ざされている。

 前室区画から作戦区画と居住区画に出入り出来る通路は、表面上は1ヶ所のみ。じつはそれとは別に隠し通路がある。


 一方で作戦区画と居住区画との行き来も三ヶ所しかなく、そのひとつのドアを開けると5メートルほどの短い通路の先にもうひとつのドアがある。

 この5メートルの長さが、作戦区画と居住区画を隔てる硬化壁の厚さなのだ。

 この壁が各区画を囲み、防壁であると同時に地下拠点の上部を支える構造壁になっている。



「ここが居住区画です。現在、ひとり部屋を10室、ふたり部屋を20室造ってあります。ここが居住区画のラウンジで、まあ寛いだり娯楽をしたりする部屋だね。向こうに食堂、その奥に厨房があります。では厨房の方に行きますよ」


 家具や備品を設置していないので、部屋の種類は説明だけなのだが、皆は広さや繋がりから何となくイメージしたようだ。

 そして、広い食堂空間を抜けて厨房に入る。厨房と食堂は、土魔法で造った作り付けのカウンターを挟んで仕切られているだけだ。


「ここが厨房ですね、ザックさま。アデーレさんと少し確認していていいですか? アビー姉さまは、皆さんと一緒に他のお部屋を確認していただけると助かります」

「いいよ。頼むね」

「りょーかいだよ、エステルちゃん」


 それでエステルちゃんとアデーレさんを厨房に残し、他の皆は居住室に案内する。

 まあどの部屋も、何も置かれていない広めのワンルームなんだけどね。

 それから最後は、トイレ、手洗い、浴室の水回りコーナーだ。


「ここがザカリーさま渾身作の、おトイレと洗面室にバスルームよー」

「おお、とても広いのですね」

「こういう部分を広く造るのが、ザックさんらしいわよね」


 なぜかライナさんが説明しているけど、渾身作のってなんですか。

 精霊様のおふたりも、えらく感心しているけどさ。



 ニュムペ様のお力をいただいて、先ほどの厨房や此所などには既に水は引かれており、金属製のコックを捻ると清浄な水が流れるようになっている。


 ちなみに、こういった水道設備やバルブ、コックなどは、前世の世界でも古代ローマ時代から実用化されていたそうだが、この世界でももちろん普通に使用されている。

 こういった部材は、俺たちが合宿に行っている間にアルポさんとエルノさんが入手してくれていた。


「おトイレもー、この紐を引っ張ると、ほら、勢い良くお水が流れるようにザカリーさまが造ったのよー」

「ほわー、ザックさまは、おトイレづくりの名人さんですか」

「そうよー、シモーネちゃん」


 いやいや、別にトイレづくり名人じゃないからね、シモーネちゃん。どちらかと言うと、そっちのライナお姉さんの方の筈なんだけどなぁ。


 水回り関係の部屋で、主に女性たちを中心にワイワイ賑やかに話していると、厨房の確認が終わったのかエステルちゃんとアデーレさんも合流していた。

 これでだいたいは案内したかな。あとは汚水汚物の処理施設があるけど、まああちらは良いでしょう。


 それにしても、地下拠点内の空気はうまく循環しているし、水も豊富に使える。

 シルフェ様とニュムペ様には、本当に感謝だよね。


 それで見学会の一行はもういちど作戦区画に戻り、いちばん奥にある階段室から地上へと向かった。

 ユニコーンがこの階段をうまく上がれるか少々心配したけど、大丈夫なようだね。


 ブルーノさんとアルポさん、エルノさんが残ってトンネル出入り口まで走り、大扉の閂を掛けた後に玄関口の扉の戸締まりもする。

 それとは別に俺から鍵を預かったティモさんが、先行して地上に出るとトンネルの大扉の外側から鍵を掛けに走って行った。




「みなさん、杯は持ちましたか? クロウちゃんとアッタロスさんとアルケタスくんは、取りあえず我慢してね。それでは乾杯をしますよ。ザックさんたちのご苦労をねぎらい、地下拠点の基本工事の完成を祝し、それからナイアの森の安寧を願って、乾杯っ!」

「カンパイ」


 シルフェ様の音頭で皆が乾杯して、そして拍手の音がナイアの森に響く。

 テーブルの上には大量の料理が載せられていて、すっかり人間の食事のファンになっているネオラさんはじめ、若い水の精霊さん3人の目がキラキラ輝いている。


 この料理の数々は、料理長のアデーレさんを中心にエステルちゃんたち留守番組の皆が手伝って用意して来てくれたものだ

 先ほどエステルちゃんが、肩から下げたマジッバッグから次々に料理を取り出し、少年少女たちがテーブルに並べて行くと、水の精霊さんたちは率先してお手伝いしていました。



 夏の終わりのお昼過ぎ。陽射しはまだかなり強いけど、爽やかな風が森の中を流れて行く。

 微かに甘い風の香りから、シルフェ様とシフォニナさんが涼しい風を吹かせてくれているのが分かる。

 ふと冷静に眺めると、ここにいるのはとても変わった集団なのだけど、みんなが同じ料理をいただいて笑顔で話して笑っている。


 夏休みの最後の最後の1日。この不思議な人たちと一緒なのが、なんだか幸せだった。


「良かったわね、ザック」


 輝く陽の光に乗って、そんな優しげな声が聞こえて来た気がして、俺は「はい」と心の中で返事をするのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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