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第451話 合同合宿訓練の開始

 夏休み合同合宿の初日、男子はジェルさんたちを手伝ってテントを張り、女子はエステルちゃんを中心に炊飯場を設置、そして俺はひとり仮設トイレを造る。

 レイヴンの皆とのいつもの野営準備だと俺はほぼ何もさせて貰えないのだが、今回はライナさんの代役で仮設トイレづくりを仰せつかった。


 土魔法ですべて造ってしまうので俺だけの孤独な作業だが、それでも一緒に野営準備が出来て楽しい。

 今回の合宿の参加人数は、総合武術部が俺を入れて女子4名に男子4名。姉ちゃんの部が女子2名に男子5名。そしてエステルちゃんたちうちの指導教官が女子3名に男性ふたりだ。

 合計で女性が9名、男性11名にクロウちゃんが1羽だね。


 トイレについてはクロウちゃんは員数外なので除くが、男女ともそれなりの人数になる。

 夜寝る前や朝起きて直ぐのトイレの順番待ちは嫌なので、数量としては男女とも最低2基はほしいところだよね。

 結局俺は、女性用、男性用とも3基ずつを造った。設置場所は、湖畔の野営地から多少距離を取った森林の入口だ。



 もちろんちゃんと個室にして、雨が降った場合に備えて屋根もつける。

 ドアの加工はアルポさんとエルノさんがいれば簡単なのだが、蝶番を残念ながらストックしていなかったので、入口を狭くしてかつ見えないように衝立て壁を1枚立てて代用することにした。

 今後のために、爺さんたちが作って余った蝶番は貰って収納しておこう。


 トイレはいちおう水洗式だ。

 とはいっても、タンクから流すとかは出来ないこともないが、一定量の水を流す弁をつけたりパイプを引いたりは工作作業が面倒くさいので、水を貯めた水槽からバケツで汲んで使用者に流して貰うことにした。

 男女用それぞれに設置した水槽には大量の水を出して貯めておき、ついでに手洗い場も造っておいた。バケツや水を汲む柄杓は、俺の収納備品だけどね。


 汚水汚物は、硬化ブロックに穴を空けて簡易に作った代用パイプの下水管で便器から流し、少し離れた森の中に深い穴を掘ってそこに集めるようにした。この穴は最終的には埋めてしまう。

 まあ3泊4日だけの仮設トイレなので、こんなもので良いだろう。



「な、なんですか、この建物は」

「だから、トイレだよ。仮設のトイレ」


 様子を見に来たオネルさんが、俺の造った仮設トイレを見て驚いたようにそう言うと、踵を返して「エステルさまぁー、ジェルねえさぁーん、ザカリーさまが何か凄いの造ってますー」と大声で言いながら走って行った。

 えー、凄いのって、俺としては公衆トイレをイメージしたんだけどなぁ。


 そうして、エステルちゃんやジェルさんたち、それから野営地の設営を終えていた部員たちもやって来た。


「ザック、あんた、何造ってるのよ」

「ザックさま……」

「だから、トイレ」

「わたしは、普通でってお願いしたんですよ。あくまで普通の野営地の」


「これは……。1軒の建物でありますな」

「これがトイレなの?」

「こっちに女子、あっちは男子って、入口に書いてある、です」


 せっかく全員が集まったので、ついでに使い方を説明してしまいましょうかね。

 仮設トイレは横長の簡易な建物で、両端に男女それぞれの入口があって、もちろん内部の中央部で壁に仕切られ、男子用と女子用の行き来は出来ない。

 まだどちらも未使用なので、取りあえず男子用部分で説明することにした。


「おお、中は広いんだな」

「個室が3つ、あるのね」

「男女それぞれ、3つずつだよ」

「ザックさま……」


 内部は、大型の水槽に手洗い場、順番待ちや身だしなみを整えることも出来る個室前の広い空間、そして3つの衝立て壁が立っており、その横から入ると個室内部も広めに快適な空間が確保されています。

 狭いトイレは嫌なので、個室あたり1坪ぐらいはあるかな。


「学院や寮のトイレより広いぜ」

「うちの屋敷のより広いわよ」

「とても贅沢であります」

「ザックさま……」


 全員がいっぺんにひとつの個室には入れないので、俺はバケツに水を汲んで流す方法だけ教え、流した汚水汚物は少し離れた深い穴へと行くことを説明しておく。


 部員たちはひとしきり驚いたり感心したりしていたが、うちのレイヴンのみなさんはただ呆れているだけだった。


「帰る時には、ちゃんと壊して後始末して、元の状態に戻してくださいね」

「はい、エステルちゃん。そうします」


 部員たちの前なのであからさまには叱られなかったけど、やれやれという顔のエステルちゃんにそう言われました。

 ちょっとやり過ぎたかな。ここのところ、拠点建設工事やら汚水汚物処理のことやらで考えたり作業したりしていたので、ついこうなっちゃったのですよ。



 そのあと、ブルーノさん主導による恒例のナイア湖釣り大会をして大量の釣果を確保し、釣り上げた魚は夕食用にすることにした。

 昼食はうちの屋敷から山ほどのパンや料理を用意して来ているので、それをいただく。

 魚を保存しておく冷蔵庫と氷室が必要ですよね。はい造りますよ。


「ザカリーさま。いつもぐらいの普通のでいいですからね。普通のですよ」

「はいはい、わかっておりますよ、オネルさん」


 食材を一時保存する冷蔵庫と氷室は、そんなに大型のものを造る必要はありませんからね。




 昼食をいただいてひと休みし、ようやく合宿の目的である訓練開始となった。


 訓練予定は姉ちゃんに指導教官の皆も交えて、だいたいを事前に決めてある。

 今日の午後はふたつの部が合同で、この湖畔で剣術の訓練を行う。

 双方の部とも人数が増えたこともあって、ルアちゃんが期待している対抗戦形式の試合稽古は明後日とした。


 それで今日の午後は、打ち込み稽古を中心に行う。

 明日はそれぞれの部に分かれて森の中に入り、森林内での個別訓練。総合武術部は、剣術と魔法の両方を訓練するつもりだ。

 森の中に入る際は指導教官が二手に分かれて付き、監視も含めて拠点建設現場とは異なる方向の場所へと誘導する。


 そして3日目は今回、再び剣術の合同訓練にして対抗戦形式の試合稽古を行う予定だ。

 まあ、合宿の仕上げという意味合いもあるよね。


 あと、事前にこの訓練予定を決める際に、アビー姉ちゃんからお願いが出された。

 それは、姉ちゃんがジェルさんとオネルさんをそれぞれ相手にして、模範稽古をさせてほしいということだった。

 彼女が今年で学院を卒業ということもあるし、自分の部の部員たちに見せたいということもあるらしい。


 もちろんジェルさんとオネルさんは、姉ちゃんのその申し出を快く引き受けてくれた。

 なので、初日の今日の最後にその模範稽古をする予定だ。



「ザカリーさま、自分たちは少々あちらに」

「うん、わかった。頼むねブルーノさん、クロウちゃん」

「では、行ってきやす」

「カァ」


 合同訓練を開始する直前、ブルーノさんとクロウちゃんはそう小声で俺に伝えて、いつのまにか姿を消していた。

 こちらの合宿組が到着して野営準備も終わり、訓練を開始したのを拠点建設現場のメンバーに伝えるためだ。


 アルポさんとエルノさんが屋敷に戻っているので、あちらの人員はダレルさんとライナさん、アルさんにミルカさんと極めて少人数になっている。

 なので、学院生の全員がこの湖畔で合同して剣術の訓練をする今日の午後は、ブルーノさんも向こうの手伝いをするつもりだ。


 森のこちらに多くの人間が入っているので、クロウちゃんは上空から広く見張りを行う。

 一方、こちらに残ったティモさんは、俺たちから少し離れて巡回をしながら周辺警戒にあたってくれる。


 それでは向うはブルーノさんたちに任せて、俺は訓練に集中しましょうかね。



 全員で一斉に行う素振りを終えて、ふたつの部の部員が入り交じり、ふたりひと組になって打ち込み稽古を開始する。


 組んだふたりの力量があまりに離れてしまうと一方的な指導稽古になってしまうので、エイディさんを筆頭とした3年生3人に、ブルクくんとルアちゃん、それにロルくんの2年生3人を加えた6人を剣術上位組。

 カロちゃんとヴィオちゃん、ライくんに、ソフィちゃん、カシュくん、ヴィヴィアちゃん、イェンくんの1年生を加えた7人を下位組とした。


 ロルくんはこの1年でかなり上達しているようなので、姉ちゃんの主張も汲んで上位組に入れた。

 カロちゃんも辛うじて入れても良いのかもだが、上位組の人数が奇数になってしまうので下位組として、その代わり姉ちゃんと組んで指導して貰う。

 幼い頃から知っている姉ちゃんが相手なら、カロちゃんも遠慮なく打ち掛かって行けるだろう。


 このカロちゃんと姉ちゃんのペアを除いた上位組6人、下位組6人の中で、時間を決めて相手を替えながら打ち込み稽古を続ける。

 ジェルさんとオネルさんに、エステルちゃんと俺はその間を巡回しながら指導を行っていった。


 途中に小休止を挟みながらも、全員がへとへとになるまでこれを続ける。

 少しでも気を抜いたり集中力が途切れたりすると、指導教官の鋭い声が飛ぶ。特にジェルさんとオネルさんは、剣術訓練の時は怖いからね。

 さすがに木剣でいきなり打ったりはしないが、気の弛みは決して見逃さない。


 全員がこうして、極度の集中と緊張感を維持しながら打合っていく。

 これは剣術の技量を上げる訓練であると同時に、普段は向かい合わない相手とも相対し、闘う気持ちと闘いへの集中力を持続させる訓練でもあるのだ。


「よおし、やめっ」と、ジェルさんの良く通る声が湖畔に響いた。

 その声に合わせるかのように、姉ちゃんを除いた全員がその場にへたり込む。


 数分間はそのへたり込んだ状態に任せ、それからエステルちゃんの「さあ、立ってこちらに集まって。こちらで休憩しますよ。元気が出る美味しいお水も配りますよ」という声が響いた。

 それに合わせてジェルさんとオネルさん、姉ちゃんに俺も加わって全員を立たせ、エステルちゃんが指示した場所に皆を集める。


 エステルちゃんが元気の出る美味しいお水と言ったのは、あの特製の果汁入り甘露のチカラ水だ。

 今回も昨晩、大量に作って持って来ている。それに、先ほど造った仮設冷蔵庫で冷やしていたので、冷え冷えで美味しいですよ。


「ふぅー、生き返ります、です」

「なんとも美味しい飲み物であります」

「辛い訓練のあとにこれって、幸せ」


「あんたたち、エステルちゃんに感謝しなさいよ。このお水は滅多にいただけないものなんだからね」

「ありがとうございます、エステルさん」



 そうして部員たちが座って身体を休ませ回復していると、「じゃ、そろそろお願いしようかな」と姉ちゃんが、皆を見守っていたジェルさんとオネルさんに近づいて行った。


「よろしくお願いします」

「それでは、まずはわたしから」

「はいっ、お願いします、オネルさん」


 予定を知らせていなかった部員たちは、何が始まるのかとその様子を注目した。


「これから、アビゲイルさまのご要望により、模範稽古を行う。試合稽古形式でオネルとわたしがお相手をし、1対1の対戦を続けて行う。アビゲイルさまは、この模範稽古を皆に見てほしいそうだ。皆も観戦して、しっかり学ぶように。それではまずオネルから」


 ジェルさんのいまの言葉を聞き、座って休憩している部員たちは少しざわついたが、「立って観戦するであります」とエイディさんが立ち上がり、全員もそれに続いた。


 それにしても姉ちゃんも相変わらずタフだよな。いままでカロちゃんを相手に打ち込み稽古をしていたばかりなのに、さすが野性の体力を有する娘だ。

 そんな姉ちゃんがどんな模範稽古をするか、では俺もじっくり見させて貰いましょうか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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