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第445話 精霊様の環境アセスと工事の開始

 現地を確認するためにニュムペ様も見に行くことになり、暫し水の精霊屋敷で過ごしたあと俺たち一行は地下拠点建設予定地に戻った。

 3人の水の精霊さんに留守番を任せ、ネオラさんも同行している。そして何故かユニコーンのアルケタスくんも付いて来ている。

 君はこんな森の西端まで来て大丈夫なのかな。ヒヒン。


 ニュムペ様とネオラさんは時折、水の流れを伝わってナイア湖までは来ることがあるが、地上をここまで出て来るのはほとんどないそうだ。

 風の精霊であるシルフェ様たちと違って、どうも水の精霊さんは地上を気軽にあちこち移動するということが少ないようだね。


 地下拠点建設予定地に到着し、試し堀りした穴を見て貰う。

「ちょっと中に降りてみましょう」と、ニュムペ様とネオラさんが穴の底まで降りることになった。

「それじゃわたしも」とシルフェ様。シフォニナさんもそれに従う。アルケタスくん、君は無理そうだからね。ブフッ。


 直径3メートルほどの大穴ではあるが、大人数で降りる訳にはいかないので、あとは俺とアルさんとクロウちゃんが一緒に中に入る。

 つまり、人外の方々による検分といった感じですかね。



「水が流れたり溜まっている層は、どのぐらい下ですか?」

「そうですね。この辺りですと、この穴の深さがあと3つ分ぐらいで、水がたくさん出始めますね」


 今日掘ったこの穴の深さがだいたい40ポード、つまり12メートル弱ぐらいなので、あと2つ分ぐらいだとすると地上から47、8メートルで水が出ることになる。

 そこまでは、染み出てくることがあっても止めてしまえば大丈夫だそうだ。


「その更に下に、凄く大きな流れがあるんですよ」


 長年に渡って、この地の清浄な水を護って来たネオラさんがそう付け加えた。

 ここからの流れだけではないが、かなりの割合でこのナイアの森の地下水脈が、王都中央圏の地下の水を保っているということだった。


 まあいずれにしても、今回はそんなに深く掘り進めることはない。

 この深さ12メートルを基準に、あと1層分、3メートルぐらいを更に下層階として掘って造るぐらいかな。


 地下に造る予定の汚水汚物の一次処理施設についても、ニュムペ様には話をしてある。


「目に見えないほどの小さな生き物が、大きな生き物の出す汚い物を奇麗にしてくれるのですね。それって、この大地で行われていることですよね、シルフェさん」


「ええそうよ。なので、人間の20人や30人そこらが出す分ぐらいなら、森に撒いてしまえばいいのだけど、地下から地上に汚い物を運ぶのも大変でしょ。なので、それを処理する場所を地下に造って、わたしがそこに空気を送り込む仕掛けを、ちょっと作ってあげようかと思ってるのよ」


 この処理施設については、汚水汚物が流れ出したり地下水を汚したりしないようにしてくれれば良いということになった。

 あとは、俺が土を極度に固めて石にして作ったブロックを見せて、地中の土を活用するなどの話をして検分を終わる。

 水と風の真性の精霊様の検分なので、これってこの世界初の環境アセスメントみたいなものですかね。



 さて、今日の予定はだいたい終了したので、全員が集まってこれからの行動予定を確認する。

 まず、王都屋敷に帰るグループと現地に残るグループ分けだ。


 王都屋敷に帰るグループは、エステルちゃんを筆頭にシルフェ様とシフォニナさん、それからアビー姉ちゃん。

 姉ちゃんは、合宿の件でエイディさんたちと確認ミーティングとかをしないといけないので、明日はいちど学院の寮に戻る。

 それからまた屋敷に帰って来て、エステルちゃんと設備や家具、備品類の発注準備だね。


 彼女たちが馬車に乗って帰り、ティモさんが御者役、ジェルさんとオネルさんが騎馬で護衛をして行くことになった。

 ジェルさんたちは明日から交替でひとりが屋敷に残り、見張り役としてまた現地に来る。


 一方で現地グループは俺とアルさん、ダレルさんにミルカさん、ブルーノさんとアルポさん、エルノさん、そしてクロウちゃんの男ばかりが7人に1羽。そしてライナさんだ。


「わたしが紅一点ねー。うふふ」

「ライナ姉さん、ザカリーさまと一緒になって好き放題はしないでくださいね」

「ライナを甘やかさんでくださいよ。男性陣のみなさん」

「大丈夫ですよ、オネルさんジェルさん。ブルーノさんとミルカ叔父さんがいますから」


 特にライナさんに甘いのは、彼女の少女時代から土魔法の師匠のダレルさんと、現在の魔法の師匠とも言える何かと面倒見の良いアルさんだ。

 師匠だから弟子には厳しい筈なのだが、彼らの場合は放任主義で優しい。

 尤もこのふたりは俺にも甘いのだけどね。オネルさんが言うのも分かりますよ、はい。


 こうして、俺たち一行は2つのグループに分かれ、ニュムペ様とネオラさんもアルケタスくんを連れて水の精霊屋敷に帰って行った。




 それぞれ帰って行く人たちを見送ったあと、残ったメンバーでこれからの作業を確認することにした。


「周辺の見張りは、ミルカさんとブルーノさんとクロウちゃんにお願いするとして、まずアルポさんとエルノさんだけど」


「わしらは引き続き、木材の加工作業場を整備してしまいますぞ」

「あとは、まずは使える木材といらん物との選り分けですかいの」

「それから、新鮮な肉も少々調達して来ますか。はっはっは」


 野営に必要なかなりの量の食材は、俺の無限インベントリに入れて持って来ているが、狩りに出て新鮮な肉を確保しようということのようだ。

 アルポさんとエルノさんが本格的に作業するのは、まだもう少しあとの段階になるからね。

 この爺さんふたりが森に来て、狩りに行かない訳がない。


「わかった。それじゃ食材関係も任せるよ」

「お易いご用ですぞ」

「今日の夕食も、我らがご用意しましょうかいの」

「それじゃ、持って来た食材はある程度出しておくよ」


 それではこの野営地にも、肉や野菜などを一時保管しておける氷室を造っておきましょうかね。



「それで地下造成作業なんだけど。僕ら4人を二手に分けようと思うんだ」

「二手ですかの」

「二ヶ所を同時に工事するということですか? 坊ちゃん」

「どう分けるか、もう考えてあるのかしらー」


 考えてありますよ。今日現地に来た時から、だいたいの作業イメージは出来ています。


「まず、森の入口からここまでのトンネルを、先に掘ってしまおうと思うんだ。森の外とこことの移動が頻繁になりそうだからね。だったら、地上ではなく地下を移動出来るようにね」


「なるほど、それはいいでやすな。見張り仕事にも直ぐに活用できやす」

「でも、かなりの大工事では。距離が相当ありますよ」

「ミルカさん、そこはザカリーさまよー。ねえザカリーさま、それって自分でやろうって思ってるんでしょ」


 トンネルの入口予定地として、午前中に杭を立てた場所からここまでは、およそ1000メートルだ。

 掘削機械などないこの世界で工事人夫が手掘りで掘ったら、いったい何ヶ月、いや何年かかるだろうか。

 それも地上面から緩い傾斜で掘り進めて行く工事だから、かなり難しいものになるだろう。


「うん、僕がやってしまおうと思ってるよ。でも、手早くやるために、アルさん、手伝ってくれるかな」

「おお、いいですぞ。トンネル掘りは、わしの大得意のひとつですからの。ここには固い岩盤がないのが、物足りないぐらいじゃて」


 なにしろ、広大なアルさんの洞穴をひとりで造り上げたドラゴンさんだからなぁ。

 あそこは自然が造った洞穴かと初めは思ったが、先日行った時に聞いてみたら、アルさんがひとりでコツコツ造った巨大空間なのだそうだ。



「ここは人外のふたりに任せるわー」

「えーと、僕は人間なんだけどな、ライナさん」

「あはは、ザカリーさまは人外予備軍よねー」

「ジェルさんとオネルさんがいないと、ライナさんの発言に突っ込みが足りないよなぁ」

「うふふふ」


「それはともかく、僕とアルさんでトンネル担当ね。それで、ダレルさんとライナさんは、設計図に従って、あの縦穴からまずは基本の地下造成を始めて行ってほしい。あそこが、玄関口前の位置でいいんだよね?」


「ええ、それで大丈夫ですな。あの縦穴の位置を馬車寄せとしましょう」

「そうしたら、あそこに繋がるかたちでトンネルを造ればいいよね」

「じゃあわたしたちは、あそこから中を造って行けばいいのねー」

「うん、お願いするよ」


 大雑把だが、取りあえずの工事担当と予定はこんな感じだ。

 拠点内部の基本的な造成は、設計図を作成したダレルさんとライナさんに任せておけば良いだろう。


「それじゃ、アルポさんとエルノさんが狩りから戻って夕食の準備が終わるまで、作業を始めてしまおう。みんな、いいかな?」

「了解ですぞ」「始めましょうか」「はーい」「カァ」


 おじさんと爺さんばかりなので、いつもの妙に肩に力の入らない返事がライナさんだけなのはちょっと寂しいけど、それではゆるゆると始めて行きましょうか。



 クロウちゃんは上空に上がり、ミルカさんは野営地に残って周辺を警戒してくれる。

 それで俺はアルさんとブルーノさんを伴って、森の入口近くの杭を立てたトンネル掘削予定地へと行った。


 ここは森の端を巡る道から森に200メートルほど入った場所だ。

 以前にライナさんとアルさんが簡単に整備した砦跡地に至る道から、目隠しをするように森の中に少し入った位置をトンネル進入口の予定地としている。


 まずはトンネル進入口への横道を造り、そこから緩いスロープを掘って行かなければならない。

 地下拠点までのトンネルの傾斜は、およそ1000メートルの距離に対して深さが12メートルだから、僅かに1.2パーセントしかない。


 馬車の車高が最大で3.5メートルとして、トンネルの天井までの高さをだいたい4メートルと考えているから、この傾斜角度で掘って行くとなかなか地下には潜らない。

 なので、まずはその10倍の角度、12パーセントの傾斜にして地下に潜らせ、そこからはごく緩い傾斜角のトンネルを掘って行くつもりだ。


 12パーセントにすると4メートルの高さがすべて地下に潜るのが、およそ34メートル先。ここまでは露天のスロープとする。

 そこからトンネルとなって同じ傾斜角で更に進み、6メートルの深さ、つまりスロープの始まりから50メートルまで続く坂にしようと考えている。



「こんな坂道が170ポードほど続くんだけど、馬車は大丈夫だよね、ブルーノさん」


 170ポードは50メートル強だ。50メートル進んで6メートル下るだいたいの傾斜角を地面に描いて示しながら、ブルーノさんに確認する。

 角度としては6.8度ほどだけど、どうでしょうか。


「そうでやすな。うちの馬なら、まあまあ大丈夫でやしょう」

「車輪が滑らないように、走行面をあまり硬くつるつるにしない方がいいかな」

「少しデコボコにしましょうかの」


「あと、露天のスロープが100ポード以上も続くとなりやすと、なるべく見えないように樹木で目隠しが必要でやすな」

「そうだね。少し道から外れる方向に伸ばすか」

「それから、雨も流れやすな」


「うん、さすがブルーノさんだ。雨水が道の脇に流れるよう、側溝も造ろう」

「側溝でやすか?」

「うん、こんな風に道の両側に、雨水が流れて行く溝を造るんだ」

「おお、なるほどじゃの」


 そんな相談を3人で交えて、いよいよ工事に取り掛かる。

 まずは進入路だね。馬車1台分が辛うじて通れる幅で目立たないように、砦跡地に至る道から横道を造る。

 この辺りはまだ低木が多いので、進入路を塞ぐ木はアルさんが魔法でひょいひょい取り除いて、道の脇に横たえてしまった。


 10メートルほど道から離れるように進入路を整備する。午前に立てた杭よりももう少し奥に伸ばしましたよ。

 ブルーノさんはスロープ開始地点が確定したところで、見張りがてらここへの見通しや目隠しの具合などを測りに離れて行った。

 それではいよいよ、スロープを掘る工事を始めて行きましょうか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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