第429話 魔導手裏剣とカタナ
アビー姉ちゃんとアン母さんへのお土産も決まり、あとは俺が何をいただくかだけになりました。
お土産と言っても、もの凄いものだったけどね。
それで俺は、相変わらず腕を組んで考えている。
すると、何やら先ほどからしゃがみ込んで、雑然と置かれている魔導具の数々を見ていたライナさんが、小型の何かを手に持ってアルさんのところに来た。
「ライナ、またおまえは勝手に持ち出して」
「えぇー、ちょっとぐらいいいじゃないよぉー。だってこれヘンテコリンなんだもの。これってなあに、アルさん」
「うん? なんじゃ、どれどれ」
衝撃の剣を鞘から抜いて惚れ惚れと眺めている姉ちゃんと、魔法拡大の杖を手にまだ呆然としている母さんは置いておいて、それ以外の皆が集まって来た。
「それ何ですか? 何だかお星さまの形みたいですね」
「あ、金属で出来てて、お星さまの先が鋭く尖ってますよ」
「どうやら武器のようでやすが、握るところがありやせんな」
「アル、これってなに? 忘れちゃったの?」
「ふーむ」
俺もその輪の中に入って、ライナさんが持って来たものを見せて貰う。
あれ? なんと、忍手裏剣ではないですか。
それも平型手裏剣で、皆が話していたように6つの尖った先端を持った星の形をしている。
このような平型手裏剣は、主に棒手裏剣を多く用いた甲賀ではなく伊賀の忍びが良く使っていた。
俺も前世でずいぶんと修行させられました。
それにしても、去年はグリフィニアの武器武具屋さんで忍暗器の角指を見つけて、エステルちゃんとそれから後でライナさんも買っているし、いったいどういうことなんでしょうかね
「ザックさま、これって何でしょうね」
「これはね、こうやって使うものだ」
俺はライナさんからその手裏剣を受取ると、5メートルほど離れた場所に土魔法で人形の的を作って、それに向けて打った。
ちなみに手裏剣の場合、前世では古来から投げるではなく打つと言い習わされている。
この世界では、撃つと表現した方がいいかな。
手裏剣はしゅるしゅると回転しながら飛んで行き、的の頭部部分に刺さった。
撃ったときにちょっと不思議な違和感を感じたが、かなり精度の高い優れ物の手裏剣だね。
「ほぇー、投げる武器ですか」
「変わった投擲武器ですね」
ダガー撃ちを得意とするエステルちゃんとティモさんのファータのふたりが、俄然興味を示して来た。
まだ何枚かあるみたいだね。俺はその数枚の手裏剣を手にすると、連続して撃ち込んだ。
先ほど刺さった頭部の額辺りから下に、人中、喉、水月、金的と縦一列に命中する。
「あらー、ザカリー様、凄いわよねー。これが何だか知ってるのー」
「あ、えーとね」
いけないいけない、つい調子に乗ってしまいました。どうして知っているのか、これは追求されるよな。
「おお、思い出しましたぞ。これは、魔導手裏剣というものじゃ」
「魔導しゅりけん??」
「使い方は、いまザックさまがやってくだされた通りなのじゃが、これも魔導具じゃて、少々変わっておるものでしてな」
そうか、撃った時に俺が感じた違和感は、この手裏剣が魔導具だからか。
「こんな風じゃ」
アルさんはまだ残っていた手裏剣を1枚手に取ると、それにキ素力を込める。
すると何やら、僅かに光を帯びたように見えた。
それから、むんと的に向かって撃ち込むと、その手裏剣は回転しながら斜め横の状態で飛んで行き、俺が当てた水月の下辺り、お腹の部分に命中する。
しかしその手裏剣は、腹に刺さってもまだ回転を止めなかった。
そして速度を増したかのように高速回転で腹を斬り裂きながら、ずぶずぶと中に入って行き背中側に突き出るとようやく回転を止めて、カランと床に落ちた。
「ふぉー」「はぁー」「なんと」
こいつは怖い手裏剣ですなぁ。刺さってから更に速度を増して回転し、斬り裂いて行く魔導手裏剣ですか。
そして斬り裂き終わると、何故か回転を止めて落ちる。まさに不可思議な魔導具だ。
俺は的に走って行くと、刺さっている手裏剣を回収しながら、アルさんが撃った部分を確認した。
瞬時に作った人形の的なので硬度は適当なのだが、それなりの硬さのあるその的の腹の部分が、手裏剣の回転によって手裏剣の大きさよりも幅広く穴が開けられ貫通している。
おそらくキ素力を帯びた魔法的な効果によって、斬り穴が拡大されたのだろう。
アルさんに込めるキ素力のだいたいの量を教えて貰って、俺も同じように撃ってみる。
今度は人形的をより人間に近いリアルなものに加工し直して、敢えて大腿部を狙ってみた。
すると、見事命中したその魔導手裏剣は大腿部から足を完全に斬り離して、カランと床に落ちた。
「あー、わたしもやってみたいわー」
「わたしもわたしも」
「わたしもですぅ」
「私も」
こういうものに直ぐ食いつくライナさんにアビー姉ちゃん、そして投擲武器なら自分がとエステルちゃんとティモさんも試みる。
いつの間にかライナさんが、俺の作った人形的の横にあと4体もほぼ同じ的を並べて作っていた。
「まずは、キ素力を込めないで撃って、的に当てる練習をした方が良いよ」
「そうですの。わしのお宝を斬り裂かれても困りますで」
このアルさんの宝物庫は広いので、空間に余裕はあるんですけどね。
でも的を外すといけないから、念のために俺がその後方にかなり硬化させた壁を作っておきますよ。
結局は手を挙げた4人以外のジェルさん、オネルさん、ブルーノさんも加わって、ひとしきり手裏剣撃ちの練習をしていた。
でもやはり、一日の長があるのはエステルちゃんとティモさんだよね。
1枚試し撃ちをしただけで直ぐにコツを掴み、次々に的に当てる。
俺はそんな急遽行われている手裏剣撃ち練習の様子を、参加していない母さんと人外の3人と眺めていた。
「ほんと、あの子たちって、こういうことには熱心なのね」
「王都屋敷ではいつものことだから」
「そうなのね」
「それよりもザックさん。あなた、いただいて行く魔導具はもう決めたのかしら」
「そうですぞ。決めないと、今回も無しですぞ」
「だって、アルさんが選んでくれないから」
「それは先ほども言うたように、わしらでは決められませんでな」
「そうよ。ザックさんが使う道具は、あなたが選んで、道具があなたに従うのよ」
ああ、俺が前世から持って来ている刀と近いのかな。
大量に俺の無限インベントリに収納されている伝来の業物は、当初は引き継がれたり献上されたりしたものだけれど、愛用している刀はその中から俺が選んで、俺に従っているとも言えるよな。
だけどここにあるアルさんのコレクションには、何があるのか知らないしさ。
シルフェ様は、「魔道具たちに語りかけてみたら」って言っていたけど。
それで俺は、シルフェ様の助言に従ってみることにした。
気持ちを落ち着かせ、精神を集中させて無の心に近づく。
レイヴンの皆がワイワイと、手裏剣の練習をしている声や音が遠ざかって行く。
母さんとシルフェ様たちが交わす話し声が、空気に溶けるように聞こえなくなる。
さて、魔道具さんたち、俺のところに来たいって思うひとはいますかね。
一緒に闘ったり、助けてくれたりするひととかは、いるでしょうか?
カァカァ。あれ、あらゆる音が消えたのに、クロウちゃんの声だけが聞こえるよな。
声というより、俺だけに繋がる思念か。
ああそうか。クロウちゃんは魔道具ではないけど、式神だからだね。
俺が生みだした存在であり、俺の分身ともいえる。
そのクロウちゃんの思念が、誰かいる? と俺と同じように呼び掛けている。
そうして俺とクロウちゃんの思念が、大量の魔導具たちに呼び掛けられていると、やがて、あったよ、呼んでるよ、というクロウちゃんの思念が響いて来た。
ああ、俺にも分かりましたよ。瞬時に無の心に近づいていた俺の状態が元に戻る。
周囲の音が聞こえ出し、いつの間にか俺の頭の上にいたらしいクロウちゃんがバサバサと飛んで行った。
「どうやら、何か見つけたようね、ザックさん」
シルフェ様の呟きを背に、俺はクロウちゃんの後を追った。
アルさんにシルフェ様、シフォニナさん、そして母さんも付いて来る。
クロウちゃんが降りたところに行ってみると、そこには台の上に横たえられたひと振りの剣、いやおそらくは刀があった。
カァカァ。ああそうだね。これだ。
その刀が鞘に納められている姿を見ると、反りが無い。
俺は何の躊躇いもなくその刀を手に取ると、鞘から引き抜いた。やはり直刀だ。
片刃の切刃造り、刀長は俺が愛用している大典太光世2尺1寸8分に近い。ほんのごく僅かに短いか。身幅はやや幅広だ
太刀ではなく、このような直刀の大刀は、前世の俺の世界だと奈良期以前、切刃造りなので飛鳥時代以降とされる。あくまで俺がかつていた世界ではだけど。
直刀は、その後の反りがある刀に比べて引き斬る効率が悪く、突き、打ち、そして断つというものだと俺は認識している。しかしこの大刀の刃を見ると、なかなかに斬れ味が良さそうだ。
「ほうほう、それを選ばれましたか」
「持っている姿が、とてもザックさまにお似合いです」
「どうやら、お互いに引き寄せ合う何かがあったみたいね」
「アルさん、これってどこから手に入れたの?」
「はて、どこでしたかの。少々変わった剣のようじゃが、いや剣とは違うのじゃろか」
「なんだか、ほら、似てるわよね。ザックさんの」
母さんもいるので、シルフェ様は言葉を濁した。シルフェ様は俺が別の世界から転生した流転人と知っているし、俺が使う前世の刀も見ているからね。
「これは片刃で、刀と言います。それも真っ直ぐのもので、とても古い」
「普段見慣れてる剣とは少し違うみたいだけど、カタナって言うの? ザック」
「そう感じるんだ、母さん」
俺たちが移動していたので、どうしたのかとエステルちゃんたちもやって来た。
「あ、ザックさま、そのカタナ」
「あら、エステルは、カタナっていうのが直ぐに分かるのね」
「えと、お母さま、そう感じたので」
エステルちゃんが俺の愛刀をいちばん見慣れているので、思わず刀って言ったのだろうね。
「ザカリーさま、それは魔道具なのですか?」
「どのような効果があるんですかね」
「うーん、僕にはまだわからないんだけど、そこのところはアルさん、どうなの?」
「ふーむ。わしにもそのカタナのことは、良くわかりませんのう」
「アルったら、自分のコレクションは全部覚えているのでしょ?」
「いや、それがですの」
「キ素力を込めてみちゃえば、どうなるかわかるんじゃないのー」
「またライナ姉さんは、適当な」
「いきなり爆発でも起こしたりしたら、どうするんだ」
いやじつは、皆が来る前に手に取って鞘から引き抜いた時に、既にキ素力をほんの少し込めてみたんだよね。
でも特に何も起こらなかった。何かを斬った時に特長的な効果が出るのかも知れないが、その辺のところを感じることもなかった。
「アルさんが知らないのだと、仕方がないよ。追々わかって来るんじゃないかな」
俺はそう言うと、この刀を鞘に納める。
ともかくも、キミは一緒に来るんだよね。はい、行きますよと、なんとなくその刀が鞘の中で応えた気がしたのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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