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第426話 アルさんちに遊びに行く相談

 シルフェ様の来訪を歓迎する宴会は、大きく乱れることもなく和やかに行われて終了した。

 宴会と言うより、シルフェ様と一緒に里の人たちが全員でお昼をいただきましょう、という感じだったよね。


 皆さんはその場にいるだけで満足していたようで、一昨日のように全員が次々に席までやって来るということもなかった。

 食事をしながらシルフェ様とシフォニナさんの美しい姿を眺め、そして反対隣のエステルちゃんとついでに俺の方を見て話をしている。


 アルさんも大人しく座って食事をしていたが、暫くしてうちの連中のいる席に行ってなにやら話していた。アビー姉ちゃんもいるな。

 ただの雑談ならいいんだけど、よからぬ相談とかはしてないですよね。



 宴会がお開きとなり、里の衆に見送られて里長さとおさ屋敷に引揚げた。

 もう午後も遅くなので、これからどこかに出掛けるということもなく屋敷でのんびり過ごすことにする。


 エーリッキ爺ちゃんたち里長さとおさ一家にアン母さんも加わって、シルフェ様とシフォニナさんと大囲炉裏の傍らでお茶を飲みながら何やら話している。

 一方でうちの連中は、アルさんと一緒に少し離れたところにいる。

 この大囲炉裏の間は広いから、何の話をしているのか良く聞こえない。


 それで俺もそこに呼ばれて行き、エステルちゃんにオネルさんと姉ちゃんが手伝ってお茶を淹れて来てくれた。

 ティモさんもちゃんといるので、まあレイヴンにアルさんと姉ちゃんという面子です。


「宴会の時からアルさんと話してたけど、何か相談してるとかじゃないよね」

「あらー、ザカリーさまって、よく見てるわよねー」

「それがですな、ザカリーさま」


「いや、ザックさまよ。嬢ちゃんたちとわしのねぐらのことを話しておってな」

「なんでも、アルさんちって、ここからわりと近いって聞いてさ」


 あやー、その話をしてたんだね。アルさんがこのファータの里に来れば、そんな話も出るよな。

 エステルちゃんも、あちゃーという顔をしている。クロウちゃんは表情が良く分からないけど。カァ。


「ザカリーさまたちは行ったことがあるのよねー。それで、どんなところなのか、アルさんから話を聞かせて貰っていてねー」

「だけじゃなくて、わたしたちも行きたいって、せがんでいただろうが」

「でも、ジェル姉さんも興味津々だったですよね」


 そんな話になりますよね。うちの皆はこれまでも断片的に話を聞いているし、甘露のチカラ水とかいただいた古代魔道具とか、アルさんちが出どころのものに身近に触れてるしな。



「(いいの? アルさん)」

「(嬢ちゃんたちが来たいというのなら、わしは構わんがの)」

「(でも、ファータの里には秘密にしとかないとダメですよ。漏れると大騒ぎになりますぅ)」

「(カァ)」

「(そうだね。ドラゴンて知っているのは、エーリッキ爺ちゃんたちだけだし)」


 念話で素早く相談しながら、ジェルさんたちとの会話にも加わる。


「でもさ、アルさんちがこの里に近いっていうのは秘密中の秘密にしてるから、僕らが揃っていなくなると、どこに行ったって話になるよなぁ」

「なるほど。でしたら、かなり難しいですな」


「そうかー。わたしらが、どこに行くとも知らせずに消えちゃうのは、まずいわよねー」

「うーん、やっぱり無理かなぁ」

「わたしたちがどこで何をしてるとか、里の皆さんは当然に注目してますよね」


「ねえ、ザカリーさまは、何かいい考えない? 謎のアイデアとかー」

「謎のアイデアって、ライナさん。そうそう出ないよ」


 うーん、なかなか諦める流れにはならないんですな。

 さっきの宴会の時でも、ずいぶんと盛り上がって話していたみたいだし。



「わしに良い考えがありますぞ」

「なになに、アルさん。良い考えってなにー?」

「時間を短くしますのじゃ」


 ああ、その手を提案しますか。前回に俺が行った時もそうして貰ったしね。


「あの時と一緒ですね」

「ああ、そうかー」

「あの時って、なに?」


 昨年末の王都の地下墓所の件でも、アルさんに時間をいじって貰ったからレイヴンの皆はなんとなく経験している。

 でも、姉ちゃんは知らないんだよな。思わず口に出したオネルさんが、いけないって手で自分の口を押さえた。


「まあともかく、アルさんに時間減速をして貰うか」

「なんだか隠してることがあるみたいだけど、そのうち話して貰うわよ」


「それでアルさん。最大どのぐらい?」

「そうですのう。頑張って10分の1ぐらいですかの」


 つまり、こちらが10時間を経過するのに対して、1時間の経過にしかならない。

 これはどっちが本当の時間ということではなく、あくまで自分たちが行動し認識する時間の流れの問題だ。

 なので、時間減速の魔法が掛かっている主体に環境や他者が関与すれば、その関与したものも同じ時間の流れになる、らしい。それ以上は俺も理解していない。時間魔法ってとても難しいんだよ。


「5時間の行動なら30分か。そのぐらいが目安かな」

「30分ぐらいの行方不明なら、あまり気にされないですかね」

「じゃろ」

「カァ」


 姉ちゃんやジェルさんたちは頭に?が浮かんでいたが、そんなものだということにしておいてください。


「でも、問題は帰りだよな」

「あ、そうですぅ」

「カァ」


「10人ぐらいまでなら、わしは大丈夫じゃぞ」

「いやいや、アルさんの方じゃなくてさ」

「ザックさまとわたし以外は、誰も経験してませんよ」

「カァ」


 他の皆は、何の話を俺たちがしているのか既にまったく理解が出来なくて、むずむずして来たみたいだ。



「あのぉ、ザカリーさまたちは何の話をしているのでしょうか」

「経験しているとかぁ、してないとかー」

「何か恥ずかしいことですか?」


 いやいや、変な想像はしないでくださいよ。


「えーとだね。簡単に説明すると、行くのは普通に歩いて行けるんだけど、帰りは難しいんだ」

「行きは良いよい、帰りは怖い、ですぅ」


 エステルちゃんが、なんだか俺には懐かしい表現を無意識に口に出している。それって。

 まあそれを突っ込むのは、今は止めておこう。


「それは、どういうことで」

「帰りは、もと来た道を歩いて帰れないってことですか?」


「まあそういうことだね。それは行けば直ぐにわかる。あと、ここからの距離がおかしくなっていて、行きは近いんだけど、帰りは凄く遠いんだ」

「???」


「なので、帰りはですな。アルさんの背中に乗って、空を飛んで帰るのでありますな。10人くらいまでなら大丈夫って、アルさんは言うけど」

「…………」


 アルさんのブラックドラゴン姿での大きさは、尻尾まで含めると20メートル以上にはなるかな。

 なので、上に乗せて貰うとすると胴体のところ、10メートルぐらいの範囲にしがみつく感じでしょうかね。

 まあ、大型バスだよな。うちの連中全員が乗るのも不可能ではないか。



「アルさんのところに行ってもいいけど、それが条件だよ。どうするかな?」


 そう言って俺は皆の顔を見る。

 ジェルさんとオネルさんは、少し不安そうな顔で黙って考えている。

 ブルーノさんは平静を保ち、ティモさんはどんな状況でもお側にいますと言っているような、しっかりとした眼光だ。

 そしてライナさんと姉ちゃんは。


「アルさんの背中に乗ってればいいのよねー。大丈夫ダイジョウブ、行きましょうよー」

「ふぉー、空を飛べるのね。クロウちゃんを見てて、いつか空を飛んでみたいって思ってたんだよね」

「カァ」


 ああ、このふたりならそんな反応だよね。ナチュラルに天然の魔法の達人と野性の剣士だからな。


「ジェルちゃんとオネルちゃんは、なに躊躇ってるのー。アルさんちに置いてかれちゃうわよー」

「だがな、ライナ」

「空ですよ、空」


「乗ってみないとわかんないけど、怖かったらアルさんの背中にしがみついて、目を瞑ってればいいんじゃないのー」

「わたしはしっかり目を開けて、その貴重な経験を身体に刻むよ」


 ライナさんと姉ちゃんはそんな意見だよな。

 多数決でいえば、もう行くことで決まりですかね。仕方がないから、明日はそうしようか。

 いいよね、エステルちゃん。


「ザックさまがご許可なら、仕方がないですぅ。でもほかのファータの人には内緒ですよ。あと、明日は時間が長くなりますから、そこのとこは気をつけてくださいね」

「はーい」


 姉ちゃんとライナさんが元気よく返事をした。ジェルさんとオネルさんは、もうふんぎりをつけてくださいな。



「あなたたちは、何を盛り上がってるの?」


 母さんがシルフェ様とシフォニナさんとやって来た。

 カーリ婆ちゃんとユリアナさんは、お手伝いの里のお婆さんと夕ご飯の支度みたいで、向うではエーリッキ爺ちゃんたち里長さとおさ家の男衆が3人でなにやら話している。


「何か面白いことでも相談してたんでしょ。ねえ、アル」

「あ、いや。それがじゃの、シルフェさん」


 アルさんが俺の方を見るので、母さんたちもどうせ俺が首謀者だと思っているよな。

 今回は違うんですけど。


「ザック、わたしだけ仲間外れなの? 何を企んでるのかしら」

「母さん、えーと」

「あ、わたし、わかっちゃったわ。アルが一緒に相談してるってことは」

「わたしもわかりましたよ」


 シルフェ様とシフォニナさんは、アルさんの住まいの在処を知ってるからなぁ。


「なんですの? シルフェ様」

「アルのところに遊びに行く相談でしょ」

「きっとそうですね」


「ピンポーン」

「ぴんぽん?」

「あ、いや、正解であります」


「わたしも久しく行ってないから、一緒に行こうかしら。いいわよね、アル」

「それはもちろんじゃが」

「それって、母さんだけ置いて行く相談じゃないわよね、ザック」

「あ、そんなことはないのでありますよ」


 ふーむ。バレてしまうとこうなりますよね。

 それで仕方がないので、これまで話していた諸々のことを、向うにいるエーリッキ爺ちゃんたちには聞かれないように小声で説明する。


 いいですか、この場にいる者以外には内緒ですからね。

 さりげなく30分だけ消えるだけですからね。

 母さんは、時間減速の魔法を使うことや帰りにアルさんに乗って空を飛んで帰ることに酷く驚いていたが、なんとか大きな声などを上げないでいてくれた。


「よろしいですか。あとは、明日の朝の散歩ということでありますからね。たった今からそれまで、この話を口に出すのは厳禁でありますからね」

「はーい」


 シルフェ様とシフォニナさんも、なに一緒になって可愛らしく小さな声で返事をしてるですか。

 やれやれ、無事に明日の朝の散歩が出来れば良いのだけど。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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