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第40話 ザック、魔法稽古を始める

 ヴァニー姉さんは無事、セルティア王立学院の入学試験に合格し、晴れて学院生になった。

 なんでも特技試験は剣術を選択したのだそうだ。

 なぜ魔法を選ばなかったのかな。姉さんにも何か考えがあったのだろうね。


 姉さんは寮に入り、それを見届けた家令のウォルターさんと侍女のフラヴィさんが帰って来てそう報告した。

 姉さんの入学式に行くと言っていたヴィンス父さんとアン母さんは、結局行けなかった。

 それで父さんが、「入学式でヴァニーの制服姿を見たかったな。な、そうだろザック」と俺を巻き込もうとするんだよ。

 夏至祭には帰って来るんだから、それまで待ちなさい。


 じつは俺は姉さんの入学式の日、式神のクロウちゃんを王都まで飛ばし、クロウちゃんの眼を通じて姉さんの制服姿を見ている。

 王立学院がどんなところかちょっと見たかったしね。

 クロウちゃんは最高速で時速350キロは出るので、巡航速度300キロほどで飛べば王都には1時間弱で到着する。

 食事もしてウンチもするけど、生き物じゃないから疲れない。大気中のキ素をエネルギーにして飛ぶので、このぐらいはぜんぜん平気だ。


 それで、入学式会場に入るヴァニー姉さんを上空から探査して見つけ、制服姿を見たというわけだ。

 いつものように背筋をピンと伸ばして歩く姉さんは、制服もとても良く似合っていて、可愛く優雅だったよ。

 悔しかったね、父さん。もちろんそんな話は秘密だからしないけど。



 さて今年、もうひとつ区切りとなる出来事は、いよいよ俺が魔法を公式に稽古できる年齢になったということだ。

 この世界では生まれて9年目の年、満8歳から魔法の稽古を始める。

 魔法を教わりながら適性を見極め、ちょっとした生活魔法以上の、例えば攻撃魔法などに適性のあるものは、成長とともにしっかりと訓練をしていくわけだ。


 アビー姉ちゃんは、2年前にアン母さんについてヴァニー姉さんと稽古を始めたが、じつはアビーにはあまり適性がなかったんだ。

 いや、正確に言うと、キ素の力を身体に循環させることはできた。それもかなり強い攻撃魔法が撃てるほどなのだ。

 それは俺も、姉ちゃんの魔法の稽古を見学に行って、見鬼の能力でこの眼で見ている。

 しかし、火、水、土、風の四大元素の攻撃魔法を発動することが、どうしてもできなかった。

 ちょっとした火や風を出すぐらいはできるんだけどね。



「そういう子もたまにいるのよ」と母さんが言っていた。

 だからそれが見極められてから、アビーは自分が持つキ素力を身体に強く循環させられる能力を、剣術に活かす方向に切り換えた。

「これは、わたしじゃ教えられないわねー」

 と、アン母さんはヴィンス父さん、それから騎士団長のクレイグさんに相談した。

 クレイグさんは、キ素力を剣術に活用する達人なのだそうだ。

 騎士団長が実際に闘うのを、あの3歳のときの夏至祭以来ちゃんと見たことがないけど。


 それでアビー姉ちゃんは、騎士見習いと一緒の剣術稽古とは別に、クレイグさんに時間をつくって貰って特別に稽古をつけられている。

 残念ながら、俺はまだそのマンツーマンの特別稽古を見せて貰っていないが、姉ちゃんが言うにはなかなか厳しいものらしいよ。



 そんな訳で、俺が8歳になった翌日の午後、魔法の初稽古を始めるということでアン母さんに呼ばれた。

「エステルさんも来なさい。クロウちゃんも一緒ね」

「はい」

「カァ」

 いつの間にか、エステルちゃんとクロウちゃんと俺はセットなのだろうか。


 それから俺たちは、果樹園の奥にある子爵家専用の魔法訓練場に行く。

 姉さんたちの稽古を見学したときのように、まずは準備運動からだろう。


「それじゃ、まずは身体にキ素の力を巡らす準備運動ね。ザックは今まで姉さんたちの稽古の様子を見てたから、もう分かるわよね。あと、エステルさんも一緒にやりなさい。クロウちゃんは……見学ね」

「はい」

「カァ」


 姉さんたちがやっていたように両手の手のひらを軽く前に出して、精神を集中させ、大気中にあるキ素を自分の身体に集めて循環させるようにする。

 別に俺には、手のひらを前に出す必要はないんだけどね。

 この訓練はまず、この世界のあらゆるところに存在するキ素を認識し、はっきりと循環させるイメージにすることが大切だ。

 特にキ素をキ素として認識しなくても可能なのだが、より強い魔法として発動させるには、この認識とイメージが肝要になる。


 ちらとエステルちゃんを見ると、うん、なかなか上手だし、循環させる力も強い。

 さすがは、5歳から訓練をしてきただけのことはある。それにエステルちゃんは精霊族だしね。

 そんなことを思いながら、目を閉じキ素力の循環に集中する。



「ザック、ザック」

「ザックさまー」

「カァ、カァ」

 あ、いけね。母さんの前だからセーブしておこうと思ってたのだけど、つい自分の世界に入って集中し過ぎてた。


「ザック、あなた……」

「ザックさまの身体が七色に光ってますぅ……」

「カァ、カァ」

 どうやら、俺の見鬼のような能力が無くても、キ素が見えてしまうほどに集めて循環させてしまっていたらしい。


「はぁ、もういいわ。なんだか、わたしがザックに教える必要はない気がするのだけど。とにかくいちおう、初めての魔法の稽古だから、続けるわよ」



 それから、基本的な四大元素の魔法を教わる。

「エステルさんは風魔法が得意なのよね? 風を出してみて貰えるかしら」

「はい、行きます」


 エステルちゃんが身体の前に出した両手のひらの辺りから風が起こり、身体の回りを渦巻くように流れ空に昇って行く。

 エステルちゃんの身体を中心にして、緩やかな竜巻が起きているような感じだ。


「いいわよ、さすがに上手。うまく制御できてるわ。風魔法については、あなたにわたしが教えることはないみたいね」

「いえ、奥さま、そんなことないです。ほかの魔法も教えていただきたいです」

「あなたは種族属性で風魔法が特別に得意なのよね。でも魔法適性はかなり良さそうだから、ほかの元素魔法も上手になるか、これから頑張ってみても遅くはないわね」

「はい、よろしくお願いします」

 なんだかふたりで盛り上がっていた。俺の初稽古じゃないのかな。



「そうそう、ザックも四大元素の魔法を出してみて貰おうかしら。まず、火からね。火が燃えるのをイメージして。くれぐれも小さいのよ」

「わかったよ」


 俺は燃える炎をイメージし、キ素力をほんのちょっとだけ集中させる。

 ボワーン!

 前々世で見た、ステージで使用されるような炎の演出をイメージしたため、赤く大きな炎の塊が膨らんで、上に向かって丸く立ち上って消えた。

 そう言えば、こういう火を操る技術を、たしかパイロテクニクス(火工技術)とか言うんだっけ。ちょっと大きかったかな?


「ほわー」

 エステルちゃんが変な声を出している。

「小さいのって言ったのに。あー、ザックはそんな感じよね。だいたい、まだ発動方法とかも教えてないんだけど」

「カァ」


 また、いけね。先に炎を出しちゃった。

 ところで母さん、そんな感じって、どんな感じでしょうか。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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