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第417話 足止め爆散

 土魔法というのは不思議な魔法だ。

 魔法自体が考えてみれば不思議な現象なので、不思議な魔法という表現もおかしいんだけどね。


 それでどこが不思議なのかというと、風、水、火と同じ四元素魔法であるにも関わらず、まず適性を持つ者が他と比べて極めて少ない。

 更に土魔法をまともに発動、行使出来るとなると、人間の中では少なくともふたりしか俺は知らない。


 そのふたりはどちらも、俺の身内のダレルさんとライナさんだけどね。

 だから俺を加えても今のところ3人だけだ。

 天才魔法・元少女の母さんでさえ適性が無いし、俺と同じく全適性を持っている筈のエステルちゃんも、何故かうまく発動が出来ない。


 それで俺は学院に入学してから、多くの学院生の魔法適性をこっそり見て来たのだが、適性が僅かでもあると思われたのが本当に数えるほど。しかも揃って本人には適性の自覚が無く、ましてや発動などまったく出来ない。

 そして、それに関係があるのかどうかまだ分からないのだけれど、土魔法は極めて大きな質量を持った物質を扱う、特殊な魔法ということなのだ。


 水魔法も同じく質量のある物質を扱うけど、水の場合は氷や水蒸気などに変化するにしても単一の物だよね。

 しかし、土は決して単一の物質ではなく、土魔法によって砂、土、泥、岩、石などその成分も形質も様ざまに異なる物質を扱うことが出来る。


 それ以上に不思議なのは、魔法の行使によってそれまで存在して無かった物を現象や実体として出現させる場合、土魔法ではそれをどこから生みだしているのかということだ。

 ここまで来ると、俺の生半可で薄れかけている前々世の知識では、もうほとんどお手上げなんだよな。



 火魔法は可燃物と支燃物との発熱反応による化学現象でしょ。支燃物は空気中の酸素だとして、可燃物はどこから持って来ている? 空気にごく僅かに含まれている水素とか、それ以外の可燃性ガスを生成しているとかなのだろうか。


 風魔法は空気の移動が基本だから取りあえずはいいとして、水魔法の場合は大気中から水を抽出しているでいいのかな。

 それじゃ土魔法は?


 地面に穴を掘る、あるいは地面から土壁を立てるなど、明らかに地面の土を何らかの作用で変化させている場合ならともかく、例えばこれからライナさんとやろうとしているストーンジャベリンなどは、いきなり空中に岩石レベルの硬さの石器とも言える投げ槍を出現させて自動的に発射する。


 地殻に多く含まれているケイ素などを集めて、生成しているのでしょうかね? うーん、良く分からない。

 ちなみにケイ素とは、別名シリコンのことで、地殻の大多数の岩石を構成する鉱石である造岩鉱石のほとんどは、ケイ酸塩岩石だそうですよ。これは前にクロウちゃんから教えて貰いました。



「ザカリーさま、何か考えごとー? そろそろやっちゃわない?」

「あ、ゴメン。それじゃ行きますか」

「まずは、わたしねー」


 ライナさんが可愛らしい声で「えいっ」と言うと、彼女の目の前にストーンジャベリンが生成され、直ぐに手前側の荷馬車に向けて発射された。

 それが連続して3本、次々に撃たれる。


 そのストーンジャベリンは狙いを違わず高速で飛翔し、荷馬車の土手っ腹に少しずつ位置をずらしてズン、ズン、ズンと命中した。

 木材の破片が飛び散り、手前に置かれていた荷馬車はほぼ全壊している。

 うーむ、なかなか見事なストーンジャベリン三連撃ちですなあ。

 速度も威力も申し分ない。さながら大型の対戦車ライフルのようでもありますな。


「ほら、こんどはザカリーさまよー」

「あ、はいです」


 ライナさんのストーンジャベリンが、対戦車ライフルのような高速の運動エネルギー弾だとすると、それでは俺は化学エネルギー弾である対戦車榴弾をイメージしましょうかね。


 目前に、1個の太くて無骨な大型ストーンジャベリンが浮かんで空中に静止する。

 隣からライナさんの「あっ」という声が聞こえたが、魔法構築のイメージを続けながら構わず発射しちゃいますよ。


 シュルルルー、ドガーン。

 俺の撃ったストーンジャベリンは、ライナさんが破壊した荷馬車の後ろに残っていたもう1台の荷馬車に着弾すると同時に破裂し、荷馬車全体をすべて粉々に破壊して周囲に木片を撒き散らした。


「狡ぅい。ストーンジャベリンじゃないわよー」

「え、ストーンジャベリンですよ。ちょっと破裂させたけど。火焔は出なかったから火魔法じゃないよ」

「そーなのー? こんどそれ教えて、ザカリーさま」



「おい、前に居る魔法使いのおふたりさん。わたしらもいささか驚いてるのだが、それはともかく、敵はどうなんだ?」

「あ、盗賊どもか、どうなんだろ?」


「林で弓矢を構えていた3人は、今ので一目散に逃げやしたよー」


 馬車の御者台に立って弓を構えたブルーノさんの声が聞こえた。

 ああ、あいつらはもう逃げたんですね。逃げ足の早いことで。

 それで道の両側に潜んでいたやつらは、どうしたんでしょうね。攻めて来ませんよね。


「よし、こちらから行こう。道の両脇に潜んでるから、警戒のまま接近。向かって来たら斬るよ」

「了解です」


 そして俺たちは、そろそろと慎重に道の両側を伺いながら接近する。

 しかし、一向に姿を現して向かって来る様子が無いし、逃げて行くことも無い。

 あと10メートルほどのところで、先頭の俺が片手を開いて挙げる。いったん停止だ。

 同時に阿吽の呼吸で、直ぐ後ろにいたティモさんが音も無く姿勢を低くして前に出て行った。


 俺も探査を発動させて、敵の様子を見る。動かないな。まだ身体を伏せて隠れているのか。

 すると、相手が潜んでいる直ぐ近くまで接近したティモさんが、そこで止まり、暫く辺りを伺っていたが、低くしていた身体をすくっと伸ばした。うん?


「全員伸びてますよー。気絶してるみたいです」


 え、そうなの? 伸びちゃってるの?


 俺たちも小走りで駆け寄る。ホントだ、気絶してます。道の左脇に5名、右脇に6名、見事に全員が失神して倒れてますな。



「これって、ザカリーさまのさっきの魔法のせいよねー」

「どうやらそのようだな。それにしても11人か。同時に気絶するなんて、ある意味見事だな」

「そうですよね。目の前で荷馬車が破裂して、一瞬の出来事だったんでしょうね。恐怖のあまりの気絶ですかね」


 俺たちが暢気に話しているので、母さんとエステルちゃんにブルーノさんも様子を見に来た。


「ザックったら、さっきの魔法、あれって何?」

「普通の土魔法じゃないですよね。でも、火が出てなかったから、火魔法でもないみたいだし」

「奥さまもエステルさまも、わからないわよねー。あんなストーンジャベリン、反則よねー」


 まあ俺も良く分からないんだよね。でっかいストーンジャベリンが運動エネルギーで着弾貫通して、同時に榴弾のように炸裂爆散するイメージなんだけど。

 おそらく、衝撃波が直ぐ側で潜んでいた盗賊どもを襲って、それで失神したんじゃないかな。

 キ素力という謎エネルギーが、多少多めに込められていたしね。



「それで、こいつらはどうしますか? ザカリーさま」

「縛っておきます?」


「面倒くさいから放置でいいよ。暫くは起きそうもないし。それより路上を片付けないと、うちの馬車が通れないよね。ライナさん、いいかな」


「了解しました。放置にしましょう」

「それじゃ、ふたりでパッパと道を片付けましょ」


 それで俺とライナさんが土魔法で路上に大きな穴を開け、そこに散らばっている木片を土ごと流し込んで埋めてから土を被せて固める作業を手早く行う。

 まあふたりとも、土木作業は慣れてますから。




「せっかく着替えたのに、拍子抜けだよ」

「でも、斬り合いをすると汚れるし、後片付けも大変だから」

「まあ、そうなんだけどさ」

「血糊なんかが付いちゃうと、旅の間はなかなかお洗濯も出来ないですしね」


 アビー姉ちゃんとエステルちゃんが、そんな会話を交わしながら馬車に乗り込む。

 女の子の会話とは思えないんだけど、まあ結果良しとしましょう。


「ザック、さっきの魔法って、ライナちゃんも良くわからないって言ってたけど、あれでも土魔法なのよね」

「え、そうだよ。だから、ストーンジャベリンだって。ちょっと魔法を変形させてはいるけど」


「ふーん、そうなのね。イメージの問題かしらね。瞬間的に組立てるのが大変そうだけど」

「まあそうですな」

「でも、撃ち出す前に、少し浮かんで止まってたわよね。そんなのは土魔法で出来るの?」


「あ、えーと、少々秘密であります」

「なによ、母さんにも秘密なの?」

「えーと、仕方ないでありますな。あれは、ほんの少々、空間魔法を付与しておるのでありまして」


「空間魔法かぁ。それって誰から学んだのかしら、って、野暮な質問ね」


 イメージを固めるために、撃ち出す前につい空中に留めて置いてしまった訳ですな。

 さすがは母さん、目敏いよね。ライナさんも直ぐ隣に居て声を出してたから、気が付いたのだろうな。

 彼女もアルさんから、空間魔法の手ほどきを受け始めているしね。



「では、出発する」

 ジェルさんの号令が掛かり、俺たち一行は動き始めた。

 馬車の御者台からいちおう確認したが、気絶している11人の盗賊どもが目を醒す様子はない。

 一方で早々と逃げて行ってしまった残りの3人は、探査にもその姿が引っ掛からなかった。


「カァ」

「お、クロウちゃん、どうだった?」

「カァカァ、カァ」

「そうなんだ。じゃ、仕方ないね」


 じつは、ブルーノさんからのその3人が逃げ出したという声を聞いて、直ぐに上空のクロウちゃんに思念を送って追いかけて貰っていた。


「クロウちゃんも、見失ったようでやすね」

「大森林の中に入って、樹木の密度の濃いところで隠れちゃうと、クロウちゃんでも無理だよな」

「カァカァ」

「それは、空からだと無理でやすよ」


 ブルーノさんもクロウちゃんの言うことがかなり分かるので、話が早いよね。

 俺が学院に行っている間に、ナイアの森でも一緒に行動しているので、意志の疎通がだいぶスムーズになったみたいだ。


 それじゃ、さっきの盗賊どものことはもう忘れましょう。

 ただ、王都圏といい、このデルクセン子爵領といい、どうもああいった盗賊団が活動する場所は特定されて来るよな。

 領内警備が行き届いていない。冒険者が活動していないか、いても極めて弱い。

 王都の場合は、警備がしっかりしているのは内リンクの中のエリアだけだからね。


 ブルクくんやルアちゃん、カシュくんなんかが良く言うところの、他領とは違う北辺の貴族領とは言っても、どうもここデルクセン子爵領には不安が感じられる。

 仮に何かがあった際に、アキレス腱のようになったりはしないだろうか。

 俺にはこの領出身の知己が誰もいないし、それほど領内状況の知識も無くて人心に触れた訳でもないので、何とも言えないのだけれどね。


 まあそれはともかく気を取り直して、エイデン伯爵領ケルボの町を目指しましょう。

 その前に、どこかでお昼ご飯も摂らないとだよね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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