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第39話 ヴァニー姉さんの王立学院入学

今回から第二章です。

 騎士団見習いの特別訓練で初めてアストラル森林に入り、魔獣カプロスに殺されかけ、そして神獣フェンリルを垣間見てから3年。俺は8歳になる年を迎えていた。



 今は2月の初め、春はもう少し先でまだまだ寒さが厳しい。

 だが今年は、いくつかの区切りの出来事が待っている。

 そのひとつが、ヴァニー姉さんのセルティア王立学院への入学だ。

 姉さんは今年12歳になる。そしてアビー姉ちゃんが10歳。セルティア王立学院の入学は12歳になる年で、それから4年間、15歳になった年の年末までが学業期間となる。

 学院はこのセルティア王国の王都フォルスにある。だからヴァニー姉さんはここグリフィン子爵領を離れて、これから4年の間は王都に住むことになるのだ。


 とは言っても、年間に学院で学ぶ期間は3月1日から6月15日までの春学期と、9月1日から12月15日までの秋学期の合計約7ヶ月で、残りの5ヶ月は夏休みと冬休みとなり、学生は帰省するのが普通なのだそうだ。

 たいていの学生は、夏至祭と冬至祭に間に合うように帰省し、それぞれ2ヶ月余りの休みを過ごすことになる。


 この世界の貴族は、子ども時代はだいたい家庭教師について勉強する。俺も5歳から姉さんたちと一緒に、家庭教師のボドワン先生から教えて貰っている。

 剣術は騎士見習いの子たちと騎士団で稽古をし、魔法は8歳からアン母さんが先生となる。

 一方、騎士爵以下で家庭教師が付いていない子どもは、領都などの大きな街にはたいていある初等スクールに通うのが普通だ。

 グリフィン子爵領にも領都にグリフィニアスクールがあり、また港町のアプサラにはその分校があって、7、8歳から11、2歳まで読み書きや算数など、社会に出るための基本的な勉強を行う。


 また、大きな街の初等スクールに通えない地方の村の子どもたちは、村とその村にある神のやしろが運営している小規模の学校で勉強するのだという。

 ちょっと毛色が異なるのが騎士見習いで、グリフィン子爵領の場合は8歳から12、3歳ぐらいまで、騎士団で寄宿生として寮に住み込み、勉強と訓練を行う。わずか8名程度なので、エリート教育と言っていいのかも知れない。



 さて、ヴァニー姉さんのセルティア王立学院入学の話だ。

 セルティア王立学院へは王国内の貴族や騎士の子女、そしてある程度裕福か学業が優れている一般の子供たちが入学対象となる。

 全寮制なので4年間の生活費負担は軽減されるが、それでも12歳から働くのが一般的なこの世界では、王立学院への入学を目指す子どもはだいぶ限られてしまう。


 また、貴族、騎士、一般を問わず、平等に学力重視で入学させるのも、このセルティア王立学院の大きな特長だ。

 だから、貴族だからと言ってすべての子女が入学できる保証は無く、そのことから貴族は家の体面を守るためにも、子どもには幼少時から家庭教師を付けて勉強をさせるという訳だ。

 うちの姉さんは5歳から勉強をしているし、頭もとてもいいから、まぁ何も問題はないと思うけどね。


 学院には入学試験があり、2月15日に行われる。

 定員は120名。国内から事前の書類選考で篩いにかけられた受験生が数百人は集まり、朝から夕方まで1日をかけて一斉に試験を行うとのことだから、なかなか大変そうだ。

 筆記試験に加えて、特技試験として剣術か魔法が選択でき、参考点として加算されるのだという。筆記試験のみでも受験が可能だが、参考点とはいえ選択受験をした方が有利なのは言うまでもない。

 どちらもできるヴァニー姉さんは、剣術と魔法のどっちを選ぶのかな。



 領都グリフィニアから王都フォルスまでは、街道が良く整備されているとのことで、順調に行けば馬車で2泊3日で行けるそうだ。

 なので姉さんは今月の8日に出発と決まった。


 王都までの行程だが、まずは隣のブライアント男爵領。ここはアン母さんの実家で、つまり俺たちのおじいちゃんとおばあちゃんの屋敷に1泊。

 そこからもうひとつ男爵領を越え、王都圏に入ってもう1泊し、翌日の10日に王都に到着する予定だ。

 王都にはグリフィン子爵家の王都邸があるので、入学まではそこに滞在することになる。



 そしていよいよ、ヴァニー姉さんの出発の日の朝となった。

 アビー姉ちゃんは今年で10歳だというのに、出発日が決まったときから姉さんに付いて回って甘えてばかりいて、今朝はもうずっとべそをかきっぱなしだ。

 朝食のときもすぐに泣き出しそうになるので、母さんから「アビーはザックのお姉ちゃんじゃなくて、妹になっちゃったのかしら」といじられていた。


 朝食が終わり、姉さんの準備が整い終わると、屋敷の全員が玄関ホールに集まる。

 クレイグ騎士団長とネイサン副騎士団長、それから筆頭内政官のオスニエルさんも来ている。

 ヴァニー姉さんは姿勢を正して、家族と使用人のみなさん全員の顔をゆっくり順番に見渡す。

「それでは、王都に行ってきます。入学試験には絶対に受かり、みなさんには良い知らせをお届けします」

 と、明るく大きな声で出発の挨拶をした。


「おう、ヴァニーが受かるのは、みんなそう思って信じてるから。来月はいよいよ王立学院生なんだな。制服姿のヴァニーを父さんは早く見たいぞ。でも他所の貴族の男には、くれぐれも気をつけるんだぞ」

 ヴィンス父さんがなかなかボケたことを言っているが、父さんが娘に甘いのを皆知っているので、誰も仕方ないなぁという顔だよ。

「ヴァニー、母さんも一緒に王都に付いて行ってあげたかったんだけど、皆がダメだって言うから。あなたはひとりで大丈夫な子だから心配しないわ。頑張ってきてね」

 母さんは自分が王都に行きたいのがバレバレです。


 べそかきっぱなしのアビー姉ちゃんは、ヴァニー姉さんに抱きつくとポロポロ泣きながら離そうとしない。

「ほらほら、アビー。これじゃ姉さんが行けないでしょ。アビーもあと2年したら学院に来るんだから、そしたら王都で一緒に学院生なんだよ。それまで、しっかり勉強しなさいね」

「うん、勉強頑張る。姉さん、気をつけてね」


 ようやくアビー姉ちゃんが離れると、姉さんは俺を手招きして抱きしめる。

「ザック、無茶とかしてみんなにあまり心配かけないんだよ。わたしの卒業とザックの入学がちょうど入れ替わりになっちゃうけど、ザックは男の子なんだから、それまではちゃんとうちを守っていてね」

「わかったよ、姉さん。大丈夫だから心配しないで行ってきて」

 姉さんはエステルちゃんにも「ザックをお願いね」って声を掛けていた。



 今回はお供に家令のウォルターさんとフラヴィさんという侍女が付いて行く。

 ウォルターさんは、普段は管理人に任せているグリフィン子爵家の王都邸の管理や姉さんの受験と入学関係の手配など、一切合切の仕事をするそうだ。

 おそらく配下の探索チームの何人かを、すでに先行させているんじゃないかな。

 護衛は、騎士小隊の1隊から騎士2名と従士5名が同行する。従士2名が御者役、あとは騎乗で従う。護衛のリーダーは剣術の先生でもあるメルヴィン騎士だね。


 姉さんを先頭に玄関ホールを出ると、見習い騎士の子たちが見送りに集まっていた。

 仲の良いカティーさんとハグしたり、みんなに声をかけて挨拶すると、ヴァニー姉さんらしく優雅な姿勢で背を伸ばして馬車へと足を向ける。

 そして馬車に乗り込む。

 皆に向かって振り返った姉さんの頬に、キラリと涙が一滴流れ落ちて朝の陽に光っていた。


 まだ冷え込む2月の朝、姉さんを乗せた馬車が王都に向け出発して行った。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しました。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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