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第408話 ファータの里への旅の陣容と大枠が決まりました

「では次だ。ファータの里へのご挨拶なのだが。こちらでは、出来れば早い時期に行った方が良いという話になった。ザックとエステルはどうかな?」


 ヴィンス父さんにアン母さん、そしてウォルターさん、クレイグ騎士団長、ネイサン副騎士団長、ミルカさんが領主執務室に集まっての話し合い。

 俺とエステルちゃんはそこに呼ばれている。

 王都関係の俺からの報告が終わって、ファータの里行きの話となった。


「ええ、僕とエステルちゃんとしても早い時期に、要するにこの夏休み中と思っています。ただし、8月は昨年と同様の日程で王都に戻って、また課外部の夏合宿を行う予定なので、7月中には行きたいですよね」


「そうか、そうだな。では来月、7月中ということで行って貰おう」

「了解であります」

「はい、わかりました」



「それで旅程なのだが、国境の峠までは3泊4日だったな。峠を越えてからは徒歩だと、確か4日ほどの行程か。それで合ってるかな、ミルカ」

「はい、その通りですが、前回、ザカリー様たちは間道を歩いて峠を越えてからは走り続け、1泊2日で辿り着きました」


 以前に初めて行った時には、ブライアント男爵家で1泊したあとは、その隣領のデルクセン子爵領の領都で1泊、国境沿いのエイデン伯爵領の領都で1泊と馬車でのんびり旅をした。

 そして、北方山脈の国境の峠の手前で馬車を降りて間道を行き、密かに国境を越えてからは走り続けて、1泊2日でファータの里まで行ったという訳だ。


「そんな話だったな」

「はい。1泊2日を走って行けるのは、これはザカリー様だからですので」

「旅程を決めるには、まず、どんな顔ぶれで行くのかを決めないといけないと、そういうことだな」

「その通りです。子爵様」


「はい、はーい」

「アン。わかっているが……。まあ、言ってみなさい」

 どんな顔ぶれでという話になって、母さんが勢い良く手を挙げた。手を挙げなくても、母さんの言いたいことは分かりますよ。


「グリフィン子爵家からのご挨拶という形式なので、次期当主のザックが名代でいいのだけど、今回ザックは当事者だから、別に名代を立てる必要があるわね」

「まあ、それは当主の俺が行けないという前提だよな」


「そうだけど、どう考えてもそうでしょ。なので今回の名代は、うふふ、わたしで」


 父さんはそれを聞いて、ウォルターさんたちの顔を見た。

 全員が苦笑しているが、仕方ないですなぁという表情をしている。

 おそらくこれまでも、父さんと母さんとの間では何度もこの話をしたのだろうね。



「むむ。まあそういうことになるのか。大丈夫か、母さん」

「ザックとエステルがいるから大丈夫よ、ね、エステル」

「あ、えと、はい」


「そうか。仕方ないな。今回は子爵夫人殿にお任せするよ」

「うふふ」


「父さん、母さん、僕からもひとつあるんだけど」

「ん? なんだ」「わたしが行くのじゃ、ダメかしら」


「いや、母さんが一緒に行くのはいいよ。僕からはね、今回はアビー姉ちゃんも連れて行こうと思ってるんだよ」

「アビーをか?」「アビーを?」


「うん、さっきの王都でのことでも、姉ちゃんには一緒に行動して貰ったんだけど、ファータの里に行くのなら姉ちゃんも行きたいって言うんだよ。それには、僕もエステルちゃんも賛成してあげた。姉ちゃんも王都でシルフェ様とか、ファータのメンバーと関わることが多くなってるしね。剣術もかなりのものになっている。それに今年で学院も卒業だ。つまり、僕からあの人に、旅の経験をプレゼントしたいんだ」


 俺の言ったことを吟味するように、父さんも母さんも黙って考えている。

 ウォルターさんやクレイグさんたちも黙っていた。おじさんたちもたぶん、いろいろと考えてるよね。



「子爵様、私からよろしいですか?」

「もちろんだ。意見を言ってくれ、クレイグ」


「先般からお話させていただいている、私のお願いもあります。それを子爵様と奥様にはご考慮に入れていただいたうえで、お聞き願えれば」

「ああ、あの話だな。そうか、クレイグからの話はアンと話し合って、真剣に考えている。そのうえでということだな」


 クレイグ騎士団長のお願いって、何だろう。この場にいる俺とエステルちゃん以外は、どうやらその内容を承知しているみたいだけど。

 そのお願いを考慮に入れたうえで、ということは、アビー姉ちゃんに関わることだよね。

 クレイグさんは、姉ちゃんの剣術の師匠だしな。


「結論から申しますと、私としてはザカリー様のご提案に賛成です。人生の経験を増やすには、旅もまた大切なもの。アビゲイル様の将来の肥やしに、きっとなるかと愚考します」


「そうか、クレイグならそう言うだろうな。ウォルターはどう思う?」

「私の意見ですかな? 私としてはこう申し上げましょう。グリフィン子爵家とザカリー様のお為に、少しでもいしずえの積み重ねのひとつになればと」


 うーん、おじさんの言う言葉の表現は分かりにくい。だが、クレイグさんとは「そうだな、ウォルター」と、なんだかふたりで納得し合っていた。



「将来の肥やしに、いしずえの積み重ねか。母さんはどうなんだ?」


「クレイグさんとウォルターさんのご意見は、良くわかりましたよ。わたしは、そうねぇ。もう心もだいたい決まってるし……。旅自体は、ザックとエステルがいれば大丈夫よね。ね、エステル」

「あ、はい。アビー姉さまには、是非、里にいらしていただければと、そう思います」


「ミルカ、ファータの方はアビーが行っても問題ないか? ネイサンの考えはどうだ」

「はい、子爵様。里の方は問題ありません」

「私も、アビゲイル様がご同行なされるのは、問題ないかと考えます」


「全員賛成ということだな。ふーむ、ここで俺だけが反対したら、アビーには暫く恨まれそうだ。わかったよ。それじゃ、俺とヴァニーで留守番しているから、アビーも連れて行ってくれ」


 父さんはそう言って、しぶしぶ許可を出したのだった。



「護衛は、王都屋敷のメンバー、ザックのレイヴンでいいな、クレイグ、ネイサン」

「はい、それでよろしいかと。ザカリー様と長い間ご一緒させていただいておりますし、なにやらますます精強になっているかと」


「あと母さん、侍女はどうするんだ?」

「侍女は、今回は連れて行きませんよ。ファータの里はまだ秘密ですし、人数をやたら増やすのも良くありませんのでね」


「それなら、自分のことはぜんぶ自分でするんだぞ」

「あら、それは当たり前ですよ。わたしもアビーも、自分のことは自分でします。それでいいわよね、エステル」

「あ、はい。それでよろしいのですか? お母さま」

「ええ、大丈夫よ」


 エステルちゃんはちょっと心配そうだったが、母さんがそう言うのなら自分の世話は自分で見て貰いましょうね。



「それでは、これで行く人員はすべて決まったな。訪問する人数は里長さとおさ殿に報せてくれ、ミルカ」

「はい、承知致しました」

「あとは、旅の方法だな」


「それにつきましては、こちらで検討をしました。もちろん奥様がご一緒に行かれるという前提です。ではミルカ、説明をしてくれ」


 ウォルターさんとミルカさんの調査探索部で既に検討済みということでした。

 今回は母さんが行くというのが、有力なオプションだったからね。


「それでは、こちらで検討した案をご説明します。まず前提となるのは、奥様が子爵家名代としてご一緒に行かれるということ、そして前回にザカリー様が行かれた時とは、条件が多少異なるということです」


「前回と条件が違うって、どういうこと? ミルカさん」

「はい、ザカリー様。それはですね、まず奥様はこのセルティア王国、特に北辺の地では有名な方であるということです」


 ああそうか。なにせ、天才魔法少女として幼い頃から知られ、王立学院では魔法特待生、更に卒業してグリフィン子爵家に嫁いでからも、その美貌は良く知られている。

 貴族の間では当然ながら顔を知られているし、商人などで知る者も多いのだろう。


「そして近年は、ザカリー様もその名が知られているということです。これについては、以前に王都でもお話ししましたね。なにせ、王立学院創立以来と言われる、剣術学と魔法学の両方の特待生ですから。なので、ザカリー様ご自身に自覚がなくても、そのお姿が誰に知られているかはなんとも分からないのです。例えば昨年の学院祭では、じつに多くの人にお顔を見られておりますから」


 ああ、それは確かに以前、ミルカさんが王都屋敷に来た時に指摘されたことだよな。

 前回の旅では、俺もまだ学院に入学する前の10歳の時で、顔は知られていないだろうということから、どこかの商人の息子一行という擬装をした訳だ。



「それに本日、アビゲイル様もご同行されることが決まりました。アビゲイル様も学院では有名であると聞いておりますし、昨年の総合戦技大会で優勝され、多くの観衆の前で王家の第2王子から表彰を受けられました。このお三方がご一緒にいれば、どんな擬装をしていても直ぐに気付かれる可能性が高いと思われます」


「なるほどな。前回の方がずっと簡単だったということか」

「そういうことです、子爵様」

「それで、調査探索部で検討した案というのは?」


「はい、基本的には本街道ではなく裏街道を辿り、どこの領都にも宿泊せずに野営をしていただき、峠まで行くという案です」


「あら、それはなかなか面白そうね。わたし、ぜんぶ野営でもいいわよ。ザックとエステルは慣れてるだろうし、アビーも大丈夫よね」

「しかし、アン。国内だけでも野営で3泊だぞ。峠を越えてからも野営があるだろうし。野営を減らす方法は無いのか、ミルカ」


「そうですね。グリフィニアを密かに出立して、どこの町にも泊まらないのが理想的なのですが。裏街道がアラストル大森林沿いにあることを考慮して、別案としては1泊目をブライアント男爵領の大森林近くの町、ラウモでというのがあります」

「ラウモと言ったら、エルネスト兄さんが居る町よね」


「はい、奥様のお兄様のエルネスト・ブライアント様ご一家が、お住まいになっておられます。それで奥様は、お兄様にお会いにザカリー様たちをご同道されたというていで」

「ブライアント男爵領の領都ではなく、エルネスト兄の住む町まで直接行くということか」


「ラウモに先に擬装馬車を運び入れ、そこで子爵家馬車から乗り換えていただくという案ですね。これは前回ザカリー様が行かれた時と同じ方法です。それでラウモに行かれたあと、大森林沿いの道を行き、途中1泊を挟んで、エイデン伯爵領のやはり大森林近くの町であるケルボにまで行っていただきます。こちらの裏街道であれば、商人の往来も本街道よりかなり少ないので、擬装がバレる可能性は低いかと。ケルボでうまく宿屋に宿泊出来れば、野営は1泊で済みます」


 エイデン伯爵領の大森林近くの町か。ケルボね、ケルボ、なんだか聞いたことがあるよな。


「(ザックさまザックさま、ケルボと言ったら、ルアちゃんの居る町ですよ)」

「(あ、そうか。なんだか聞いたことがあると思った。そうかそうか)」

「(これ、いまお話しをしときます?)」

「(いや、ミルカさんが把握してない筈ないから、彼が言うまで黙っておこう)」

「(ですね)」


 ケルボは、ルアちゃんのお父さんのアマディ準男爵が、エイデン伯爵家から委任されて治めている町だ。そうか、なるほどね。



「どうやら、そちらの案の方が良さそうだな。クレイグはどう思う?」

「そうですな。ただいずれにせよ、大森林沿いの裏街道と言えば、治安が悪いのではないですかな? それは織り込み済みなんだろ、ウォルター、ミルカ」


「裏街道ですからな。本街道よりは治安はよろしくないですな」

「盗賊なんかが出ても、ザックとエステルとジェルさんたちがいれば問題ないでしょ。そうよね、エステル」

「ええ、前回も峠で出てますし。なにほどのことはないですけど」


 母さんが凄く嬉しそうな顔で、そうエステルちゃんに同意を求めた。どちらかというと、盗賊団のひとつやふたつぐらいは出てほしいという表情だよな。

 また盗賊ですか。グリフィン子爵領は騎士団や冒険者が強くて治安も良いので、ほとんど出没しないらしいが、領地を出て裏街道だとそうなりますかね。俺にしたら、ただ面倒くさいだけだ。



「まあそこは大丈夫だろう。ではその案で、クレイグとネイサンと相談して具体策を固めてくれ、ウォルター、ミルカ」

「はい、わかりました」


 大森林沿いの裏街道を行くという基本線で、ラウモの町からケルボの町を辿るという方針が決まった。

 どちらも当然に初めての町だし、裏街道というのも初めてだ。これは楽しみではありますよ。


 久し振りのファータの里だし、エーリッキ爺ちゃんやカーリ婆ちゃんをはじめ、里の皆さんにも会える。

 どうやら、夏休みらしい夏になりそうだよね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今回で第十章は終了し、次回から第十一章になります。


本作は昨年の4月30日から投稿を始め、ちょうど1年が過ぎたことになります。

思えば投稿開始時も緊急事態宣言の中でした。そして現在も。

この1年、さまざまなことが変わりましたが、果たしてそのうちで良い変化はどのぐらいあったのでしょう。


人やものごとは多様に関わり合い、良くも悪しくも変化の中で進んでいきます。

本作も敢えてざっくり言えばそんな物語なのですが、まだまだ進んでいく筈ですので、引き続きこの物語にお付き合いいただき、楽しんでいただけると幸いです。

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