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第406話 夏休みの始まりと各自の予定

 水の精霊の妖精の森再建がひと段落した。

 ナイアの森に棲むユニコーンからの新たな問題というか、お願いごとをされたのだが、これについては直ぐに行動に移さなければならないということはないだろう。


 妖精の森から帰ったその日が長い1日だったのもあって、今晩はゆっくり休みましょうとその件の検討は後日とした。

 この世界は1日が27時間もあるので、早朝から夜までだと結構な稼働時簡になっちゃうからね。



 学院の春学期も最後の10日間となり、うちの総合武術部としても春学期最大のイベントであった剣術対抗戦も終わって、通常通りの練習の日々に戻った。

 アビー姉ちゃんとは昨年と同様に夏の合同合宿を行う相談をし、たぶん合宿地もナイア湖畔ということになるだろうね。

 うちの部員たちにもそれを知らせ、みんなとても楽しみにしている。


 そして10日間講義も課外部活動も特に何ごともなく、6月15日にホームルームを終えて夏休みとなった。ホームルーム後は部室に集まって総合武術部のミーティングだ。


「無事に夏休みに入りました。この3ヶ月間の練習も、みんな良く頑張りました。お疲れさまでした」

「お疲れさまでしたー」


「夏休みには、みんなが故郷に帰省すると思いますが、なるべくなら毎日、個々人で練習をしてくださいね。日々、練習を途切れさせないことが大切ですよ」

「はーい」


「8月の夏休み終盤、既に伝えているように、今年もアビー姉ちゃんたちのなんとかなんとか部と合同合宿を行います。今のところの日程としては、昨年と同じ8月18日からの2泊3日を予定しています。いいですか?」

「了解でーす」


「あの、ヴィオ副部長。ザック部長は、アビーさまの強化剣術研究部の名前を、いつもちゃんと言いませんよね。なぜなんですか?」


「さあ、謎よね。たぶんだけど、最初はちゃんと憶えてなくて、そのあとに随分経ってからやっと覚えたんだけど、今更ちゃんと言うのが恥ずかしくて、ああ言い続けてるんじゃない? 案外そんなことよ」

「変に見栄っ張りなんですね」


 正しい推測を口に出すんじゃないですよ、ヴィオ副部長。


「ともかくです。合同合宿で夏休みの鍛錬の成果を見ますからね。いいですか?」

「はーい」


 その日はそれで解散し、今日明日には王都の自分の屋敷に戻る者、或いは学院から直接に帰省する者と、それぞれの夏休みが始まる。

 あまり実家に帰りたくないソフィちゃんをはじめ女子たちは、これから早めのランチに行くようだ。


 俺は直ぐに寮に戻って、持ち帰る荷物は無限インベントリに入れ、申し訳程度の物をバッグに入れて肩から下げて屋敷へと帰った。




 今後の予定としては昨年とほぼ同じだ。

 20日には王都屋敷を出発して、途中にブライアント男爵家に寄り、22日にはグリフィニアに到着する。

 そして26日と27日が夏至祭だね。


 屋敷に帰って昼食をいただいてから、全員にラウンジに集合して貰った。夏休み中の予定を確認するためだ。


「20日に出発なので、アデーレさんとエディットちゃんには屋敷の戸締まりをして貰って、それから有給休暇ね。僕らが戻って来るのは、8月10日を予定している。いいかな?」

「わかりました」


「それで、アルポさんとエルノさんは、結局、ファータの里に帰る、でいいんだよね?」

「はいな。ご一緒にグリフィニアに、とも思ったのですがの。やはり昨年の夏至祭は、里におらんかったで」

「2年続けてはいかんと思いましての、向うでお待ちすることにしました」


 アルポさんとエルノさんは、俺たちのファータの里行きにグリフィニアから従うとも言っていたのだが、冷静になって考えてそのように決めたみたいだ。

 年に2回の祭には、やっぱり故郷の里にいた方がいいよね。



「シルフェ様たちはどうされます?」

「わたしたちも妖精の森に帰るわ。夏至のお祝い日は、風の精霊にとっても大切ですからね」

「夏至の当日は、世界中の精霊がアマラさまに感謝のお祈りを捧げる慣いなんですよ」


 そうなんだ。確かに精霊さんは太陽と大いに関係があるから、太陽と夏の女神であるアマラ様にお祈りを捧げる訳ですか。


「それじゃ、シモーネちゃんも久し振りの里帰りですね」

「はい、ザックさま。でも、シモーネは、えと……」


「この子、あまり帰りたくないらしいのよ。皆さんと離れるのが寂しいんだって。ね、そうよね、シモーネ」

「えと、でも、シルフェさまとご一緒に、妖精の森でお祈りしないと」


「精霊さんの大切な行事なら、それには参加しないとだ。それでまたここに戻って来ればいいよね」

「はい、でも、えと……」


「それがザックさま。シモーネは、いちど森に戻ったら、もうこちらに来させて貰えないんじゃないかって、そう心配してるんですよ」

「ああなるほど、そうなんだね」


 シフォニナさんが、今にもベソをかきそうなシモーネちゃんの気持ちを、そう説明してくれる。

 そこのところを決めるのは、シルフェ様の一存なんだろうけど。

 シルフェ様は、しかしどうするかは直ぐに言わずに、うふふと微笑みながらシモーネちゃんの頭を撫でていた。


 たぶん、本来は人間とあまり接触してはいけない精霊だから、この屋敷でもう2ヶ月以上も暮らさせているシモーネちゃんを、いったん人間から少し引き離そうとしているのかも知れないな。


「夏の間ぐらいは森で暮らしなさい、シモーネ。精霊のお仕事もしっかりお勉強して、ちゃんと出来たら、またこちらに来られるわね」


「あ、はい。頑張ってお勉強とお仕事、します。シモーネは、精霊とそれからザックさまのとこと、両方のお仕事がちゃんと出来る風の精霊になります」

「あらあら、シモーネは欲張りさんなのね」


 さっきまで泣きそうだったシモーネちゃんは、ニコーッと花が咲いたような笑顔になっていた。うちの少年少女も良かったねと笑っている。



「で、アルさんはどうするの?」

「わしか? わしはそうじゃな。ちょっとねぐらに帰って、本来の姿のままで翼を休めるつもりじゃ」


 最近は結構長期間、竜人の姿でいることが多かったから、やはり元のドラゴンサイズに戻って休みたいんだね。

 そもそもこの爺さんドラゴンは、洞穴の中で長年引き蘢り生活を送っていたからなぁ。


「アルはあの洞穴に戻ると、なかなか出て来なくなるでしょ。だから、いったん戻って夏至の日はわたしのところに来なさい。それにほら、ザックさんとエステルたちがファータの里に行く時、わたしと一緒にいた方がいいわ」

「おお、そうじゃの。では夏至に合わせて、シルフェさんとこに行くかの」


 俺たちがファータの里に行く時に、なんで一緒にいた方がいいのかは分からんですけど、取りあえず大騒ぎになるようなことはやめてくださいな。

 ともかくも、屋敷の皆の予定は確認しました。あとはユニコーンからのお願いの件か。

 それでいったん解散し、レイヴンメンバーとシルフェ様たちが残った。



「ユニコーンのかしらからの話は、みんな聞いてくれたよね。直ぐにどうこうは無さそうだけど」


「そのテウメーとやらの魔物との争いに、ザカリーさまに助力してほしいということですな」

「キツネの魔物なのよねー。強いのかしら」

「人里に出て悪さもするんですよね。討伐対象ですよ、それ」


「オネルさんの言うように、どうやらナイアの森の東側の人里で、家畜や時には人も襲うみたいだね。僕らの仕事かどうかはともかく、討伐対象なんだろうね」


 ナイアの森は王都中央圏の東南の端にあって、そこから東に王都圏の境を越え、隣のセリュジエ伯爵領の西端まで広がっている。

 ヴィオちゃんとこの領地にまで掛かっている訳だね。5つの貴族領と北方帝国に接するアラストル大森林ほどの巨大さはないが、それなりに広い森林だということだ。


「その辺のところは、王都の冒険者ギルドでは何か掴んでるのかな、ブルーノさん」

「昨年に聞いたところでは、かつてテウメーらしき魔物を冒険者が見たというぐらいでやすかな。ここの冒険者は、あまり活動範囲が広くないでやすから。その人里での被害は、セリュジエ伯爵領でやすかね」


 王都の冒険者は人数も少なく、また森に入るといった活動もほとんどしない。王都内での雑用仕事や護衛仕事などが主で、せいぜい王都近隣の森での採取ぐらいのものだ。

 まあそうだから、ニュムペ様の妖精の森にとっては都合が良いんだけどね。



「シルフェ様によると、逃げ足がやたら速くて捕捉が出来ないらしいんだよね。だからほとんど、人間に見られることが無いらしい。ですよね?」

「お恥ずかしいけど、大昔にわたしが取り逃がしたのよ。戦ってそれほど強くはないと思うけど、一筋縄では行かない相手よ」


「風よりも速く動くということですか?」

「そうなのよジェルちゃん。一瞬なんだけどね」

「あと、どうやら幻惑魔法を使うらしいんだよな。それから配下のキツネの魔獣を従えている」


「目くらましじゃな。おそらく、相手に幻を見せる魔法じゃ」

「それって、アルさんも出来るのー?」

「ふん、そんなチンケな魔法なんぞ、出来てもわしは使わんぞ、ライナ嬢ちゃん」


「攻撃力はあるんですかね?」

「そこは良く憶えてないんだけど、たぶん火魔法系を使った筈よね。ただ、それほど強力ではない筈よ」


 ああ、キツネ火ですか。あれも前世の世界では目くらましの一種だと思うけど。

 攻撃力はどうも不明だな。そこのところは、ユニコーンに聞かないと分からないだろう。



「それで、ザカリーさまは、そのユニコーンのかしら殿の願いをお受けになるのですか?」

「うーん、人間以外の者たち同士の争いに僕らが介入していいのか、判断がつかないんだけど。ただ、ニュムペ様の妖精の森が出来たことで、アッタロスさんの言う通り争いが激しくなるんじゃ、無視は出来ないかな。シルフェ様はどう思います?」


「そうね。ザックさんはともかくとして、ユニコーンとそのテウメーとの単純な縄張り争いだったら、人間のジェルちゃんたちがどちらかに味方するのは、あまりよろしくないかもだけど。今回の場合、ひとつはニュムペさんの眷属とも言っていいユニコーンからの願いだし、ニュムペさんとこの妖精の森が脅かされるなら尚更ね。あとひとつは、人里を襲っているかどうかよね」


 なんで俺はともかくとしてなのかは良く分からないが、おそらくシルフェ様の言う通りなのだろう。


「そうですね。だいたいは納得です。そうしたら、夏の間の動きがどうなるのかを見て判断しようか。あと、森の東での人里の被害状況とかも、調べておく必要があるな。でもこれは、8月にこっちに戻ってからだね」


「了解でやす、ザカリー様。それでは人里の被害の調べは、自分とティモで行いやしょう」

「承知です」

「あと、セリュジエ伯爵領側の冒険者ギルドからも、情報収集をする必要がありやすな」

「お願いするよ、ブルーノさん、ティモさん」



「ではこの件は、それらの調べの結果も踏まえて、8月に王都に戻ってからの判断ということで良いですな? グリフィニアへの出発が控えておりますし、夏はいろいろとありそうですから、まずは目前のことを」


「うん、そうしようジェルさん。皆もよろしくね」

「わかりました」


 さあそれでは、まずは帰省だね。父さんたちと話すこともいろいろありそうだし。

 俺の気持ちは、グリフィニアへと向かって行くのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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