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第38話 エステルちゃんの一族のこと、そして1日の終わり

 この世界にはマジックバッグという希少な魔道具があって、バッグ自体の外見の大きさよりも遥かに多くの物が収納できる容量を持っているそうだ。

 ただし現在は作れる者が誰もおらず、伝説の神器と言ってもいいもの。おそらく王家か一部の大貴族が所有している、ということらしい。

 もちろんエステルちゃんも実際に見たことはないそうだ。


「僕のはねー、神サマからいただいたギフトというか、そんな不思議能力だね。どこに収納されてるのかは、僕もわからない」

 たしかに無限インベントリは女神サマから貰った転生特典だ。まあギフトと言っていいでしょう。

「そうなんですか。神様からの贈り物なんですね」

 マジックバッグというのを見たことはもちろん無いけど、そのようなものを神サマから貰ってると思ってくれれば、まぁいいだろう。


 インベントリの中にたくさんの刀を収納しているとか、前世のそのほかの転生特典のこととか。あとクロウちゃんが、もとは白い紙から俺が生みだした式神だということとかは、まだ黙っておこう。

 式神にも神という言葉が付いてるし、この世界の神様と混同してクロウちゃんを怖れたりしちゃうとイヤだから。

 今でさえ、エステルちゃんの順位はクロウちゃん的にはかなり下の方みたいだしね。



 前世から引き継いでいる俺の能力のことはそのくらいにしておいて、エステルちゃんのことと一族について聞いてみた。

「エステルちゃんの、その精霊族のファータ人というのは、どんな人たちなの?」

「えと、この世界には人族のほかに獣人族や精霊族なんかがいるのは、ザックさまも知ってますよね」

「うん、獣人族の人やエルフの人は直接知ってるし、お勉強でもボドワン先生から教えて貰った。詳しくはまだだけど」


「はい、ちゃんとお勉強もしてるんですね。それで、精霊族で良く知られてるのは、アールヴとかドワーフですけど、ファータも同じ精霊族なんです」

 アールヴは一般に言うエルフだね。僕が直接知っているのは冒険者ギルドの美人職員エルミさんだけだ。ドワーフはまだ会ったことがない。


「それでファータは、アールヴやドワーフと比べると、とても人数が少ないんです。特にこの国では珍しいかな」

「そうなんだ」

「わたしたちファータ人の一族は、霧や霞、蜃気楼なんかに関係する能力や風の魔法に優れているとされていて。だから気配を薄くしたり、幻を生みだしたりとか、それで探索系のお仕事に就く人が多いんですよ。それに外見は人族とほとんど違わないですし」

「なるほどね、だからエステルちゃんは影が薄くなったり、あと僕が空き地で結界を張っていたのが気になったんだ」

「そうなんです。て、影が薄いんじゃなくて、気配を薄くしてるんですぅ」


「風の魔法か。あ、あのとき、飛び苦無クナイ、じゃなかった小型のダガーを投げてカプロスを攻撃したとき、四方から同時に続けて飛んで来たように見えたのは、風魔法を使っていたとかなの?」

「はい、風を操って、ダガーが違う方向からいくつも飛んで来るようにします。ホントは相手を混乱させるための技なんですけれど」


 探索で敵に襲われたときや、目くらましに有効な技ということだね。相手に多人数が潜んでいて反撃して来たように思わせる。

 魔獣カプロスにも不意を衝いてそういう風に攻撃して、俺が逃げる隙を作ってくれたという訳だ。あれで俺の命が救われたんだ。



「ファータ人で、特に探索のお仕事に関係する一族の子供は、小さいときから訓練をします」

「エステルちゃんは、5歳から訓練を始めたって言ってたね」

「それでお仕事に就けるようになると、だいたいはどこかに雇われるんです。わたしの場合は、一族のうち何人かがウォルター様の配下としてグリフィン子爵家で働いていて、それでわたしもこちらで働くことになったんです」


 なるほどね。前世で俺の配下にもいた忍びと似ている。

 忍びの多くは、みやこからそれほど遠くないところの、伊賀とか甲賀とかの里で育った者たちだったけど、エステルちゃんのファータ人の一族にもそんな里があるのかな。

 行けるなら、いちど行ってみたいな。



「そうだ。精霊族の人たちって、人族よりも寿命が長いってボドワン先生から聞いたけど、ファータ人もやっぱりそうなのかな」

「はい、精霊族でたとえばアールヴ、エルフの人たちはとても寿命が長くて、ドワーフはそれほどでもないですね。人族よりは長いですけど。わたしたちファータは、アールヴよりは少し短くて、ドワーフよりは長いという感じですかね。寿命が何年かは人それぞれみたいですけど」

「ふーん、そうなんだ。そうすると、エステルちゃんはまだ15歳でしょ。きっと僕よりずっと長生きするんだろうなー」



「え? えと、ファータ人は子供のときは人族と同じように成長して、いったんわたしぐらいで止まるんです。だから……しばらくはこんな感じです。もうすぐザックさまが追いつきますよ。そしたら同じくらいになります。えへへ」

 追いつくって、年齢が追いつく訳じゃないから、身体がそのままってことかな。

 それにしても俺は今年でまだ6歳なんだから、あと9年はあるだろうが。

 でも、俺が15歳になったときに、エステルちゃんの見た目は25、6歳の熟れたお姉さんじゃなくて、今と変わらない15歳ということなのか。ふーん、そうなんだ、ふーん。


「ザックさまは、また変なこと考えてますよね」

「あ、いや、ナ二も考えてませんよ」

「カァ」


 あれ、クロウちゃんはいつの間に下りて来てたの?

 別にエステルちゃんとケンカとかしてた訳じゃないから、心配しなくていいんだよ。え、わかってるって。コクンコクン。



 こうして俺の初めてのアストラル大森林行きの、長い1日は終わろうとしていた。

 いろいろなことがあったし、俺がまだぜんぜんダメな小さな子どもだというのも思い知らされた。

 明日から騎士見習いたちとの訓練とは別に、自分でもっと稽古をしないといけないな。

 どうせエステルちゃんも、これまで以上に監視役で付いて来ようとするだろうから、手伝わせようかな。


 夕食の席で、ヴァニー姉さんとアビー姉ちゃんが魔獣のことについてうるさく聞いて来たので、騎士団で話したストーリーと同じように話しておいた。

 父さん母さん、そして姉さんたちに、いつかは俺のことをちゃんと話さないといけないんだろうね。

 放っておいてもそんな機会は、いつか来るだろう。

 それまで暫くは子どものままで、少しずつ成長して行くしかないな。

お読みいただき、ありがとうございます。

今回でひと区切り、次回から第二章に入る予定です。

もしよろしかったら、まだまだこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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