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第394話 課外部剣術対抗戦、始まる

 さて、今日は剣術対抗戦の初日です。

 参加する課外部の部員は、4時限目が終わると直ぐに剣術訓練場へと急ぐ。

 16時試合開始の団体戦が3日間、毎日2試合なのだが、今日の初日は試合前に簡単な開会式がある予定だ。


 剣術訓練場にはわりと多めに部屋があり、普段の練習でうちの部に割当てられている部屋が控室だ。

 2チームが参戦する総合剣術部はもともと部員が多いことから、普段から部屋をふたつ使っているので、その両方を控室にしたようだね。


 出場する選手が装備に着替えフィールドに出る。

 各課外部の部長と選手の5名だが、うちと姉ちゃんのところは部長が選手ではないので6名だ。

 俺たちがフィールドに出てみると、審判を務める剣術学の3名の教授とオイリ学院長に、うちの部の顧問であるイラリ先生、そして救急担当のクロディーヌ先生が既に揃っていた。


 ちなみに総合剣術部と姉ちゃんの部は、剣術学部長教授のフィランダー先生が顧問を兼任している。

 あと、クリスティアン先生とジュディス先生の魔法学のふたりの教授も、回復魔法でサポートしてくれるようだ。爺さん先生は見学のみね。まあいいでしょ。

 あのふたりの先生もいれば、俺の出番はなさそうだよな。



 フィールドを囲む観客席をぐるりと見渡すと、三々五々学院生たちが集まって来ている。

 それから、学院生の関係者の観客もところどころにいるね。


 主に選手の家族か屋敷の方たちというところだろう。王立学院は全寮制で、王都に家族や関係者がいるのは王都出身者か貴族など王都に家屋敷のある者だけだ。

 カロちゃんは、実家のソルディーニ商会王都支店の人が応援に来るって言っていたな。


 えーと、うちの連中はと、あ、いましたいました。

 エステルちゃんにブルーノさんを除くレイヴンメンバー、シルフェ様とシフォニナさんに執事設定のアルさん、そして今日はフォルくんとエディットちゃんにシモーネちゃんだね。

 ユディちゃんは、今日はお留守番係だな。


 11人もいるし美人のお姉さん方が中心なので、ひと際目立ちますよね。

 エステルちゃんの横にはボドワン先生が来ていて、何か話している。



「それではこれより、第1回セルティア王立学院課外部剣術対抗戦を行う。学院始まって以来の初めての試みだが、3つの課外部が日頃の練習の成果を遺憾なく発揮し、試合を通じて皆に披露する場だ。参加する選手は試合規則を守り、充分に力を尽くして闘って貰いたい。俺からは以上だ。それではオイリ学院長からも、ひと言いただく」


 フィランダー先生の無骨だが良く通る声が剣術訓練場内に響いた。

 剣術訓練場は総合競技場と違って拡声の魔導具が無いのだが、意外と声が隅々まで届く。


「みなさん、聞こえるかしら。コホン。我がセルティア王立学院は、学問と剣術、魔法に力を入れて皆さんに学んで貰っている学院です。そのうちの剣術の課外部対抗戦が、こうして開かれることになったのは、とても喜ばしいことです。次回は魔法もこのようなかたちで出来るといいわね。ひとつ残念なのは、ここにいるグリフィン子爵家の姉弟が出場しないことだけど……。それはともかく選手の皆さん、この3日間、存分に闘って良い試合をしてください。わたしからは以上でーす」


 また学院長は余計なことを言う。

 俺が出場を止められているのは当然知っているだろうけど、アビー姉ちゃんが出場しないのは確かに残念だけどね。


「それでは試合を始めるが、その前に試合規則を簡単に説明しておく」


 フィランダー先生が、今回のルールを場内に説明した。

 1対1で5戦を行う団体戦だが、3人が勝利すればそのチームの勝ち。ただし5戦は行う。

 1戦の試合時間は5分で1本が決まればそこで終了で、決まらなければ判定。判定でも決まらない場合には3分間の延長。

 基本は寸止めだが、木剣が入ってしまっても構わない。ただし首から上への攻撃は禁止。

 大枠はそういうことで、ほとんど俺が提案したままだけどね。


「第1試合を始めるぞ。まずは総合剣術部Aチーム対強化剣術研究部だ。他のチームは退場」



 それで俺たちはフィールドを出て、観客席に確保されている各部のための席に移動する。

 うちの屋敷の皆が陣取っているところが、総合武術部の席だね。

 部員たちの関係者も近くにいるので、あとでご挨拶をしておきましょう。

 ヴィオちゃんとこの執事のハロルドさんもいらっしゃいますね。


 アビー姉ちゃんの部の観客席が隣なので、姉ちゃんがやって来た。


「アビーちゃんはやっぱり出ないのね。残念だけど、まあそういうことね」

「はい、シルフェ様。学院ではわたしはもういいかなって」


「わしは、アビーちゃんの試合を見たかったがの。去年の秋には来られなかったのでな」

「ごめんなさい、アルさん。でも、わたしも次に進むってことで」

「そうか、そうじゃの」


 昨年秋の総合戦技大会の観戦は出来なかったが、先の盗賊団討伐作戦で姉ちゃんの闘いっぷりはアルさんも見ているから、それ以上は何も言わなかった。


「でも、僕は見たかったです」

「わたしもです、アビーさま」

「シモーネもです」

「あはは。そうね、ゴメンね」


 フォルくんとエディットちゃんにシモーネちゃんは、とても残念そうにそう言っていた。

 さあ話をしてないで、そろそろ試合が始まりますよ。


「あ、始まるわね。わたしはあっちの席に戻るわ。それじゃ」



 出場選手は決まっているが、双方のチームの出場順は試合開始直前に決めて良いことになっている。

 まあ普通は、前々世の剣道の団体戦のように、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と役割を決めて、チームの勝利を目指すのだろうけど、今回は団体戦とはいえ極めて個人戦的な要素が強い。


 先に1勝でもして引き分けで逃げるといった戦法は一切考えず、個々が当たった相手といかに闘い勝利するかを求めるのだ。引き分けは想定してないしね。

 とは言っても、1年生をいきなり4年生に当てる訳にもいかないので、通常の考え方なら実力の低い選手から順番に出すだろうな。


 姉ちゃんの強化剣術研究部の最初の選手は、新しく入った1年生の女子だった。

 名前はなんだったっけ。


「ねえ、あの1年生女子って、ビビリとかいう名前だったっけ、ソフィちゃん」

「ヴィヴィアンヌ、ヴィヴィアちゃんですっ」

「あ、さいでしたね」


 一方で総合剣術部Aチームの方は、うちのクラスの2年生のペルちゃんだ。

 ペルちゃんなら、1年生女子には負けたりはしないだろうな。

 彼女の実力は良く知っているが、姉ちゃんに鍛えられているヴィヴィアちゃんの方はどうなのだろうか。



 初日第1試合の第1戦ということで、ふたりともかなり緊張していて、なかなか仕掛けられなかったが、いざ木剣が合わせられると激しい打ち合いが始まった。

 2年A組でただひとりの剣術侍女、いや侍女さんではないのだけど、そのペルちゃんは剣術一筋の面目躍如で激烈に打ち込む。


 しかしヴィヴィアちゃんも1年生ながらそれに良く合わせ、防戦一方にならないようにペルちゃんの隙を見つけては木剣を繰り出す。

 うん、なかなか気の強い子みたいだね。


 結局は5分近くの激しい攻防の末、ペルちゃんの1本が決まったのだが、なかなか良い攻防だったね。

 胴に決まった剣は寸止めには出来なかったが、最後に威力が緩められていたようで怪我はなかったようだ。

 いちおう念のために、クロディーヌ先生が診察と治療を施している。



 そして次はロルくんですね。彼も随分と成長しているようだけど、カロちゃんにいいところを見せてあげなさいよ。

 対戦相手はやはり2年生の男子だった。

 総合剣術部Aチームは、残りのメンバーが3年生ふたりに主将が部長で4年生のエックさんと、2年生と3年生中心の布陣で、なるほどエックさんらしい。


 ロルくんは普段は練習する姿しか見ていなかったが、こうして試合を見てみるとなかなかに強くなっていた。

 姉ちゃんの部は休日も特別訓練や王都外への遠征訓練などをするから、相当に鍛えられて来たようだ。

 彼は普段は大人しいが、いざ剣を握るとかなり厳しい攻めを繰り出してくる。

 そして試合はロルくんの勝ちであっと言う間に終了した。


 姉ちゃんの部は次にハンスさん、そしてジョジーさんと出て来て、相手も同じ3年生と対決する。

 ハンスさんとジョジーさんも随分と強くなっていて、ふたりとも熱戦の末に勝利した。

 これで姉ちゃんの部が3勝だ。団体戦としての勝敗は決まった訳だが、次はエックさんとエイディさんの大将対決。

 団体戦でどっちが勝ったのかなんて関係ないよね。




 双方の主将が剣を構えて静かに対峙する。

 ふたりとも利き手の右側に木剣の剣先を立てて掲げる。僅かにそのまま睨み合い、そしてエイディさんが剣先を寝かせるように動かした。


 それを見てなのか、エックさんが自分の間合いへと走り込んで来る。

 普段の穏やかな彼とは異なる激烈な動き。エイディさんもそれに合わせるように前に踏み出して行く。


 ガツンと木剣が合わされた。どちらも力負けはしない。

 エイディさんがすっと間合いを外すところを、エックさんがそうはさせじと更に踏み込んで剣を繰り出す。

 そこからは打っては離れ、離れては打ちの打ち合いとなった。


 エイディさんは強化剣術を使うのだろうか。今回の対抗戦の規則上では特に禁止にはしていない。

 しかし、先ほどのハンスさんやジョジーさんも使うまでもなく勝利していたし、エイディさんも使わないのではないだろうか。どうもそんな気がするのだが。


 強化剣術を使う場合には、間合いを空けてキ素力を循環させる多少の溜めが必要となる。

 現在の彼らの攻防、特にエックさんの間合いを空けさせない強烈な攻めは、強化剣術を使うのを許さないようにも思える。

 そしてエイディさんも、自身の剣術の技でそれに良く対抗していた。



「やめっ。時間切れだ。双方離れよ」


 主審のフィランダー先生のどデカイ声が掛かる。5分間が過ぎたのか。取りあえずこれで判定だな。

 この試合の主審はフィランダー先生、副審はディレク先生だ。


「判定っ。勝負なし」

「同じく、勝負なし」


「よし、延長戦だ。3分間の延長戦とする。用意はいいか」

「はいっ」


「それでは延長戦、はじめっ」


 開始位置に戻っていたふたりが再び木剣を構え、今度は先手を取ろうとエイディさんが先に動く。

 エックさんはそれを迎え撃つように、どっしり構える。


 間合いに入った途端にエイディさんの木剣がズンと袈裟に上から振られ、エックさんがそれをしっかりと受ける。が、それまでの攻防とは異なり、エックさんが打ち負けて少し蹌踉けた。

 これは、ほんの少し使ったかな。


 勝機と見たエイディさんが二の手を繰り出そうとしたところを、エックさんがかろうじて躱し、同時に回り込んで胴を打つ。

 慌ててエイディさんは見切ろうとしたが、微かに入ったか。


「まだまだっ」とフィランダー先生の声が飛ぶ。


 それからの残り時間はあっという間だった。3分間は短いが、とは言え、これ以上は難しいだろう。集中力が途切れると危ないからね。



「延長戦、終了。離れろっ」


 エックさんもエイディさんも肩で息をしている。なかなかに厳しくも良い闘いだった。


「判定っ。エックの勝ち」

「同じく、エックの勝ち」

「よし、主審副審共にエックの勝ちだ。試合終了。双方、礼をしろ」



 会場内から、ほぉーというため息があちらこちらで聞こえて来るようだ。

 うちの皆は、姉ちゃんの部で良く知っているエイディさんを応援していたが、判定結果に異議はないみたいだった。

 延長戦で微かに入ってしまった胴。あれだけだったが、判定の決め手になってしまったな。


「みんな良く闘った。団体戦としては強化剣術研究部の勝ちだが、それはただの結果だ。それぞれいい試合だった。これで第一試合は終了とする。10分間の休憩の後、第二試合を始める。それぞれ準備をしてフィールドに集合だ」


 さあ、うちの部の試合が始まる。みんな頑張ってくださいよ。ここからは君たちの闘いだ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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