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第393話 これからの活動計画

 新築が成ったニュムペ様の水の精霊屋敷で、お茶とお菓子でひと息入れて、王都へと帰ることにした。

 ユニコーンのアルケタスくんも、一族が待つ東の森へと戻る。


「(ザカリー様、ザカリー様)」

「ん、どうした。何か忘れ物か?」

「(忘れ物って、僕は何も持って来てないっすよ)」


「そうだよな。ニュムペ様にご挨拶に来たのに、手ぶらだしな」

「(あやー、痛いところを突かれたっす。て、そうじゃないっす)」

「で、なあに?」


「(あのっすね。こんどザカリー様にお願いとか、してもいいすか?)」

「ん? 僕にお願いって、なに」

「(それは、次にまたお会いした時に。今日、ザカリー様たちにお会いしたことを、うちのおかしらに報告してからっす)」


「ああ、そうだね。ニュムペ様にご挨拶したのと、ここが妖精の森になることは、ちゃんと報告するんですよ」

「(はいっす)」


「それで、次に君と会うって、どうやって会えばいいのかな。連絡とかはどうすれば」

「(ああ、それは僕の一族の居場所をお教えするっす。そうすね、クロウちゃんに一緒に来て貰えれば)」

「カァ」


「んじゃ、クロウちゃん、アルケタスくんと一緒に行って来て」

「カァ」

「(こちらからご連絡するときは、水の精霊様に言付けを頼んで置くっす)」

「わかった」


 アルケタスくんはそう言って、クロウちゃんを背中に乗せて森の中に消えて行った。

 あ、クロウちゃんは飛ぶんじゃなくて乗って行くんだね。まあ背中にいれば見失うことはないか、楽だし。カァ。



 ニュムペ様と水の精霊たちに挨拶をして、俺たちも引揚げます。

 ナイア湖畔の起点まで走って行くと、やがて霧のエリアへと着いた。うん、うまく霧に囲まれているね。


 起点の霧の石から出ている霧は、湖の上にまで少し漂っている。

 反対側からこちらを眺めると、森の中から霧が湧き出ているように見えるのだろうな。

 朝方とか天候によっては湖全体に霧が出ることも多いと、長年ここで暮らしていたネオラさんが言っていたから、うまく自然なかたちで融合してくれるといいね。


 それから更に砦跡まで走って、水の精霊屋敷の仕上げに使用する予定の木材などを確認し、森の入口近くの馬小屋まで戻った。

 1日繋いでおいた馬や馬車も無事だったので、それでは王都まで帰りましょう。




 翌日の午前は朝食のあとに、ナイアの水の妖精の森についての簡単なミーティングを行う。

 クロウちゃんも昨晩にちゃんと帰って来ている。


 なんでも、ナイアの森のユニコーン一族のかしらで父上のアッタロスさんに、アルケタスくんが報告する場にも付き合ったのだそうだ。

 ユニコーンたちの棲み処は何本もの巨木に囲まれた開けた場所で、特に小屋といったものは無いらしい。


 ただ、その棲み処の近くにも、ニュムペ様のところとは別の湧き水池やそこから流れる小川などがあり、清浄で豊富な水が保たれているとのことだった。

 クロウちゃん的にはユニコーンが基本は草食で、歓迎はしてくれたけど食べ物とかが無かったのが少々不満だったようだけどね。



「昨日はみんな、ご苦労さまでした。無事に霧の石の設置も出来て良かったよ」

「わたしからも皆さんに感謝を。これで懸案だったニュムペさんの妖精の森も、ようやく新しい一歩を踏み出して、わたしとしても安心しましたし、とても嬉しいわ。皆さん、ありがとうございました」


 シルフェ様からそう、感謝の言葉を皆にかけていただいた。

 精霊様のお役に立ったことで、うちの皆も満足顔だ。


「それで、今後の作業のことだけど」

「精霊様のお屋敷の、仕上げ工事でやすな」

「そうじゃの。早速にでも取り掛かるかの」


 ブルーノさんとアルさんが、直ぐにでも作業を始めようかという感じで発言する。

 だけど明日からの3日間、学院でうちの部が参加する剣術対抗戦があるんだよな。

 屋敷の者も観戦がOKになったのを、皆にはまだちゃんと話してなかったよね。


「みんなも知ってる通り、明日から3日間、総合武術部も参戦する第1回セルティア王立学院課外部剣術対抗戦があるんだよね。それで、学院生の関係者は観戦出来ることになったんだ」

「話はなんとなく聞いておりましたが、わしも見に行って良いのかの」


「うん、大丈夫だよ。家や屋敷の関係者も観戦出来るから、シルフェ様は僕のお義姉ねえさん、シフォニナさんは親戚の義理の従姉妹いとこさん。それでアルさんは、うちの王都屋敷執事ってことでいいかな」


「あら、わたしとシフォニナさんはその通りで間違いないですし、アルは自分でそう言ってるんだからいいでしょ。ねえ、アル」

「おお、もちろんですじゃ。何も問題はありませんぞ」


 シルフェ様とシフォニナさんがその通りで間違いないというのも、そうなのかなと思うのだけど、上位ドラゴンであるブラックドラゴンがうちの執事というのは、何の問題はないのかなぁ。

 取りあえず、難しいことを考えるのは今はやめておきましょう。



「それで、明日から3日間の試合日程で、1チーム5人ずつで4チームが参加しての総当たり戦だから、毎日うちの部員の試合があるんだよね。なので、観戦に行くメンバーはどうしようか」


「それについては、屋敷総出でというのもなんでやしょうから、シルフェ様方とあとは、先日に試合稽古で相手をした皆さんで行くのでどうでやしょう」

「それだと、ブルーノさんは外れるが、それでいいのか?」


「自分は、アルポさんかエルノさんのどちらかと、砦跡の木材の下ごしらえをしに行って来やすよ」

「おお、そうよの。その間の門番は1人にして、交替で行こうかの」

「それが効率的ですな。それから、ティモは観戦に行ってやれ」


「え、私は……」

「ええてええて。ティモもお相手をしてあげたのだから、しっかりと試合を見てあげるものぞ」

「あと、ちびっ子も連れて行ってあげなされや、ザカリー様よ」


 ブルーノさんにアルポさんとエルノさんは観戦を遠慮する理由として、そのように口々に言った。

 屋敷が空っぽになってしまうこともあるが、若い者たちに行って来いということなのだろう。



「ジェルさん、それではブルーノさんたちのお言葉に甘えて、そうしたら? ティモさんもね」

「はい、そうさせていただきます」

「わかりました、ザカリー様。ブルーノさん、アルポさん、エルノさん、すみません」


 爺さんたちが言うところのちびっ子たち、つまりうちの少年少女はエステルちゃんと相談し、アデーレさんのお手伝いにひとり残してふたりずつ交替で来ることになった。

 試合が午後遅くで、アデーレさんが忙しいからね。あとシモーネちゃんは毎日来ますよ。


「そうしたら、水の精霊屋敷の作業は、先にブルーノさんたちに木材の下ごしらえをして貰って、4日後以降ということだね」

「ブルーノさんたちには手間をかけるが、それで了解じゃ」


「あと、家具とかの購入か」

「その辺は、お姉ちゃんとシフォニナさんの意見を聞いて、わたしがソルディーニ商会と相談しておきますよ」

「そうだね、エステルちゃんに任せるよ」


 ベッドや椅子、テーブル、カーペットなどは入れるとして、その他に水の精霊さんたちが使えるものでどんなものが必要かは、シルフェ様とシフォニナさんと相談してください。


 ソルディーニ商会はグリフィン子爵家御用達の商会で、カロちゃんの実家だね。余計な詮索は、おそらくしないだろう。

 資金は砦から確保した700万エル、つまり7千万円ぐらいがあるので充分だ。



 あと、皆の意見を聞いておきたいのは、エステルちゃんが昨日言っていたように、うちの拠点をナイアの森に設置しておくかどうかという件だ。

 候補地としては盗賊団の砦跡だね。


「ジェルさん、どうかな?」

「そうですね。当面は作業で引き続き森に行きますし、今後も行く機会があるでしょうから、中継地として当家の拠点を設置しておくのは良いと思います。ただし王宮や王家、それから近郊の村の住民などには秘匿せねばなりませんな」


 ジェルさんの言う通り、ナイアの森は王都中央圏にあるので、王家の支配地であることから、グリフィン子爵家の拠点を勝手にそこに造ってバレると、何かと問題になるだろう。

 と言って許可など貰う訳にはいかないから、内緒で造って隠して使用するしかない。


「その辺のところは、ブルーノさんはどう思う?」

「そうでやすな。まず湖畔に行く道から、脇道へ入る地点の目隠しが必要でやすな。今でも目立ちませんが、誰かがあそこを通る可能性がありやす。それと森に入る地点も」


「そうだね。僕もそう思う」

「それから、馬小屋が分かれてあるのは目が届きませんから、あれは砦跡まで移転でやすな。馬車が入れる道を、目立たないように整備する必要もありやすね」


 脇道から森の中の馬小屋に至る部分は酷く荒れていて、馬車で通るにはかなり厳しい状態だからね。

 帰りもシルフェ様が、「お尻が痛いわ」と文句を言っていた。

 精霊様の柔らかそうなお尻が馬車の揺れで痛くなるものなのかは、俺には良くわかりませんが。



「どう整備して目隠しをすればいいかは、自分とアルポさん、エルノさんで調べて考えておきやすよ」

「うん、お願いします。それで問題は、肝心の拠点だよな。さすがに盗賊団みたいに、砦を構える訳にもいかないだろうし」


「はいはいはい」

「はい、ライナさん、どうぞ」


 それまで黙っていたライナさんが、何か思い付いたのか勢い良く手を挙げる。


「ぜんぶ地下にしちゃったらどおー。地上は草花が生えて来るし、また木も育つわよー」

「おお、ライナ嬢ちゃん、それは良い考えじゃな」


「そうね。あのとき砦を解体して、せっかくザックさんに草花が生えるように耕していただいてるから、それはそのままにして地下にっていうのはありよ。ライナちゃんの提案にわたしも賛成」


「そうか、ならば、地上からは目立たないし、秘匿するには好都合だな」

「ライナ姉さんも、たまにはいい提案をします」

「たまにじゃないと思うけどなー」


 地下施設を造って拠点にするとかは、この世界だと普通は工事に多くの人手が必要とか、お金や年月が掛かるとかいうことになるだろうね。

 でも、ライナさんが言い出してアルさんが賛成すれば、短期間で実現するリアリティが高い。

 地下拠点か、それは俺も造ってみたいな。


「よし、それも進めよう。みんないいかな?」

「はーい」


 水の精霊屋敷の仕上げに、うちの拠点づくり。これはまだまだナイアの森に行かないといけないな。



「ザックさま。ちゃんとお父さまにご報告しないとダメですよ」


 そうだね、エステルちゃん。

 盗賊団を壊滅させたところまではミルカさんが報告しているから、その後の経過や水の妖精の森のこと、そしてうちの拠点設置については、俺から報告しておかないといけませんよね。

 その報告をしたら、きっと父さんはやれやれという顔をし、ウォルターさんやクレイグ騎士団長はニヤリとするだろうな。


 あと、ユニコーンと会ったことまでは報告しなくても良いか。アン母さんとか会いたがるだろうけど。


 そう言えば、アルケタスくんが何だか俺にお願い事があるみたいなことを、昨日言っていたね。

 どんなお願い事か分からないけど、それは具体的な話があってから皆と相談すればいいかな。

 まずは明日からの学院での対抗戦、そしてナイアの森での作業だ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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