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第386話 部員たちと精霊様

 ソフィちゃんとカシュくんがどのように理解し納得したかは分からないが、いちおうあらためてやる気にはなってくれたようだ。

 それから、一昨日の特別訓練の最後に行った真剣を用いた俺の訓練の感想などを聞いて、時刻も遅くなったので寮に戻ることにする。



 本物の剣を使うということについて、その危険性などを頭では理解してはいるものの、ソフィちゃんはもうひとつピンと来ていないようだった。

 その点ではカシュくんの方が騎士爵の息子ということもあり、身近に刀剣がある環境で育って来たせいか、とても驚きながら見学していたそうだ。


「もちろん、騎士団の中で真剣を打ち合わせて訓練することはありますよ。僕はやらせて貰ったことはないけど。でも、先日のザック部長たちみたいに、あんなに速く動き回って斬り掛かるなんて、見たことないですよ。正直、見ていて怖かった」


「あの、エステルさまって、ザック部長の婚約者さまですよね。婚約者を相手にして、どうしてあんなに本気で本物の剣が振れるんですか?」


「それはねソフィちゃん。まあ、僕が小さい頃から、時々ああやって訓練してるっていうのもあるけど、お互いのことをお互いがいちばん良くわかっているって言うか、そんな感じだから」

「ひゃー、素敵ですー」


 あの、戦闘能力や身体能力とかのことを言ったのですけど。


「ところでふたりは、真剣は持ってるのかな?」

「本物の剣ですか? 僕は、学院の入学祝いに父から貰って。なので、いちおう持って来ています」

「そうなんだ。ソフィちゃんは?」


「えと、あの、じつは屋敷にわたしのがあるんですけど。でも細剣なんです」


 細剣というとエストックかな。王国の南や、その南のミラジェス王国では細剣を使用することも多いと聞いたことがある。

 ああそれって、カートお爺ちゃんに聞いたんだよな。カートお爺ちゃんとエリお婆ちゃんは、いまは何処にいるのだろう。


「へぇー、そうなんだ。そうすると、片手剣だよね」

「はい、そうです。学院に入る前は、家庭教師の先生から片手剣と両手剣の両方を教わっていました」


「なるほどね。そのうちいちど、その細剣を使うところも見せて貰おうかな。そうだ、夏休みの合宿だと、真剣持参だからね」

「えっ、そうなんですか?」

「真剣で訓練するんですか?」


「いやいや、さすがに真剣を使って対戦訓練はしないけど、たぶん今年もナイア湖に行くと思うから、森に入った時とかね」


 そんな話もして、その夜はふたりと別れた。




 それから、総合武術部での特訓も更に厳しさを加えて行った。


 特にフォルくんとルアちゃんはもちろんなのだが、カロちゃんも頑張っている。

 彼女は、普段はあんな感じで飄々としているけど、頑張る時は周囲が思う以上に頑張っちゃうからね。

 あまり無理をさせ過ぎるとエステルちゃんに怒られそうだし、お父さんのグエルリーノさんとかにも申し訳ない。


「カロちゃん、大丈夫? あまりやりすぎて、体調とか壊さないようにね」


 ルアちゃん相手に猛烈な打ち込み稽古を終えて、肩で息をしている彼女にそう声を掛けた。

 この前の試合稽古ではティモさん相手に果敢に攻めて、最後はへたり込んじゃったからね。


「ハァハァハァ。ダイジョウブ、ですよ、ザックさま」

「そう? そうなら良いんだけど。でも、自分の身体の状態は、いつも確認するんだよ」

「ふー。わたし、もとの体力が足りてない、です。でも、もっと動けないと」


 確かに去年の入学当初は彼女が言う通りだったのだけど、身体づくり練習の甲斐もあってこの1年で随分と体力や身体能力が向上している。

 それでも、本人的にもまだまだと感じているんだろうな。


「ザックさま。わたしにアドバイス、ひとつ」

「え? アドバイスかぁ。そうだなぁ。手数は随分と出せるようになってるし、攻めも守りも、上手になって来ている。あとは、緩急かな」

「緩急、です?」


「うん、カロちゃんは、どうしても攻めが単調になりがちなんだよね。だから相手にリズムを捉まえられやすい。なのでリズムを変える。緩やかな間合いから攻める時は素早く、あるいは素早い動きから緩やかな動きへ。同じリズムで速く動こうとし続けると、体力が途切れたらそれで終わっちゃうから、緩急をつけながら5分間を闘うことを考えるんだ」


「緩急。リズムを変える。緩やか、速く、緩やか、速く。5分間、闘う。むー、やってみます、です」

「頭で考えて無理矢理そうするんじゃなくて、自然に出来るように身体に覚え込ませるんだ」

「はい、です」


 カロちゃんは何となく理解したのか、何も無い空中を見つめながら「むー」と考えていた。

 そして休んでいたルアちゃんを呼び、「ルアちゃん、もう1本、です」と向かって行く。




 そうやってこの10日間もあっと言う間に過ぎ、また2日休日がやって来た。もう5月に入りましたね。早いものです。


 屋敷に帰ると、エステルちゃんに少年少女が4人、それからお姉さんがふたりの7人が出迎えてくれた。

 あ、シルフェ様とシフォニナさんが来たんですね。20日振りぐらいでしょうか。


「お帰りなさい、ザックさま」

「お帰りなさいませ」

「お帰りなさい、ザックさん」

「またお世話になっています、ザックさま」


 最後のシフォニナさんはともかく、シルフェ様は普通にこの屋敷に住んでいる風ですよね。

 ちょっと実家に戻ってました的な感じですか?



「いらっしゃってたんですね、シルフェ様、シフォニナさん」

「ちょっと遅くなっちゃったのよ。ほら、クロウちゃんがお手紙を届けてくれたから」

「カァ」


 霧の石の数量の件ですね。

 計算上の必要数は43個以上で、45個ぐらいはお願いできますかと書いておいたのだけど、ちょっと多かったかな。


「いえ、うちの妖精の森には在庫が100個ぐらいあったのですよ、ザックさま。それでお手紙には45個ぐらい必要って書かれてましたでしょ。それをおひいさまが、450個と勘違いして。新しく500個は作ったものですから」


 在庫とか、霧の石って風の精霊の特産品か何かなんですかね。

 それから、ひと桁多く数を間違えたんですか。500個って、作り過ぎでしょ。いくら魂の欠片が抜け毛みたいなものだと言っても、魂がハゲちゃいますよ。


「嫌ねぇ、わたしって。どうして勘違いしちゃったのかしら」

「それで3日ほど、おひいさまは魂をお休めになっていたのです」


「45個と450個じゃ間違い過ぎですよ、お姉ちゃん。それであんなに持って来たんですね」

「あははは、なので200個持って来ちゃいました。どうしましょうね」

「どうしましょうね、ではないですよ、おひいさま」


 200個も持って来たですか。45個を今回使用しても、155個も余りますよね。どうするんですか、それ。売るとか出来ませんよ。古代魔道具扱いされて、世の中が騒ぎになりますよ。


「取りあえず、ザックさんのとこに置いといて。もう持って来ちゃったし、うちにも在庫が400個も出来ちゃったから、残ったのは全部ザックさんにあげるわ」

「はあ」


 半径450メートルの範囲に霧を発生させる霧の石が150個以上か。

 1個で充分にグリフィニアの子爵館を霧で隠せるから、それだけあると領都中どころか相当な範囲を霧で覆ってしまえるよな。

 まあ、いただけるものなら、いただいて置きましょうか。



「それで聞きましたよ。ザックさんの学院で、剣術の対抗戦をなさるんですってね」

「ええ、そうなんですよ。もう聞かれたんですね」

「それってやはり、ザックさんは出させて貰えないのかしら。アビーちゃんは出るのよね」


「ええ、残念ながら僕は監督です。3つの課外部の対抗戦で、アビー姉ちゃんは出場すると思いますけど、まだ決めてはいないみたいですよ。あの人も剣術の実力では、学院生の基準からはだいぶ離れちゃいましたから」


「アビー姉さまが本気で闘ったら、もう学院生では無理だと思いますけどね」

「そうなんだよね。この前の盗賊団の件で、またひと皮剥けちゃったみたいだし」


 姉ちゃんとは三者ミーティングの時以来、ちゃんと話してはいないんだけど、どうも出場するかどうか迷っているみたいなんだよね。

 正直言ってエステルちゃんの言う通り、もう学院生で勝てる者はいないだろうし、だからと言って力をセーブして闘うタイプではないからなぁ。

 せいぜい強化剣術を使わないぐらいだろうけど、それでも学院生とはもうレベルが違う。


「そうなのね。それでも、ザックさんの部の皆さんが闘うんでしょ。楽しみだわ。もちろんわたしたちも観戦に行けるのよね」


 あ、シルフェ様は当然のごとく観戦に来るつもりなんですね。

 そう言えば、学院生関係者の観戦許可はどうなったのだろうか。学院長から許可が下りたかどうかまだ聞いていないけど、シルフェ様が見に来たいと言っていると伝えれば一発で許可が下りるよね。


「それで、ザックさんのところの皆さんの実力は、どうなのかしら。お強いの?」

「いやー、まだ2年生と、それから1年生も出しますので。相手はおそらく、3年生4年生が中心でしょうからね」


「明日また、特別訓練にいらっしゃるんですよね」

「うん、その予定だよ」

「あら、それはとっても楽しみだわ」


 シルフェ様はうちの部員たちが屋敷に来ると聞いて、凄く楽しそうにしていた。



 そして翌日、朝食を食べ終わって少しのんびりしていると、部員たちが揃って来訪したとエルノさんが報せてくれる。

 随分と今日は早く来たね。それだけやる気に溢れているなら大歓迎だよ。


 シルフェ様とシフォニナさんも交えて玄関ホールで待っていると、皆が元気良く屋敷に入って来た。


「やあ、いらっしゃい、早かったな」

「みなさん、いらっしゃい」

「いらっしゃいませ」


「今日もお世話になります。って、あれ、エステルさまのお姉さま」

「あの、シルフェさまとシフォニナさま、です」


「あの方、エステルさまのお姉さまなんですか? 双子さん?」

「双子さんではないって聞いたわ。お姉さまと親戚の方なんですって」


 うちの部員たちは学院祭の時に会っているけど、初めて会ったソフィちゃんがヒソヒソ聞いている。

 カシュくんは、エステルちゃんそっくりなシルフェ様がふたりでニコニコ並んでいるのに言葉を失くし、その隣のシフォニナお姉さまの高潔な色気にドギマギしていた。

 ライとブルク、鼻血を出す前に回収してください。



「みなさん、ようこそ。あらためましてシルフェです。いつも妹と義弟おとうとが仲良くさせていただいていて、ありがとうございますね」

「エステルさまの親戚のシフォニナです」


 2年生たちも学院祭で少し会っただけだったので、あらためて挨拶をする。

 ソフィちゃんも貴族の令嬢らしく丁寧な挨拶をした。カシュくんは大丈夫かな。


「あの、シルフェさまっていうお名前、わたし、どこかで聞いたことがあります。というか、この前の神話学の講義でその名前が出て来ました」

「ああ、精霊様のお名前よね。風の精霊様と同じお名前って、確か去年にお聞きしたわ」


「そうですよね。風の精霊様と同じお名前ですよね。それにしても、エステルさまとうりふたつのお姿で、人とは思えない美しさに、あの青い髪も。それでお名前も精霊様と同じとか」


 伯爵令嬢のふたりがまたヒソヒソ話している。

 特にソフィちゃんの方は何だか妙な勘が働くのか、首を傾げながら何か考えているけど、余計なことは考えないようにしましょうね。


「ザック部長のお屋敷って、もの凄く美人の歳上の女の人ばかりですけど、どうしてなんですかね」

「そんなの、未だに僕らにもわからないよな。なあブルク」

「うん、グリフィン子爵家の謎のひとつだよ」

「カァ」


「謎ですか。そうですか。でもザック部長は良く平気ですよね」

「そりゃ、あの先生、小さい時からそんな環境で育ってるからじゃないか」

「慣れとかですかね」

「慣れだね、きっと」

「カァ」


 男子3人もつまらないことをコソコソ話してるけど、美人云々以前に人外の方に慣れるのって思った以上に大変なんですよ。そこのところは話せないのですがね。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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