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第377話 夜間作業に行きます

 精霊さんたちとドラゴンさんのこれからの予定としては、近々にニュムペ様はアルさんが送って行って、いったんアラストル大森林へ戻る。

 それから向うで連れて行く者を選んで、ネオラさんが待つナイアの森の妖精の森に行き、腰を据えて本格的な拠点造りを始める。

 もうあそこは妖精の森と呼んでいいだろう。


 一方でシルフェ様たちは、霧の石を取りに自分の妖精の森に帰る。

 霧の石は、いまあるストックに少し多めに作り足すそうだ。

 あの石はシルフェ様の魂の欠片で作られる物だと以前に聞いた気がするが、そんなに魂の欠片を使っていいのか聞いてみると、「人間だって、抜け毛の10本や20本ぐらい平気でしょ」と言っていた。魂の欠片って、抜け毛みたいなものですか。


 俺たちの仕事としては、その間にナイアの森のどこに霧の石を置けばいいかを、実地調査を含めて選定する作業だ。

 これには、ブルーノさんをヘッドに、ティモさんに加えてアルポさんとエルノさんにも携わって貰うことにした。彼らは調査探索のベテランだからね。

 あとこれにクロウちゃんが空から加わる。ブルーノさんの言うことをちゃんと聞くんですよ。カァ。


 その間の屋敷の門番は、ジェルさんたちお姉さん組がするそうだ。

 先日はクロウちゃんがして、昨日はうちの少年少女で、今度はお姉さん方ですか。



 話し合いのあと、ラウンジのテーブルに何も書かれていない大きな紙を俺は広げて、ナイアの森の簡単な地図を作ることにした。

 ブルーノさんとティモさん、それからクロウちゃんにも手伝って貰い、ミルカさんはそれを興味深く見ている。


「あんなに大きな白い紙を、どうして持ってるんですかね」

「学院の売店で買ったらしいのよ。ああいう直ぐに使うかどうか分からないものを、どうもちょこちょこ買っては、あそこに貯めてるらしいの」


「ザカリー様は、お金を持っていないのでは?」

「それがジェルさん。昨年の夏にお母さまからいただいたお金がまだあって、それに学院だと食事は専用の券で払えるのですけど、その券も売店で使えるらしくて」


「学院で売ってるものなら、怪しい物はないだろうし、別にいいんじゃないのー」

「でもそれも、種類とか数とか量にもよりますよね」

「あそこって、どんな物でも限度無く入れられるらしいのよね」



 エステルちゃんたちが話してるのは気にしないで、ナイアの森で現在分かっているポイントの位置関係をざっと紙に書いて行く。

 ナイア湖がこのぐらいの大きさだとして、街道に続く道、盗賊団の砦跡地、妖精の森へと行った湖畔の起点と川の流れ、三段滝の場所と妖精の森の中心になる水源地……。


 ブルーノさんとティモさん、それからクロウちゃんの意見も聞きながら、これまで行ったそれらを示して行く。

 分かっていないのは森の外縁や広さ、水源地の奥に森がどこまで続いているかだよな。


「では、この地図に自分らが調査して、書き足して行きやしょう。まずはクロウちゃんには、ぐるりと飛んで貰って、森がどのぐらい広がっているかを空から確かめて貰いやしょうかね」

「カァ」


「あとは、私どもで手分けして、他にもポイントになるものがないか、森の中を足で調べる感じですかね」

「そうでやすな。まだ他にも、人間に関わるようなものがあると厄介でやすから、そこら辺も注意して探索しやしょう」


 この件は、ブルーノさんたちに任せておけば大丈夫だろう。

 森の探索と言えば、ブルーノさんとファータはこの国で最高の専門家だからね。



「ミルカさんは、直ぐにグリフィニアに帰るんですか?」

「もっとお手伝いしたい気持ちが、自分としてはいっぱいなのですが、遅くなると子爵様がご心配になられるので」


 そうだよな。今のところ何の問題もなく事が片付いたのを、早く報告して貰った方がいいよね。

 ヴァニー姉さんとの辺境伯家訪問も控えているだろうし。


 あと直近で残っている仕事は、砦跡地の穴の中に眠らせて放置して来た盗賊団の生き残りを転がして来る件だな。

 これはアルさんにお願いする予定だが、俺としては一緒に行って見届けて来ようと考えている。

 すべてドラゴンさん任せにするのは申し訳ないし、発案者の俺の責任でもあるから。


「ザックさまも行くんですかぁ」

「わしひとりでしておきますぞ」

「いや、僕も最後まで見届けておきたいんだよ」

「でも、夜中にするんでしょ?」


 俺としては誰にも見つからずにアルさんとナイアの森に夜中に行って、密かに作業を行ってしまいたいところだが、このまま話しているとエステルちゃんやジェルさんたちも行くと言い出すだろう。

 すると、それを聞いていたティモさんが、「夜間の隠密行動ですから、私がお供しますので、エステル嬢さまたちは、お屋敷でお待ちください」と言ってくれた。




 結局、ミルカさんが「目付役ですので私もお供を」と一緒に行くことになり、グリフィン子爵家の調査探索部の現役ふたりが供をするというので、エステルちゃんもようやく納得した。


 それで夕食をいただいたあと、警備兵とかに不審に思われないよう早めに4人で出発する。

 夜間行動になるので、クロウちゃんは連れて行きませんよ。カァ。


 今日は目立たないように馬や馬車は使わない。全員が徒歩で王都の内リンクの門を出て、更に速やかにフォルス大通りを進んで、フォルス大門から王都の外へと出る。

 両方の門とも、内から外に出る場合には特にチェックが厳しくないが、それでも俺は目立たないようにフード付きの薄手のコートを着て、フードを被り顔を隠した。


 そして、フォルス大門を出てから周囲に人がいない場所まで進み、ナイアの森に向かって走る。

 アルさんは今の竜人の姿でも音も無く高速で移動出来るし、ファータのふたりと俺も足音を立てずに走ることが可能だ。

 ファータの探索者はそれに加えて、周囲から視認し辛くさせることが出来るんだよね。


 これでエステルちゃんみたいに念話が出来て、無言で連絡が取り合えれば完璧なのだろうけど、そこまで求めるのは難しいよな。


「(この調子で行けば、1時間ほどで湖ですかの)」

「(そうだね。あの盗賊連中が使っていたらしい裏の入口がわかれば、もっと早いかもなんだけどさ)」

「(それは、これからの探索で見つけて貰いましょうぞ。日も落ちておるし、多少の大回りでも今は確実に)


 そんな念話をアルさんと交わしながら、アルさんの予想通り1時間で湖畔に到着した。

 夜空には月が昇り、その月光で照らされた湖面が美しい。

 そして直ぐに森の中に入り、砦跡地にまで走り抜ける。



 することは極めて簡単な作業だ。

 生存して縛ってある5名の盗賊どもを、アルさんが穴の中からひょいと地上に取り出す。

 そいつらはシルフェ様の眠りの風が効いていて、まだぐっすりと眠っていた。


 それから盗賊どもをまとめて縛っている縄に、俺が用意しておいた字を書き記した板の看板を付ける。

 そこには、これらは先日に街道で10人もの殺害と盗みを働いた、慈悲無き狼という武装強盗団の一味であり、他の者は全滅したというような内容を書いておいた。


 あとはアルさんに運んで貰う訳だが、まだ時間が早いので待機することにする。

 まだ4月なので少し冷えるよね。

 ティモさんがマジックバッグから4人分の椅子とテーブルを出し、俺が無限インベントリからまだ熱々の紅茶が入っているポットとカップを取り出した。

 ミルカさんには知られないようにしていたけど、昨日も見られているだろうからもういいや。


「ザカリー様のは魔法? のような気がしますが、ティモが持っているバッグは、もしかしてマジックバッグですか?」

「うん、これ、アルさんからレイヴンにいただいたんだよ」

「まあ、たいした物ではないがの」


「もの凄くたいした物ですよっ! それって、古代魔導具ですよね。市場に出回ったら何千万エルすることやら」

「へぇー、そんなにするんだ」

「わたしも実物を見たのは初めてです。ごく一部の貴族などが秘蔵しているなどとは、聞いたことがありますが」


 このバックが何億円もするのなら、そこに入っていた魔道具武器はいったい幾らするのだろう。

 まあレイヴンのメンバーが市場に流すことはないが、盗まれでもしたら大変なことになるよね。

 盗んだやつも、お姉さんたちからのお仕置きで大変なことになるだろうけど。



「ねえミルカさん、夏の初めにファータの里に行くとして、今回はどうやって行けばいいかな」

「そうですねぇ」


「おお、ザックさまたちはファータの里にまた行くのかの」

「ああそうか、アルさんには言ってなかったよね。ほら、エステルちゃんと僕が正式に許嫁いいなづけになったから、そのご挨拶もかねてということで」


「それはわしも楽しみじゃの」

「あの、どういうことでしょうか?」


 ミルカさんとティモさんは、アルさんが凄く嬉しそうにしているのが不思議だったようだ。

 アルさんの棲処がどこにあるかは、ファータでもエステルちゃんしか知らないものね。


「うーんと、言っていいかな、アルさん」

「このふたりなら、いいですぞ」


「アルさんのお住まいは、じつはファータの里の近所とも言えるんだよね」

「近いのじゃが、凄く遠いとも言えますがの」

「??」


「アルさんちには、境界の洞穴から行けるのですよ」

「えっ? うちの里の近くのあの洞穴ですか?」

「うん。僕も前回に里を訪れた時に、エステルちゃんに連れられてそこから行ったのだけど」

「エステルが知っていたと……」


「なんでも、彼女が8歳の時に偶然見つけて、辿り着いたそうだよ」

「そんな以前に。ずっと秘密にしていたのですね」

「うん。里の人たちは誰も知らないから、ここで僕が話したと言ったら、叱られるかもだけどさ」


「どうして、わたしに相談無くバラすですかぁ」とか怒られるかな。

 話の流れで言っちゃったんだから、仕方ないよね。あとでちゃんと報告をしておかないとだな。


「いろいろ黙っておきます。黙っておかねばならないことが、かなり多いですけどね」

「そうしておいて貰えると助かります」


「それでファータの里へのご訪問ですが、今回は峠だけは徒歩で越えていただいて、リガニア地方側は里から馬車でお迎えを出せと、里長さとおさは申しておりました」

「え、そうなの? それは申し訳ないなぁ」

「尤も、最終的にどなたが行かれるかに拠りますがね」



 それからも4人で様々なことを話しているうちに、ほど良い頃合いとなった。

 では運搬作業を始めましょうね。


 まずアルさんがドラゴンの姿に戻る。

 そしてこの姿に黒雲を纏って身を隠し、空を飛んで盗賊どもを運び、王都のフォルス大門近くの街道沿いに降ろす訳だ。

 俺はそのアルさんの背中に乗って王都まで戻る。盗賊どもを大門外に降ろした後、うちの屋敷の訓練場まで夜陰に紛れて飛んで貰うという計画だね。

 これなら夜間の王都入りで、チェックの厳しいふたつの門を通らなくて済む。


 ミルカさんとティモさんも一緒に乗せて貰えばと聞いてみたら、ふたりとも激しく首を横に振って断った。

 彼らはまた走って戻り、こっそりと王都内に入るそうだ。その方が、ドラゴンさんに乗って帰るより安心だと強く主張するので、そうして貰うことにする。


 ブラックドラゴンの姿に戻ったアルさんを初めて目撃するミルカさんは、驚きながらも気丈に見ていた。

 俺が背中にトンと跳び乗ると、アルさんは眠り続ける盗賊どもの束を足で掴み、やがて黒い雲で全身を覆って空にふわりと飛び上がる。

 王都の外では、黒雲の中から探査と空間検知の力を働かせて、盗賊どもを降ろす場所を確認すれば良いだろう。


 それではさっさと終わらせてしまいましょうかね、アルさん。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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