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第373話 慈悲無き狼の掃討

 俺たちが設置した見張り台にするするっと上がった精霊様とドラゴンさんを残して、

 正面門部隊の俺とエステルちゃん、アビー姉ちゃんに、ジェルさんとオネルさんの5人は森の木々の間から砦の門の前へと向かった。


 俺とエステルちゃんは、ほぼお揃いと言っていい特別装備。レイヴン=大鴉おおがらすの名の基となった真っ黒い軽装鎧装備だ。

 アビー姉ちゃんは昨年の総合戦技大会でのクラスの優勝のお祝いに、彼女の師匠であるクレイグ騎士団長から贈られたこれも特製の軽装鎧装備を身に着けている。

 ジェルさんとオネルさんはそれぞれ、グリフィン子爵家騎士団の制式軽装鎧装備だ。


 ジェルさんとオネルさんは両手剣を佩いているが、アルさんからいただいた火焔の剣と氷晶の剣ではなく、これまでも使用している愛用剣だね。

 アビー姉ちゃんは、これも鎧装備と同様に優勝祝いで父さんから贈られた鋼鉄の両手剣だ。

 グリフィン子爵家の紋章が刻まれているから、無くさないでくださいよ。


 エステルちゃんももちろん白銀と黒銀のショートソードではなく、普段使っている2本のショートソードを装備している。

 ジェルさんとオネルさんにしても、エステルちゃんにしても、古代魔道具の剣だとオーバーキルになっちゃうからね。


 それで俺はというと、今回は前世から愛用している常寸の赤樫の木刀を手に持っている。


「ザック、あんた、それでいいの? なんだか変な木剣だけど」

「これ、木刀な。て、言っちゃったけど、まあこれでも人なら充分にれるし」

「ぼくとう?? まあ、あんたのすることだから、いいけどさ」


 姉ちゃんからはそんなことを言われたが、ジェルさんたちはやれやれという顔で、木刀を持つ俺を見ていた。



 俺たち5人は、砦を囲む開けた空間に出る。

 ライナさんたち裏手門部隊は既に森の中をぐるりと廻って、門に近い木々の間で身を潜めて配置に付いていた。

 俺はそれをクロウちゃんとの視覚同期で確認しながら、開けた空間に足を踏み出す。


「おいっ。おまえらなんだ? それ以上近づくと痛い目に会うぞ」


 今日は砦の四隅の見張り台に、ちゃんと見張りを置いているんだね。

 見通しの利く空間に俺が踏み出した途端に、そんな声が掛かる。


「まあ、ちょっとお邪魔しようかと」

「おい、おめえ何言ってんだ。それ以上は近づくなと言っただろ。矢をお見舞いするぞ」

「まあまあ、お静かに」

「なんだと」


 途端に、俺たちに近い左手の見張り台から矢が射掛けられ、続けて右手からも矢が飛んで来た。

 正面門に近づいて行きながら、俺は5人の周囲にウィンドウォールの魔法を施す。

 俺たちに向かって飛んで来た矢は、そのウィンドウォールに阻まれてぽたぽたと地面に落ちた。


「あ、ザックさまに先に出されちゃいました」

「ゴメン。今年の魔法学中級の講義で、これを教えることにしてるから、ちょっと練習」


「あんたたち、相変わらず暢気よね。あいつら、放っておいていいの?」

「いいよ。どうせ直ぐに中に入ってご対面だから。ただし、背中に矢を射られるのに注意だよ、姉ちゃん」

「わかったわ」


 見張り台のやつらは何か叫びながらさかんに矢を射って来るが、おそらく砦の中の連中を呼び集めているんだろうね。



 俺たちは正面門の前に着いたので、向うから門を開けて盗賊連中が飛び出て来る前に中に入っちゃいましょう。


「じゃあ、門を破るのはエステルちゃんに任せるよ」

「そうですかー。では僭越ながらわたしが」


 いきなり門を破られたら、それは中にいる人にすると僭越だよな。

 彼女は俺たちを少し下がらせて、思いっきりキ素力を循環させ、そして強烈なウィンドボムをぶち当てた。

 あ、それも講義で教える予定なんだよね。


 だがエステルちゃんの撃ったウィンドボムは尋常な破壊力ではなく、丸太を割って組んだ頑丈な門扉ばかりか、それを支える門柱と更にそれに繋がる丸太塀も、かなりの大きさで吹っ飛ばしてしまった。


「あやー、中にいる人とか生きてるかな」


 爆散した門扉の破片やら埃やらがバラバラ落ちて視界が戻ると、たくさんの男たちが地面に伏せたり何かを盾にしたりしている。何人かは吹き飛ばされてるな。


 その盗賊団の男たちの前に、俺たち5人は歩みを進めた。

 一方で上空からのクロウちゃんの視覚では、ライナさんたちがどうやらこちらよりは遥かに静かに門を破り、既に裏手門から潜入している。


 と言うか、ライナさんが丸太塀を何本か抜いて隙間を作ったみたいだ。

 彼女は重力可変の手袋をしているから、土魔法と合わせればそれが簡単だよね。

 しかし、こちらのウィンドボムによる破壊に砦内の全員が驚いて、ライナさんたちの潜入には誰も気づいていない。



「なんだなんだ、おまえら何だ。魔法使いか。あーん、良く見ればガキがひとりと、キレイなお姉ちゃんが4人だけじゃねえか。誰だ、おまえらは。美味そうな姉ちゃんを差し出しにでも来たのかよ」


 これはこれは、なかなかテンポの良い啖呵ではないですか。

 いち早く立ち上がって、そう言って来るこいつがおそらく親玉なんだろうな。


「いやいや、これはお初にお目に掛かります。こちとら、若輩にしてしがない通りすがりの者でござんすが、そちらさまはさぞかし名のあるお方。もしやして、その名も高き慈悲無きウサギのバチャバチャさんではありませんか」


「なんだとぉ。俺らは泣く子は殺す慈悲無き狼だ。それに、バチャバチャじゃなくて、俺はバジャルドだ」

「それはそれは。泣く子をあやすジジイと女将さんの場違いさんですか」

「このやろう、ガキのくせしておちょくってるのかぁ」


「おい、ザカリーさまは何言ってるんだ?」

「場違いは、どちらかというとこっちですよね」

「ねえザック、早く始めようよ。そう言ってよ、エステルちゃん」

「すみません、この人どうもこういうのが好きみたいで。じき終わりますので」


 そう、長々とこいつと話しているつもりは別にないんだよね。

 いちおう口上というか、宣言をしておかないとと思って。



「まあ通りがかりに立ち寄ったんですけど、この砦というかケチな悪者の根城というか、リガニア地方を追い出されてこんなところを拠点に、つい先日にも王都圏の南外れの街道で商隊を襲って、10人以上も殺したあげく金品を強奪した傭兵崩れの盗人のあなたたちは、そろそろご退場願おうと思いましてね」


「ほう、そこまで調べがついてるのかよ。こんな森の奥に、理由わけなく立ち寄るなんてあるめえ。おまえとその姉ちゃんたちは、王宮騎士団関係の何かか」

「いえ、王宮や王家はまったくもって関係のない、ただの通りがかりの者ですけどね」


「おまえは殺して、その姉ちゃんたちのどれかから詳しく説明していただくから、まあいいけどよ。それに、砦の門を壊したお詫びもして貰わねえとな。おい野郎ども」


 俺はその瞬間、そこにいた目の前の男たち全員に向けて、キ素力の小さな塊を一斉に同時に発射した。

 これは、魔獣の威嚇の咆哮にヒントを得て俺が開発した威嚇のキ素力弾だ。

 イメージを具現化する魔法ではないので、半魔法ともいうべきものかな。


「うぐっ」「げっ」「うほっ」


 耐性の強弱によるが、だいたいは攻撃や移動動作の出足を挫かれる。


「ザック、もういいのよねっ」

「攻撃するっ。展開っ」


 アビー姉ちゃんがそう言うと同時に、ジェルさんが攻撃開始を合図した。

 すかさずエステルちゃんが、ピーピッとファータの指笛で裏手門から潜入して潜んでいる部隊に合図を送る。

 ファータのベテラン戦士の爺さんふたりにティモさんは直ぐに分かるし、ライナさんとブルーノさんも同時に動くだろう。


 俺はその合図を聞きながら、縮地もどきで一気に親玉のバジャルドの眼前、常寸の木刀の間合いに到達し、驚愕して目を大きく開くそいつの首の付け根を一閃、したたかに打ち据えた。

 バキボキッと首と肩の骨が砕かれる音がする。

 バジャルドは、うげぇとうめき声を上げ、一撃で絶命して崩れ落ちた。



 こちら側のふたつの見張り台にいた弓矢の射手ふたりは、エステルちゃんのウィンドカッターで足の腱を斬られ、見張り台から転げ落ちているところを高速で移動した彼女にショートソードで斬られていた。


 ジェルさんとオネルさんは、俺の先ほどの威嚇攻撃からようやく立ち直った男たちを順番に相対し、剣をひと振りふた振り入れて行動不能にしている。

 キ素力弾によって出鼻を挫かれた盗賊連中は、連携して彼女らを囲むなどの効果的な攻撃が出来ないまま、斬られ薙ぎ倒されて行った。

 まあ傭兵崩れぐらいだと、あのお姉さんふたりとは大人と幼児ぐらいの力量差があるよな。


 アビー姉ちゃんは、一気に男たちの背後に跳んだようだ。

 そして向かって来た相手と一合二合は剣を合わせても、押し負けることなく斬り倒している。

 強化剣術や風魔法との複合剣は遣っていない。

 まあ、あれらを遣えば、ひと振りで相手を斬り殺せるだろうけど、まずは自分の剣術だけの力でどれだけ実戦を闘えるか、頑張っているんだな。


 俺は砦の中庭の中央で木刀をだらりと下げて立ち、そういった戦況を見ている。

 一方で、視覚の一部分をクロウちゃんの視覚に同期させ、ライナさんたちの動きを見る。


 裏手門側のふたつの見張り台は、アルポさんとエルノさんがそれぞれましらのごとく駆け昇り、あっと言う間に制圧した。

 ちなみに彼らの武器は、あのファータの腰鉈こしなただ。あの爺さんたちが振るうと、肉を断って骨も断つ。


 その見張り台にはブルーノさんが上がり、悠々と矢を射っていた。

 風魔法が使えるようになったブルーノさんの矢は、百発百中だ。

 その矢を防ぎ逃げようとする男たちの前にティモさんがさっと現れて、ショートソードで一閃する。

 結局は矢も刺さるので、まあどちらにしろあのふたりの攻撃からは逃げられない。

 そこにアルポさんとエルノさんも加わって、もう掃討戦になっていた。


 それでライナさんはというと、あの人、魔法はまったく使わずに殴っていました。

 正確には殴り、蹴り、そして最後には体内を痛める方の特殊掌底撃ちで体内器官を破壊しているようだ。

 この闘いだけを見ていると、土魔法使いではなくまさしくモンクだよね。尤も重力可変の手袋の重力打撃はさすがに使っていない。



 そうやって戦況を確認していると、エステルちゃんが近くに来た。


「どうですか? そろそろ終わりですかね」

「うん、こっちはもう終わりだな。裏手ももう片付くよ」

「早かったですね」


「うん、あとは小屋の中の確認だな」

「それはファータとブルーノさんで」

「そうだね」


 エステルちゃんが指笛で、ピィィーッと長く吹いたあとピッピッピーと続けて鳴らした。

 これでティモさんとアルポさんエルノさんにブルーノさんも、小屋の探索に入るんですかね。


 そこに闘い終えたアビー姉ちゃんとジェルさん、オネルさん、そして裏手からライナさんもやって来た。


「終了しましたな、ザカリーさま」

「いまブルーノさんたちが小屋の中の確認をしているので、それでほぼすべて終了だ」

「あとの始末はどうします?」


「まずは、死んじゃった者と重傷だけど息のある者に分けて、ここに集めよう。ライナさん、手袋でひょいひょいと」

「あー、まあわたしがやれば早いわよねー。わかったー。じゃあジェルちゃんたちは息があるかどうか確かめてー」


「了解だ」

「わたしも、やるわ」


 アビー姉ちゃんが自分も手伝うと、ジェルさんたちと走って行った。


「わたしはどうします?」

「エステルちゃんは僕と、息のある者を直ぐには死なない程度に回復させよう」

「わかりました」



 それから念話でシルフェ様たちを呼ぶ。

「(いま行くわ。思った通りだけど早かったわね)」という返答が返って来たと思ったら、もう姿を見せてこちらにやって来る。

 いつの間にか、ミルカさんも直ぐ側に来ていた。


 さあて、あとは後始末だ。ちょっとシルフェ様やアルさんに手伝って貰わないとだな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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