第370話 対盗賊団作戦会議
王都屋敷へ帰り、夕食をいただいた後に水の精霊の妖精の森再建計画の作戦会議を行った。
妖精の森の候補地はほぼ決まりだから、まずは盗賊団の拠点と思われるあの砦の件だ。
本来なら、王都圏であり王家の直轄領内のことであるから、王宮なり王宮騎士団に報告し対処して貰うのが筋だ。
しかし俺自身、またグリフィン子爵家王都屋敷として、王宮や王宮騎士団とこの件で関わりを持ちたくない。
ナイアの森の調査探索を行った理由や砦排除の目的、理由を言うことは出来ないし、王宮と関わることによって無用な詮索を受けるのは目に見えている。
だからやはり、グリフィン子爵家王都屋敷の手だけで秘密裏に作戦行動を行ってしまうべきなのだろう。
「私はザカリーさまのお考えには賛成だ。確かに王家の直轄領内のことだから、本来は王宮や王宮騎士団に対処を任せるべきだろう。しかし、あそこが盗賊団の拠点であるとするならば、王宮はその存在を把握しておらず、また仮に把握していたとしても、放置されている状況にあると認識出来る。また、ザカリーさまとエステルさま、そして我らとしては王宮や及び王宮騎士団とは関わりを持ちたくない」
「私も、ザカリーさまとジェル姉さんと同じ意見です。王宮や王宮騎士団などとは関わらず、秘密裏に行動してしまいましょう。でもそのためには、あの砦が盗賊団のものであることを確認する必要があります。まあ間違いはないと思いますけど。それからもうひとつ、子爵様や騎士団長のご了解は、いただかなくていいのでしょうか?」
グリフィン子爵家騎士団王都屋敷分隊の責任者で騎士であるジェルさんと、立場上その副官の準騎士オネルさんがそう発言した。
ブルーノさんやライナさん、それからティモさんは頷き、人外パーティの皆さんは人間の間のこととして口を挟まず黙っている。
そうだね、オネルさんのふたつの指摘は重要だな。
「ジェルさんとオネルさんに賛成して貰ったように、王宮や王宮騎士団に報告したり対処を任せるといったことはしない。それからオネルさんが指摘したことだけど、まずあの砦が盗賊団のものだという確認は、しないといけないな。これについては、ブルーノさんとティモさんにお願い出来るかな」
「了解しやした。まあ状況的にはまず間違いないと思いやすが、念のために調べやしょう。自分が気になっているのは、今日あの砦に居た3人以外に、何人の者があそこにいるのか。そしてその連中はどこに行っていたのか、でやすな」
「砦内の5つの小屋が、すべて寝泊まり用のものであると仮定しますと、20人から30人は収容出来る規模であったと見ています。これは盗賊団としてはかなりの人数のものであり、おそらく仕事も大がかりなことをしているのではないかと。従って、王都の近郊または周辺の街道でそのような事件があったか、または起きるかを、注視する必要がありますね」
ブルーノさんとティモさんの指摘と推測も重要だな。
ふたりに解説して貰った話によると、あそこが盗賊団の拠点であり本隊が仕事に出ていた場合、俺たちが見た3人は留守番要員で本隊は20人前後と推測される。
これは、5つの小屋のうち1つは親玉がひとりで使用し、残りの4つを仮に6人ずつで使用していると24人。合計25人の盗賊団だとして、留守番の3人を引くと本隊は22人ということになる。
盗賊団が狙うのは、まずは物資を運ぶ商人の馬車が一般的だ。
そう言えば俺たちも以前にファータの里に行く途中、エイデン伯爵領の山間部で山賊から襲撃を受けたよな。あの時の山賊は13、4人ぐらいだった記憶がある。
確かかなりの人数をエステルちゃんが竜巻で飛ばして、ジェルさんが斬って、ライナさんが穴に埋めちゃったんだよな。怖い怖い。
あとは村を丸ごと襲う場合や、町で富裕な商人などを襲う場合がある。
盗賊団と言っても、この世界で多人数の一団の場合は武装強盗団と呼んだ方が正しい。
ましてや傭兵くずれということになると、戦闘能力はそれなりにあるということだ。
ただし王都や貴族領の領都など、都市城壁で囲まれ警備兵が守っている都市で仕事を行うケースはかなり少ないようだ。
「王都圏での盗賊団による襲撃事件は、王宮騎士団以外だと商業ギルドが掴んでいる筈でやす。自分が調査して来やしょう」
「それでは私は、ファータの情報筋で」
「うん、それでお願いします」
「あとは、お父さまですよ、ザックさま」
「父さんたちか。これは報せておかない訳にはいかないよな。よし、今晩に僕が手紙を書くから、明日にでもクロウちゃんに届けて貰おうか」
「カァ」
「ザックさん、ちょっと口を挟みますが」
「なんでしょう、シルフェ様」
「ザックさんのお父さまへは、わたしからもお手紙を書きますわ。これは、わたしたち精霊からザックさんにお願いしたことなので」
「わたしも書きます」
「ニュムペさん。あなたはザックさんのお父さまとは会っていないから、そうね、ではふたりの名前で連名にしましょうか」
「はい、そうさせてください。わたしたち水の精霊のことですから」
風と水の精霊の頭である、ふたりの真性の精霊様から連名で手紙が来たら、うちのヴィンス父さんは大丈夫かな。ひっくり返らないといいけどさ。
でも、精霊様からの要請ということであれば、もう誰も反対は出来ないよね。
「それではシルフェ様、ニュムペ様、お願いします」
「はい、引き受けました」
「もちろんです」
「そうしたら、具体的な作戦だな」
「これから10日間の間で状況が整ったら、ザカリーさまのお休みの日に決行よねー」
「そうなるね、ライナさん」
「そしたら、あの砦を定期的に見張っておいた方がいいと思うんだけどぉー。本隊が戻って来てないと意味が無いし、人数とかの把握もしておいた方が対処しやすいわよー」
「そうか、空振りは防ぎたいな。作戦行動は一挙に終わらせたい」
「ライナの言う通りだ。これは我らレイヴンが交替で偵察に行くとしよう。2名単位程度で、午前と午後の2回ぐらいだな」
「わたしも出ます。いいでしょジェルさん」
「え、エステルさまもか。ふーむ、たしかにエステルさまは探索の専門家なのだが」
「エステルちゃんには、わしが付くぞ。執事じゃからな。偵察ぐらいなら関わってもええじゃろ、シルフェさん」
「そうね。そうしたら、わたしたちも見ておきたいから、偵察には参加するわ。エステルが加わったら6人ですから、ふたりずつで3組よね。エステルの組にはアルが付くとして、残りのふた組には、わたしとシフォニナさんがそれぞれ加わるわ。どうかしら、ジェルさん」
「シルフェさん、わたしは?」
「ニュムペさんも時々は行って、ネオラさんを慰めてあげなさい。その時に偵察にも行けばいいわよ」
「はい、そうします」
「どうかしら、ジェルさん」
「はっ。シルフェさまがそうおっしゃられるのでしたら、我らは否とは……。いかがでしょうか、ザックさま」
「まあシルフェ様たちが盗賊ごときに見つかる訳がないから、お言葉に従ってそうして。あと、クロウちゃんはなるべく付いて行ってあげてね」
「わかりました。ではお願いします」
「任せなさいっ」
「カァ」
シルフェ様とアルさんが凄く嬉しそうなんだけど。余計なことをしないようにお願いしますよ。
「そうしたら、組分けはジェル姉さんにお願いするとして、あの縄梯子を貸していただけますか、ザカリーさま」
「あ、そうだね。あとで出しておくよ、オネルさん」
「お願いします。それで、最初にティモさんに行って貰って、見張り台に縛り付けて貰わないとですね」
「承知です」
「今日は下に落として回収したけど、設置したままだとすると、上に引き上げておけばいいからね」
「ああ、なるほどですね」
「じゃ、いちばん目はティモさんとわたしねー。見張り台をもう少し整備しておくわー」
まあライナさん的にはそれが順当だな。尤も、シルフェ様かシフォニナさんも一緒に行くだろうから、変なことはしないようにお願いしますよ。
うーん、俺が行けないから、心の中でお願いばかりだよなぁ。
こうして作戦会議も終えて、俺が縄梯子を無限インベントリから取り出して、それをティモさんがマジックバッグに入れて解散となった。
ちなみに組分けは、クロウちゃんと意思疎通が出来るメンバーを振り分けるのと、エステルちゃんとの組はジェルさんが譲らなかったので、ジェルさんとエステルちゃん、ブルーノさんとオネルさん、ライナさんとティモさんということになりました。
「ザックさまは、さっきのミーティングで口に出さなかったことがあるでしょ」
皆が解散し、もうお眠になったクロウちゃんを抱いたエステルちゃんと俺の部屋に入ると、彼女がクロウちゃんを寝床に寝かしつけながらそう言った。
「え、うーん、エステルちゃんにはわかっちゃったかな」
「念話でお話ししなくても、わかりますよ。盗賊さんたちをどうするか、ですよね?」
「そうなんだよね。相手が20人や30人だったとしても、うちのメンバーだったら全員始末出来ちゃうのだろうけどさ」
「なるべく、殺したくないんですよね、ザックさまは」
以前に山中で襲われた時は、おおかたはジェルさんとライナさんが始末して、俺とエステルちゃんを襲おうと出て来た4人は、足を斬ったあと回復魔法で多少直して木に縛り付け放置したんだよな。
まああれは山中だったし、こっちが襲われたからね。
今回はこちらが襲撃する方だ。
森の中でなければ、俺が1発メテオかなんかを砦に落とせばそれでお終いだけど、森を燃やすような災害を起こす訳には行かない。
奇襲をかけてすべて殲滅して、埋めちゃうというのも出来るけど。
だが俺は前世で、致し方なかったとはいえ随分と人を殺めたのもあって、今世では余りそうしたくないという気持ちがどうしても働く。
例え相手が、人殺しを厭わぬ武装強盗であってもね。
「一般の人に害を為す盗賊と闘って殺しても、お咎めはないんですよ。ましてやザックさまは貴族だし」
「そうだけど。出来れば生かして捕らえて、盗賊団が放置されているのを王宮とかにも知らしめたいし」
「相手が人のものを盗んだり、傷つけて殺したり、子どもや女性を攫って奴隷にしたりする悪人でも、あまり殺めたくないんですね」
「まあ、なるべくはなんだけどさ」
ブルーノさんたちの話では、武装強盗団の盗むとは金銭や物だけでなく、子どもや闘えない女性も対象に入るのだそうだ。
セルティア王国では奴隷が禁じられているので、他国、特に北方帝国に密かに売られるらしい。
「それは、ザックさまがお優しいのもあるかもですけど、それよりも、お強いからですよ」
「え? どういうこと?」
「盗賊ぐらいの相手だと、殺すも生かすも、どちらでもご自由に出来るからです。普通は必死に闘わないと、自分が殺されちゃいます。闘う前に、殺そうか、それともその手前で留めておこうかなんて、考えてはいられません」
つまり、俺は人の生死に対して傲っているということだよな。
おまえは俺に対してどうこうは出来ないが、俺は自由に出来るんだぜ、という傲りがある。
それは奴隷を使役する人間と同じなのかも知れない。
でも今の俺は強さ的に、人相手に必死で闘う必要がないと言うか滅多に出来ないのも事実だ。
だから何が適切で、どう自分自身をコントロールするのが正しいのかを判断するのが、とても難しい。
「どうすればザックさまのお気持ちにいちばん適うのか、考えましょ。でも、どんな相手であっても、いざ闘いとなったら必死に闘うお気持ちを忘れないでください。そうしないと、いつか足を掬われます」
「わかった。そうするよ。ありがとう、エステルちゃん」
「わたしは、何があっても、何をしても、どんなときでも、ザックさまの味方ですからね」
「うん。えーと、ちょっと甘えていいかな」
「ザックさまは、まだまだ甘えん坊さんね。いいわよ。でも先にお父さまに、お手紙をちゃんと書いてくださいよ」
えーとですね。書きますので、取りあえずそのおっきなところに顔を埋めて、ちょっと甘えさせてください。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。
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