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第366話 妖精の森再建計画

 翌日の午後は、主にシモーネちゃんを商業街の社会見学に連れて行くという目的で、エステルちゃんがシルフェ様とシフォニナさん、それからうちの少年少女たちを引率して出掛けることになった。

 もちろんレイヴンメンバーも護衛で同行する。


「ザックさまおひとりで、お留守番でいいんですか?」

「うん、いいよ。行ってらっしゃい」

「そうですか?」


「あの、ザックさま、エステルさま」

「フォルくん、なに?」

「僕が残って、ザックさまのお相手をいたします。エディットちゃんとユディは、お連れいただければ」


 フォルくんはいい子だね。

 と言うか、精霊様も含めた女性ばかりの大人数で商業街に行く中に、自分がひとり混ざるのはどうも、なんだろうね。ブルーノさんとティモさんは陰護衛だし。


「そうか、じゃあフォルくん、残ってくれる?」

「はいっ」

「そうね。では、フォルくんにお願いしましょうか」


 フォルくんは少しホッとした表情で、元気よく返事をした。彼も11歳の男子だからね。


 そういうことで、お揃いの魔法侍女服を着た少女3人を真ん中に、女性陣が賑やかに出掛けて行きました。


「僕たちは、訓練場で剣でも合わせるか」

「ええ、お願いします、ザックさま」


 ふと前世の少年時代に、いつも俺に従っていた少年たちを思い出した。

 近習筆頭の万吉くんは俺より歳上だったけど、あとの子たちはフォルくんみたいな歳下の少年だったな。

 昨晩エステルちゃんに前世のことを聞かれたからか、珍しくそんなことが心に浮かぶ。


「どういたしましたか、ザックさま。なんだか嬉しそうですよ」

「え? そうだな、気持ちよい汗が流せるかなと思ってさ。ちょっと厳しく行くよ」

「はいっ、ついて行きます」




 それから学院の10日間は大きな出来事もなく過ぎた休日前日の朝、学院内をひとり走っているとアルさんから通信の思念ミサイルが飛んで来て俺の身体にぶち当たった。

 まさにこれってミサイルだよな。俺とアルさんとの間の思念を飛ばし合う通信手段なんだけど、たまたま走っている時だったので、その衝撃でバランスを崩して倒れそうになる。


 ああ、明日の午前に来るんだ。ニュムペ様も一緒だね。

 きっと以前みたいに、アルさんの背中に乗って飛んで来るのだろう。

 いよいよ、水の精霊たちの妖精の森再建活動を始める訳ですね。



 そうして4月に入った最初の休日の午前、うちの王都屋敷の訓練場にアルさんが舞い降りた。

 いちおう俺とエステルちゃんにクロウちゃん、それからレイヴンの皆が出迎える。シルフェ様たちは屋敷で寛いで貰っている。


 いつものように地上に降りた黒い雲の中からアルさんの巨体が現れ、その背中から水の塊になっていたニュムペ様が滑り降りて、たおやかで美しい女性の姿へと変わった。

 アルさんも年配のドラゴニュートの執事姿に変化へんげしている。


「いらっしゃい、ニュムペ様。アルさんも久し振り」

「またいろいろお世話になります、ザックさん、エステルさん」

「よろしくですぞ、ザックさま、エステルちゃん。皆さんもお元気そうだの」


 こうしてまた、人外の方たちが王都に集合した。屋敷の人口も増えてるね。

 数えてみると、うちの常駐メンバーが13名と1羽。精霊様が4名にドラゴン1名で、合わせると18名と1羽になった。

 えーと、食堂に全員が収容出来たっけ。隣の別室と分けなければダメですかね。

 あと、アデーレさんが大変だけど、少年少女3人組にも手伝いを頑張って貰わないとだな。



「あら、来たのね。いらっしゃい」


 シルフェ様はすっかり自分の家の感じで、ニュムペ様とアルさんを迎えた。

 どちらかというとアルさんもそういう感覚なので、本当のお客様はニュムペ様だけだよな。


「おや、この子は?」

「うちのシモーネよ。ほらシモーネ、ニュムペさんとアルおじさんにご挨拶なさい」

「はじめまして。えと、シモーネでしゅ」


 あ、噛んだ。アルさんは本体の姿だと見た目が怖いけど、優しいお爺ちゃんのこの姿なら大丈夫だよね。

 それからニュムペ様に対しては、真性の水の精霊様なのでやっぱり畏れがあるのかも知れない。

 フォルくんとユディちゃんもニュムペ様は初めてだから、彼らにも挨拶させた。



 結局昼食は、食堂と隣の部屋のふたつを使って、少年少女とアデーレさんが配膳を終えたあとに、それからアルポさんとエルノさんも交替で食べるので、隣室でいただくことになった。


「どうしたの? シモーネ」

「あの、シフォニナさま」

「ああ、あなたも、あちらでいただきたいのですね。ではそうさせて貰いなさい」

「はいっ。お手伝いして来ます」


 シモーネちゃんは、嬉しそうに配膳のお手伝いを始めた。

 可愛いなあ。いい子だなあ。うちで貰おうかな。精霊の子だけど。


「ザックさまはどうしたのかの? エステルちゃん」

「シモーネちゃんが来てから、ああなんですよ」

「そうなんじゃな。これはエステルちゃんも、早くザックさまの子を作らんといけないの」


「あははは。なーに言ってるですか、アルさん。結婚はまだ先ですし、この人がまだ子どもみたいなのに、どうするんですか」


「たいして先じゃないでしょ」

「今日か明日ぐらいの違いじゃろうが」

「もう、お姉ちゃんもアルさんも」


 ほらほら、顔を真っ赤にしてないでお昼をいただきますよ。

 この人外の方たちに、人間の常識で話しても無駄だからね。

 ニュムペ様はそんなやりとりにニコニコしながら、昨年振りの人の食事を楽しんでいた。




「それでニュムペ様。どのような手順で進められるんですか?」


 昼食のあと、ラウンジにレイヴンメンバーも加えて寛ぎながら今後の活動計画を伺う。

 シモーネちゃんは後片付けも手伝うと言って、食堂から厨房の方に行ったようだ。

 お手伝いが終わったら、エディットちゃんたちと遊んでいいからね。


「まずはナイアの森に行って、あらためて状態を確かめたいと思います。それから、あそこにひとりで居る子にも会わないと」

「そうね。自然は保たれているようだけど、森の奥の状態は確かめないとだわね。それからあの湖はとても奇麗だけど、人間が時々訪れるのよね」


「そう聞いています。じっさいに僕らも、去年の夏はあそこで合宿をしましたし」

「だとすると、それを拒絶したり妨害したりする訳にもいかないでしょうから、湖の奥に水源があるのかなんかも確かめないとじゃない? ニュムペさん」


「ええ、そうですね。森の奥を調べて、水源があるのか、どんな状態なのか。それからある程度の数の精霊が棲む場所を、どこにするのかなどを調べませんと」


「そうすると、それなりに時間をかけて、調査や探索をしないといけないですよね。僕らもご協力しますよ」

「ありがとうございます、ザックさん。是非ともお願いできれば」


 この際だからナイアの森全体を調査探索して、すべてを出来る限り把握しておいた方がいいな。

 よし、この事業はグリフィン子爵家王都屋敷で全力を挙げて取組もう。



「ザカリー様、少しいいでやすか?」

「うん、ブルーノさん、何かあるかな」


「ザカリー様のお耳にも入っているかもでやすが、あのナイアの森には、傭兵くずれの盗賊団が根城にしているという噂がありやす。自分とティモで、ざっくりとは噂の真偽をしらべて来ましたが、どうも本当のようでやして」


 ああ、昨年の夏合宿の前にもその話を聞いたことがあったな。

 傭兵くずれの盗賊団の根城か。そんなものがあって盗賊たちが潜む森を、妖精の森になんて出来ないよね。

 あと、魔獣がいるかなども調べないといけないな。


「その盗賊団は、私たちが一掃しましょう。ザカリー様」

「そうよねー。そんなのがいたら、妖精の森になんて出来ないわよねー」


「そうだな。我らが一掃してしまうのが良さそうだが、どうする? 殲滅するか、それともひとまとめに捕らえて、王都の警備兵に引き渡すか。王宮騎士団は……。面倒くさいな。やはり殲滅か」


「埋めて、ザカリー様に念のため浄化して貰えばいいんじゃない?」

「そうだな、ライナ。それがいちばんいいか」


 うちのお姉さんたちは物騒なので、どうもそういう話になりますよね。

 でも確かに、グリフィン子爵家の王都屋敷駐在の武官部隊が、わざわざ王都から少し離れたナイアの森で理由も無く盗賊団をひとまとめに捕らえたら、引き渡し先が警備兵であれ王宮騎士団であれ、いらぬ憶測と追求が生じそうだな。

 今のところ、王宮からおかしな勘ぐりを受けたり、無用な揉め事や起こしたくない。



「まずは現地調査だね。それで本当にそんな連中がいるのか、根城とかがあるのかを森に入って調べよう。対処方法はそれからだ。あと、魔獣の存在も調べないとだね。盗賊団の件は、僕たちに任せていただいていいですか?」


「人間のことは、わたしたちが手を出さない方がいいでしょうから、ぜんぶザックさんにお任せしますわ。いいわよね、ニュムペさん」

「はい、何卒よろしくお願いします」


「それでは、活動開始はいつからにしますか? ニュムペ様」

「出来たら直ぐにでも。明日から始めたいのですけど」


「わかりました。それでは水の精霊の妖精の森再建計画、その調査探索活動を明日から開始しましょう」

「はーい」「わかりました」

「皆さん、ありがとうございます」


 こうして明日から活動を始めることが決まった。


 まずは調査探索と森の全体像の把握。阻害要件があった場合には、それへの対処。

 そして妖精の森の場所やエリアの設定と、人間の生活圏に近いことから、その共存方法の解決などだ。

 実際にどうやって水の精霊たちを再び呼び戻し、どんな棲息空間を創り出すのかは俺にはまだ分からないけど、出来る限りのことは助力しようと思う。



「ザックさまは、全力でお助けする気持ちみたいですけど、学院をお休みするのはダメですからね」


 そう、エステルちゃんから釘を刺された。


「えー、そうかー、そうだよなー。休んじゃダメだよねー」

「そんなの、わたしが言わなくてもわかりますよね。ザックさまは休日だけですよ。あとの日は、わたしたちに任せてください」


「そうだぞ。そのために我らがいるのだからな」

「ザカリー様は、よっぽどのことがなければ、手を出さないでいいわよー」

「そうですよ。安心して学院で過ごしていてください」


 お姉さん方もそうおっしゃられますか。そうですか、そうですよね。


「まあザックさまよ、そう肩を落とさんでも、わしらに任せなされ」

「そうよ。ジェルちゃんたちに手伝って貰えるだけでも、充分なんだから」


「お姉ちゃん、この人、言っておいても、目を離すと飛んで行きますから。なので、なるべくポイントになるようなことは、学院の休日にするようにしましょう。じゃないと、黙ってひとりで森に現れます」


 さすがエステルちゃん。俺のことは良く分かっていらっしゃいます。

 出来ましたらそうしていただけますと、安心して学院で勉強が出来ますので、はい。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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