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第363話 今年の総合武術部訓練始め

 休日の2日目も、午前は屋敷のメンバー総出での剣術の訓練、午後はレイヴンメンバーだけで俺が講習を行った特殊掌底撃ちを中心とした打撃、格闘訓練と、なかなかいい汗を流しました。


 キ素力を使った特殊掌底撃ちは、吹き飛ばすタイプについてはレイヴンの全員が威力の差はあれ、なんとか修得出来たね。

 対象の体内を痛めるタイプの方は、ライナさんがエステルちゃんとティモさんを誘って熱心に取組んでいた。

 やはりこちらは、長年魔法でキ素力の制御を扱って来たこの3人がうまく出来そうだ。




 翌日の早朝、エステルちゃんと早めの朝食をいただいてから俺は学院へと戻る。

 クロウちゃんはまだ俺の部屋で寝ていたので、そのままにしておいた。カラスって早起きじゃなかったかね。クァァ。


「それじゃ、行って来ます」

「1年生に無理とかさせたらダメですよ」

「させないよ。優しく一緒に練習しますよ」

「そうですか? そうしてくださいね。では行ってらっしゃい、ザックさま」

「行ってらっしゃいませ」


 今週から総合武術部の練習を始める。

 1年生ふたりの現在の技量は、魔法の方はだいたい分かったので剣術の方だな。

 基礎的な体力や身体能力づくり、魔法は発動の安定化、それで剣術はまずは技量を見極めて、特にカシュくんの場合はどう剣術と向き合わせるかだよな。

 そんなことを考えながら、学院まで俺は走って行った。




 4時限目の終了後、まずは部室に集合して訓練装備に着替えて剣術訓練場まで早駈けだ。

 ちなみに部員も増えたことだし、部室で男女が同時に着替えられるように、部屋をふたつに仕切る可動式の衝立てを学院生会倉庫から借出した。

 これは他の課外部でも使用しているので、予備の在庫があったんだよね。


 部室はわりと広いので、部屋を仕切っても充分に余裕がある。

 と言っても勿論、女子の方をだいぶ広めに取りましたけどね。こういうとことろで不満が出てはいけません。


 では総合武術部名物となった、練習前の早駈けに出発しようか。

 剣術訓練場まで最短距離では行きませんよ。

 いつもは学院構内をぐるりと周り、森林部のへりあたりを巡って行くのだが、今日の初日は新入部員の体力や状態を見ながらコースを調整して走らせる。


 スポーツという概念のないこの世界では、特に少年少女がただ走る目的で走るということが無いため、ソフィちゃんもカシュくんもおそらく初めての経験だろう。

 出だしはふたりとも元気よく走っていたが、徐々に遅れ気味になる。

 いきなり最初から極度の負荷をかける必要もないので、先導する俺はジョギング程度に速度を落とし、コースも少し短縮してなんとか剣術訓練場まで走り通させた。



「お、来た来た、総合武術部だ。早速走って来たな」


 そんな声が、剣術訓練場内で既に練習を始めていた他の課外部から聞こえて来る。


「よぉーし、暫し休憩。気息を整えたら練習を始めるよ」


 ソフィちゃんとカシュくんのふたりは、フィールドに座り込んでしまった。

 まあ今日は仕方がないか。ヴィオちゃんたちにふたりの世話を任せて、俺は総合武術部の部長と、ついでだからアビー姉ちゃんのとこにも挨拶に行く。


「エックさん、お疲れさまです。今日からよろしくお願いします」

「ザカリー君、来たね。こちらこそよろしく」

「ずいぶんと1年生が入部したみたいですね。どうですか? 新入部員は」


「ああ、うちは8人が入ったよ。君のところはふたりだそうだね。そうだなあ、まだ何ともわからんが、ちょっと大人しい感じかな」

「やっぱりそうですか」

「でもまだこれからだよ。君のところに、あの首席の子はとられてしまったのが、少々痛いがね」


「まあソフィちゃんは、魔法もやりたいという希望なので」

「どうやら魔法でも優秀らしいな。マティが悔しがっていたよ」

「明日、挨拶しておきますよ」


 エックさんが言ったマティというのは、総合魔導研究部の今年の部長のマティルダさんのことだ。

 明日は魔法訓練場で練習なので、ひと言挨拶をしておかないとね。



「ザック、来たわね。あんたんとこも結局、ふたり入部したのね」

「出たな姉ちゃん。姉ちゃんとこもふたり入ったらしいじゃん。良かったな」

「へへへ、女の子も入ったからね。これでうちも7人になったから、対抗戦をしようかって、エックに言ってるのよ。ねえエック」


「アビーちゃんからそんな話があってね。ちょっと考えさせて貰ってる」

「エック、逃げないわよね」

「アビーちゃんから言われちゃうとね。逃げはしないが、どのタイミングがいいかとかね。学院生会や課外部会にも、いちおうは話を通さないといけないし」


「そうだザック、あんたのところも参加しなさい」

「えー、剣術だけだよね。うちでまともに剣術だけで闘えるのは、ふたりだけだからなぁ。僕も参加していいんなら考えるけど」

「あんたはダメよ」

「ザカリー君はちょっと」


 さいですか。でも課外部の対抗戦か。秋の総合戦技大会はクラス単位だから、課外部での対抗戦も面白いよな。

 エックさんじゃないけど、どの辺りのタイミングかにもよるけど、うちも参加してもいいかもね。



 総合武術部の練習場所として確保しているエリアに戻ると、ブルクくんの指導で既に素振りが始まっていた。

 昨年の秋から身体訓練を取り入れた際に、剣術はブルクくんを中心に、魔法はヴィオちゃんを中心に、そして身体訓練は俺が指導という風に分担を決めている。

 だから今日は俺が付いていなくても、ブルクくんが練習を始めている訳だ。


 俺は皆が素振りを行っているのを見ながら、特にソフィちゃんとカシュくんをじっくりと観察した。

 ソフィちゃんは木剣を振っている経験が長いのと、どうやら剣術の家庭教師の先生が良く指導していたようで、なかなかしっかりとした素振りだ。

 一方でカシュくんはと見ると、やはり少々雑な感じがする。


 学院に入学してうちの部に入って始めての剣術の練習ということで、一生懸命やろうとしている意志は感じられるのだが、いかんせん基礎がちゃんと出来ていないようだね。

 剣を振る年月は長い筈なのだけど。

 これはそうだなぁ、基礎や型稽古をしっかりやって来ているブルクくんに指導させようかな。


「よおし、止め。集合っ」


 ブルクくんが止めの声を掛け、皆を集合させる。


「ザック、次は打ち込みだけど、どうする?」

「そうだな、カシュはブルクが相手をしてやってくれ。ソフィちゃんはルアちゃん、お願い。あとの3人は、僕も加えてローテーションで相手を替える」

「はい」「おう」


「なあ、ブルク。まずはカシュに基礎を叩き込んでくれ。丁寧にね。雑なところを修正していく感じで」

「そうか、わかった」


「部長、あたしの方は?」

「ソフィちゃんは、基礎は大丈夫そうだから、ルアちゃんが自由にやっていいよ」

「はーい、わかったぁ」


「さてさて、キミたち3人も、今年はレベルを上げて行かないとだね」

「えー、部長。お手柔らかにね」

「ザック、今日は練習初日だからな」

「頑張ります、です」



 それから散々に打ち込みをやらせました。

 この3人も身体訓練のお陰でだいぶスタミナも付いて来ているから、そうそうはへたばらなくなって来てるし、直ぐに弱音を吐くこともない。

 良い頃合いでいちど休憩を取らせて、1年生の様子を見ることにした。


 ソフィちゃんはルアちゃんに翻弄されながらも、なんとか食らいついているね。

 カシュくんのほうは、もうへたばりましたか。やはり基本的な体力やスタミナにも問題がありそうだね。

 だが、かなり頑張った様子は見て取れる。


 こちらのふた組も休憩を取らせて、俺はカシュくんに声を掛けた。


「どうかな、カシュ。キツいかい?」

「あ、部長。いえ、あの」


「まだ無理はしなくていいからね。これは課外部だから、自分がどうしたいのか、何を実現させたいのかを優先させればいいんだよ」

「あ、はい」



「よおし、ブルクとルアちゃんは、僕を相手に交互に打ち込みだ。いいかい?」

「もちろんさ、行くよ」

「交互にね。おっけー」

「他の皆は、まだ休んでいていいからね」


 まずはブルクくんが直ぐに俺に向かって来て剣を合わせ、彼が引くと今度はルアちゃんが凄い勢いで打ち掛かって来た。

 そうして争うように、ふたりが交互に俺に向かって打ち込みを行う。


 ヴィオちゃんとカロちゃん、ライくんも暫く休憩を取っていたが、そんな俺たちを見て3人で相手を替えながら打ち込みを再開する。

 すると、ソフィちゃんがカシュくんに声を掛けている。どうやら自主的にふたりで組むようだ。

 カシュくんも俺たちの火の出るような打込み稽古を見て、何かを思ったのだろうか。


 俺はそんな部員たちの様子を感じながら、ブルクくんとルアちゃんの木剣を捌き続けた。




「さあ、みんなで夕ご飯に行くわよー。ソフィちゃんとカシュくんも来るわよね」

「はい、行きます」

「あの、僕は」

「カシュくんも行こうよ」

「うん、そ、そうだね」


 ヴィオ副部長の音頭で、部室に戻っての着替えを終えたあと、学院生食堂で恒例の部員全員での夕食に行きますよ。


「あの、ライさん、ブルクさん。うちの部は、いつもこんな感じですか?」

「ん? そうだよ。夕飯はたいてい一緒だな。昼も一緒の場合が多い」

「クラスの付き合いもあるだろうから、強制はしないけど、僕らの場合はそんな感じだね」


「部長もそうなんですか?」

「ああ、ザックもだいたいは一緒だよ。あの先生の場合、いろいろしがらみがあるけど、でも夕食はほとんど来る」


「ああ見えて、部長は女子には優しいんだよ。あと、うちの部の場合、練習時間外は圧倒的に女子の方が強い。な、ライ」

「お、おうよ」



 そんな男子部員3名の会話を聞きながら、俺はルアちゃんとソフィちゃんに挟まれて夕ご飯を食べ、彼女らの話に付き合う。


「ルアさんの剣に、ぜんぜん合わせられなかったですよ。全部躱されました」

「あたしなんか、アビーさまに比べたら、まだまだだよ」

「アビーさまって、ザカリー部長のお姉さまのアビゲイルさまですよね。そんなに凄いんですか」


 野性女子同士ということで、ルアちゃんの当面の目標はアビー姉ちゃんだよな。

 昨年の夏合宿での対抗戦で、彼女たちが闘ったのを思い出す。

 そう言えば、剣術訓練場で姉ちゃんとエックさんと対抗戦の話をしたよな。


「なんだかうちの姉ちゃんの発案で、エックさんとこの総合剣術部と対抗戦をするとかの話が出ているそうなんだよ。それで姉ちゃんが、うちの部も参加しないかって」


「え、対抗戦? アビーさまの部と総合剣術部と? それやろうよ、部長。ねえブルクくん、どう?」

「そんな話があるんだ。いいな、僕らも参加してみたい」


 キミたちふたりはそうだろうね。ヴィオ副部長とかはどうでしょうかね。



「それって、剣術だけよね。確かに課外部の対抗戦て興味が湧くけど、剣術でかぁ」

「でも、ザックさまが出れば、うちの部が勝ち、ですよ」

「それがカロちゃん。僕はダメなんだと。姉ちゃんとエックさんがそうおっしゃる」

「やっぱり、ですか」


「何人を出しての試合で、どういう方式かもあるわよね」

「それはそうだよな。例えば選手5名で、1対1で勝敗を決めるとかだと」

「誰を選手にするか、です」


「そうよね。仮に5人だとしたら、ルアとブルクくんは決まりとして、あと3人か。うちの場合、部長が常に試合に出られないという、弱点があるのよね」


「あの、ザカリー部長って、試合に出られないんですか?」

「あ、うちの部長は基本、員数外だから。総合戦技大会でも審判だし」

「です。強過ぎて、弱み、という皮肉、です」


 カロちゃんさ。皮肉と言えばそうなんだけど、それって俺のせいじゃないよね。

 でも、うちも参加する方向で考えて準備してみましょうかね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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