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第34話 巨大イノシシの出現

「小休止終わり。これから偵察訓練を行うぞ。ふた組に分かれてこの地点周辺の偵察行動を実施する。A組は右前方を偵察、リーダーはオネルヴァ。B組は左前方、リーダーはイェルゲンだ」

「はいっ」

「それぞれリーダーの指示に従い、行動範囲を確保しつつ索敵を行え。マシューとブルーノが補佐として同行する。ヴァネッサ様はA組、アビゲイル様はB組だ。索敵距離はこの地点から30分以内。1時間後にまたここに集合」

「はいっ」

「両組とも準備ができ次第、出発しろ」


「あの、メルヴィン指導騎士。僕は?」

「ザカリー様は、私とライナ、エステルさんと、ここで待機だ」

 そうですよねー。まぁ仕方ないか。本来、わが子爵領の騎士になるための訓練だしね。俺、おみそだし。


 騎士見習い部隊のA組とB組の各5名は、すぐに左右に分かれて偵察行動訓練に出発した。

 俺はクロウちゃんを上空にまた飛ばしておく。

 さっきクロウちゃんが言っていた、遠方で移動している大型の生き物がちょっと気になったからだ。



 それにしても待機は退屈だなー。ちょっと森を早駈けする練習でもして来ようかな。

 最近、前世みたいにまた縮歩もできそうになってきたんだよなー。

「ザックさま、ダメですよ。待機って言われたんですから、おとなしくしていてください」

「だって、1時間とか、クロウちゃんだったらきっと、大森林のいちばん奥まで飛べちゃうよ」

 クロウちゃんは最高速で時速350キロくらいで飛べるからね。


「ザックさまはクロウちゃんじゃありませんから。て、そんなに飛べるんですか?」

「うん、ハチミツ掛けのフライドムーンをあげるって約束すれば、たぶん」

「あー、冬至祭で食べたあれは美味しかったですよねー。でもわたしは、桃ジャムを塗ったのも好きだったなぁ」


 そんな話をしていると、突如「ピーッ、ピーッ」という甲高い口笛の音が響いた。

 左前方方向からの合図だ。B組に同行しているブルーノさんだな。何かを見つけ急遽戻ってくるのだろう。

 俺はすぐにクロウちゃんの視覚に同期する。何かがこちらに向かって走ってくるようだが、まだ距離がある。

 B組はもうすぐ帰着。A組も口笛の音に反応して急ぎ戻ってくる。



 俺たちが待機していた第1地点に、B組が駆け込んで来た。

「こちらに向かって走ってくるファングボア数頭を発見しました。指示をお願いします」

 イェルゲンくんが息を切らしてメルヴィンさんに報告する。


 ファングボアは牙イノシシだね。魔物ではないが、突進力がある。それに肉は食用になる。

「到着予想はどのぐらいだ? それから、何頭かわかったか」

「あと2、3分かと。およそ5頭と予想されます」

「よし、迎え討つぞ」

 その間にA組も帰って来た。


「ファングボアおよそ5頭がこちらに向かって来るので、散会して迎え討つ。やつらの突進は威力があるぞ。今日は盾を持って来ていないので無理はするな。ライナ、ユリアナ、それからヴァネッサ様、ファングボアがこの草地に入ったら、やつらの前方に向けて火焔を出せ。決して周りの樹木に飛ばすなよ。それでひるんだところを各自討伐せよ」

 魔法が得意な従士のライナさんはもちろん、騎士見習いのユリアナさん、そしてヴァニー姉さんが火魔法を使える。

 火焔で燃やすというより、炎による脅しで足止めとして使うわけだ。



 ファングボアが草地に走り込んで来る。イェルゲンくんの観測、予想通り5頭だ。

 長い頭部に大きく鋭い牙を生やしていて、まともに突進されると大けがをするだろう。

 5頭が草地に入って、こちらに向かって来ようとするところを、3人がすぐさま火焔を出す。

 目の前に突如現れた3本の炎に、ファングボアたちのスピードが緩む。

 その機を逃がさず、騎士見習いたちと姉さんたちがショートソードで襲いかかる。


 俺も、と身体を動かしたところで、肩に手が置かれた。

「ザカリー様はこちらで見ていてください。ただのファングボアです」

 メルヴィンさんか。

「ザックさま、あなたが戦う必要はないですよ」

 エステルちゃんが、剣を抜こうとする俺の腕を両手で優しく握ってそう言う。


 騎士見習いたちと姉さんたちは、ふたりひと組になってファングボアに斬り掛かる。

 動きが早く丈夫なので、すぐには致命傷を与えられないが、ボアたちは徐々に動きが鈍くなっていく。

 逃げ出そうするボアには、3人の従士がうまく草地の中へと追い立てていた。

 まぁそうだな、誤って俺が一刀で頭とか落としちゃうと、それはそれでいろいろとマズいしなぁ。



 そのとき、頭の中でピーンとクロウちゃんからのアラートが響いた。

 急いでクロウちゃんの視覚に同期すると、上空から見えたのは、小さな木々などを薙ぎ倒しながら猛烈な勢いでこの草地の方向に向かって来る、大型の生き物の姿だった。


 こいつはヤバいぞ。

 俺の思考が、あらためてアラートを鳴らした。すぐに探査・空間検知をそいつに向かって放射する。

 まだ距離があるので詳細は明確ではない。かたちは同じ牙イノシシだが、体長はおよそ5メートル近くか。体高も2メートル以上はあるようで、今ここで討伐されているイノシシの3倍以上の大きさになる。

 こいつは怪物だ。いや魔物というやつか。

 騎士見習いの子たちでは、もちろん相手にすらならない。


 俺は何も考えず、エステルちゃんの手をすり抜けて、この怪物イノシシが向かって来る方向に走り出す。

「あ、ザックさま、どこに行くんですかー。って、早いっ」

「エステルさん追いかけて。おーいブルーノ頼む、ザカリー様を追ってくれ」



 巨大イノシシはスピードを緩め、ドシンドシンとゆっくり近づいて来る。

 俺は弧を描いて木々の間を走りながら、回り込んでこいつの横合いに出ようとするが、どうやら俺の接近に気づいたようだ。だがまだ距離はある。

 俺はすぐさま、オークの大木の陰に身を隠した。


「ザックさまー」

 小声で声を掛けながら、エステルちゃんが追いついて来た。この子も本気出すと早い。

 そしてその後ろから、これも音をほとんど立てずにブルーノさんが来る。ブルーノさんも特殊訓練を受けてるのかな。


「こいつはー、ヘルボア? カプロスってやつじゃないですかい」

 ブルーノさんが巨大イノシシを見て驚き、慌てて身を隠す。


「え、ヘルボア? カプロス?」

「正真正銘の魔物ですよぅ。ヘルボア、地獄から来たと言われる巨大ファングボア、またの名をカプロス。一流の冒険者でも滅多に出会ったことのない、恐ろしい怪物イノシシですー」

 エステルちゃんが解説してくれる。

「そんなやつが、こんなに森の浅いところになぜ?」

「騎士団だって、そうそう見たことがある者などいやせんぜ」



「ブルーノさん、戻ってメルヴィンさんにみんなを退避させてください」

「あ、へい。ザカリー様は?」

「僕はここで、もう少し様子を見ます。エステルちゃんと」

「だめですよぅ。ザックさまも逃げないと」

「ブルーノさん、早く!」


 ブルーノさんが素早く後退して行くのを背中で感じながら、俺は前方から近づいて来る魔物カプロスをじっと注視した。

お読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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